QBOOKS中高生第30回1000字バトル
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 エントリ 作者 作品名 文字数 得票なるか!? ★
 1 香月  同害復讐法についての考察  1000   
 2 須藤あき   ドラグンバスター 〜Sleeping Lover〜  999   
 3 月下 雫  ある人とその彼女とその友人と  647   
 4 恋  たぶん、さよなら  1000   
 5 庵崎 侑   BE MYSELF  1000   
 6 岩田直子  哀歌を唄う男と女  1000   
 7 姫咲ゆうや  現実逃避  1025   
 8 天霧  開花予感  916   
 9 国生美月  殻  927   
 10 加賀 椿  カップラーメンの思い出  1000   
 11 ユタ  雨宿り  863   


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Entry1
同害復讐法についての考察
香月

暦、37XX年。世界は暴走する電子機器によって、あっけなく終末を迎えた。今となっては僅かに生き延びた人々が小さな国を造り生き永らえている――動乱絶えぬ国は古代の法律を復活させた。つまりは、同害復讐法。

 続く桜並木に傾いた朱塗りの鳥居。このあたりはその昔、"カマクラ"という地名だったらしい。ミナモトとかいう一族が統治していたという寝物語を婆ちゃんに聞いた覚えがある。そんなことを思い出しながら呟く。
「この辺に逃げてきたんだと思うよ」
「ダレが?」
相棒のポニーテールがひらひらと舞う。
「お茶目な犯罪者さん。……そこで栗鼠にエサやってるオッサン」
瞬間、彼女は視線を向ける。
「ナンバァ687、網膜一致。罪状、傷害罪。右手の複雑骨折だって。いってらっしゃい、レン」
「ハイヨー」
隠れて本部への報告をはじめる相棒を置いて、懐から愛用の銃を取り出す――

 本部に帰るジープの中でくだらないことを考えた。議題は俺と相棒の仕事の根本法律について。人を怪我させてナンボ、殺してナンボの因果な商売だが、この法律がなければ途端に飢え死になわけで。
「それにしても、古代の王様もサイコなこと考えるやね」
本当にサイコなのは俺じゃなかろうか。
「んーでも、昔のは今みたいに平等だったわけじゃないみたいよ。奴隷制度が横行してたし」
土埃がひどい。
「そんなもんかね」
「そんなものでショ。大体、あんた同害復讐法の本当の意味知ってるの?」
「目には目を、歯には歯を。違う?」
「言葉を諳んじてるだけじゃ意味ないわよ」
それには全面的に彼女に賛成だった。
「復讐っていうのは、キリがないでしょ。だから復讐の限度を定めたのよ。目なら目だけ、歯なら歯だけ」
なんだか少し、土埃が沁みた。
「……加害者人権優先ってヤツ?」
「そうかもね。でも、限度がなきゃ暴走するじゃない。コンピューターもだしさ」

 今日も今日とて、俺と相棒は因果な商売を続けている。
「そこの銀色の髪の女、ナンバァ1358、網膜一致。罪状、殺人罪。」
例えば昔のブシだって人を殺したわけで。そうやって、生命は続いてゆく。
「へーイ。」
懐から出した愛用の銃に弾を込めて。
「そこの髪が綺麗なお嬢さん、……」
女が振り向く。
「目には目を、歯には歯を。同害復讐法専属官のレン・ヤガミです」
銃を突きつける。彼女に俺は何の感情も抱いていないが。ブシは何か思っただろうか。
――さて、貴方の恨みと生命の連続には限界があるだろうか。


Entry2
ドラグンバスター 〜Sleeping Lover〜
須藤あき

皇后は城の長い廊下を、ドレスの長い裾を煩わしく持ち上げて駆けていた。
身に余る大きな扉を、全身を駆使して押し開ける。

「あぁ…なんてことタカネ!あなた正気なの!?」

眼前の、白銀の鎧を身にまとった我が子を前に母親は打ちひしがれた。
美しいブロンドの髪が絨毯に広がり、宝石かとも思われる碧の瞳からは大粒の涙が零れんとしている。

「母様…。:タ

対し、振り向いた子の髪と瞳は漆黒であり肌は…良く言えば健康的な色だ。
恐らく父親似なのだろう。

「後生です。私の一生に一度、最後の我侭を…聞いてはくれますまいか。」

子…タカネはその黒く長い髪を揺らし母に歩み寄ると、困ったような口ぶりで云った。

「あなた!自分のしようとしている事が判っているの!?
あなたは剣を持つべき人間ではないわ!:タ

「しかし母様、剣は…ドラグンバスターは応えました。」

タカネは立ち上がると、雄々しく腰の剣を抜いて見せた。
幾分剣が大きすぎて分は悪いが、剣もそれに応え光を放っている様だった。

「そんな剣が何だと云うの!?王を失って…その上あなたまで失ったらこの国は…私はどうなるの?」

母の瞳から涙が零れるのをタカネは見詰めながら、しかし戦支度続行した。
タカネの瞳に迷いは無くただ、竜に囚われ禍々しき塔に隔てられた、愛する人のみを見据えている。

「母様、私を信じて下さい。…私は死なない。
それに万が一の事が起こっても、まだダリアが居る。」

タカネは戸口に佇む、母親似の美しい妹を見やった。
妹は母とは打って変わって、飄々とタカネの様子を傍観している。

「あれも強かな王家の女です。必ずや良い婿を取って、国を護るでしょう。:タ

そう云ってタカネは長い髪を頭の高い位置で固く結うと、自室を出た。
すれ違い様に、妹が囁く。

「行くのね、姉様。眠れる王子のもとへ。」

タカネは剣に付けられた剣鈴を鳴らして妹を振り向く。

「待っていろ。貴嶺の名に懸けて、必ずや“愛”を持ち帰ってやる!」

貴嶺…タカネ。
亡き父が「何にも秀で、誇り高い。何人にも到達できぬ嶺のような女であれ。」と願い、彼女に付けた名である。


彼女は倒れようが血を吐こうが構ず、進む。
それはさぞ滑稽で、かつ無様であろう。
しかしそれは彼女が常に真剣であると云う、何よりの証である。

彼女を動かすのは自らの誇りと、少々の見栄。
塔を攻略する術を知らない彼女は、その剣で塔をも両断する。


いつしか彼女は“ヒーロー”と呼ばれた。
単なるおとぎ話である。


Entry3
ある人とその彼女とその友人と
月下 雫

題・久しぶり!!  5月3日P・M10:38
ヤッホー。お久のメールだね。げんきかい??私はモチ元気!!
だけど、もうすぐ試験なんだ・・・。カナリやばい(泣
けどx2明日は翔君とデートなんだvvvモチ、ラヴラヴだよんvvv
いーだろ(笑 真菜はまだ彼氏いないんでしょ?早くつくりなよ。
そーすれば、毎日HAPPYx2だよんvvv
けどさ、なんで真菜は可愛いのに、彼氏いないの??翔君も可愛いっていってたぞ!!
話戻るけど、明日は試験無視して(ォィ デートなので、応援してくださいな(何を!?
んじゃ、バーイバーイきーん。
p・s結果報告(のろけ?)するからねぇ=!!       由里香より


題・指定無し   5月4日P・M 4:26
デートしてきたよ。映画見たんだ。今日の翔君何だか気持ち悪いくらい気使ってくれて、優しかったんだ。 けど、目見てくれないし、手つないでくれないし、キスもしてくれなかったんだ。
だから冗談で、「私のこと嫌いなの??」って聞いたら、「ごめん・・・」って言われた。
他に好きな人がいたんだって。しかも、私と二股かけてたんだって。
誰かは教えてくれなかったけど、私も知ってる子なんだって。
デートの途中で、その子のとこに行っちゃったし。かなりショック・・・。
私一人でうかれてたんだ・・・。 ゴメンね。こんな事話されても困るよね。
でも、真菜くらいしか話せる人いなくて・・・。
ごめんね。また、メールする。           由里香より

友人からのメールだった。
こっちこそごめんね。今、翔君、私の家に居るんだ。


Entry4
たぶん、さよなら


朝、目覚めたのはまぶしい朝日のせいではなく
携帯のアラームがなったわけでもない。
外はこの時期恒例の小雨で、小鳥が鳴く声も聞こえない
静かな、静かな朝。
君のいない朝。

昨日の朝は普通だったのよ。
いつも通り。
半同棲のような状態で住んでいる私のアパートから
今日も出掛けて行く彼。愛しい気持ちで見送る私。
「行ってらっしゃい。」
「うん、行ってきます。」
すべていつも通り。特別なことなんて何もないけれど
幸せな朝。

なのに、帰ってきたあなたは冷たかった。
私がどんなに話しかけても何も答えてくれないの。
今までにこんなこと、たったの一度だってなかったから。
私、とまどった。
「ねぇどうしたの?何があった?私、何か悪いところあった?」
「あ、昨日お洗濯失敗したの怒っているの?
昨日は学校に遅れそうで、それで急いでて・・ごめんなさい。」
私がどんなに話しかけても、謝っても
あなたは目をつぶって話を聞いてくれない。
そのうちにどこかへ行く準備をし出して、お前はここにいろと言われた。
私、その言葉の通りにそこにいた。
だって動けなかった。

私の頭の中は空っぽで、真っ白で
彼との楽しい思い出ばかりが
ぐるぐるぐるぐる、回る。
それ以外には何も考えられなくて
気付くと病院のベッドの上だった。
それが今日の朝。

昨日のことはすべて夢だったんじゃないかって
思ったの。
家に帰ればいつも通りの笑顔で彼が迎えてくれる。
そんな気がしたの。
私、病院を出てタクシーをひろって
家へと急いだ。鍵を開けてようとドアノブを握ったらドアが開いた。
鍵が開いてる?
「ただいま!!!」
「おかえり。」
しかし、私を迎えたのは彼ではなかった。
「お母さん・・・?」

やっぱり昨日の悪夢は夢ではなかったらしい。
だってお母さん、黒い服を着ている。
「うぅ・・ひっくひっく、あぁぁああーーーぁ。
ねぇなんで?なんでだよぉおおおぉお。」
まだ彼の荷物が残った、彼の匂いのするこの部屋で私は
彼がいなくなってから初めて泣いた。

交通事故だったんだって。
あの日は雨が降っていた。
結構な大降りで車からの視界は最悪だったらしい。
傘のせいで彼の視界も狭かったのね。
ブレーキは雨のせいで遅れ、彼はそのまま帰ってこない人となった。

もう抱きしめてくれない。
くだらない話をして笑うこともない。
腕枕だってしてくれない。

ねぇでも最後に一度だけ
一度だけキスをしてもいいかしら?
逃げないでね。大衆の前でのキス。
私は、
黒いウェデングドレス。


Entry5
BE MYSELF
庵崎 侑

 カミサマ、俺のことを同情してくれるなら、少し薬を分けてください。
 
 「ねぇ、君には夢がないの?」
そんなことを昔聞かれたことがあった。まだ小学生だったころ。応えは見つからなかった。夢なんて、お前みたいなイイ子ちゃんにしか与えられない、特殊な薬なんだよ。1錠でも飲んだら、たとえへコんだってまたすぐに立ち上がることができる、魔法の薬。俺みたいな出来損ないに、カミサマはそんな大事な薬を分けてはくれなかった。
 「僕の夢はねぇ、世界中の人が幸せになれるような、そんな仕事をするこ
  となんだ。」
幸せになれる仕事。そんなことできるわけない。そう思っていた。夢だってそう。高望みしたら簡単に崩される。
 「俺には」
言葉に詰まった。続きを言う気にはなれなくて。口を開く代わりに、笑ってやった。心からの皮肉を込めて。奴はポカンとして、走り去る俺を追いかけようとはしなかった。

 夢がない。見る事ができない。

 テレビから漏れるテンションの高い芸人の声。笑うアイドルたち。ちっともおもしろくないギャグに、腹を抱え、手を叩いて口を大きく開けている。
間抜け面。フツウの奴らは、こいつらに憧れ、こいつらはフツウの奴らに夢を売る。俺は一度たりとも、このハイテンションなバカ達に憧れることなんてなかった。
テレビに出演者やスタッフたちの名前が流れる。その中に、懐かしい名前を見つけて驚いた。
 
        平瀬 カズヒコ

 あいつだった。俺にたった一人、将来の夢を聞いてきたあいつだった。
夢を売る仕事。本当にあいつは小さいころからの夢を叶えた。少し悔しかったけど、それでいて嬉しかった。
素直にオメデトウと言える気がした。
 奴の顔はCMで見たことは何度かあったが、まさかあのときの夢見がちな男だったとは。
コーヒーのCM。
奴のキャッチコピーはこうだった。

幸せのそばに、このコーヒー。
夢を見続ける大人になれ。

 すぐに、奴が自分で考えたんだなぁ、と思った。そして、俺が笑ったときの奴の顔を思い出した。ポカンとして、気の抜けたブサイク顔だったが、少し寂しそうだった。あれは俺へのサインだった。夢は与えられるものじゃないんだって。自分でつくるんだって。

 久しぶりに外に出掛けよう。日に焼けた壁を白く塗ろう。コーヒーを買いに行こう。

 コーヒーの苦さが、昔の俺を忘れさせてくれた。

 カミサマ、ありがとう。魔法の薬を、一杯のコーヒーを。奴との出逢いを。


Entry6
哀歌を唄う男と女
岩田直子

 女は男にだらしがなかった。男にだらしのない女には、女にだらしのない男ばかりが寄ってきた。女はそれを自分の男運のせいにしていた。原因はだらしのない女の性格にある。女はそれに気付いていなかった。だからだらしがないのだ。


 男は子を孕んだ女房を捨てた。と、思っているのは男だけだった。男は外に女がいた。女房を捨てた男を迎えた女は男に結婚を要求した。男は逃げた。子を孕んだ女房を捨て、愛人を捨て、男は逃げた。と、思っているのは男だけだった。


 女は美貌が自慢だった。男たちは皆女に群がり女たちは皆女を羨んだ。女は美貌が自慢だった。女が若い頃の話だ。


 男は人間に絶望した。男は世界に絶望した。男は若かったがそれ故自身の行く末を案じ死を望んだ。強く望んだ。望みながら男は生きた。強く生きた。


 女は嘘が上手かった。女の嘘を見破るものはいなかった。得意になった女は嘘の塊を毎日口から吐き出し続けた。幾日も幾日も。とうとう最後の塊を吐き出して跡形もなく女は消えた。誰一人として女の嘘を見破るものはいなかった。


 男は金が欲しかった。男は借金を抱えていた。女房はとっくに逃げた。返す当てもなく利子ばかりが膨らんでいった。男は金が欲しかった。借金取りに怯える毎日。男はただ金が欲しかった。強盗もせず定職にも付かず、男はただ金が欲しかっただけだ。


 女は生まれて初めて体を売った。女の体には三万の値打ちが付いた。それが高いのか安いのか女には分からなかった。分からなかったが女はその金で髪を染めた。マスカラとファンデーションを買い、最後に靴を買った。靴は女に良く似合った。


 男は常に一枚の写真を持ち歩いていた。写真は男が一人で写っているものだった。その容姿を昔、付き合っていた女に誉められたことがあった。その女とはすぐ別れたが、以来男は気に入られたい女に出会う度その写真を見せた。写真の傷みは激しかったが男は気にしなかった。


 女は男の目の前で手首を切った。自分を捨てようとする男を引き留めるのに、他に方法は見つからなかった。息を呑みただ立ち尽くすだけの男の目の前で、包丁を握る女の右手は激しく震えた。死ぬつもりはなかった。見事に刃は脈を切り裂いた。女は死んだ。悲しいほどに呆気なく。


 男は跪き女の足先を舐めた。指と指の間、爪の中、丹念に舐めた。舌は摩れ赤く腫上がり、感覚は疾うに消えていた。男は幸福だった。幸福の絶頂で、男は果てた。


Entry7
現実逃避
姫咲ゆうや

「いってきます」

いつもと同じ朝いつもと同じ光景
無気力に身をひるがえし自転車に乗る
何ら変わらない私の日常

自転車のペダルをこごうと足に力を入れた

「あれ?」

通いなれたはずの通学路をそれて
私の自転車は学校と反対方向に進もうとする
「戻りなさい」
そう叱咤してみたけど方向転換の気配はなかった

ヤバイ
そう心の中で警報が鳴るけどもう私の足は止まらない
仕方なく進行方向をきっと睨みつけると
私は足の好きなようにさせてあげた

制服をきた中学生
慌しく歩調を進めるサラリーマン
犬の散歩をするおばあちゃん
普段何とも思わない彼らのことが急に偉く思えた
すれ違うたびに思い知らされた 私は逃げたのだと


「何やってるのかな、私は」
気がつけば砂浜に佇んでいた
ドラマのワンシーンのように
寄せては返す波の音に身を委ねた気になって
そっと目を閉じてみた
どこからか音楽が聞こえてそうな勢いだ
いわゆるバックミュージックってやつが

しばらくそうやっていると
なぜだか自分がドラマのヒロインに思えてきた
切なげに地平線を見つめ
なびく髪を押さえる
視聴者のいないドラマの中で私はヒロインを演じた

ガタン

「・・・あ」
足元に立てかけていた鞄が倒れた
学校指定のいまどき流行らない革鞄
胸騒ぎがして自分の格好を見る
何の工夫もない紺色の制服
学年を表すための質素なリボン

「お前はただの高校生だ」

そう訴えかけているかのように
それは重く私にのしかかってきた

ドラマのヒロインはこんな普通の制服は着ていない
絶対にどこか工夫のされた
可愛らしい制服を着ている
こんな自分流のメイクをしてはいない
ただゴムでしばっただけの髪形もしていない
自分は高校生だなんて心からは思わない


容赦なく吹き付けてくる風が頬に当たり
私を現実へと引き戻してくれた

「いかなくちゃ」


私の本来あるべき場所に

空虚な建物と単調な声の元へ


自転車のもとに戻ると私はペダルに足を乗せた
高まる胸を押さえて力を入れる
学校へ行こう
私のその意志に従って足は通学路へ進んだ
ホッと胸をなでおろすと
朝と同じように正面をきっと見据えた
「お遊びはおしまい」
そう足に言い聞かせると
足は素直になったのか朝よりもかろやかにペダルをこぐ

「遅刻しちゃった」
誰に言うでもなくそう呟くと
教室ドアを開けた瞬間のみんなの顔が浮かんだ
そんなみんなを見回して
仲のいい子に何やってんのと怒られる自分を想像する
先生は私を見つけて
遅刻の理由を言いなさいって言うんだろう

「足が勝手に海へ向かったんです」

そう答えてあげよう

だって本当のことだから


Entry8
開花予感
天霧

 中学入試の合格発表。手に持った入学書類が無駄な重みを感じさせる。
 帰宅途中、公立中学の屋上に人影が見えた。はっきりとは見えなくとも、なびく髪が印象的だった。
 無用心に開いていた門から入り、生徒玄関で靴を脱ぐ。校舎は人気が無く閑散としていた。昇った階段は5階分。屋上への扉はさび付いていて、鍵がかかっていない。ゆっくりと開けたはずなのに、耳にさわるいやな音を立てて開いた。
 たばこの煙が鼻に障る。空気が舞い、寒々しい音を立てる。人が、僕に気付く。
 髪で一瞬顔が見えなかった。胸が大きく打たれた。
「小学生?」
 顔にはあどけなさがあった。自分と大差ない印象。
「いけないよ、こんなとこ入っちゃ」
「たばこを吸うのも、いけないよ?」
 女はたばこを携帯灰皿に入れた。ばれるといけないからなのか、ただ律儀なのか。
「何しに来たんだい、坊ちゃん」
「死ぬために来たって、言ったら?」
「それはないだろう」
 あっさり一蹴されて、少しその気になる。世界からの逸脱。
「自分の未来が約束されているうちは、死ぬ気にはなれない。必死にもなれない」
 洗練された絵を見ている気分だった。空のように儚さのある女と、儚い空。たばこの煙がいつの間にか空となる。
「なんかあったの?」
「なぜ?」
「今にも、空と同化してしまいそうだから」
「死ねたらいいなとは思っていたけど。弟がいたんだ。世界で一番、大好きだった」
 過去形で話された言葉。抵抗があっても、言わずに入られなかった。死んだのか、と。
「事故でな。名前は?」
「冴島秋」
「この学校に、通うのか?」
「わからない」
 言い残すと、女は僕の隣を横切った。女が屋上のドアに手をかけた瞬間、手元の書類に力が入る。
「名前は?」
 風のような声で女は耳元でささやいた。
「イノウエ、マリ」
 興味があったわけでもなく口がすべり、弟の名前は、と聞いた。女は晴れやかな顔で言った。道徳、と。胸を打たれる。
「春、待ってるからな」
 そう言われると、晴れ晴れとした気分になった。
 わかってる。
 手に持っていた中学の入学書類の中身を半分にちぎる。また半分。また半分。
 紙だとしても、雪のように舞えば、美しくなるまで。

 吹雪に誘われ、小さな氷の固まりが降りた。


Entry9

国生美月

彼はいつも同じ席に座っていた。 
北改札口に一番近い階段を降りたところに止まる車両の、進行方向左のドアに一番近い席。朝7時30分発
の電車で、待っている人もたくさんいる。だけど彼は、その中の誰よりも前に立ち、電車に一番に流れ込んでいく。そし
て、かすかな笑みを浮かべ、安心感に包まれた顔で座る。始発駅なので、人は誰も乗っておらず、ドア
が開くと、少し違う感じの空気がホームの方に流れ込んできて、すこしずつホームと一体化していく。
その空気に逆らい、彼は電車に乗り、そしてこの空間は自分のもので自分の世界が広がっていくことを車両の中に錯覚し、
そしていつもの席に座る。座った後は、何をするでもなく、ただ目をつぶり、まぶたの裏で自分だけの
、誰にも知られることのない世界を創造していく。何年も同じ電車の同じ車両に乗っていれば、顔なじみも
何人か出来てゆく。しかし、その中の誰も彼のことを気に掛けず、どうして同じ席に座るかも疑問には
持たなかった。それよりも、自分のその日の計画や心配事について考えるほうが重大で、そんな見ず知らずの
男の行動に興味は惹かれなかった。それぞれが自分の頭の中の世界で、様々な事について空想をめぐらしていた。
人は生まれながらに安心感を求め、その安心感が生み出される、自分のみの世界を築いていく。その無限にも
近い広大な世界は、自分のみが存続するもので、自分を傷つけるモノや自分を危険に犯す出来事は排除されて、
それにより、現実では得られない安心感、そして心地よさが生み出される。外界との接触を自らこばみ、
自分が一番好きな空間にどっぷりとはまる。たいていの人が自分のみの世界を見つけ、人生をおくるが、
中にはその世界を見つけられず、混乱し、現実に耐えられなくなり、暴走に走るものもいる。だが多くの
人が、自分という殻の中で、現実の厳しさから逃れ、安らかな休息を得る。
彼もきっと、自分の殻を見つけ出し、そして毎朝、殻の中で休息し、人生の楽しみを見つけ、生きる希望を得るのだろう。
今日も彼は、彼の席に座り、目をつぶっている。自分の世界で、安らかな旅をしながら。


Entry10
カップラーメンの思い出
加賀 椿

 ドアを開けると、あたしは小さくつぶやいた。
「ただいま」
 手に持った袋には、先程買ったカップラーメンが二つ入っている。


 「お帰りー」
 姉はあたしからラーメンを受け取ると、台所へ走って行った。何故走るのかと疑問に思いながらも、あたしはのんびりと台所へ向かった。
 三分を計っていた姉は、入って来たあたしを見ると意味ありげな顔をした。
「お姉、そんなにお腹すいてた?」
 そう言いながらポットのボタンを押すと、お湯が出て来た。しかし、勢いがなかった。
 やがてゴボゴボという音をたてて、お湯は止まってしまった。
「もうお姉、注意してよ!」
「もしかしたら足りるかもって思ってさ」
 可愛い顔でさらりと言って、姉はガス台を指差した。
「早くお湯沸かせば?」
 あたしがやかんに水を入れて火にかけると、再び姉が言った。
「余ったお湯はポットに入れてね」
 腹が立った。姉はいつもこうだ。自分だけが楽をする。
 その時、ある考えがひらめいた。よし、姉にお湯を沸かさせてやろう。

 一週間後の日曜日の昼、案の定姉が言い出した。
「ねえ、ラーメン買って来て。お駄賃渡すから」
「いいよ」
 不自然と思われないように不機嫌な声で承諾し、外に出る前に台所へ向かった。ポットの中には、予め入れておいた熱いお湯があった。
 計画通りにあたしはポットの蓋を外し、管を抜いた。
 カップラーメンを買って帰って来ると、やはり姉は走って来た。そして、ポットのボタンを押した。勿論お湯は出なかった。
「あれ?」
 何度もボタンを押し、姉は首をひねった。
「あんた、お湯抜いたなあ?」
 にやにやしているあたしを振り返り、姉は頬をふくらませた。
「いいよ。自分の分だけ沸かすから」
 そう言うと思った。
 お湯を沸かし始める姉の後ろで、あたしはポットに手をのばした。
 そしてポットを持ち上げて管を戻そうと蓋を開けた時、手がすべった。ポットはあたしの足下に落ち、中の熱湯が足にかかってしまった。
「熱っ!」
 あたしはそのまま姉の方に倒れこんだ。やかんに顔がぶつかり、ガス台の火があたしの頭を焦がした。
「馬鹿!」
 姉は即座に火を止め、水をあたしにかけてくれた。救急車もすぐに呼んでくれたため、火傷の痕が残る事もなかった。焦げた髪は、切るしかなかったけれど。


 誰もいない部屋に上がり、あたしはカップラーメンを取り出した。まず一つを、姉の遺影の前に置く。
 一週間後には、姉のラーメンをもらおう。


Entry11
雨宿り
ユタ

 雨が止んだら彼は行ってしまう。

 私と彼は急な夕立のために、小さなトンネルで立ち往生していた。車が一台ずつしか通れないような小さなトンネルだった。電気もなく、夕焼けが灯りを燈していた。
 雨脚ははげしかった。その雨脚の間を拭うようにして彼が言った。
「俺達終わりにしないか」
 突然の言葉に、私は濡れた前髪をいじるのを止めて彼のほうを向いた。
「え、え? ……冗談?」
 私の問いは、彼の真剣な眼差しに吸い込まれて消えた。
 好きな人が出来たんだ、お前より、と彼は言った。好きな人が出来たことには謝らず、二人ともと付き合うことは出来ないんだ、というところで彼は謝った。
 私は平穏に、うん、わかった。がんばってね、と言った。それは女としての小さなプライドのようなものだった。これ以上彼に嫌われるのが耐えられなかった。
 ざー、と雨の音が耳に吸いついた。雲は空一面を埋めつくし、光の射し込む隙さえない。
 本当は誰よりも彼を引き止めたかった。
 お願い、彼女じゃなくていいから一緒にいさせて。私は、雲を見つめている彼に言った。私の言葉は雨と一緒に地面に滴り落ちた。彼にその言葉は届かなかった。
 届いたとしても彼は優しくて真面目だから、きっとそういうことはしない。そのことは今まで付き合っていた私が、一番よくわかっていた。だから彼のほうから、終わりにしないか、と言ったのだ。その優しさと真面目さのために別れることになるとは、思いたくもなかった。
 彼はもう行ってしまう。この雨宿りをしている時が、彼と二人でいられる最後の時なのだ。
 皮肉にも、雨が私達の時間を引き延ばしていた。
 そして彼は行ってしまった。またな、とは言わず、じゃあな、と言った。
 雨は止んでいる。
 車が一台トンネルの中を通った。しかし耳には雨の音しか残っていなかった。
 心が雨に洗い流されたみたいだ。彼との思い出も水に流されて、そのまま帰ってくることはない、そう感じた。
 鼻のあたりがつーんとなり、足下にぽつぽつと水滴が落ちた。私の心の雨だった。

 私は雨宿りを続けた。この雨が止むまで。