Entry1
A pretty lie
3月の初旬、卒業式が終わった後、僕は誰もいない教室にいた。
「加藤君、こんな所にいたんだ。」
彼女は川村沙希。僕の幼なじみだ。
「あ、ああ。今日でこの教室ともおさらばだからな。」
それからしばらくの間、思い出などを話していたが急に彼女の顔が真剣になった。
「ねぇ、昔からの約束ってまだ覚えてる?」
「ああ。確か、”お互い親友として約束を絶対破らない
。破ったら1つだけ何でも言う事を聞く。”だっけ?」
「私、実は遠くの大学に行くことにしたんだ。加藤君は地元の大学でしょ?だからもうお別れしなきゃだめなの。」
彼女の突然の別れの告白だった。
「えっ!同じ大学に行くんじゃなかったのか…?で、いつ引っ越すんだ?」
「明日の朝8時。荷物だけ送って、私は電車で行くんだ…。あっ、でも見送りに来ないでね。約束だよ。」
「はっ!?何で…。」
彼女は走って出て行った。僕はただ立ち尽くすだけだった。
どうすればいいのだろうか?見送りに行くべきか、行かないべきか?見送りに行ってしまったら、彼女との絶対守らなくてはいけない約束を破ることになる。
しかし、行かないともう一生彼女にあえなくなってしまうかもしれない。
その夜、ずっと悩んでいた。
翌朝、僕は駅に向かって走っていた。
「沙希、僕の答えは”見送りに行く。”だ。たとえ大事な約束だといっても君に最後に会わずにいられるわけがない。だって僕は…。」
8時ちょうどに出発する電車が僕がホームにつくと同時に行ってしまった。
「ハァハァ…、チッ、間に合わなかったか…。」
もう僕は泣きそうだった。
と、誰かに肩を軽くたたかれた。振り返ると沙希がいた。
「なっ、何で?さっきの電車で行ったんじゃなかったのか?」
僕はとてもびっくりした。
「ああ、あれはウソなの。本当は加藤君と同じ大学だよ。ごめんね。」
「何でウソをついたんだよ!」
「それは…あなたがずっと好きだったから…。だけど、あなたが友達にしか見てくれていないような気がして言いづらくて…。だから、あなたを試したの。約束を破ってまで私のために見送りに来るかどうかを。」
彼女は恥ずかしそう顔を赤らめて言った。
僕は呆気にとられてしまった。
突然、沙希が微笑んだ。
「でさ、来たってことは約束破ったよね。というわけで何でも言うこと聞いてくれるよね…。あのさぁ、私と付き合ってくれない…?」
やられた、僕は彼女の作戦にまんまとはまってしまった。
でも、昔から自分も沙希が好きだったので、「ああ、勿論。」
と、すぐに答えた。
「嬉しい。大学でもよろしくね。」
「ああ。どんなカップルよりもLOVE×2でいよう。」
明星ひかる
http://www.geocities.co.jp/AnimeComic-Palette/2568/
サイト名■☆Lightning Stars☆
文字数1062
↑TOP
Entry2
MiKaDo
男が死んだ。集落にたった一人の男が死んだ。大型肉食獣の群れの襲来。残りの女達は新たな男の登場を切に願った。男の次、事実上ナンバー2だったあたしの身体に変化が訪れたのはまもなくだった。この集落で男は常に一人だった。生き残るための能力……
「ミサキ姉貴。あっ、もう兄貴か。皆さん心配してますよ。出てきましょうよ」
「うるさい。出てけ」
「みぃさぁきぃ兄貴ぃっ!」
先代の男達はみんなこんな思いだったのだろうか。
わたしの身体は日々変化を続けていた。女として部分が次々と消失し、男としての部分、体毛、骨格、声帯、性器……、わたしの身体が蝕まれていく。これが生き残る能力だということはわかってる。
「ミサキ兄貴が悲しそうにしてたらみんな悲しくなっちゃいますよ。ただでさえもマモル兄貴が亡くなってしんみりしてるんですよ」
わたしはこの集落で唯一の、男。
子孫を残すために、すべての女を愛さなければならない。雄一人生態の宿命。
でも、今のわたしは……
「ユキ」
「? なんですか」
「こっちに来て」
「はい? それでその気になってくれるならっ!!」
ボクの身体を見て驚く。当たり前、こんなに変わってしまったから。
それでもユキは笑顔を向けてくれた。ボクはそんなユキに救われた気がした。そして、今まで以上にユキがかわいく見えた。ユキの唇が潤って見えた。
「さっ、早く行きましょうよ。皆さんが待ってます」
ユキに手を引かれるままに一ヶ月籠もっていた家を後にした。
壇上に上げられ、みんなを見下ろす。老若300余りの女達。
自分の身体が無性に恥ずかしかった。
みんなはどう思っているのだろうか。僕に抱かれたい? それができるのは僕しかいない。
僕は女だったときもマモル兄貴に抱かれたことがなかった。それは僕が断っていたからだけど、それでもマモル兄貴は僕を愛してくれた。すべての女に同じ愛を、僕にもくれた。マモル兄貴はいつも楽しそうだった。いつも、みんなが俺を愛してくれるからと言って。
「ミサキ兄貴! 最初に誰を抱くか決めました?」
ユキが無邪気に聞いてくる。
「ユキちゃん、って言ったらどうする?」
「ユキですか。ユキは……はい、お願いいたします」
顔を赤らめたユキを見る。
俺は……やっぱりユキが好きなんだと思う。前からずっと一緒にいたユキ。女だったときも俺は、ユキが好きだったんだ。
「それで、ユキの次は誰にするんですか?」
「……ユキ」
南 那津
http://www3.to/74th/
サイト名■74番通り
文字数1000
↑TOP
Entry3
未来への扉
「父さん」
帰路。家まであと五分というところで僕は呼び止められた。膝小僧の出た足を向けると、男の人が立っていた。少なくとも僕より年上で、愛想の良さそうな顔をしていた。
周りには僕とその人しかいなかった。そしてやはり僕のことを、「父さん」と呼んだ。
やっぱり父さんだ。すぐにわかったよ、目なんかそのままだ。あ、おれのこと、わかる? って、わかるわけないか。この時代じゃまだ小学生だしな。男の声は弾んでいた。
「あの」
「ごめんごめん。ちょっと浮かれ過ぎた」
そう言うと男は、どこから説明しようか、と腕を組んだ。
時間軸だ、とか、法律も厄介だからな、などと呟いてから、ようするにだ、と顔を向ける。
「おれは未来から来た、未来人。この時代から二〇年後の世界。OK?」
勢いに圧されて僕は曖昧に頷いた。
「ただ、こっちの都合上色々と言えないことがある。ようするにだ、おれは父さん――つまり、あんたの子供なんだ。息子。父さんの子供時代が見たくてね」
男は歯茎を見せた。何も言えなかった。いきなり目の前に現れて、未来人、しかも息子だのと言われても。
男は僕が右往左往しているのを見ると、
「うん、そうだ! タイムマシン。タイムマシンを見せてあげるよ!」と言った。
タイムマシン、という単語が僕の耳にすっと入り、脳内を駆け回る。
町外れの倉庫に隠してあるんだ。行こ、父さん。未来を見せてあげる。途端に目の前の男が、僕に似ているなと思った。
大きくて、今は使われていないような倉庫が沢山建ち並んでいた。その一つの扉の前で足を止める。頑丈そうな鍵が掛けられている。それはまさしく、未来への扉のようだった。
息子は鍵を外し、ゆっくりと扉を開ける。闇が漏れ出した。
僕が好奇心に圧され中に足を踏み入れる瞬間、どんと背中を押された。倉庫へ倒れこむ。膝を擦りむいた。息子は笑った。光が細くなってゆく。その光のなかに、息子がいる。笑った顔は、僕に全然似ていなかった。
光がなくなり、扉に鍵を掛ける重々しい音がした。わけがわからず扉を叩いても、もう現実へは帰れなかった。僕は、闇のなかにいる。
「やあ、また新しいお父さんだ」
声がした。僕は闇を掻い潜るように目を凝らした。子供がいた。しかも、一人ではない。大勢いる。
「これで今週三人目だ」
「あの、それって」
「直にわかるさ」
子供の唇が歪んだ。僕は動けなかった。
タイムマシンはなかった。だけど確かに僕の未来が広がっていた。
Entry4
自分?
ある朝目覚めると、自分そっくりの男が僕を凝視していた。
僕は夢だと思い、男に話しかけてみた。
「あの・・・誰ですか?」
「僕かい?僕はきみだよ」
「!?」
僕は理解できなかった。しかし自分そっくりなせいか、他人の様な気はしなかった。そして、僕は尋ねた。
「僕はあなたですか?」
「そうだ。まぁ今は、わからないだろうがそのうちわかるよ。」
そう言って男は、カーテンを開けた。太陽がすぐそこまできているのかと思うくらい眩しい光が、僕の視界を無力にした。
そして、このまま夢が覚めるのだと思った。
だが、僕の目は、能力をとりもどし、再び男を映しだした。
夢ではないと気がつき、少しは恐怖を感じたが、好奇心がそれを打ち破った。そして再び僕は、男に話しかけた。
「あなたは、何をしにここにきたのですか?」
「そのうちわかるよ。それより急いだ方がいいんじゃないか?今日は大事な会議が朝からあるんだろ?」
確かにそうである。だが、なぜこの男が知っているのか。
僕は、疑問に感じ、しばらく動けなかった。
すると、男はこう話した。
「そう難しく考えるな。そのうちわかるから」
なんと男は僕の心まで読めるのだ。なぜこんな事が起きたのか?考えようとしたが、僕にはそんな余裕がなかった。
急いで会社に行かなければならなかったからだ。
僕は、急いで家を飛び出した。男もついて来た。
駅に着くと、男はこう言った。
「タクシーで行った方がいいぞ。電車は駄目だ。事故する」
根拠はないが、なぜか男の言うとおりにした。
本当に、事故が起きた。そして僕は遅刻せずにすんだ。
この男の言うとおりにすれば、いい事がおきるらしい。
僕は、この男の言うことを信じてみることにした。
僕は、男の言うことを全て信じて、会議に出席し会議はうまくいった。
そして、僕は再び男に話かけた。
「すごい!あなたの言う事全て正しい。なぜわかるのですか?僕のことならどんな事でもわかるのですか?」
「あぁ。もちろん」
「これから取引先に行くんですけど、何かアドバイスを下さい」
「とにかく急げ!」
そう言われて僕は急いだ。
しばらくして、信号で立ち止まった。僕は足踏みをした。
すると男は言った。
「何してる?早く行けよ!」
「でも、信号が・・・」
「行けよ!!」
そう言って、男は僕を道路へ押し出した。
男は消え、僕は死んでしまった。
気がつくと、僕は自分の部屋にいた。
部屋を見渡すと僕が寝ていた。
僕はニヤリと笑い、僕が目覚めるのを待った。先生は一人を・・・いや、二人を殺してしまいましたが?」
Entry5
図書室の波
静まり返る教室にチョークの音だけが響き渡る。
私はそっと窓際に座る彼を盗み見る。
空を眺め、風を歌う彼を私が眺め、そして沈黙を歌う。
彼は暑苦しい教室の中でも涼しそうな顔をしている。
ここにいるのは単なる映像で本体はどこか別の世界にいるのではないか、とさえ思ってしまうほどに彼は遠くを見つめているのだ。
長い睫毛、風になびく細い髪、頬に添えられた華奢で大きな手。
彼の周りの時間は止まっているんだと思う。
彼の名付け親はきっと彼を見抜いていたのだろう。
「永遠」と書いて「トワ」。
これ以上彼に相応しい名前は無い。
放課後の図書館。
音一つ無い小さな空間に彼はいる。そして私も。
別に本が好きなんじゃない。
私が知りたいのは本の知識じゃなくて彼の事。
だからいつも借りるのは彼が借りた本。
そして今日も盗み見る。
本を見つめる静かで鋭い瞳、ページを捲るしなやかな指、淡く長い影が足元に落ちる。
いつもの様に読み終わった本を持って本棚に消える彼。
彼の読み終わった本を求め、いつもの様に同じ方向に向かう私。
本棚を曲がるとそこにはいつもはいない彼が立っていた。
透明なオーラと闇に似た空気を背負って。
そして彼は私を見つめ、少し微笑んだ。
「いつも本借りるよね。俺が借りたヤツ。」
彼は少し屈んで私の顔を覗き込む。彼の瞳に私が映る。
「興味があるのは本?それとも俺?」
何も言い返せずにただ黙って見つめ返す。
そして彼は静かに私の唇の上に唇を重ねた。
唇から漏れる吐息が熱くて、火傷しそうだった。
彼は私を見つめてもう一度笑った。
「俺がずっと見ていた事気付いてた?」
静かな静かな図書館で二つの影がゆっくり一つに重なった。
Entry6
夢に潜む殺意
「彼が、病気だって言う事は前々から知っていましたよ」
と男は言った。そしてゆっくりと切り取られた鏡を通して、隣の部屋で苦しんでうずくまっている男を冷ややかに見下ろした。
それを見ながら、きっちりと背広を着込んだ人当たりの良い初老の男が、にこやかに続けて質問した。
「……じゃあ、どうして何もしなかったのですか。あなたはあの男の友人ではないのですか?」
男はいささか面倒臭そうに溜息をつくと、「そうですね」と小さく呟いた後に、少しの間黙り込んで「……ですが」と続けた。
「私は彼の友人でありましたが、医者じゃありません。ほっとけば、治るだろうと思っていたんですよ、彼は疲れているだけだ、とね。そういうことあるでしょう、あなたも」
そう尋ねられて初老の男は首を傾げ「そうでしょうか」と言う。とは言っても男はにこりともしなかった。
「夢と言うのは、自分の心象風景が見えると言うのを聞いたことがあるのですが、本当ですか?」
と無表情のままでそう尋ねると初老の男は渇いた笑みを浮かべたまま、視線を宙に泳がせ、それから黙って彼らの会話を書き綴る若い男をちらりと見た。
男は何も言わなかった。
「彼はね、こう言ったんですよ。私に」
「何を、言われたのですか?」
「夢の中で私の腹部を何度も刺して、それから私の妻や子供を絞殺した、と。気持ち悪かった、と」
「はあ」
「……疲れてるのかな、と思いました。でも、よくよく考えてみれば彼は本当はそれを真に望んでいたのでしょうね。私と出会ったその瞬間から」
「それは、彼があなたに対してもっと以前から殺意を抱いていた、と言う事でしょうか?」
「……そうかもしれません」
「……それは、とても悲しいことですね」
その部屋には煙草の匂いが充満していた。男は思わず顔をしかめそうになるのを抑えて、その隣の部屋で相変わらず苦しんでうずくまっている男をちらりと見た。
その二人以外誰もいなかった。
その声も仕草も、隣の部屋の男に伝わらないことを知っていて、静かに言った。
「お前が、人を殺したいと思っていたことは知っていたさ。そして、それに抵抗し普通の人間でありつづけようと必死にもがいている姿も。
決して、口にしなかったけれど、それでも私は友人としてお前の夢を叶えてやったつもりさ」
それから男は口元だけ緩めると再び小さく呟いた。
「……友人として、ね?」
彼らの耳には静かに閉まるドアの音だけ聞こえた。
Entry7
不幸か幸か。
不幸は突然やって来る。
ある日、めったに手紙の来ない私の家のポストに、一通の手紙が入っていた。
「いつもあなたを見ています。好きです。付き合って下さい。」
差出人は・・・書いてない。心当たりも・・・・無い。
(間違いか、いたずらかな。)
そんな気持ちであまり気にもとめず手紙を捨てた。
またある日、差出人の無い手紙がポストに入っていた。
「僕はいつも君を見てるよ。大好きだよ。付き合おうよ。」
背筋がゾッとした。なにか、ものすごく恐怖感を感じた。
(もしかして・・・ストーカー?)
こんな思いが頭をよぎったが、心当たりもないので、できるだけ気にしないようにしてその日は早めに眠りについた。
しかし、その次の日もポストの中に手紙が入れられていた。
「ねぇねぇ。返事を聞かせてよ。僕はこんなに君のこと愛してるんだよ。」
と真っ赤な字で書かれていた。
(怖い・・・)
どうしようもない恐怖感に襲われた。
次の日も、その次の日も手紙は入っていた。
私が友人の家に泊まったときには、
「どうしたの?友達の家に泊まったの??僕に内緒にするなんて許さないよ。」
こんな手紙が入れられていた。
(見られている・・・。私の生活を覗かれている・・・。)
今までとは違う恐怖感が、私を襲った。
(そういえば、封筒に切手が貼ってない・・・。)
奴は私の家まで来ていたのだ。
こわい こわい こわい・・・・
そんなノイローゼ気味の私だったから、彼氏にもふられてしまった。その日の手紙はこんな内容だった。
「大丈夫。落ち込まないで!君には僕がついてるよ!!」
悲しみがスッと抜けていき、なぜか元気が出てきた。そしてなぜか手紙の差出人に今までとは違う感情がわいてきた。
それからも毎日、手紙は入っていた。
ある日、私は自分の家のポストに手紙を入れた。
「私はあなたがいないとダメみたいです。私と付き合って下さい。」
今頃あの人はこの手紙を読んでいるところだろう・・・。
幸せも突然やってくる・・・かも。
|