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第47回中高生1000字バトル

エントリ 作品 作者 文字数
夢なんて見たくない序章 桜也乃 945
笑ってる? 児島柚樹 1000
ショパンの「だれ」 芦野 前 1000
かっちゃんについて。 1000
新理想高校生活 花村 彩邪 1000


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エントリ1  夢なんて見たくない序章   桜也乃

  2050年。初夏。東京都某所。
私は、愛車をとばしていた。場所は高速道路。多少のスピードぐらいなら大丈夫。
今、私がおそれているのは、スピード違反で警察に連れて行かれることじゃない。
普段なら、時速50キロくらいのあたしだけど、そのときは多分、時速90キロは軽くでてたと思う。いや、もっとかもしれない。でも、あたしにはそんなこと関係ない。もっと大事なことが、無くなりかけてる。
   「お願い。間に合って。」
ここで、奴らに見つかれば大変なことになるんだ。事の始まりは、5年前。
家の倉庫を掃除したときのことだ。思えば、こんな事に巻き込まれたのはそのせいかもしれない。そのときは、そんなこと思いも寄らなかった。
   「なんだろう。これ」
それは、私の母が残したものだった。母は、あたしが、10歳の時に
事故に巻き込まれて亡くなっている。その母の形見が今頃になってでてきたのだ。
綺麗な、ネックレス。母が生前、好んでつけていたものだ。
中には、手紙が入っていた。あたし宛だ。
  ・・・咲恵へ・・・・
もし、お母さんに何かあったら、あなたにこれを渡すことは決まっていました。
本当は、こんな事お母さんの代で終わらせたかった。
でも、あなたに引き継がれていくのです。こんな、お母さんを許してください。
  このペンダントは、絶対あなたしかつけてはなりません。もし、怪しい奴が
あなたと、そのペンダントをねらいに来たら、助けてくれる筈です。
お願いです。この家を守って。
       ・・・・母より・・・・
母が言う怪しい奴は、その1年後やってきた。
ペンダントをくれ。と言った。

そして今に至る。助けてくれる。と言うことはまだ分からない。
でも、あのときあのペンダントを渡さなければ。
こんな事にはならなかったのだ。いまさら後悔しても意味がないことくらい分かる。だから、前に進まなければいけないのに。あたしには、そんな勇気がなかった。取り返しに行くのに3年もかかっている。
でも、そんなこともうきにしなくていいんだ。だってペンダントはここにある。
きっとあいつらだって、もう来ないだろう。そのとき・・・・。
   2100年。某日。
 「なんだろう。これ?」
一人の少女が、倉庫である物を見つけた。彼女もまたこの渦に飲まれていくことになる。





エントリ2  笑ってる?   児島柚樹

笑ってるよ。
だって私には親がいて、友達がいて、
他に不幸な人なんて五万と居る。

私は幸せなんだ。

「ねぇ。ジュース買って来てよ。」
『友達』が言う。
何の疑問もなく用件を受け入れる。

だって、仲間になるにはリスクが必要だ。
仲良くなるには当たり前。

「99点?この点数。なんであと1点が取れないの?」
『親』が言う。
何の疑問もなく暴言を聞き入れる。

だって、私が悪いんだもの。
親は私の為に言ってるんだ。
赤の他人にはいえないもんね。

バシン!!
「ちょっと聞いてるの?!」

「はい。」
そうやって私は笑った。

「何コレ。頼んだのと全然違うし。最悪。」
「あ。ゴメンね。いつもの売り切れで…。」
「んじゃぁ探して買ってきなよ。」
「え。」
「私ら友達でしょ?」
『友達』がニタニタ笑う。

「うん。」
私は笑ってその場を去った。

「あの子馬鹿だよねー。」
「いっつもヘラヘラ笑ってさぁ。」
「パシリって事分かってないんじゃない?」
残った『友達』が笑ってた。
それをパーカーを着た男子が聞いていた。

ビー…カシャン…
温かいミルクティーを取り出す。
外の風が秋だった。
「早く持っていかないと。」
そう言って走ろうとした。

「ちょっと。」

声をかけたのはパーカーを着た男子。
「はい?」
「何してんの?」
「友達に頼まれて買いに来たんです。」
「友達?」
「はい。」
「それは友達じゃないよ。」

その男子は言う。
「本当の友達だったらそんなことさせない。」
「そんな事ないですよ。」
そうやって私はいつもの様に笑う。

男子は顔を顰めた。

「何で泣いてるんだよ。」

勿論涙なんて流してない。
けど男子は泣いてると言った。

「ねぇちょっと僕に付いて来て。」
そう言って私の手を引っ張る。

着いたのは土手だった。

「君の頬の判創膏は友達にされたの?」
「違うわ。これは母から。テストの事でもめて叩かれたの。
けど、私が悪いの。」
「君は優しいね。」

男子は笑った。
私の横で人が笑うのは久しぶりだと思った。

「空が高いね。」

「秋だから。」

「君は幸せ?」
「えぇ。親が居て友達が居て他に不幸な人なんて五万と居るから…。」
「成る程ね。」

「けどさ。」

男子は間を割った。

「空は高いよ。
人間はあの人達以外にもたくさん居る。
叩かない親も居る。
君より不幸な人が五万と居るなら、君より幸せな人は何万もいる。」

そう言った。

空が高かった。

私は籠の中の鳥だった。

「はい。」

「やっと笑ったね。」

気持ちが救われたある日の話。
パーカーを着てた男子とは

今でも本当の友達。





エントリ3  ショパンの「だれ」   芦野 前

 ブラーボウ!!
 ブラーボウ!!
 声にならない感動が拍手に代わり、広いホールを満たしてゆく。
 観客の中には、うっすらと涙を滲ませる者までいる。
 ピアニストは大きく息を吐き、黒く重く輝くスタインウェイから手を下ろす。
 賞賛の音が引くのを見計らって、司会者はステージの左端に立った。
「本日はおつきあいくださり、ありがとうございました。大変名残惜しいのですが、次の曲を最後の演奏とさせていただきます。曲目は……」
 そこまでマイクに声を通し、女は固まった。
(やだ……どうしよう、思い出せない)
 観客はいまだ興奮冷めやらぬ、といった表情で続く言葉を待っている。
(落ち着け私。そう、曲名以外は覚えているのよ……ショパンよね、ショパン。
 そんで、音が細かくて前にテレビのドラマで弾かれていた……
 えーと……何とか、だ、だれ、みたいな……)
 女の顔が青くなる。
 どうしても、完全な名前が出てこないのだ。
 こんなところでコンサートをぶち壊すわけにはいかない。
「曲名は……」
 客がざわつきはじめる。
 見かねたスタッフが袖からカンペを出すが、視力の悪い女にはうまく読み取れない。

「ご、ごまだれ?」

 スタッフが大きく首を振る。
 どうやら間違っているらしい。
 今度は上から下へと何かが落ちる大きなジェスチャー。

「……? なだれ? すだれ?」

 今度も違うらしい。がっくりと肩を落とされる。
 すると、何か水の粒が滴る静かな音が響いてきた。
(何かしら)
 袖のスタッフが自分の耳を強く指し示している。
 女は首をひねって考える。

「みみだれ?」

 スタッフが蒼然としてバッテンマークを掲げる。
 再び耳に手をあてる仕草をするところをみると、おそらくこの音もヒントなのだろう。

「小雨?」

 指を鳴らす動作。
 どうやら近いらしい。

「だれ……さみだれ?」

 悶絶しそうなスタッフの顔。
(ショパンの何とかだれ……ダメ、出てこない。
 そういえば横板に雨だれっていう慣用句、あったっけ。
 つかえながらする下手な弁舌、って意味の。もーまさに今の私にぴったり……)

 ……。
 ……あっ。

 女が気がつくと同時に、奏者は鍵盤に指を滑らせ始める。
 やーこの子発声もしっかりしてるし司会向きだとは思うんだけれど。
 これさえなきゃあなあ。
 バレないように小さくため息をつく。
 そしてピアニストは前奏曲第15番 変ニ長調 作品28の15「雨だれ」を優雅に弾きこなしたのであった。





エントリ4  かっちゃんについて。   音

 かっちゃんは昔から近所の古本屋が好きな子だった。
「外で遊びなさい」って云われる度に行っていた。
古本屋の御主人はその頃とっくにお爺さんだったけど、今もピンピンしてる。妖怪みたい。
十年間殆ど毎日お店に通い詰めているから、かっちゃんはお爺さんと仲良し。
お爺さんはいつも不機嫌そうにレジに座っているのにかっちゃんがお店に行くと少し嬉しそうな顔をする。
かっちゃんもお店に行くときは嬉しそうな顔をする。

 かっちゃんは頭が良いけどばかな子だった。
分数の掛け算について、算数の授業中ずっと考えているような子だった。
「どうして分数を掛けるんですか」って先生に訊いて怒られたのを覚えてる。
(でも、「そんな事気にしないで計算しなさい」って云い方は無いと思う)
それ以来かっちゃんは分数の掛け算をしなくなった。そのときのテストでは零点を取った。

 かっちゃんは昔から少し変な子だった。
晴れた日に太陽が好きだと云ってはその夜に月が好きだと云うような子だった。
屋根に上ってよく星を見ていた。隣に住む私はベランダから一緒に星座を探した。
ある日かっちゃんはカシオペア座を探すのに集中しすぎて屋根から落ちた。
そのとき、かっちゃんのお母さんはすごく心配してすごく怒ってすごく泣いた。
かっちゃんはやっとカシオペア座を見つけたと云って笑ってた。

 かっちゃんは昔から感性が豊かな子だった。
「沙綾、秋の匂いがするよ」
 隣を歩く私にしまりのない笑顔を向けながら云った。
毎年教えてもらうけど、秋の匂いなんて私は感じた事が無い。
三百六十度ぐるりと見渡してみたけど、まだ秋は少し遠いように思えた。
でもかっちゃんは「秋の匂いがする」と云い張った。
かっちゃんは嘘を吐く人じゃないから、きっとかっちゃんは秋の匂いを感じているんだろうなと思った。

 私の気持ちにも気付いてくれれば良いのにな。
かっちゃんはそういう事には人一倍鈍いから無理な話だろうけど。
かっちゃんに気付いてもらえる秋がちょっと羨ましくて恨めしかった。
秋はかっちゃんの事なんてきっと知らないのに。
私はかっちゃんの事なら何でも知ってるのに。

 泣きそうになったから、上を向いて涙をこらえた。
見上げた空は流れるように澄み切った橙色をしていた。
橙色の空の海を泳ぐからすは哀しいから鳴いているような気がした。
 鼻の奥につんとした痛みを感じた。

 かっちゃんは私の事なんて見ないで、秋の匂いを感じているようだった。





エントリ5  新理想高校生活   花村 彩邪

オレの夢見た高校生活は理想が高くして始まっていた。
「まず、オレが登校してくると女の子達が「キャー!」とか言って
オレの事取り囲むの。んでぇ、毎日毎日お弁当作ってくれたり、
クッキー焼いてくれたりするんだよ。あ、バレンタインは
もちろん下駄箱に入りきらない位、たくさんのチョコで
埋まってんの。」
クラスの飲み会で酔った勢いに任せて言ってしまった言葉。
オレの理想は女の子の事で始まって最後まで女の子の事だった。
「矢野くん、ちょ〜馬鹿ぁ」
隣にいた女子がオレに呆れて物を言う。うっせー。
もしかしたら叶うかもしれないだろう?オレの夢を壊すんじゃねぇ。
 いや、でもそんなの叶うはずもなく。今はもう入学してから
一年九ヶ月経った。しかし、なに一つオレの理想は実現してない。
クソ面白くねぇ・・・
 好きな人が出来た。意外にも。彼女の名前は菅野さん。
同じクラスの子だ。今まで生きてきた中で、いや、大してそんなに
生きては無いけど。それでも一番夢中になってしまった。
 菅野さんが彼女になってくれたら・・・
それが今のオレの新理想高校生活。
「菅野さん、まじ良いよぉ〜。超可愛い。本当に」
「あ〜本当に菅野さんと付き合いてぇよ。まじ好き。」
オレがのろければのろけるほど友達は呆れた顔して聞き流していた。
わかってるよ、あぁわかってる。そんなに言うくらいだったら
アタックしろって言いたいんだろ?でもオレ、そんな勇気ねぇんだよ。
好きすぎて菅野さんの前じゃ何も喋れないんだよ・・・
オレのその言葉を聞いてダチはこう言った。
「あぁ、分かるよその気持ち」
でも、その割りには不思議そうな顔してこっちを眺めていた。
「でも喋るチャンスがあったら当たって砕けろだぜ。
男はいつか、シュート決めなきゃ」
 
 オレはサッカー部だ。部活内なら上手い方だと思う。
でもそのせいで、下手くそな一年の面倒を見る事になってしまった。
一年はこっちにお構いなしにボールをあちこち飛ばす。
「たく、変な所に飛ばすんじゃねぇや」
ブツクサ言いながらもボールを拾いに行った。
すると目の前に転がってきたボールを拾ってくれた少女がいた。
菅野さんだ。
「あ、えと、あ、ありがとうございます!」
ひどく動揺して声が裏変えっちまった。でも菅野さんは
そんなオレを見て笑ってくれた。
 オレの心臓が今までに無い位バクバク言ってる。
でも言わなきゃ。オレの新理想高校生活のために。前を見据えて――
「菅野さん、オレ―…」







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