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第36回中高生1000字バトル

エントリ作品作者文字数
ある朝の暗景 男挫折 954
時計 庭崎 周 1000
鳴かない子犬 コティー 1000
『死生』 水上 秋霞 1011
立方体の中の男 歌羽深空 1000
egoistic letters lapis. 1020

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  • エントリ1  ある朝の暗景   男挫折



     そこはとても暗い闇。少し香ばしい香りが鼻についている。いつもの日常の匂い。アリスはその夢の中で思うのであった。
    「どうして私は夢を見ているんだろう」

     そこでアリスは目を覚ました。
    ぼんやりとするさっきまで見ていた夢の内容がアリス頭の中で揺らぐ。アリスはしばらく体を半分ベッドに預けたまま自分が見ていた夢の内容を探ろうとするがどうも思い出す事が出来ない。やがて台所から卵の焼ける匂いがアリスの鼻につきアリスは夢の事などどうでもよくなったのであった。頭を二、三回横に振るとベッドから立ち上がった。

     アリスが卵の匂い漂うリビングへやってくるとフライパンと優雅に踊る母親の後姿と対面する。アリスに気付くと母親はにっこりと笑顔を浮かべアリスの座るテーブルへと朝食を並べていくのであった。そこにはずっと鼻についていたスクランブルエッグがとても香ばしい匂いを発しながらアリスの口の中に入るのを待ちかねていた。アリスはそれをうっとりと見つめていた。

     やがて母親も席につくといただきますと共に朝食を取り始めるのであった。この家庭に父親はいない。父親はアリスが生まれてすぐに病気を患い他界してしまった。母親はもうそろそろ十歳になるアリスを母の手一つで育てたのだった。アリスはずっと匂いが鼻についていたスクランブルエッグへと素早く手を伸ばし口の中で柔らかい感触を転がすのであった。母親はそのアリスの行動を微笑ましい笑顔で見つめていた。

     とてもおいしい感触にありつけたアリスはその顔に笑顔を一瞬灯すがすぐにその顔は苦悶の表情へと変わる。アリスは口の中のものを全て吐き出し机にうつぶせ微動な痙攣を起こした。母親は動じる事なくキッチンでの笑顔を変えぬままアリスにそっと近づきアリスの頭を長い髪と共に撫でながらアリスに優しく囁きかける。

    「ごめんね、私のかわいいアリスちゃん。苦しいけど我慢してね。すぐ楽になると思うわ。ママはね新しいパパを作ることにしたの。でもねそのパパね子供が嫌いだって言うの。」

    「どうして私は夢を見ているんだろう」
    アリスは薄れ行く意識の現実の中で思うのであった。鼻にはずっと香ばしい卵の香りがついたままであった。ただただ母親の笑顔が浮かびは消え浮かびは消えアリスの中で戸惑いを生みながら母親の笑顔は緩んでいくのであった。




    エントリ2  時計   庭崎 周



     彼女は、クリーム色のベルトの、小さなアナログ時計をつけていた。
     それは彼女が高校の入学祝いとして両親に買ってもらったもので、彼女はそれをいたく気に入っていた。
     彼女は、この腕時計をじっと眺めている時間が好きだ。秒針が、チクタクと規則正しく動いていくのを見て、なぜだか安心するのだった。

     午前9時40分。

     一時限目が終わったあとの休み時間。
     外は気持ちの良い秋晴れ。午前中のさわやかな風が、教室から見える赤や黄色に彩られた木々を、葉をひらひらと落としながら吹いていた。
     彼女は教室の中でたったひとり、座っていた。
     彼女には親しい友人がなかった。それは彼女の内気な性格のせいもあったが、彼女のどこか孤独を楽しんでいるような様子が、まわりを寄せ付けなかったのだった。でも、彼女自身は楽しんでなどいなかった。私だってクラスメイトとおしゃべりしたい、彼女はいつもそう思っていた。
     だから彼女にとって、休み時間の10分間は、苦痛以外の何ものでもなかった。
     そんな苦痛な時間を、彼女はじっと自分の左腕につけた腕時計を見て過ごすのだった。
     クラスメイトが騒ぐ声が、彼女の前を急な川の流れのごとく通り過ぎて、まるで自分ひとりだけ時間の流れに取り残されてしまったかのようだ、と彼女は思った。そう思うとひどく惨めな気持ちになる。彼女はじっと腕時計の秒針の動くのを見て、その惨めな時間をやり過ごそうとした。
     そのとき「ねえ、○○さん」と、彼女を呼ぶ声が聞こえた。
     彼女が腕時計から顔を上げると、クラスメイトの女子が立っていた。その子とはほとんど会話したことがなかったので、彼女はひどく驚いた。
    「○○さん、この間の文化祭の打ち上げ、どうしてこなかったの? あなた以外の子はみんなきたのよ」
    「えっ……?」
     彼女は愕然とした。週末にあった文化祭の打ち上げ、そんなものに呼ばれた記憶はなかった。
    「困るんだよね、あなたみたいな協調性のない子がいると」
     そう言ったくせに、その女の子はちっとも困ったそぶりを見せず、にやにやと笑っていた。教室内にいた女子の集団が、こちらを見ながらくすくす笑っているのが見えた。
    「そんなにひとりがいいの? でもあんたの人生、これから一生つまんないわよ」
     そう言って、その子は女子の集団のもとへと戻っていった。そして、教室中は大爆笑。彼女は黙って、また腕時計を見た。

     午前9時50分。
     それでも時計は動く。




    エントリ3  鳴かない子犬   コティー



     僕は子犬です。今夜も賑やかな町で静かに眠ります。
    急に大きな影が僕を包みました。髪の長い綺麗な女の人です。
    その人はちらりと僕を見て決まりの悪そうな顔をしました。
    周りに誰もいないのを見計らって、僕をひょいとすくい上げると、
    颯爽とその場を立ち去りました。
     僕に御主人様ができました。僕は少しでもかまってほしくて、
    御主人様が帰ってくると何度も吠えました。でも御主人様は
    いつも怒ったような顔で帰ってきては、吠える僕を見て、
    その顔をさらにしかめます。僕はまたあの町の片隅に戻るのが嫌で
    いつしか鳴くのを止めるようにしました。
     それから何年も経ったある日のことでした。帰宅してきた御主人様の
    顔色が良くありません。しばらく調子が悪そうにしていたかと思うと、
    ついにベッドに倒れこんでしまいました。苦しそうに肩で息をしているのが
    わかります。御主人様は誰かと連絡をとった様子で、数時間後、
    御主人様の両親らしき二人が心配そうに部屋に入ってきました。
    連れて行かれる御主人様、僕はその時、去って欲しくなくて、
    僕の元を去って欲しくなくて、数年ぶりに鳴きました。
    どこか弱弱しさが残るその声は御主人様に届いたのかどうかさえ
    分かりませんでした。
     御主人様はその後入院しました。そして今日が退院の日です。
    病気が治った御主人様のベッドに登り、僕は声を荒げて鳴きました。
    御主人様の反応等気にせず、できる限り大きな声で何度も何度も
    鳴きました。御主人様は今度は顔をしかめたりせず、
    照れくさそうにほほえんでくれました。両親らしき二人は僕と一緒に
    泣いていました。人間は悲しい時以外にも泣くのだと、
    僕はその時はじめて知りました。
     それから僕と御主人様はとても自然に暮らせるようになりました。
    僕は嬉しい時何度も鳴きました。御主人様は嬉しい時何度も笑いました。
    そう、できるようになりました。前までの僕と御主人様は同じように間違って
    いたのです、どこか世界が歪んでいたのです。でも僕は、御主人様は、
    その病んだ末の過ちまでも責めたりしません。その分までこれからを
    強く生きてゆくのです。
     青空だけが味方だと思っていた頃、僕は霧の中に迷い込んだ。
    でも今ならもう迷う必要はない。嬉しい、嬉しいから・・・
    僕は輪郭を取り戻した世界でもう一度生きてゆく。

    ※母と自分との関係をイメージしてかきました。
    (理想を含みますが)



    エントリ4  『死生』   水上 秋霞



     ああ、君・・・・・そうそう君だよ。
    今まさにビルから落ちようとしてるそこの君。
    死ぬ前にちょっとした与太話を聞いてくれないかな?
    君を見てたらちょっとした事を思い出してね・・・・・。
    まあ、酔ったおじさんが何か言ってると思って聞いて下さいな。

     僕には余命二ヶ月の宣告をされた彼女が居たんだ。
    でも、その現実が僕には受け入れられなくて、
    病院に見舞いにも行かないで仕事に逃げてばっかりいたんだよ。
    毎朝毎朝6時に起きて、着替えて、レトルトのご飯食べて、自転車で駅まで行って、
    満員電車に1時間みっちり揺らされて、課長に「ボ〜っとしてる!」って怒られて・・・・・
    今思えばバカ以外の何者でも無かったけど、当時の僕からすれば当然だったかな。
    忙しい時だけは辛さも紛れたからね。逃避するには良い材料だった。

     で、ある日珍しく朝まで飲み明かしてから家に帰ったら、
    リビングに包丁、胸に刺して死んでる彼女がいたんだ。
    どうやら病院抜け出して戻って来ての事らしくて、触ったらちょっとだけ体温が有ったよ。
    不思議と、気持ち悪いとも思わなかったし、悲しいとも思わなかった。
    ただ、警察に電話してからは放心状態になっちゃってね・・・・・。
    警察の人が来た時には最初「こいつが犯人?」って思われちゃったよ。
    あ、話しが逸れたね。ごめん。
    で、それから先は大騒ぎ。僕は毎日事情聴取。
    当然彼女への悲しみは薄れて恨みは日に日に積もる・・・・・。
    「どうせ二ヶ月しか無いのになんて事してくれたんだあのバカ!」ってね。
    で、余りにムカついたんで僕も「こうなったら俺も死んでやる!」
    と思ってリビングまで行って、包丁出して、
    そして彼女と同じ立ち位置まで来た時に・・・・・急に一つ思いついたんだよ。
    「死ぬのは良いけど誰が処理するんだろう?誰が僕に最初に気付くだろう?」って事を。
    で、包丁持ったままそこに寝て、刃を胸に当てて・・・・・で、暫くして気付いたんだ。
    「ああ、あれが彼女なりの『一番長く生きる方法』」だったんだなぁ・・・・・って。
    その時が初めてだったよ。『嬉しくて』涙出たのはね。
    それから僕は出来るだけ生きる事に決めたよ。『彼女と一番長く生きる』ためにさ。

     ・・・・・で、それが君の『一番長く生きる方法』なのかい?
    ・・・・・え、違う?う〜ん、それならそこからの無重力落下はオススメしないよ。
    だって、僕が見た限りじゃまだ君には

    『もっと長く生きる意味』
           
    が有るみたいだから・・・・・




    エントリ5  立方体の中の男   歌羽深空



    昔でいう4畳分くらいの立方体の部屋に私はいる。
    今は畳なんてもの、本でしか見たことがないから、あまり詳しくはわからないが。
    窓もなく、薄暗く、匂いは・・・しない。

    私に与えられた仕事はずっとここで生活する事。
    もちろん、ここには何もない。
    じゃあ、どうすればいいのか。
    そう思っていた私は、壁に貼ってある、一枚の紙が目に入った。
    ”創造と、表現のみで生活しなさい。これは試験です。”
    創造と表現・・・

    つまり・・・パントマイムをすること。

    最初は、なにがなんだかわからず、
    ある程度三大欲求のまねをしていた。
    ああ、おなかが減ったなと思ったら、モノを食べるふりをする。
    眠かったら、眠る。
    残りのひとつは・・・、まあ、なんとかなるもんだ。

    そしてだんだん、それ以上の事もできるようになった。
    本を読むふりをする。飽きたら、別のことを考えればいい。
    そう思っていれば、なぜだか腹は減らなかった。
    そうしていれば、なぜだか何もおきなかった。
    不思議な事に・・・ね。

    ・・・ここを出る?最初は考えたけどね、しかしどうだ外の世界は。人を人とも思わない社会。
    それに比べたら、ここは十分住み心地がいい。いつか死ぬ人生よりは・・・。

    最近は、色々な事ができるようになった。
    空が見たい、と思い、壁のひとつに窓があるように振舞えば、なんとなく空が見えてきた。
    こんなに広いんだから、と壁で仕切りを作り、そうだ、ゆっくりするならソファーがほしい。
    誰からもかかってこないけれど、電話もつくった。
    サボテンも育てている。今日もジョーロで水をやった。

    ここで一生暮らしてもいいかもしれない。
    十分私は対応できる。十分ここで暮らせる。
    腹が減らない。飽きもしない。

    もしかして・・・
    私は完璧な人間になったのかもしれない。
    それなら、それなら・・・
    私は・・・選ばれた人間なんだ!!
    すべてを想像で過ごせる!
    生物形態を壊したりも、物を立てたりも、崩したりも。
    汚物も出さない、腹も減らない。
    自分自身とこんな箱さえあれば・・・
    出してくれ!!
    俺は完璧な人間なんだ!!出してくれ・・・出して・・・
    人類の・・・新たな・・・

    『えー、皆様、これがこの度この世界に唯一残った人間です。
    わが世界動物園では、これを完全保護していこうと思います。
    世を壊さない、すばらしい人間になったら、クローンを作ります。
    きっと、私たちの素敵な片腕として、役に立ってくれるでしょう・・・。
    我が、ロボットの世界に夢と希望を!!!』




    エントリ6  egoistic letters   lapis.



    <秋風が冷たいね。でもお昼は夏にも負けないぐらい暑いね。それでねいつも通る小道の桜の木に花が咲いてたの。嘘じゃないわよ。きっとあなたは嘘だというと思うから、写真を同封しておきます。秋の桜も悪くないって思っちゃったかな? でもおっちょこちょいな桜の木を見て、あなたみたいだって思ったのは私だけ?>

     万年筆ですらすらと綴る。可愛い便箋は今年の春二人で買ったお揃いの便箋だ。私は思わず鼻歌なんか歌っちゃってる、あの人と一緒に住んでた頃に流行った歌だ。テンポの速い曲で、女の子の歌だ。
     私達は遠距離恋愛中だけど、大丈夫、週に一回は手紙を送っている。今はパソコンでメールを送る事も出来るけど、もともと私達は手紙の文通友達で始まった仲だ。
     だからちょっとタイムスリップしたような古ぼけた懐かしい気分で言葉を綴っている。遠くにいるからこそいろんな言葉が綴れる。返って来る彼の言葉達が私の心を温かくさせる。

    <昨日ね、ちょっと仕事の用があったからあなたのアパートの近くまで立ち寄ったの。あなたを驚かそうと思って。でもがっかり、あなたいないんだもん。どこか出かけてた? うーん、ちょっと淋しかった。>

     無意識に鼻歌が悲しいメロディに変わってしまう。それが最近流行ってる失恋の歌である事に気付いて慌てて歌うのを止めた。嘘、嘘。心の中のモヤモヤを晴らそうとして勢いよく彼とよく歌ったあのテンポの速い曲を歌おうとしてせき込む。
     辺りはしーんと静まり返って、秋風が窓をカタカタと叩く音が聞こえた。
     それから私が泣いていることに気がついた。

    <嘘、ごめん。見たわ、私。あなたが知らない女の人とキスしてる所。どうして、あなた嘘つくの? 浮気してるの? ねえ、嘘だと言ってよ!>

     書いてから気がついた。手が汚れていることに。便箋の上のインクが涙で滲んでいる。これの所為だ、手紙が滲んでしまってもう読めない。
     書き直さなきゃ、そう心の中で呟いて、それから声を出して叫んだ。
    「馬鹿、なんで裏切るのよ。何で返事書かないのよっ! 最低、大嫌い!」

    <パチパチと目の前で私があなたに送った手紙が全て燃えています。
     さようなら、これが最後の手紙です。今まで、ありがとう。生き残れたなら、また逢いま――……>
     
     遠くでサイレンの音がする。もうすぐ消防車がくるかな?と思った。
     うーん、でももう燃え尽きたんじゃない? どれもこれも。
     あー、焼き芋が食いたい。
     目の前の広がる炎を見てそう思った。