第75回体感バトル1000字小説部門

エントリ作品作者文字数
01影を捜す旅しずる1000
02風の時 君の声1000
03Gフラグ金蚊828
04とあるミカンとアルミ缶土目1000
05恋する気持ちバナナ1000
 
 
 ■バトル結果発表
 ※投票受付は終了しました。
掲載時に起きた問題を除き、訂正・修正はバトル終了まで基本的に受け付けません。
掲載内容に誤り等ございましたら、ご連絡ください。

QBOOKSは、どのバトルにおきましてもお送りいただきました作品に
手を加えることを避けています。明らかな誤字脱字があったとしても、
校正することなくそのまま掲載しておりますのでご了承ください。

あなたが選ぶチャンピオン。
お気に入りの1作品に感想票をプレゼントしましょう。

それぞれの作品の最後にあるボタンを押すと、その作品への投票ページに進みます (Java-script機能使用) 。
ブラウザの種類や設定によっては、ボタンがお使いになれません。その場合はこちらから投票ください → 感想箱

エントリ01  影を捜す旅     しずる


 気づいたら、やたら星空が綺麗な、小さな町に来ていた。私は町の婦人に尋ねる。
「すみません」
「何か?」
「私、影を失くしてしまったのです」
「影を?」
「はい。突然、私の足元から、一目散に逃げ出したのです」
「大変!」
「この辺りで、私の影を見ませんでしたか?」
「ごめんなさい、私は見ていないわ」
「そうですか」
 私は深いため息をついた。婦人は、優しい口調で言った。
「それじゃあ、ナタリに尋ねるといいわ」
「ナタリ?」
「町の音楽家よ。あちこち路地を回って演奏をしているから、もしかしたら、影を見たかも知れないもの」
「ご親切に」
 お辞儀をすると、婦人は柔らかく微笑んだ。
 路地裏へ行くと、一人の男が、アコーディオンを手にしていた。
「もしかして、ナタリさん?」
「えぇ」
「この辺りで、私の影を見ませんでしたか?」
「ふむ……。申し訳ないが、見ていないな」
「そうですか」
 私は頭を垂れた。男はそんな私に、にっこりと笑ってみせた。
「どうかね。私の演奏を聴いてみては?」
「え?」
「とびっきり愉快な曲を演奏しよう。きっと元気が出る」
 男は、アコーディオンを鳴らし始めた。何て楽しい音だろう。私は知らず知らず、手拍子をしていた。
「君、旅をして来たのだろう。泊まる所はあるのかね?」
「あ……」
「ならば、カルメイヤー夫妻の家に行くといい。きっと歓迎してくれる」
「ご親切に」
 私は、カルメイヤー夫妻の家を訪ねた。扉を叩くと、丸々と太った婦人が出てきた。
「あの……」
「影を捜している人だね。ナタリに聞いたよ」
「はい、それで……」
「長い旅だったろう。さ、中に入りな」
「……でも」
「ほら、遠慮はいらない。ゆっくり体を休めな」
 婦人は、大きな声で、がははと笑った。
 温かいスープを振舞われ、私は、優しい香りのするベッドに潜り込んだ。あぁ、こんなに満ち足りた気持ちは久しぶりだ。ここ数年、私は、ずっと家に篭りきりだった。外界を避けて生きていた。影は、そんな私に愛想を尽かしたのだろうか。
 翌朝、私はカルメイヤー家を後にした。途方もなく歩いていると、何かが私目がけて走って来た。あれは、私の影だ! 私は喜んだ。だが、その瞬間、あの薄ら寒い日々が脳裏を過ぎった。影が戻ってくれば、もう私には、旅をする理由がなくなってしまう。
 私は逃げた。必死に、影から逃げた。だが、影は追いかけてくる。どこまでも、どこまでも。光がある限り、影はどこまでもついてくるのだ。







エントリ02  風の時 君の声     仁


蝉が、ギャンギャン鳴いている。
もう、何て鳴いているのか、解らない。
勇人は青い顔をして、目を瞑って、ずっと横たわっている。
勇人が目を開けるのは、私の好きな時間を告げる時だけ。
私の為だけに目を開ける。

「おねえちゃん。“風の時”が来るよ」
「本当?」
「うん。ほら、3・2・1…」

蝉の声が止む。

風が駆け抜けた。

耳を劈く静寂。

ここには、私と、勇人しかいない。
風がすべてを攫う。
目を瞑って、顔を上げて、風を感じる。この世界を感じる。
全部攫って、と願う。

蝉がいっせいに鳴き止む、その時を、私達は“風の時”と呼んでいる。

歳の離れた弟の勇人は、産まれ付き体が弱かった。
だから、大切に大切にしてきたの。
宝物のような弟。
可愛い勇人。
愛しい勇人。

大人は口を揃えて言うの。可哀想な勇人って。
でも、勇人は、そんなに可哀想じゃない。
何故なら、勇人は“風の時”が来るのが解ったから。

私達は姉弟なのに、一緒に過ごす時は少なかった。
勇人はずっと入院しているんだもの。ずっと目を瞑って、彼の世界にいるんだもの。
一緒に過ごすのは“風の時”だけ。
でも、私は、誰よりも、ずっとずっと、勇人と一緒の時を過ごしてる。


蝉が「ミッ」と声をたてたかと思うと、“風の時”は行ってしまった。

「おねえちゃん。僕が死んじゃったら、困る?」
「うん。とっても困る」
「“風の時”が解らなくなるから?」
「ううん。宝物が、解らなくなるから」
勇人は、可愛く笑った。
そしてまた、目を瞑った。

そしてそのまま、目を覚まさなかった。



蝉がギャンギャン鳴いている。
もう、何て鳴いているのか解らない。

私は高校生になった。勇人は七歳のまま。
勇人が逝ってしまってから、私の耳の中で、ずっと蝉は鳴いている。
もう、蝉なのかどうかも解らない。
騒音に囲まれた私の世界。
宝物を失くした私は、もう、なぜ生きているのか解らない。
蝉は大音量で鳴くものだから、方向感覚が鈍ってしまう。

毎週行ってる勇人の墓参り。
坂が多くて、立ち眩んでしまう。
寄り添う誰かがいてくれないと、騒音がうるさくて、上手く自分の道を歩けない。
目が眩んで、その場に座り込んでしまった。

「大丈夫? 支えようか?」

驚いて顔を上げると
同い年くらいの男の子が、私の目線に合わせてしゃがみこんでいた。
「よくこの道通るよね」
男の子は可愛らしく笑った。

その時、小さな風が、耳の横をふっと駆け抜けた。

「おねえちゃん。“風の時”が来るよ」

3・2・1…

あ、来た。







エントリ03  Gフラグ     金蚊


「パンがなければケーキを食べれば良いのに」
「馬鹿者おおおおおおお!」
「おぐぶおっ! な、何をなさるの、いきなり頭突きをかますなんて! 無礼な! 何者!」
「通りすがりのパズーだ、海賊にはならないと良い声で言い切ったパズーだ! パンがなければケーキと言ったな、ケーキと言ったな?」
「い、言いましたけど」
「だったら、ほら、載せてみろ!」
「これは……何ですの?」
「半分に切った目玉焼きだ! これを、このイチゴショートに載せるが良い!」
「の、載せましたわ。これが何だと仰いまして?」
「よろしい。僕は厚めに切った食パンに載せる。さあ、真似をして喰ってみろ! 慌てずにゆっくりよく噛んでな! もぐむぐむぐむぐ」
「もぐむぐ……ぶはあっ! 塩味を付けた目玉焼きのぬるりとした白身と、ボソボソした黄身が、ショートケーキの香りのするイチゴの移り香のある甘い生クリームと相まって、得も言われぬ不協和音を奏でますわ、何でしょう、この舌を駆け抜ける感覚、この口腔内の刺激、この胸からこみ上げる感覚、む、むむ、むわっ、ま、まずい、むわああああぁああずぅぅぅいいいいいぞおおおおおおお!!!」
「知ったか! パンもケーキもその本質は全くの別物なのだ! ケーキは所詮、パンの代わりにはならず、逆もまた然りなのだ!」
「ケーキはパンの代わりにはならず、パンはケーキの代わりにはならない、目から鱗が落ちましたわ! 感動しましたわ!」
「うむ、分かれば良い! ゆめゆめ忘れるな! では、僕はこの辺で、アディオス!」

「女王、民はパンがなく、飢えているのでございます……」
「パンがなければ、どうにかすれば良いのに」
「どうにか……ですか?」
「ええ、どうにか。例えば、おかずを目玉焼きにしないで、そのままケーキの材料にしてしまえば良いのだわ。さもなければ、ミルクを足してプリンにしてしまえば良いわ。ええ、これはすてきだわ。ケーキとプリンなら、一緒に食べてもまずくはないもの!」
「……こいつ、やっぱギロチンだわ」







エントリ04  とあるミカンとアルミ缶     土目



我輩は柑橘物である。というかミカンである。
名前は未だ無い、付けられても困る
さて、我輩が今いるのはこの家の暖房器具にして団欒の場
いわゆるコタツと呼ばれるものの上に鎮座している
が、その言うなれば聖域ともいうべきこの場所に今日は珍客がいる
硬質な金属でその肌を覆い
この暖かな場にそぐわない冷たい視線をこちらに送ってくる
…視線といっても目はないし、こっちも感じるような器官が存在しているわけではないのだがね
何かの飲み物だろう確か欧州な感じのした名前だったはずだが
我輩は久しく飲み物を飲んでいないし
我輩の飲み物といえば雨水がもっぱらなのでよくわからない
何故そやつが聖域と呼ばれることもままある
我が領域に鎮座しているかは知らんが
その威圧感にはかく言うわしもうなってしまうほどだ
のどが無いのでうなることなぞできんが
そのやや太めで安定した感じのある体躯と
青く鮮やかな色彩とを身に宿しているその姿は
熟れてほてったかのような赤にころころと転がりやすい我輩のそれと見比べると
…正直うらやましく思えてならない
しかしながら我輩も親にもらったこの体! 恥じることなぞ一つも無い!
ゆえに我輩は今日もミカンであり続けるのだ!

それにしてもこやつ…さっきから我輩のほうをじっと見つめ何のつもりじゃ
まさか奴、我が玉座にして至高の保安領地であるこの草籠を狙っておるのか
いやいやあの青い体に黄色くあせたこの籠では色合いが良くない
このあせ黄色は我輩の紅橙こそが究極の調和であるはずだ…
しかしもし奴がこの草籠を狙って現れたとしたら…
どうする! われのこの球体に酷似した体ではあの巨体の一撃の前にはなすすべも無い!
あっけなく転がされてそれでおしまいではないか!
部屋の片隅でねずみにでもかじられてその生涯を潰えることになるのか…
哀れ…
我ながらなんとも哀れではないか…
だがしかしそれもさだめであるとい言うのであれば甘んじて受け止めよう
我は柑橘物、”小粒でもピリリと”とか”甘い甘いと言われているが”といった我を張れる台詞もない
だが、だからこそこの生涯に誇りを持とう、私にはそれしかできぬから

”自らの 命の途切る その合間 命の何れ おのずに知れる”

辞世 みかん

ん?

『だんだんだん』


『ガシッカシュ、んっんっんっ』


「っぷぁああー、風呂上りはやっぱアクエリだな!」

我輩はもう少しだけここにいられるようだが

何れ訪れる奴と同じ末路に少しだけ涙をこぼしそうになった







エントリ05  恋する気持ち     バナナ


誰かを好きになるとき、私はいつもドキドキしていた
なのに、
人生で初めて付き合った君には、
ドキドキしない…

恋にドキドキは必要不可欠だと思っていたのに。
どうして、君にはドキドキしないの?

けれど、
君を失うことは怖く
だから、
「別れよう」なんて言えない

君が傍にいると、
心が温まる。
あぁ、ここが私の居場所かも、って思う

けれど、私の恋心はいつも、
ハンターのように、ドキドキを狙っている

君じゃない誰かを狙っているんだ

これが、俗にいう「浮気心」?

でも、
本当に君を失いたくないから、
なんとかして繋ぎ止めようと思って、
結婚も考えた

けどね、
結婚って考えたら、
色んな人の顔が浮かんできたんだ

……どうして、他の人の顔が浮かぶんだろう

ねぇ、私は本当に君が好きなのかな?
自分のために手放したくないって思っているんじゃないのかな?

もしそうなら、
私は本気で最低なやつ

なのに、
君は、
私が君を好きでいると信じてくれている

こんなにどうしようもない人間なのに
君みたいな人は、
この先、現れないと思う

でも、君の一番大事なものに、
私がなれないことも知っている

君は、
仕事と趣味が一番で、
その次に私が大事

私が一番になれないから、
君の一番になれないから、
君を一番にしないでおこうとして、
こんなことを色々考えてしまうのかもしれない

どうして浮気をしてはいけないんだろう
浮気の相手は、どうして人間だけに特化されるんだろう
私より、仕事や趣味をとったじてんで、
それも浮気なんじゃないんだろうか?

そう考えるのは、
私が女だから?
君がそう考えないのは、
君が男だから?

私はやっぱり、
ドキドキしなくても君が一番好きで、
でも一番になれないから、
他のものを入れようとしているだけなのかな?

もしそうなら、
私って、かなりいじらしいかも

あぁ、よかった
だんだん気持ちが、
君に向いてきた

だってさぁ、
この前、友人と飲んだときに、
私が君のことを好いていないっていうんだもん

え!?

って、固まっちゃって、
反論できなくってさぁ
だって、恋なんてもともと勘違いから始まるもんでしょ?
それなのに、
人からも、それを勘違いだと言われたら、
鵜呑みにしちゃうよね

ん?

そんなことはないって?

いやー、私的にはさ、
そこで揺るぎない気持ちで好きを貫ける人のほうが、
信用できないよ

その自信は、
どこから来ているんだろう?
何かを隠すための自信なんじゃないかな?
とか、思っちゃうし

あれ?
まさかの図星?

そっか、じゃあ、別れるか私たち。