QBOOKS中高生第29回1000字バトル
 投票〆切り4月末日/レッドカードに注意!
  INDEX
 エントリ 作者 作品名 文字数 得票なるか!? ★
 1 Louis  斑点  1618   
 2 まなみ   好きな人  287   
 3 加賀 椿  氷漬けの桜  1000   
 4 小畑 翼  おやすみなさい  639   
 5 岩田直子   海辺の町  1000   
 6 朝霧  アガサとミリカ  1000   
 7作者の希望により掲載を終了いたしました。    
 8 南 那津  冒険家の親父の手のひらの上で  1000   
 9 月下 雫  サクラ  927   
 10 千光  私の理由。  1000   
 11 大介  桜並木の  803   
 12 O-KAZU  In the would, Everybody is something of a fighter.  1000   
 13 Began  泉の引力  1000   
 14 優月  青空の世界  924   
 15 隠葉くぬぎ  鞄  1000   


訂正、修正等の通知は掲示板では見逃す怖れがあります。必ずメールでお知らせください。
「インディ−ズ、行かせてください有頂天」。ボタンを押して投票ページに行こう!! 読者のひと押しで作者は歓喜悶え間違いなし!!
感想はたった一言「えかった!」「いい!」「面白い!」「天才だ!」「悶えた!」など簡単でオーケー。末尾に!をつけるのがコツなのです。
その回の作品参加作者は必ず投票。QBOOKSの〈人〉としての基本です。文句言わない!

バトル結果ここからご覧ください。




Entry1
斑点
Louis

 ある朝、ぼくは朝食をすませて、洗面台の前に立った。
 棚から歯ブラシを取り出して、いつもの歯磨き粉をつける。そしてコップに水を注ぎながら、シャカシャカと腕を上下させる。目の覚める振動。甘い匂いがつんと鼻を刺激する。
 そのとき、ぼくはある変化に気付いた。
「こんな所に、ほくろなんてあったっけ」
 左目の下、少し大きな斑点。
 歯ブラシをくわえたまま鏡に顔を近づけて、じっくりと眺めてみた。
 やっぱりほくろだ。見れば見るほど斑点は黒く、大きくその存在感を示した。
 ストレスのせいかな。よく知らないけれど、もしかしたら病気かも知れない。でも、気にしすぎるとますます大きくなる、とどこかで聞いたことがある。歯を磨くことを忘れて、じっと鏡の中を凝視する。病院の皮膚科に行けば、何か分かるかも知れない。しかしまぁ、あまり気にすることでもないだろう。
 ぼくは口をすすいだ。

 翌朝、ぼくはまたもや変化に気付いた。今度は右の目の下にほくろが出てきたのだ。こりゃ、ほんとに病気かも知れないぞ、ということで、ぼくは母さんに聞いてみることにした。
「母さん、このほくろ前にはなかったんだけど、急に出てきたんだよ」
 洗い物を片づける母は、濡れ手を拭いて、こちらを眺めた。
「そうねえ、でも、前からあったんじゃない?気付かなかっただけかも」
「そうかなぁ。病気かも知れないと思って」
「あんまり気にすること無いと思うわよ」
 そうかな。やっぱりぼくの考えすぎだったみたいだ。それほど大変なことではないだろう。

 そして、さらにその翌日。
 ぼくは明らかな変化を目の当たりにした。鼻の上に、紫色の斑点が浮き出ていたのだ。
「母さん! これ、昨日はなかったでしょ」
「そう?前と同じよ」
「絶対昨日はなかったよ! 自分の顔のまんなかに、こんな斑点があったら普通気付くでしょ」
「そう? じゃあ、アルバムとかで昔の写真見てみる?」
 母さんが取りだしてきた写真は、ぼくが中学生の時のものだった。懐かしい友、仲のよかった先生の顔。そしてぼくは集合写真の半ば右寄りに、それを発見した。
 斑点三つ。両目の下と鼻の上。はっきり写っていた。
「なんだ、これ」
「ほらね。昔からあったのよ」
「そんなはず無いよ」
 しかしその過去は事実、一枚の写真としてとしてそこにあった。

 ぼくはまだ信じられず、友達に電話をかけることにした。
「俺の鼻の上と両目の下に、黒っぽいほくろみたいな斑点、あったっけ」
──何でオレに聞くんだよ。鏡見たらわかるだろ
「そう言わずに、ちょっと教えてくれよ」
──お前、中学ん時、ほくろマンとか言われていじめられてたろ。覚えてないのか?
「いいや、覚えてない」
──からかってるのか? 親に聞いて見ろよ
「もう聞いてみたよ」
 
 自分のことだから、忘れていた、というわけはない。それにたぶん、でっち上げでもないだろう。じゃあなんなんだ、と言われても答えは出ない。確実にこの二、三日で出現したのだ。
 まあ、それ自体害を及ぼすわけでもない。いつか病院で検査してもらうとして、放っておいた。

 そして、その翌日。
 ぼくは鏡を見て、悲鳴を上げた。顔全体が黒くなっているのだ。墨を塗ったように、真っ黒に。
 叫び声を聞きつけて、母さんが来た。
「どうしたの。なにかあったの」
「どうもこうも、ぼくの顔見てよ!」

 しばらく母さんはぼくの顔をしげしげと、不思議そうに眺め、言った。
「何も変わったことないと思うけど」
 ぼくは驚いて母さんを睨んだ。
「そんなはずないよ! 真っ黒じゃないか!」
 すると母さんは伏し目がちに笑って言った。
「あなた、今更何を言ってるのよ。生まれたときからその顔だよ」

 そうだったっけ。
 何事もなかったかのように去っていく母の後ろ姿を見送りながら、ぼくはいつものように歯ブラシを取った。
 そう言えば、誰かが言っていた。いつも自分の知らないところで変化は起きる、と。

 ぼくは口をすすいだ。


Entry2
好きな人
まなみ

好きです。
こんなに、好きです。

「いつも笑ってるね」

「いつも元気だよね」

「悩みなんかなさそう。いいな」

気付いたら、

こんなにこんなに
いろんなものに縛られてて

抜け出せない
恐い。怖い。こんなに、コワイ

欲しいモノは
たくさんあるけど。

必要なモノは
少しだけ。

「好きです」

言ってくれてありがとう。

私も好きです。
こんなに、好きです。

あなたは

「いつも笑ってる」君が好き、なんじゃなくて

いつも笑ってる「君」が好き。って

言ってくれて

だから

たった一つの
「自分」というものを

こんなに、大切にしようと思いました。

大切にして

他の人が、どんなに努力しても
手に入らない

「あなた」を。

『私は、あなたが 大切です』


Entry3
氷漬けの桜
加賀 椿

 凍てついた世界だ。何もかもが動かない。風もなかった。
 ほんのりと薄桃色に染まった桜の花びらも、少しも動かない。凍っているのだ。足下に散った花びらを踏むと、ぱりぱりと音がする。
 満開の桜の並木から、それ以上花びらが落ちる事はない。
 ビルの間に入って行くと、日陰で震えている人がいた。少し肌寒い程度の気温なのに、吐く息が白くなっている。
『いつになれば、ここから抜け出せるのかな……?』
 スーツを着たその人は震えながら訊いて来る。
「この世界を楽しめるようになったら」
 彼は驚いた顔をした。

 建物の中の店にあった食べ物も、全て凍っていた。体温で融かして食べれない事もないだろうが、野菜はもう駄目だろう。どっちにしろお腹は空いてこない。
『本も凍っている』
 男の人が本屋の本を持っていた。開こうとしたらしく、表紙がぱっきりと折れている。
 よく簡単に触れるもんだ。凍っているものなんて、手が吸い付きそうで恐いのに。
「外に出よう」
『外で何を?』
「景色を見て楽しむ」
『この季節に、楽しむようなものはない。紅葉なら山へ行かないと』
 この人は何を言っているんだろう。紅葉なんて何処にもありやしないのに。
「今は春だよ」
 その時、彼の吐く息の白さが少し薄れたような気がした。

 一週間ほど私達は一緒にいた。今では、彼の息は白くなくなっていた。
『ここは何処なんだろう』
 体重をかけると粉々になる芝生の上に座り、彼が尋ねて来る。
「さあ」
 ここが普通の世界でない事は分かる。でも、普通の世界での生活が思い出せない。
『帰りたいと思わないか?』
 また訊いて来る。この人は元の世界を知っているのだろうか。
「別に。ここに不満はないから」
 男の人は傍の桜の木を見上げた。今度は私が訊く。
「桜、見れるようになった?」
 男の人は頷く。
『でも、もう葉が出て来てしまった』
 え?
 桜は満開だ。葉なんてない。第一、この凍てついた世界では時間も凍って……。
 矛盾に気付いた。時間が凍っていたら夜なんて来ない。彼の秋も変わらないはず。
『自分が何故ここにいるのかを思い出した』
 男の人はそう言うと、静かに立ち上がった。そして私の顔を見下ろすと、一言
『希望はあるさ』
 ゆっくりと彼の姿は消えた。
 最後の言葉を、何度も心の中で繰り返してみる。希望がなかったのか。
 思い出せるような気がする。どうして桜に散ってほしくないのか。
 ――あの学校に行くのが嫌だったんだ。


Entry4
おやすみなさい
小畑 翼

「何泣いてんだよ尚樹」
「もう別れようぜ、俺達」
「えっ……」
つい一時間前まで俺と尚樹はこの浜にいた。いつも尚樹とは、五時にここで待ち合わせをしていた。でも尚樹の奴、泣きながらここに来て俺に別れ話を……
理由を聞いたかって?そりゃ聞いたよ。そしたら……
「お前が嫌だから」
「何で……?俺のどこがいけねぇんだよ」
「……全部」
「はっ?尚樹、お前」
「うっせぇよ!嫌なもんは嫌なんだよ!何がいつまでも一緒に居たいだ!お前みてぇなやつと一緒に居ると、変な目で見られんだよ!!」
これが尚樹と別れた理由だ。尚樹とは小学校は途中から一緒で、付き合い始めたのは中1の時。4年目にして別れるとは……
毎年、夏になるとこの浜で心行くまで一緒に泳いだ。恥ずかしいけど、中2の時に人がいない裏の浜で抱き合ったりもした。俺よりも格段に良い面を持っている尚樹。いつも一緒に居てくれて、いつも俺の隣で笑ってくれて、一番俺の事を理解してくれてた。なのに何で……何で……
俺の目からは、いつのまにか涙が出てきていた。その時、ある事を頭の中を過った。それは、中学を卒業してすぐに行ったデートの事。何だか俯き加減だった尚樹の表情だった。いくら問い詰めても話そうとはしなかったから深く聞かなかったけど、この時から別れたいと思っていたのかもしれない。そう思うと、また一段と切ない。
人気の無い浜を後にする。最後、立ち止まって尚樹との過去を愛しく思えるように心をこめて、尚樹と俺自身にこう言った。

            「おやすみなさい」


Entry5
海辺の町
岩田直子

 あたしは高校を出るまで施設で育った。過去に養子に出された事が二回あったけれど、その二回とも素行不良で施設に突き返された。別に施設が好きだったわけではないけれど、見ず知らずの他人をお父さん、お母さんと呼ぶなんて、考えただけで気持ち悪かった。あたしに親なんていない。偽りの家庭で偽りの笑顔を浮かべるぐらいなら、少しぐらい居心地が悪くても、住み慣れた施設をあたしは選んだ。ただ、それだけだ。

 いつの間にか、細く開いた窓から磯の香りが漂ってきている。読んでいた文庫本を閉じ、窓の外に目をやると、連なる家屋の向こうに青々と広がる海の姿があった。その瞬間、嗅覚と視覚との双方を刺激され、目眩に似た感覚が全身を襲う。慌てて、取り落としそうになった文庫本を持ち直し、開いていた窓を閉める。と、怪訝そうにあたしを眺める斜め向かいのセーラー服と目が合った。急いで膝の上の本に目を落とし、平静を装う。けれど、一体何故こんなにも、あたしは慌てているのだろう。

 すべての始まりは一ヶ月前のあの電話だ。電話口の女の声は、自分を叔母だと名乗った。そして、一つの住所を告げると足早に電話を切った。そこにあなたの実の母親が住んでいます、とだけ言い残して。

 電車から一歩外界に足を踏み出すと、潮臭さは否応なしに全身に纏わり付いてくる。そのあまりの確かさに、あたしは実感せずにはいられない。とうとう来てしまった。あの電話が本当ならば、この町にあたしを産んだ女が住んでいることになる。

 施設からの付き合いで、あたしの唯一といえる友人の恵理子は、母親に会いに行くことを反対した。会ってどうするの? 何を話すの? そう繰り返す恵理子に、あたしは何も言わなかった。いや、言いたくても言えなかったのだ。自分を捨てた人間に会って、あたしは一体どうしたいのだろう。何を言いたいのだろう。そもそも、あたしは再会を望んでいるのだろうか。何度考えても分からなかった。その答えは、女の家を前にした今も出ていない。

 呼び鈴を押す手が一瞬震えた。けれどあたしはそれをなかったことにする。はい、と言う女の声と、それに続いて廊下を走るスリッパ音。この女が、あたしの母親なのだろうか。一体あたしは、何をするのだろう。何を言うのだろう。そして、産んだ子供を捨てた女は、大人になった自身の子供を前にして、何をするのだろう。何を言うのだろう。ガラガラと音を立てて、戸が開く。


Entry6
アガサとミリカ
朝霧

"大人になるのー#
私は小さい頃に、そう言い捨てて家を飛び出した。

"アガサー!#
岩陰から顔を覗かせながら掛け声をかける。私は早く出発したいのに。のろのろ機械をいじっては笑うあいつ。あーもう、本当腹が立つ!!
"アガサー!!#
何度めかの私の怒鳴り声にはっとして立ち上がる。
"ミリカ!あと少しだけ待って!#
あと少し…ってのは、5分ちょっとくらいかしら?クスクス笑いながら岩陰にもたれる。次は何処にいけるか、次はどんな所にいけるのか私はドキドキする。この時間…実は好きなんだよね。首にかかっているお母さんが私にくれた宝物の小瓶に口付けする。今、元気にしてるかな?私は元気だよ。色々な言葉を詰めた口付けをもう一度、小瓶にして私は笑うの。
"ミリカー!準備できたよ。行こう#
頷き私は走る。
"うっしゃー!次は何処に連れていってくれるの?#
背中にしがみ付いて聞く。
"次は…ヒナタ村#
"私の故郷じゃん!!#
嬉しくて抱きつくと、相手は少し顔を赤くして笑う。
バイクが走り出す。私の故郷に向けて。

"っと…ここのはずなんだけど#
地図と走ってきた道を見比べてアガサは首を振る。
疲れて岩陰で休んでいると小さな木切れが目に入る。近寄って、付着してた砂を払い落としてみると"ヒナタ村"と書いてあった。頭が真っ白になって腰を抜かす。
"私の村…もうないの?#
泣くのを我慢していると、アガサが無理矢理バイクに乗せる。
"高い所に行けば見つかる、きっと#
背中越しの言葉に私は頷いてしがみつく。
高い崖までつくと、日は沈んでしまって辺りは真っ暗。
"見えないなあ#
彼はポケットから、何度も改造した優れものの望遠鏡を取り出す。何百キロ離れた場所の蟻でさえも見えてしまうらしい。覗いている彼をみていると、あっと小さな声が漏れる。
"あった!#
すぐさまに二人でバイクにまたがり村へと向かう。入り口にはヒナタ村とかいた看板が立っていてホッと息をつく。中に入ると村民が温かく受け入れてくれた。その中にお母さんがいて即飛びつく。
"お母さん!#
大声で抱き付くとお母さんは頭を撫でて。
"早く起きないと遅刻するよ#と怒鳴った。
慌てて顔を上げると世界はグルリと一回転し、瞬きをして目をあけると真っ白な天井が見える。視界には、大好きなアーティストのポスターとお母さん。
"え?え?なにこれ!?#
"あんたこそ何言ってるの?学校、遅刻するっていったでしょ#
私は、大声を上げて飛び上がり急いで服を着替えた。


Entry8
冒険家の親父の手のひらの上で
南 那津

 親父のヤロー。今度しばいちゃる。

 宝探し、と称して連れてこられたのはミステリー小説の会場にもなりそうな山奥の洋館。この中に宝を隠したから探せ、我が息子よ! という具合。
 二人まで連れてきてもいいと言われて、運の悪い友を二人連れてきた。
 ぎぃ、と扉を開けるとただっ広い部屋の暗闇にたたずむシャンデリアがお出迎え。部屋の隅にはまるまると太った壺が威張っている。
 外観からして広かったのに、ヒントは宝に関することは売れば百万はするとだけ。親父の言葉だから嘘はないだろうけど。
 とりあえず、三人でエイエイオーしてからしらみつぶしに近くの扉に入った。

 2時間後…
 俺たち三人は早くも疲れが現れていた。だって、日当たり悪くて薄暗いわ、扉はガタがきてて開きづらいわ、広いだけでなく蜘蛛の巣あるわ、テンテコマイになっている。
 一人で来なくて良かった。天然のお化け屋敷。
 調べていくと、明治時代に大当たりした貿易商が建てた屋敷らしい。ちらほら書かれている日本語と英語を読むとわかる。家主が居なくなってから何人もの泥棒が入ったのか荒らされ方はすさまじい。
 友の一人恭平が俺にそっくりのオバケを見たと言ったが、なんで俺なんだよ。

 6時間後…
 夜になり、急いでろうそくを探して偶然にもすんなり見つかった。
 俺が馬鹿だった。カップラーメンあっても湯がなければ塩辛いベビースターラーメン。三人でボリボリと食べた。カロリーはあったから元気には…なるわけない。
 見つけた箒で適当に埃を掃いて、そこで寝た。

 翌日の朝。
 友の一人、浩一の額に親父からのメッセージがあった。
『壺は間違っても割るな』
 ……。
 まぁ、体力は回復したけど。気力はどん底だけど。

 6時間後…
 部屋の数が百を超えていることが分かった。馬鹿だろ。

 二度目の夜…
 昨日のカップラーメンは良かった。カップ焼きそばはソースが別の袋になっていた。

 三日目の昼。
 ついに、すべての部屋を調べ終えた。
 部屋の数は地下への階段を見つけてから数えるのをやめた。
 そしてもう一つ分かったこと、この屋敷に壺は玄関のヤツ一つだけだと言うこと。
 浩一の額の文字は消えそうだったから俺が書き直した。
 俺たちは迷いもなく壺を階段から転がすと、派手な音をして割れた。
 するとそこには『水を入れてのぞき込め』と書かれた紙がひらひらと。

 ……さらば、親父の宝よ。

 このクソ親父。本気でしばいちゃる。


Entry9
サクラ
月下 雫

 「学校一番乗り!」
始業式の朝。そう呟きながら校門をくぐった。
(入学して、もう一年たつのか。あぁ、もう先輩になるんだ。)
こんな思いをめぐらせながら昇降口に向かって歩いた。

 (あっ、桜の木だ。)
今年の桜は早咲きだった。だから、今はもう全て散ってしまった。
(桜・・・かぁ。)
桜の木にそっと触れてみた。少しだけ暖かかった。
私の思い出がまだ残っているようだった。
甘くて苦いあの思い出が・・・。


1年前。入学式の朝。張り切りすぎて早く来すぎてしまいボーっと周りを見ていたら、桜の木を見つけた。あまり目立たない小さな木。 満開だった。
私は桜が大好きだった。やさしそうで、あったかそうで・・・。
「桜きれいだね。」
私はびっくりして振り返った。
「桜、好きなの?」
1人の男子生徒が立っていた。
何も言えなかった。その先輩がかっこよくて。はずかしくて、何も。
かろうじてうなずけただけだった。

 その日から、先輩の姿をいつも目で追っていた。
友達とふざけながら笑う優しそうな笑顔が大好きだった。
いつかまた、先輩としゃべりたいなと思っていた。
けど、何も出来ずに1年が過ぎていった。

 私はまだ先輩を好きだった。
卒業式の前日、勇気を振り絞って、先輩の下足箱に
[放課後、桜の木の下に来て下さい。待ってます] と書いた手紙を入れた。

ちょっと早咲きの桜の木の下で、ずっと待っていた。けど、先輩は来なかった。
(先輩は私のことなんか覚えていなかったんだ。しかたないよね・・・。)
こう自分に言い聞かせ、鞄を取りに校舎に入った。
3年生の下足箱の方から、声が聞こえてきた。
「おい、お前の下足箱何か入ってるぜ。ラブレターじゃん。
 [桜の木の下で待ってます]だってさ。ロマンチックぅ」
笑い声といっしょに先輩の声が聞こえてきた。
「馬鹿じゃねー。いまどきそんな古い告りかたしないだろ。」

 目の前が真っ白になった。先輩のイメージが全部壊れた。
私が振られるのは仕方ない。 でも先輩が、こんな事言うなんて・・・
信じられない・・・・。
  涙があふれてきた。
 ただ、涙が出て悲しかった。


 今考えれば、私は先輩のこと何も知らなかった。
勝手にイメージをつくっていただけだった。

 桜のように儚かった初恋。
 今はまだ忘れられないけど、すぐに忘れられると思う。


Entry10
私の理由。
千光

昨日は塾に行った。

入試が終わったからみんなは来ないのだろう、自習室では独りぼっちだった。
期末試験が近い。
もうこの机を使うこともなくなるのか。

「はぁ…。」
無意識にため息がでたのは、なんでだろう。
おしゃべりする友達がいないから? 試験勉強に飽きたから? 
ううん、そんなはずはない。
私はもともと独りが好きだし、数学の問題を解くのもおもしろい。
たぶん、きっとそれは…。

「バタンッ」
ドアの開く音に、私の身体は一瞬震えた。
思わず振り向こうとする衝動を抑えて、シャーペンを握りなおす。
背後にいる人のけはいで息苦しさを感じた。

彼は、いきなり私の隣に座った。
「おまえ何でここにいるの?」
「え!?」
願っていた声とは全然ちがう。かすれた低い声を聞いて、またため息をつきそうになった。
「あ、ああなんだ…びっくりした。なんでって、見ればわかるでしょ?試験勉強してんの。」
動揺に気付かれないように、ゆっくりと顔をそちらに向ける。

「なんだとはなんだよ、失礼な。試験って…おまえ受験終わったんじゃなかったっけ? なのに何でいるんだよ。」
早口で言われた私は面を食らい、怪訝な表情をしてしまう。
明らかに機嫌が悪そうだ。
いや違う、いつも彼はこんな口調だったか…受け取る側の私の気持ちが沈んでいるからそう聞こえるんだろう。
機嫌が悪いのは私の方だ。

「今日は誰も来ないぞ、みんな遊びに行っちゃったし。なんだ仲間はずれ?」
「そんなこと無いよ。うちの学校は来週期末だから、みんなはもっと後でしょ。」
わざと私は冷たく言った。

この人とはつくづく合わないと思う。話をしているうちに、いつも息が詰まりそうになる。

「まあ予測してたんだけどね。おまえのことだから勉強してるだろうと思ってさ。ほら、これ。」
目の前に差し出されたのは、小さな封筒だった。
鼓動がしだいに速くなっていく。

「あの、これって…」

「聡志からだよ、ったくなんで俺がこんなことしなきゃならないんだか。はぁ、ほんと親友思いだよな。」
「……。」
私は声を出すことができなかった。

「ねえ、聞いてんの?」
「え…あ、うん。聡司くんからなんだ。」
「そ。ちゃんと渡したからな、じゃあな。」
「ちょ、ちょっと待って…。」

「―バタンッ」 
勢い良く締まるドアの音で、私はまた独りぼっちになった。


「はぁ…。」
昨日、声が出なかったのは、なんでだろう。
あこがれていた人からの手紙なのに。

私は知っている。
そう、きっとそれは……。


Entry11
桜並木の
大介

 絵本を書こう。
新しい自由帳に二人の軌跡を残していこう。
二人が出会ったあの場所は、まだあるのかな…
初めてもらった手紙、うれしくて今でも大切に、寝室の棚にしまってあるよ。
今でも色あせることのない二人の思い出。
ある夜行った桜並木で見た、月明かりに照らされた桜の魅力。
それに目を輝かせ見入るあなたに恋をした。
あなたは桜に誤魔化されたと私に言うけれど、そんな子供っぽいあなたも好き。
あの時の眼差し、あれは透き通った心の持ち主でなければそんな眼はしない。
「私達の恋が実ったらあの桜並木へまた行こうって約束したよね。」
「えっそんな約束事したっけ?」
冗談めかしたあなたはきちんと覚えてる。
寝言でこの前つぶやいていたもの。
私達はいつもあの桜並木へ散歩しにいったね。幼い頃からお気に入りだった。
桜が満開のときは飽きずに一日中見ていた。桜に嫉妬する私は器が小さかったかな。
桜並木のベンチで高校の頃、哲学したときのあなたの博学に驚いた。少しかっこよかった。
「哲学って元は何語なの?」
「どうやらphilosophyの訳語らしい。ギリシア語のphilosophiaに由来するんだ。」
私はあなたが教えてくれるのがなんだか嬉しかった。別に特別なことじゃない、普通のことなのに。
二人の子供が少し大きくなったら話してあげたい。そして絵本を見せてあげたい。
あなたとの楽しく面白い思い出の数々を。いつでも遅刻するあなたと待ち続ける私。
そんなあなたでも本当は優しいと。人生の道に迷ったときは、私の道しるべになってくれたのだと。
だから私はどんなに待たされようと、どんなに悪戯するあなたでも二人はずっと幸せだと。
そしてあなたが産まれめぐり会えたからこそ
こうして小さな幸せが実ったことをいつまでも、心に刻んでおきたい。
いつかは家族三人であの桜並木道を歩くのが、私の小さな夢。
今咲いている桜が散る時も、その手を離さないでほしい。
桜はまた咲くから…。
この桜並木とあなたと子供達、ずっと失いませんように。


Entry12
In the would, Everybody is something of a fighter.
O-KAZU

 考えるより先に上半身が跳ね起きる。構えられる歩兵銃。泥水の中で脚を曲げわきを締め姿勢を固定。銃身が霧雨に煙り――その銃口は、少女の眼の前に突きつけられていた。
 双方の息つぎの音。それだけが続く。少女の腕の中で、赤ん坊がむずかりだす。
 銃が下ろされる。女性兵士は再び、戦友たちの骸の上に倒れた。
 目を閉じる。殲滅戦の断片が甦る。唾を飲み込む。
 生きているのが不思議だった。が、ありがたくはなかった。
 ただ、虚しかった。
 戦友たちが羨ましいほどだった。
 濡れた足音と泣き声が、動き始める。
 死体漁りではなさそうだ。止めを刺さないから。焼け出された地方人だろう。戦塵まみれの黒い顔。その中で目だけが異様に光っていた。
 生きるための専心。
 兵士はなぜか、無性にそれを煽ってやりたくなった。
 おい、と声をかける。息をのむ気配。そこに倒れてる奴の、上着の右側、探ってみろ。
 沈黙のあと、がたがたという微かな音が空気にまじった。
 短く声があがる。緊急用のビスケットを見つけたらしい。
 全員のに入ってるぞ。兵士は続けた。食う暇もなく死んだからとは、言わなかった。
 私のも、やるよ。夢中でがたがたしていたのが、止まった。
 少女の千思万考が見えるようで、兵士は冷えた腹の底で笑った。――しかし、足音は近づき、かがみこむ気配がした。上着の隙間に手が入ってくる。胸の上の重いものが、するりと抜け落ちた。
 正直、取るとは思っていなかった。鼻先に銃を突きつけられる恐怖は洒落ではなくそれだけで死に至りそうなものであることを彼女はよく知っていた。
 立ち去る足音に、兵士は声をかけた。待て。
 そのビスケットを半分、よこせ。
 言ってから、自分が嫌になった。これではどんな奴でも間違いなく、逃げる。
 しかし、間違いは起きた。
 顔の横に泥がはねた。缶詰が三つ、落ちていた。
 腕は鉛のようだった。缶詰をこじ開けて中身を咀嚼し、胃に流し込む。体の芯に潜っていたなにかが、再び燃えだした。
 銃を支えに立ち上がる。始めて少女の全身を見た。眠った赤ん坊を抱いた小さな戦士の眼は、銃に注がれていた。
 妹か?
 いままでの命令口調をつくろうような兵士の言葉に、少女はすこし戸惑った様子だったが、首を縦にふった。
 兵士は言った。南に基地がある。あればの話だが。ついてくるか?
 少女はうなづいた。


 二人がお互いの名前を知るのは、それから四日後のことである。


Entry13
泉の引力
Began

 旅人は世界の真ん中で「命の泉」と対峙した。
「水よ、お前なのか、私をここまで導いたのは」
 いくつもの山と谷を越え、そして天を貫く高い山を登りつめた先に、その泉はあった。澄んだ水が溢れ、幾筋もの流れとなって岩がちな尖鋒を這う。高い所から低い所へ。世界を巡る水はここから発せられる。全ての生命の源となる不思議な泉だ。
 旅人はその水を口に含み、打ち震えた。水は巡る。彼の体を流れる水も、何百年と生き続けた大木を流れる水も、一切が同じ水の流れなのだ。
「なんて素晴らしい! ここから水が世界に行き渡り、世界を潤しているのか!」
――それは違う
 山よりもっと高いところから声が聞こえた。
 旅人が振り仰ぐと、そこに雲が湧き出していた。雲のうねりは次第に大きくなり、ごうごうと膨れていく。ついに旅人も雲に飲み込まれ、浅い呼吸の中、夢心地になる。
――見よ
 旅人の目にしたその光景は幻に違いなかった。けれど旅人は、その光景が現実に存在していることを知っていた。
 干乾びた大地。干上がった川。痩せ細った人々。動くことも満足にできない子供。幾度となく報道された光景である。
――なぜか、水の配分が上手くなされていない
 体中の水が騒めき、旅人の目に涙が溢れる。
「神よ、貴方が私を導いたのですね」
――いや
――…ちっぽけな涙がこの状況を変えるとも思えぬ。
 旅人は衝動的に駆け出し、岩に飛びついた。確かに、太い水の筋もあれば細い筋もある。だが細い筋の方が圧倒的に多い。太い筋を作っているあたりをがむしゃらに殴りつける。わずかに岩が砕け、流れが二つに分かれる。手の痛みも忘れて流れの先を追う。しかし二つの筋はすぐ一つに結ばれた。貪欲な獣が下方で醜い口を広げ水を吸い込んでいるかのような、おかしな引力が働いていた。
 旅人は足を滑らせ、頭を強かに打ちつけあっけなく死んでしまった。


 旅人の目の前で、老人がひどく恐縮して立っている。
「すまない、最後の一言は余計だった」
 旅人はそれを軽く受け流し、足元の雲を見つめて言う。
「水が、私をここまで導いたのならば、私にできることがきっと何かありますよね?」
 雲の向こうに泉が見えていた。
「私はここで待ちます。次に誰かが泉を訪ねてくるのを。そしておかしいのは泉じゃないってことを教えてやるんです。…いくらだって待って見せますよ!」
「待つのは君じゃなかろう」
 旅人は言葉を失い、細い筋の先をじっと見つめた。


Entry14
青空の世界
優月

 今日もヒロは空ばかり見ている。
 
 ヒロは僕のクラスメートで、何をやるにも人より一足も二足も遅れている。もちろん、成績はクラスでビリだし、100メートル走だって他のだれとも対等に競ったことがない。ただ、空だけ見ていれば幸せそうで、いつも悩みなんていって顔してにこにこ笑っている。
 
 そんなヒロを、みんなはバカにする。クラスではいつも、遠慮のない悪口が飛び交う。その場の空気を吸っているだけで、僕は苦しくなってしまうのに、ヒロは平気だ。そんな悪口には耳を傾けない様子で、またにこにこ青く澄んだ空を、小さな窓から眺めている。
「ヒロ、どうして空ばかり見てるの?」
僕が尋ねてみると、ヒロは、
「気持ちがいいからだよ。」
と得意気に答えた。
「ねぇ、クラスのみんなはどうしていつも悪口ばかり言うの?僕、いつも気 にしないふりしてるけど・・・。僕の悪口を言わないの、トモだけだよ  ね。」
ヒロはまた笑ってる。
「僕はね、青空の向こうにはきっと、もう一つ世界があると思うんだ。」
「どんな世界?」
「わからない。でも、すっごく平和だと思うよ。僕らが住んでる世界とは正 反対で・・・。戦争や紛争なんてまったくなくて、自動車なんか走らない から、空気はキレイで。」
僕はヒロの言葉に驚いた。いつもボーッとしているだけのように見えたヒロが、空を見ながらこんなことを考えていたなんて。
「トモ、僕たちのクラスだって同じだよ。みんな、青空の世界が見えないの かな?僕は空を見ているだけで、幸せな気持ちになれるんだ。だから、み んなと一緒にいつか青空の世界に行ってみたいよ。」
そう言ったヒロはやっぱり笑っていた。目がキラキラ輝いていて、まるで小さな子供のようだった。
 今日もヒロは空ばかり見ている。またみんなの悪口を浴びながら、空を見上げている。
 
 もしも、クラス中がヒロのようになってしまったら、授業も通信簿も、スポーツも図工の作品も、全部めちゃくちゃになってしまうだろう。
 だけど、クラス中がヒロのことを認めてあげることができたら、もっと優しくて思いやりがある、青空のように心が澄んだクラスになるだろう。
 
 ヒロにだけは遠い青空の彼方にある、もう一つの平和な世界が見えたのだから・・・。




Entry15

隠葉くぬぎ

 みむら あやか
 それはちいさな子供をもつ、母親の丁寧さでかいてあった。習い事に行くときに使うようなかばんに、読みやすい字で。わかりやすいようにとかばんの表面、よく見える場所。深緑色をベースにした落ち着いた色のチェックのかばん。
 記憶にある。私がピアノのお稽古に使っていたかばんも、ちょうどあんなふうだった。スリーウェイのバックをリュックふうに背負って。
 いま、変なのは、それが結構いいとしのオッサンが夜の繁華街で背負っていることなのだ。子供にあわせた鞄が、きゅうくつそうに体を締めつけている。
――おかしい。
 そっと後をつけたのは、それにそんなに興味があるから、ではなくて、塾に行くのを自然と足が拒否したからだと思う。学校指定の地味で紺で、馬鹿みたいに重たいかばんを肩にかけなおして、私はオッサンの後ろ姿を小走りに追いかけた。

――おとうさん、という柄ではないよね。
 父親だったとしても、愛娘ミムラアヤカをいったいどこに預けていくというのか。繁華街の中心に向かってオッサンは歩を進めていく。
――誘拐犯だったりしてね。
 人混みに紛れそうな禿げかけた頭を、かろうじて眼で追いつつそんなことを思う。 
 角を曲がる。慌てて私も角を曲がる。ひだり、と。そこには。
 廃屋。
――すごい、こんなとこ東京にあるんだ。この調子だと本当に誘拐犯かもね。
 ……そういえば。
 いない。ずっと追いかけてきた、あの男はどこに行ったのだろう。 振り返ると。何かが顔にむかって降りてくる。
 ブラックアウト。

 すぐに気が付いたと思う。
 もどかしそうに縄をといて、怯えるようにこちらに視線を走らせてから女の子は駆け出した。
――ああ、あれが。
 ミムラアヤカちゃんか。
 手首が痛い。打ちっ放しのコンクリートの床がひんやりと冷たい。
筋肉がへんなふうに緊張している。
 男が、どさり、と鞄を降ろした。深緑色がベースのチェックのスリーウェイのかばん。かわりに私のかばんの物をゆっくりと出していった。教科書も、ノートも筆箱も塾のテキストも友達からかりたCDも財布も定期も全部。
 その間、ちらとも私には視線をむけなかった。くらい中で、ぎらぎらと目だけが光っているのが異常に思えた。
 全部の物を出したって全然軽くないであろう私のかばんを肩に掛けると、出した中身を、捨て去るように片隅に蹴った。ミムラアヤカのかばんも。
 隅の暗がりには。
 大量の鞄が捨ててあった。