第27回中高生1000字バトル
 投票〆切り2月末日/レッドカードに注意!
  INDEX
 エントリ 作者 作品名 文字数 得票なるか!? ★
 1 しゃちめばる  恋と椿  857   
 2 Louis  天使。  1000   
 3 あゆみ  風  1088   
 4 神風夜月  決断  1000   
 5 須藤あき  サカナ  740   
 6 犬宮シキ   夢見る頃を過ぎても  1000   
 7 南 那津  Replay?  1000   
 8 加賀 椿  彼女  1000   
 9 関口葉月  諸刃の剣  1000   
 10 たけの  暗闇の世界に落ちた少女  1000   


訂正、修正等の通知は掲示板では見逃す怖れがあります。必ずメールでお知らせください。
「インディ−ズ、行かせてください有頂天」。ボタンを押して投票ページに行こう!! 読者のひと押しで作者は歓喜悶え間違いなし!!
感想はたった一言「えかった!」「いい!」「面白い!」「天才だ!」「悶えた!」など簡単でオーケー。末尾に!をつけるのがコツなのです。
その回の作品参加作者は必ず投票。QBOOKSの〈人〉としての基本です。文句言わない!

バトル結果ここからご覧ください。




Entry1
恋と椿
しゃちめばる

 これが恋なのか。
 開ききった障子からの爽やかな朝の光が、相一郎を洗う。彼は帯を正し、小さな庭へと目をやった。そこには、特に手入れもせぬくせに、小振りの紅椿が見事に咲き誇っていた。
 彼は浴衣の裾を鳴らし庭に降りると、目についたひとつの椿を枝ごと折りとった。その手の中で、透き通るような紅色のそれは淡い光を放っている。彼は低く吟じた。
 紅椿 雲滲む空に光り立つ 透く紅の色のもののあわれさ…
 「野良椿」の方が良いか。紅の字が重なるのは、好ましくない。しかし…
 ふいに、推敲中の彼の上を、何やらわからぬ小鳥が飛び去って行った。これはこれは、と目で追うと、小鳥は南の方角へと進むようだった。この家から南の方角には、ある女性が住んでいる。
 彼はその女性の事を想い、すがすがしい青空にあの慎ましやかな横顔を重ねるのだった。
 そうだ、もうニ、三本ほど持ち、あのひとへ贈ろうか。それとも、手折らずにここへ招待した方がいいだろうか。そもそもあのひとは紅椿が好きだろうか?
 思案していると、帯に下がっている携帯電話が「青い山脈」を奏で始めた。

 竹田ですが…これは、志津子さん。お早うございます、いいお天気で… 
 えっ、明日の俳句会はニ時からに変更ですか? はいわかりました。いやいや、まったく差し支えありませんよ。いつもの通り、うかがいます。
 時に志津子さん、椿はお好きですかな?
 それはよかった、なに、庭のが良く咲きまして、ぜひお目にかけようかと。          
 では明日、持って参りましょう。楽しみにして下されば幸いです…そうですか、それはよかった。

 そう話す彼の頬は、少年のように上気しているのだった。電話を終えると、手に持った紅椿は一層鮮やかになった気がした。それを見て彼は、直感的にある感情を覚えた。
 運命の恋。
「志津子さん」
呟けば、庭中の椿が輝き出す。
 いや、それだけではない。今の彼には、空も木も土も、己さえもが素晴らしく見えるのだ。恋、とはそう言うものである。
 竹田相一郎御歳七十二歳、堂々の恋愛宣言であった。


Entry2
天使。
Louis

人間は結局の所、一人だ。私は常々そう思う。理由は簡単だ。自分のことは自分しか解らないし、他人のことも他人にしか解らない。

恋をした。
一人の女性が居た。彼女は優しく、きらきらした笑顔が可愛らしかった。私は彼女が好きだった。目の端に彼女が映るだけで、私は十分幸せだった。

失恋した。
彼女に恋人ができた。私にとってあまりにも神々しく見えた彼女に、告白することはやはりできなかった。彼女は少し芽吹きかけた桜並木を、彼と手を握りながら歩いていた。私はその瞬間、永遠に彼女を失った。所詮、彼女は一人の人間だった。

しばらくして、彼女は結婚した。
私の所に、彼女から結婚式の招待状が来た。私はそれを破り捨てた。彼女は私を観衆の一人としてしか見ていないからだ。結局、私は彼女の大事な人となることはできなかったのだ。

そんな時。
悲しみに暮れていた私は、心の安らぎを見つけた。それは唐突に私の元へ現れた。いや、降り立ったと言った方が正確かも知れない。
天使がやってきた。

ある日、帰宅した私を迎えたのは、いつもの静寂ではなかった。
私の机の上には、彼が居た。

なぜだか私は、それを日常として受け入れることができた。

それからいつも天使は、すみかにしている私の机の端から、帰宅した私を優しい微笑みで迎えてくれる。

どうやってやってきたのかは知らない。何者なのかも。しかし、もうどうでもよかった。私の家には天使がいるのだ。そう思うだけで心がはずんだ。彼は真っ白な翼を持ち、頭に金色の輪をのせ、そして手のひらほどの大きさだった。

ある日。
私がいつものようにコーヒーを飲みながら新聞を読んでいると、肩に天使がとまった。そして私ににこっと笑いかけた。

それ自体は別段何の変哲もない日常─もちろん私だけの─だったが、その日だけは何かが違って見えた。私は胸騒ぎを感じた。
摂りかけの朝食をそのままにし、私は家の外へ飛び出した。
ドアを勢いよく開け、マンションの階段を二段とばしで下りた。

何も変わらなかった。
いつもと同じ、平和な朝だった。

ほっとしたが、その根拠のない違和感は消えなかった。
すぐに家に戻ったが、朝食を続ける気にはなれなかった。

その時、電話が鳴った。
「はい、もしもし」
「□□さんですよね?」
電話からは、昔恋しかった、あの女性の死を告げる声が響いていた。
途中からはひどい耳鳴りがして、何も聞こえなくなった。

彼女が……! 死んだ……!
私はハッとして天使の方を見た。

やはり、天使は微笑んでいた。

自分のことは自分にしか解らないのだと思った。


Entry3

あゆみ

今日、松井君が家に来た。
彼は、私の兄の友達だ。
のんびりした感じで、少し色の白いひとだった。

「今日はありがとう」
「いや、いいんだよ」
兄も不自然に笑った。頬をかきながら。
私にはそれが不思議でならなかった。
「じゃあな」
「あぁ。また」
彼は微笑んだ。

彼が玄関から姿を消した後、私の横でため息が聞こえた。
「あぁ、わからねぇやつ」
それは、こっちのせりふ。私は好奇心に駆られて兄に尋ねた。
「どうしたの」
「いや、」兄は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに元に戻った。「なんでもない」

その次の日から、松井君は学校に来なくなった。理由は分からない。私は女学校なので、もちろん兄や松井君とは別の学校だが、兄の口からそれを聞くことができたのだ。
「ねぇ、松井君は?どうしたの」
「さぁ。わからない」
兄は目をそらした。

2週間が経とうとしたある日、彼が家に来た。突然に。前ふりなく。
「やぁ」彼は寂しそうに微笑んだ。
「どうしたんだよ!松井!」
彼は少し悲しそうにうつむいた。
「学校、何で来ないんだ」
彼はうつむいたままだ。
「・・・風」
「え?」
「風なんだよ!」

私たち、私と兄と松井君は、家から歩いて5分ほどの所にある河原を歩いていた。左には市内を縦断する四谷川が流れている。秋風が辺りを包む。

みんな、黙々と歩いた。理由もなく。目的地もなく。

ふと、松井君が立ち止まり、口を開いた。
「なぁ、このごろ風を感じたこと、あるか?」
「・・・?」
「ぼくは、強く感じてる」
私たちは無言で彼の言葉に耳を傾けた。
「時に強く、時に弱く。止まることさえある。でも、またどこかで生まれ、あてもなくさまようんだ。」
少し間をおいて、彼は続けた。
「人間って、何のために生まれるんだろう。ぼくには分からない。でも・・・」
彼は今度はにこりと微笑んだ。
「少なくとも、誰かのために生まれるんだと思う。風と、ひとの違いはそこなんだ」

と。

どこからともなく、とても強い風がふいた。

私は、一瞬、彼の姿が揺らいだように思えた。

松井君の葬式が行われたのは、それから一週間もしない火曜日だった。
お通夜は、とてもひっそりと行われた。もちろん兄も、そして私も参列した。
眠るように息を引き取ったそうだ。それを聞いて、私はなんだか少しほっとした。
線香を供えられた写真の中の松井君は、寂しそうに笑っていた。

帰り道、私と兄は、真っ暗になった小道を無言で歩いた。
どれくらいの時間が経ったろうか。ふと、兄が問いかけてきた。
「なぁ、あいつ、向こうで、風、感じてるかな」
「わかんない」
「でもさ、あいつの風、吹いてて欲しいな。オレは」

その時だった。
秋の夜、優しい風が二人のそばを通った。

・・・気がした。


Entry4
決断
神風夜月

 鐘の音が聞こえる。
 海の見える綺麗な教会で新たに門出する2人を祝福していた。
 新婦は薔薇色に頬を染めて新郎の隣にいる。
 2人の頭上では紙吹雪が舞い、私の胸中では虚しさだけが漂っていた。
「これが?」
「そうだ」
 冷酷な声がそう告げた。
「最初は2人とも幸せだったのさ」
「じゃあ今は?」
 先生は言葉を探すように沈黙する。
「ごめんなさい。少し意地悪したくなっただけ」
 無理に笑って見せた。自分でも嫌悪感を覚えるくらい明るくだ。
「……そうか」
 安堵の息を漏らすわけでもなく、皮肉に反応するわけでもなく、先生はただ、そう言った。
 事情を理解していた。私はもう子供じゃない。
 でも、考えがまとまらなかった。
 現実逃避をしたいがために、結婚式の映像を無理言って見せてもらったのだ。
 知ってしまった。
 2人はもう、戻らない。
 永遠の愛を誓ったのは17年も昔のこと。
 仕事を理由に帰りが遅い両親。
 誰もいない家の中にしぶとく生き残った孤独。
 その果ての離婚話。
「俺はあいつらの友人として弁護士として、君にこれだけは言っておきたい」
 先生は唐突に切り出してきた。
「あいつらは君を愛していた。今までは行き違いがあっただけさ」
「選べないよ」
 声が震えた。
「選択しなきゃいけない」
 先生は哀愁に満ちた瞳で私をまっすぐ見据える。
 初めて分かったような気がした。
 先生も本当は父と母に別れてほしくないのだ。
 身近な親しき人達が他人になるという物悲しさを共に想っているのだろう。
 でも、離婚という結果はどう足掻いても覆されるわけがない。
 大の大人が2人もそろって決めたことだ。
「どちらと暮らす?」
 真剣に問う瞳をごまかすこともできない。
 決断を決めかねて窓の外を見た。そこでは、暗闇に浮かぶ月が私を見下ろしていた。
 きっと私はどちらも選べない。
 それなら、私は……。
「1人で暮らします」
 はっきりとそう告げた。
 先生は少し驚いたような目で私を見て、
「そうか」
 と、ただ、頷いた。
 

 私が下した決断は間違っていたのだろうか。
 両親が離婚して5年が経った今でも正しい答えは見つからなかった。
 今ではたまに両親と3人揃って食事をしたりする。
 歩み寄れているのだと、思う。
 子供の頃の心の傷はこれからも決して消えることはない。永遠に残るのだろう。
 でも、いいや。
 投げやりなんかじゃなくて、そう思う。
 久しぶりに見上げた夜空は星が輝いていた。


Entry5
サカナ
須藤あき

「ねぇ…まな板、汚いよ。血で一杯になっちゃった。」

僕は広げていた夕刊から顔を上げ、彼女が夕飯の支度をする台所へ行って見た。
彼女が包丁を握るようになったのは最近だが、最初は危なっかしかった手つきも今ではだいぶ上達してやっと秋刀魚を下ろせるようになった所だ。
一緒に暮らすようになってもう10年が近いが、見ていて飽きた日はない。
親馬鹿…ならぬ兄馬鹿に聞こえるだろうが、言うなれば天才女優のよく出来た一人芝居。

「そりゃあ…魚を下ろせばそうはなるさ。」

僕は気のない返事をし、コップに水を汲んで口に含む。

「ううん、そうじゃなくて。血に…たくさん脂とか混じってて、汚いなぁって。」

そう言って彼女はしげしげとまな板を見つめる。
その表情は何処か難しく、かと言って同情的な悲しげな物でも無い。
本当にしげしげと、じっくり、食い入るように、サカナの内臓が散らばるまな板を見つめている。
僕はそんな彼女の顔に言葉を忘れ、こちらはそんな彼女の顔に食い入る。

「このサカナだって、生きてたんだよ?
生きてて、色んな事を想って、愛して、息をして、食べて、寝て…って。
それが、このまな板。」

「どう云う事?」

「居なくなる時には、本当に、居なくなる時にはね。
その血さえ、綺麗なままで居る事を赦されないんだなぁ…って。」

彼女は未だ微動だにせずじっと、包丁を握り締めたままぽつり、ぽつり、と言葉を紡ぐ。

「ヒトもきっと一緒だね。終って、なくして、燃え尽きるの。
それってきっと、凄く汚い。」

そして彼女は“馬鹿みたい、こんな事”と云う風にさっとそのまな板を洗い流し、
そろそろ煮だってきたきんぴらの鍋に移る。

僕はこんな時、何と言って君に伝えればいいんだろう?

想いを残し、伝えるのは、
やはり容易な事では無いのだろう。

サカナは、何を残せた?


Entry6
夢見る頃を過ぎても
犬宮シキ

 ああ、吐き気がするな。地上の風の臭いにまだ慣れちゃいない。耳元で木の葉が柔らかい音を立てる。俺は多分、最後の人間だ。取り残されてしまった。
 雲が出始めた、もうすぐ雨が降るだろう。人だった木々が、それを待ち望むようにひたむきに枝を伸ばしていた。

 引き籠もって、どのくらいか。流行の室内家庭菜園と大きな野菜室と大量の缶詰と本棚とパソコンとケーブルと大きな天窓と効率のいい太陽電池とセンチメンタルに啼く小鳥の入った針金細工の鳥篭の付いた家を買って、俺はそのなかで政府の言いつけ通りにぼんやり暮らすことにした。実はそれらは全て毒入りで、邪魔者は早く死ね、ということだったんだけど。別にどうでも良かった。
 今も昔も政府は回りくどいのが好きだ、一発の弾丸より完全な舞台装置。環境は良かった、案外長生き出来た。
 ネットに繋ぐのは古本屋を呼ぶときと、映画を見るときだけだった。だから外がこんな事になっているなんて知らなかった。俺だってこんな馬鹿な話信じない、でも枝に半ばめり込んでいるコーヒーカップやヘッドホンに挟まれた幹を見るとあり得ない仮説が浮かぶ。
 ある日突然人は植物になった。
 信じ難いが現実に俺が久しぶりの外界に吐き気を憶えながらひたすら歩き続けようが、見渡す限り圧倒的な緑色。希に花の紅、クリーム、紫、橙、レモンイエロー。

 風に乗って花の強い匂いが漂って来る、あの家を買う前、あの子が居た学校に近づいていた。堅く閉まった鉄の門を越え、割れた硝子を踏みしめ教室に入る。
 苔が床を上等の絨毯のように覆っていて、足音は消えていった。制服だったらしい、ぼろぼろの布が朽ちかけた机に張り付いていた。
 朧気な俺の記憶では此処は女学校だったはずで、少女はやっぱり花なのかとぼんやり思った。天河石の竜胆、ゲーテの野ばら、細く若い桜、菫、ヒヤシンス、彼岸花、椿……、季節までもが無視されている。花の匂いも度を超すと悪臭にしか思えない。
 本当は、花は嫌いだ。生殖器を見せびらかしながら、しどけなげに色や匂いで花を誘う、痛々しさすら感じる。あの子は、そんなんじゃなかった。なんて残酷な仕打ちだろう。
 いくら辺りを見ても、あの子を見いだせそうになかった。諦めて柔らかな苔の上にだらりと伏すと、目の前の百合の茎に小さく光るビーズの首飾りを見つけた。見知った物だ。
「貴女、夢十夜好きだったからね」
頬が濡れた。露か涙か解らなかった。


Entry7
Replay?
南 那津

 どうやら俺はコイツを好きになる運命らしい。もう懲りたはずだったのに。
 再び出会ってやっぱりつき合ってる。俺の隣にいる。過去に見た時と同じ表情で微笑んでる。
 やっぱり俺は安心する。
 あっと、告白しておく。俺は偶然にも二度目の人生を手にした。
 違う友の中で日々を送るはずだった。
 なのにこれだ。俺の隣にいるのは、コイツだ。前と学校が違うはずなのに。
 運命……なんだよな。コイツとつき合うってのは。んで、まんざらでもなく、俺はコイツが好きだ。今とっても幸せだ。
 でもさ、このまま行くと俺はコイツと別れることになるんだ。
 コイツのもとで一つの不幸が起きて、俺には手がつけられない状態になって、俺がなんて言ってもコイツは聞かなくて、俺の方も頭にキて、結局別れるんだ。
 そして順調に、前と同じ人生を歩んでる。
 一緒に映画を見に行って、笑い合って。
 一緒にスキーに行って、俺よりコイツの方が上手くて。
 前の人生と全く同じ。出会った場所以外は。
 だんだんと別れの日が近くなってることをコイツは知らない。
 でも、それでいいかもしれない。今、俺は幸せだから。
 つって、強がってみた。あはは、別れるのは悲しいさ。
 どうにかしてやる。……前の人生の時もどうにかしようと頑張ったけど、今度こそどうにかしてやる。
 もしかしたら、そのためにもらった二度目の人生かもしれないしな。
 そしてその日はついにやってきたわけだ。
 俺は努力したさ。負け犬にしか聞こえないかもしれないけど、頑張って俺はコイツに話しかけて、根気よくコイツの言うこと聞いてやって、前以上に努力した。
 でも気づいた時には俺の語気も強くなってて、必死になってるからこそなんだけど、それにコイツもカチンときたっぽくて、前と同じように最悪の事態になってることは確かだった。
 半ば諦めかけた時だ、ふと一つの考えが浮かんだ。
 嘘だろ、と思ったけど、考えれば考えるほど真実に思えた。
 俺は完全にお別れ宣言をする日に、コイツにそのことを告げた。
 最初は聞く耳持たないみたいな顔してたけど、やっぱ真実だったって事がそのあと変わっていった表情でわかった。
 そんな悲しい結末ってないだろ。
 俺だってそうとも思ったさ、今さえ楽しければいいって。コイツと別れるのも一つの幸せだって。
 でも、コイツは二度目でも俺を選んだんだろ。俺もコイツを選んだんだし。
 結局嘘はつけないだろ、お互い、な。


Entry8
彼女
加賀 椿

 買い物を頼まれ、僕は出かけた。18時前。スーパーは込んでいた。
 渡された紙を見ながら、夕食の材料をそろえる。じゃがいもを選んでいた時、ふと目に彼女の姿が映った。
「森さん」
 彼女の名を呼び、僕は手を振る。彼女は背中までくる髪を頭の後ろでまとめ、後ろ髪と同じ長さの前髪は耳の横に垂らしていた。
「森さんも親に頼まれた?」
 近寄って訊くと、彼女は頷いた。彼女は一見無口だ。でも、そうではないことを僕は知っている。
 僕は彼女と並んで歩き始めた。
 彼女は学校では変人と呼ばれている。直に僕も仲間入りするだろう。好んで彼女に近付く生徒なんて、うちの学校では僕くらいだ。
 僕はちらっと彼女の顔を見た。彼女は不機嫌そうな表情をしている。前を歩いている女の人が原因だろう。本人は優雅に歩いているつもりなのかもしれないが、のろすぎて迷惑だ。
「ちょっと通してもらえますか、おばさん」
 とうとう彼女がしびれを切らした。僕はわくわくして事の成りゆきを見守る。前の人がすんなりどくとは思えなかったのだ。
 僕の直感はあたった。
「まあ、何です。おばさんとは」
 どう見てもおばさんだけど。
「はい、はい。奥様、どうか道をあけていただけますか」
 彼女は随分といらいらしている。それに気付かないのか、おばさんはさらに言い返した。
「私はね、まだ独身ですよ」
 彼女の眉がつり上がっていくのが、僕にははっきりと見えた。
「ではマドモワゼル、お願いですから道をおあけ下さい」
「まあ、何でしょう。近頃の子供は……」
 ぶつぶつ言いつつも、おばさんは道をあけた。その前をさっさと通り過ぎ、彼女は目的の品物を手に取る。
 つまんないな。少しがっかりした。彼女が得意の弁説でおばさんを完膚なきまでに叩きのめすところを、是非見たかったんだけど。
 気付くと、彼女が奇妙な目で僕を見ていた。よっぽど変な顔をしていたんだろう。
「ミス・何とかさんの方がよかったかな?」
 彼女の言葉に、僕は首を横に振った。
「いや、あれでよかったよ」

 「鏡の中に映る自分の瞳に映る自分の姿。これって、素敵な言い回しだと思わない?」
 家庭科室で彼女が突然言った言葉。あの時、話し掛けられたのが僕で本当によかったと思う。
 最近学校では、僕と彼女が付き合っていると噂されているらしい。僕は構わない。彼女が気にも止めていないからだ。
 僕が彼女以上の変人になる日まで、僕は彼女から離れられずにいるだろう。


Entry9
諸刃の剣
関口葉月

嫌いな言葉は才能。
自分にそれがないのを思い知らされるから。

「………」

壁に貼ってあったポスターを無理に引っ張って、
手の中で引き裂いて丸めた。
びり、とか、ぐしゃり、という耳障りな悲鳴は
聞かなかったことにする。

『第37回絵画コンクール 優勝作品』

優勝者は、自分よりひとつ歳下だった。
手に力を加える。
また、ぐしゃり、と紙が悲鳴を上げた。
…歳は自分の方が上。必然的に、経験も自分の方が一年上。
どうして、勝てないのか。
賞にひっかかりもしなかった作品の前でぼやくと、
同じ部活の子が言った。
『才能の差だよ』

才能。

それがないから、私は負けた?

嫌な考えを振り払うように頭を振って、
目頭に滲んできた熱に手の甲を当てる。
深呼吸して、少し濡れた手を
目の前で開いてみる。
力を抜くと、指は掌に収まろうと丸まった。

「……ッ」

ぎゅ、と。
開いていた手を握り締めた。

この手には、何ができるのか。
私は、この手で、何を掴めるのか。
近頃はそればかり考える。

一度も。何も、残せていない。
一体どれだけの賞に応募したのかわからない。
返ってきたのは、またのご応募をというおざなりの言葉ばかり。

「ッ……」

また、鼻の奥にツンとする感覚が戻ってきて
あわてて手で顔を覆う。
掌に張り付いていた小さな紙切れが、完全に床に落ちた。

賞が欲しくて描いているわけじゃない。
誉められたくて続けてきたわけじゃない。

でも。

誰かに、認められたい。

「…う…」

抑えきれなくて、つい声が漏れた。
それを呼び水に、次々と我慢がきかなくなる。

床に、ぱたりと生暖かい液体が落ちた。

「……ふ…ッ…」

こんなところで泣きたくはない。
入選しなかったのは自分の実力不足。
悲しんだり、悔しがったりするのはお門違いだ。

「…ッ……」

自分が、嫌いだ。
無駄と言われる努力を続ける。
みっともない。情けない。かっこ悪い。

でも、諦められない。

ぐい、と手の甲で顔を拭って、
それでも涙が止まらなかったから最大まで開いた蛇口の下に頭を置いてみた。
後頭部に、冷たい水が打ちつける。

才能なんて言葉で諦められるほど、小さな夢じゃない。
無駄な努力を止められるほど、潔くもない。
かっこ悪い、と言えるほどかっこ良くもない。

もう一度、今度は自分を落ち着かせるようにと頭を振った。
水が飛んで、暗い廊下に落ちる。

「…ぅっし!」

嫌いな言葉は才能。
それが無いのを思い知らされるから。

好きな言葉は才能。
何も無い中で、唯一 自分を奮い立たせるものだから。


Entry10
暗闇の世界に落ちた少女
たけの

 私は落ちた。ゆるりと落ちていくので気持ちが良くて、もがくこともせず、どこまで落ちるのかなとぼんやりと考えながらその引力に身を任せた。辿り着いた先は光が暗闇に負けてしまっている世界だった。川も花畑もない。幸せな空気も流れていないので天国ではないのかとがっかりした。でも鬼もいないから「地獄」でもないのかな。

 では一体ここはどこなのでしょう。

「すみませーん誰かいませんか!」
……むなしく私の声だけ辺りに響いた。とりあえず歩くことにした。

 でもどこへ向かいましょう。

 あの一番大きい光を目指しましょう。月のようにまんまるな。

 寒くも熱くもない世界を、雨も風も無い天気の中を、楽しくもつまらなくもなく目指した。おなかも全然減らない。死ぬという事はこういうものなのかと悲しくなって誰もいないことをいいことに大声で子供のように泣いた。泣き疲れた私は眠ってしまった
 
……のでしょうか?寝ても覚めても暗闇なので少し混乱した。あの光に何かあるといいな。地獄でもいいや。とにかく誰かに会いたい。

 いい匂いがする。へたりとそこに座り込んだ。とても懐かしい匂い。あぁ、そう言えば小さい頃に……私は過去のことを思い出し始めた。覚えている限りの思い出を始めから振り返った。この現実から逃げているってわかっているんだけれど、何も考えたくない。再び立ち上がるきかっけが……

 男の子が私の足につまずいてこけた。少し会話をしていたらその男の子が急に叫んだ。その途端、光が迫ってきた。彼は走り出した。おいて行かれたくない、もう独りにはなりたくないので急いで彼に駆け寄りぎゅっと手を握った。そしてその男の子と私は光の中へ突進した。

 無事にこっちに戻れてきた今、ラッキーな出来事だったと笑いながら言える。あの暗闇の世界で私はたくさんのモノを拾ってきた。

 私は1秒1秒を大切に生きることにした。人とのふれあいを大事にするようにした。今ある命を何よりの宝物とした。自分のだけでは悲しいから他の命も守りたいと思った。だから今もなおあの暗闇の世界で泣いている人をはやくこちらの世界に連れ戻したい。体中に光を浴びて笑って欲しい。

 数年後、私は光の中へ向かった彼とあるニュースを見た。
「いひひっ」
と彼は嬉しそうに笑った。そして
「香奈、今日はあの病院の24才の男性を呼び戻しに行くぞ!」
とはりきって旅支度を始めた。そうして私と彼は今日も世界中を旅する。