第76回体感バトル1000字小説部門

エントリ作品作者文字数
01友達黒曜 翼512
02珈琲と沈黙しずる1000
03933
04桜雑感岡倉1000
05信じる世界に見えるモノ土目1000
06僕は君の好きな人1000
 
 
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エントリ01  友達     黒曜 翼


 友達。それはあってないようなもの。
 私が小学校に入った頃、母は私に聞いた。
「友達何人できた?」
 当時の私は率直に、仲の良かった三人を挙げた。
 仲がいい人が増える。母に伝える。こういうのは、何週間か続くものだった。
 今になって思うと、その数に挙げなかった人間は友達じゃないならなんなのだろうか。
 同級生とはなんなのだろうか……。最近はたまに思うようになった。

 とある日、友達に裏切られた。仲がいいと思ったのに、裏切られた。
 相手が必ず友達だと思ってるとは限らないけれども。
 友達ってなんだ? 仲良しな人が友達じゃないのか?
 裏切られた友達はもう友達じゃないのか?
 もっとも、そんな悩みは中高生になるまでは一切無いのだが。

 そもそも、友達という定義があいまいすぎるのではないか。
 例えば、たまたま二人一組で残された人間と組めば、それは友情なのか。
 例えば、会社の上司などの上下関係の相手、そのなかに友情はあるのか。

 今は分からない。
 今後、当分は分からないかもしれない。

 でも、こんな私にも分かることはある。

 友達と言う定義、なんてのは曖昧で、その気になれば誰とでも友達になれると。
 親しくなれば、ラベルなんて関係なくなると。


※作者付記:ふと思いついたことを書き記してみました。
初登校なので、若干緊張しております……。






エントリ02  珈琲と沈黙     しずる


 どうして私はこうも男運がないのだ。今、私の目の前で、モタモタとメニューを見ているこの男に視線をやると、強く思う。友人の紹介で、今日初めて会ったのだが、なぜ友達が彼を私に薦めたのかが理解できない。
「すごく良い人なのよ」
 この言葉を聞いた時、疑うべきだった。大概、こういう風に紹介された場合、彼氏となり得る要素が備わっていない確率が高い。もう早く切り上げて帰りたい。
「……奈津子さんは、何にします?」
 男は、おずおずと私に聞いた。
「あー、コーヒーで」
 特に考えもせず答える。コーヒーを飲んだら帰ろう、そんな思いが頭を掠めた。
 男は注文すると、沈黙した。チラリと彼を見てみる。目を泳がせながら、恐らくは、頭をフル回転して話題を必死に探しているのだろう。そんな彼の様子を見ているのはなかなか面白かったが、少し気の毒に思い、助け舟を出してやる事にした。
「能生さんは、何か趣味って、あります?」
 自分で聞いておきながら、何だかお見合いみたいだな、とハッとした。彼は、真剣に考えて口を開いた。
「映画鑑賞……ですかね」
「そうなんですか」
「はい」
「……」
「……」
「どんな映画が好きですか?」
「何でも観ますよ」
「へぇ」
「はい」
「……」
「……」
「例えば、どんな?」
「アクション映画とか」
「おぉ〜」
「はい」
「……」
「……」
 何だ、この会話! というか、これ会話? もっと積極的に行きましょうよ、私の趣味についても聞き返しましょうよ。その叫びは男に届くはずもなく、再び、彼の目は泳ぎ始めた。何だか、私が困らせているようで申し訳ない気分になってくる。誰か!
「お待たせいたしました」
 来た、天使の声だ。ウェイトレスさんの微笑みが眩しい。
 このコーヒーがホットでなければ、一気に飲み干してしまいたかった。私は、角砂糖を掌一杯に掴んで、コーヒーの中に入れた。あ、勢いに任せて、またやってしまった。私は大の甘党で、コーヒーを砂糖汁と化すまで甘くしないと、飲めないのだ。大抵、初対面の人は、この奇行を見ると、引く。
「フフッ」
 彼の口から笑い声が漏れた。恐る恐る、彼の顔を見る。愛想笑いではない、馬鹿にしている笑いでもない、呆れている笑いでもない。彼のその顔は、とても優しさに満ちていた。
「僕も甘党なんですよ」
 そう言いながら、彼は、ブラックなままのコーヒーを口に運んだ。再び訪れる、だが、心地好い沈黙。私は、甘いコーヒーを一口すすった。







エントリ03       百


 何故、私はこんな山の中を歩いているのか。
 身体が重い。
 足が痛い。
 もう歩けない。

 私はその場に崩れるようにへたりこみ、草の生えた地面に両手をついて空を仰いだ。

 空の色は故郷の海を思い出させてくれた。

「……海へ逃げればよかったのに」
「姫様、さあ、御立ち下さい」
 手を差し伸べてくるのは同い年の侍女。
「お前は子どもの頃、山育ちだったわね」
 隠そうとしても声にやりきれない苛立ちが交じってしまう。
「何で山なんかに……。海へ逃げれば、船に乗れたでしょうに」

 周囲を警戒している武士のひとりが振り向いて言った。
「海路で逃げた方々は、すでに大半が討死に、そして入水なさっています。
 一族の血を絶やさないためにも、我々は……、いや、例え、姫おひとりになられても、逃げのびてもらわねばなりません。
 お辛いとは思いますが、御立ち下さい。歩かねばなりません」

 私は一族のために、名のために、生きのびねばならないのか。
 
「姫様、少し衣を軽くなさったらどうでしょう」
 侍女が話しかけてくる。

 衣より、一族、姫という重荷に押しつぶされそうじゃ。
 しかし、歩くには確かに身軽の方が良かろう。
 羽織っていた衣を2枚脱ぎ捨てると、少し楽になった。
 こうなると、さらに少しでも身軽になりたくなる。

「刃を」
 侍女がはっとして、武士を見上げる。
「自刃などせぬ。髪を少し短くしたいだけだ」
 髪を重ねて束ねている下を掴み、刃をあてると長い髪が下へぱらぱらと落ちた。いい気持ちだ。
 侍女が痛ましそうな表情で見ているのも、なんだか気が晴れた。

 刃を返し、立ち上がる。
 歩けそうだ。

 次は何を捨てるかな。
 
 男の格好でもさせてもらおうか。
 あの方が歩きやすそうじゃ。
 いや、もし戦いになれば、男の格好をしている方が有無を言わさず切り殺されようか。
 さて、どのように逃げのびるか……。

 一族の血は、名は、捨てても捨てきれるものではない。
 それはわかっている。

 ただ、それを隠して生きのびることはできよう。

 私の脱ぎ捨てた衣を大切そうに畳んで、抱えて歩く侍女。
  
 今、この女にその衣を着せれば、私より姫らしく見えるだろう……。

 ふと思いついてしまった。
 私の後からついて山を登る侍女を振り返り見て、思わず微笑む。








エントリ04  桜雑感     岡倉


 春先、妻と二人で普通列車の旅行に出かけた。
 普通列車というのは厄介なもので、乗り換えがあったり、トイレがなかったり、荷物が置きにくかったり、疲労とストレスは積み重なる。結局、私が湯のみの梅の柄を桜と言い間違えた事に端を発する口論で、家に帰るまで喧嘩をし続ける羽目になってしまった。
 そんな事も今となっては良い旅の思い出とでも言うしかないのだが、さて。
 青春18きっぷが一回分手元に残っているのだ。
 青春18きっぷは普通列車の一日乗り放題が五回分セットで販売される為、夫婦が往復に使えばどうしても一回分余るし、子連れだと一回分足りなくなる。
 JRに乗る機会がない訳ではなかった。けれど、短距離で使うのは勿体ない、使うのを忘れた、定期があったり、等と先延べにするうちに、使用期限が迫ってしまった。
「私は田中さんと次の演奏会の打ち合わせで忙しいから、あなたどこか観光でもして来れば良いじゃない」
 そんな風に言われて、日曜の昼食後に切符を押し付けられた。
 唐突に日本を縦断出来る程の切符を渡されて、さあどこかへ行け、というのも乱暴な話である。
 とはいえ、切符を無駄にするのは確かに不本意であったので、今、こうして山手線に乗っているのだった。

 どこへ行っても良い、行かなくても良い、自由な誰でもない贅沢な時間を過ごそう――そう考えてみようとするが、どうにも退屈だ。
 午後二時から特番の再放送を見ようと思っていたのに、一体、何故意味もなく列車に乗っているのだろうか。
 ああ、下らない。
 ん、携帯電話のバイブだ。
 ポケットから出して見る。
『十五時からジャスコでタイムセールがあるから、トイレットペーパー買って来て』

 トイレットペーパーを持って、駅からの道を歩く。
 まだ日は高い。トイレットペーパーを家に置いて、また列車に乗ればどこか行く事も出来るのだろう。しかし、目的がないのに再び家を出る事はもう多分出来ない。
 トイレットペーパーを買って帰るという目的が出来た時、どれだけホッとしたか知れない。
 結局、私は旅に向いていないのだろう。
 通りに面した家の軒から、梅の花……いや、桜の咲き始めだ。
 これを一目で桜と見破って、俳句の何本か作ってしまえるような人が、あてのない独り旅なんてものを楽しめるのだろうか。
 しかしひょっとすると、楽しめない方が幸せなのではなかろうか。
 そんな風に思いながら、玄関のドアを開けた。







エントリ05  信じる世界に見えるモノ     土目



世の中ありえない事なんて殆ど無い
例えどんな事でも信じられないなんてのは他人の台詞で
つまり信じられないってのは関わりたくないが為にする
言い訳の一種みたいなものなんだろう


俺の目が狂っているのか、この世界の方が狂っているのかは知らないが
俺の目には『もういない人」、所謂幽霊とやらが見える
それはもうくっきり見えるせいで、爺さんが死んだことにもしばらく気付かなかったし
食事や勉強の邪魔になる事も多々あるほどだ
彼女に”見える”ことは言っていないのだがこんな俺と付き合っているせいか
俺の彼女にも見えはしないが何かがいるというのが感じ取れるらしい
コンビニからの帰り道、二人して手をつないで歩いていると
お喋りな彼女が急に口をつぐみ腕にしがみついてきた
よくあることなので辺りを見回すと
ちょうど電灯の下のところに血まみれのおっさんが座っている
明らかに『もういない人』だ
一瞬テディベアを連想させたあたり俺は本当に狂っているんじゃないかと疑いたくなってくる
上の崖から転落でもしたのだろうか、それとも交通事故だろうか
彼女の方を見ると彼女は俯き小声でいる…いる…と呟いている
子供のころからコレでもかというほど見てきた俺にとってそれは当たり前であるのだが
彼女に気を使って
「大丈夫、何もいやしないよ」
と最上級の微笑とともに穏やかに言って安心させてやる
顔色は変わらないが弱弱しく笑顔を見せる彼女のため
おっさんにガンくれてから早足気味に前を横切った
おっさんは何をするでもなくただ地面を眺めていた
曲がり角を過ぎてやっと彼女が顔を上げ、いた! 絶対いた! と騒ぎ始めるが
いつものことといったように受け流していく
嘘をつくのは心苦しいが彼女の笑顔のためだ
泣きじゃくる子供にそうするように頭を撫でて宥める
「気のせいだって」
彼女は絶対いたもん…としゃくりあげながら呟く
まぁ確かにさっきのは俺でも気分が悪くなる方に部類されるようなやつだったからなぁ
はっきりと見えない分彼女への影響は大きいのかもしれない
よしよしと頭に手を載せてあやした後、手をつないで真直ぐ自宅へ帰った

「ただいまー」

「おかえり、こんな夜にまで一人で何処行ってたんだい?」

「そこのコンビニ」

そう、俺にとっては別であっても他人の見る上では俺はたいてい一人である
よってくるのは『もういない人』ばかり
彼女ももちろんその中の一人
これが俺の妄想だろうと幻覚だろうと構わない
俺はこれを信じて生きていく







エントリ06  僕は君の好きな人     仁


僕は君の好きな人。
小学生の時からずっと。
知っていたけど、知らないフリをしていた。

君といるのは楽しい。
買い食いしたり、悪戯したり。
女のくせに跳び蹴りが一番キマッてる。パンツ丸見えだったけど。
見えてるって指摘したら、君は偉そうに「パンツは見せるために履くんだ」なんて言っていた。
この歳になると、ちょっとドキっとするセリフだよ。
こんなに気の合うヤツはなかなかいないって思ってた。
君は女の子の中で一番足が速くて、一番高く跳べて、一番勉強が出来た。
男はみんな君に張り合って、勝ちたくて堪らなかったんだ。
君を好きになる資格をみんなが欲しがっていた。
知っていたけど、知らないフリをしていた。

僕に彼女が出来た時、君は、ことあるごとに彼女の話を聞きたがった。
君に彼氏が出来た時、君は、ことあるごとに彼氏の話をしたがった。

初めてキスをしたんだと、僕に報告に来て泣いていた君は、世界で一番可愛かったと思う。
そして僕は、世界で一番、不甲斐無かったと思う。

君が僕のところに来る度に、綺麗になるから驚いた。

短かった髪は伸びて、浅黒かった肌は白くなって、爪にはマニキュアなんてしちゃってさ。
誰に見せるの? なんて聞いて墓穴を掘ったりした。
君は俯いて、しばらくしてから「好きな人とか?」って答えた。
ここには僕しかいないのに。
もう、限界だと思うんだ。

今日、僕は、告白しようと思います。

君は僕の好きな人。

病室でこんな手紙を書くなんて、ドラマみたいで笑っちゃう。
僕が寝たフリをしている時に、君は「好き」って呟いて泣いていただろう。
本当に悪かったと思ってるんだ。
でもやっぱ、この病気はさ、僕から自信を奪うには十分過ぎる病名だった。
中学生の僕は、大人になったら君と結婚してるかもなんて、妄想してたりしたのにさ。
意気地なしの僕は、君に「好き」すら言えなくて。
君に「好き」すら言わせなかった。

毎日、君が愛しくて仕様が無いんだよ。
君のいない毎日を、僕は生きていけないと思う。
そういう意味では、きっと僕は幸せだ。

でも君は、僕のいない毎日でも、生きていて欲しいと願うよ。
僕が幸せを貰った分、君も誰かから幸せを貰えるはずだよ。
君の幸せを願ってる。





日に焼けて、茶色くなった手紙を、大切に読み返した。

私は今日、結婚する。
相手の人はね、貴方にちっとも似てないわ。
すぐに気持ちを伝えてくれる人。
きっと、私、幸せになれる。

今日も貴方を想っているから、幸せになるわ。