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第22回中高生500字小説バトル


エントリ 作品 作者 文字数
01チルソク、チルソク花村彩邪500
02 猫が風鈴 瓜生遼子 500
03 現実世界にさよなら 500
04 世界と君と叶わぬ願い 漣 紫央 496
 
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エントリ01  チルソク、チルソク     花村彩邪


 “ここにラブレターなんて大それた物ではないけど、あなたに気持ちが伝わればと思って書くことにしたんだよ”


 あたしの手は既に震えていた。綺麗な字を書きたいのに、気持ちが先走って上手く書けない。扇風機しかない部屋でねっとり掻いた手の平の汗を一生懸命拭う。あぁ、これ以上書いたら失敗しそうで今にも投げ出したくなる。


 “七夕の日に願いを込めたけれど今年は曇りで、天の川を見ることも叶わなかった。あと、みんなで花火をした時は線香花火が落ちないように念を送りながら、お願いしたの。7本もやったのに、全部最後には落ちちゃったよ。残念!”

 本当は迷信なんかに頼らないで自分の力で頑張れば良かったんだけどやっぱ出来無いみたい、なんて文を書き足そうかどうかで真剣に悩んでる。ちょっと臭いかな?どうしようか。何も頭に入ってこないの。


 “韓国では七夕のことをチルソクって言うんだって。日本と違って毎月一回あるんだって。もしそうならあたしの願いもいつかは叶ったかなぁ。”

 ……本当は嘘。そんなわけない。でも素直になりきれないあたしの小さな意地だと思って許して欲しい、本気で思ったんだから。


 

 “好きです”



 “この想いが伝わればってずっと願ってたんだよ”












エントリ02  猫が風鈴     瓜生遼子


 それは、黒々とした風鈴だった。
 寂れた商店街の小さな店に、埃を薄く被って、そいつはちりりんちりりんないていた。俺はそれを手に取った。つるりとしたフォルムを感じたのに、指先を擦り合わせると、ざらり、とした感触が残る。
 黒い風鈴なんて初めて見た。風鈴にまとわりつく爽やかなイメージはどこにもない。だのにそれは、昔、中途半端な同情心で飼った猫を思い出させた。
 なんでこんな物を売っているのだろう。売れ残るのは目に見えているのに。俺は目を細めた。ゆっくりと、それを一回転させる。
 あれ、と思って、さらに目を細める。
 赤い点が見える。0.25の赤ペンのドットよりもさらに小さなドットが黒の上に座り込んでいた。
 変だな。何か嫌な感じがする。
「駄目ヨォ、お客さん。そのこ、買われても戻ってきちゃうんだヨォ」
 店仕舞に出たおばさんが、金切り声を上げる。
「最初は黒くなかったのにネェ、赤い点もなかったのにネェ」
 おばさんは乾いた笑いをこぼしながら、品物を見た。
「お前さんと一緒だネェ、カズチャン」
 小さなころの呼び名を呼ばれ、俺は振り向いた。だがそこには誰もいない。店内からは似ても似つかぬ女が出てきて、愛想よく笑った。





エントリ03  現実世界にさよなら   音 


しゃれこうべが木の根元でカタカタと笑っている。何が可笑しいんだいと私は尋ねた。
右手がぐいと引っ張られる。握ったリードの先、飼いイグアナの沙羅が歩こうとしていた。私は手先に力を入れて沙羅の動きを制した。真っ黒な服を着た少女はさっきから私の顔をじっと見ている。「それ、頂戴」少女が私の眼球を指差す。良いよ、と私は右の目を抉って手渡した。笑顔で少女が去る。しゃれこうべがカタカタ笑い、私はまた尋ねた。「だってお前さん」しゃれこうべが歯を鳴らしながら喋りだした。「あの子に左腕を取られたというのに気付いていないんだもの」私は左腕を見る。肩から先が無くなっていた。少女の去った方を見る。緑色の満月が黄色の空に浮かんでいた。まぁ良いさ、私が云うとしゃれこうべはまたカタカタ笑った。しゃれこうべが三回笑ったので仕方無く私は彼を口の中に入れた。脆い骨が簡単に砕けた。がりごりと咀嚼していると、蟷螂の顔をした神様が降りてきた。私は十三個のしゃれこうべを食べてしまったから罪人なのだという。そうかと頷いて沙羅を解放した。沙羅は二本足で歩いて何処かへ行ってしまった。罪人である私は存在を消された。此処で、全てが終わった。







エントリ04  世界と君と叶わぬ願い     漣 紫央


 恋をした。ただそれだけのこと。
 
 あなたの隣を歩きたくて、一生懸命背伸びをした。
 慣れないヒールを履いて、慣れない化粧をした。
 全てはあなたに「綺麗だね」って言われたかったから。

 でも、あなたの隣は、息が詰まりそうだった。

 隣にいるだけで、胸が苦しくて、息ができなかった。
 声が震えて、何も話せませなかった。

 それでも、あなたの隣は、心地よかった。

 あなたがいる事が嬉しくて、ただそれだけで良かった。

 どんなに辛くても、あなたが笑っていてくれさえすれば、それで良かった。

 でも、あなたは遠くに行ってしまった。

 どんなに手を伸ばしても届かないくらい、遠い遠いところへ。
 今までだって精一杯背伸びしてやっと届くところにいたのに、
 あなたはそれよりもっと遠くへ行ってしまった。

 あなたがいなくなって、全てが消えた。

 世界はあれだけ色づいていたのに、モノクロの世界になってしまった。

 あなたがいるかいないかで、こんなに世界は変わってしまう。

 あいたい。

 あなたの隣は、息苦しくて、でも、心地よかった。
 もし願いがかなうなら、もう一度だけ、あなたの隣を歩きたい。
 もう一度だけ、あなたと一緒にいたい。