第87回体感バトル1000字小説部門

エントリ作品作者文字数
01あぁ捕われの姫君土目1000
02欲しがりナキ1068
03さようなら冬の君、また会いましょう咲夜923
04舞い踊りの裏で市営プール732
05隣の彼女1000
 
 
 ■バトル結果発表
 ※投票受付は終了しました。
掲載時に起きた問題を除き、訂正・修正はバトル終了まで基本的に受け付けません。
掲載内容に誤り等ございましたら、ご連絡ください。

QBOOKSは、どのバトルにおきましてもお送りいただきました作品に
手を加えることを避けています。明らかな誤字脱字があったとしても、
校正することなくそのまま掲載しておりますのでご了承ください。

あなたが選ぶチャンピオン。
お気に入りの1作品に感想票をプレゼントしましょう。

それぞれの作品の最後にあるボタンを押すと、その作品への投票ページに進みます (Java-script機能使用) 。
ブラウザの種類や設定によっては、ボタンがお使いになれません。その場合はこちらから投票ください → 感想箱

エントリ01  あぁ捕われの姫君     土目






今現在の切迫した状況を一言で説明すると
好意を寄せる異性との二人きりでの行楽
それ即ちデートなわけですよ!
そう!
私たち二人で念願のデート中なんです!
長々と語ってるのは結局ラブラブっぷりのアピールってか惚気たいだけなんですけどね
えへへへへ

コホンッ

「どうかした?」
「ん、なんでもないよ。ちょっと疲れただけ」

「歩き詰めだったもんね。ちょっと休もうか」

くぁー、優しい!
何このジェントル!
あぁ!そして「ありがとう」とか言って手をとってベンチに座らせてもらう私
何処のお姫様だよオイ!
自分のが頭一つでかいくせに!
普段家でしてるようなハシタナイ真似は一切出来ないわー
窮屈なようでソレがまた楽しい
私は始終笑いっぱなしだ(っつっても微笑むって奴よ!)

でも、楽しい時間はすぐに過ぎてくってのね
気が付けばもう日が暮れだしてる、ベンチでちょこっと話してただけだったのに…

「暗くなってきたね」
「日が暮れるとちょっと肌寒いね」
困ったように笑ってみせるホントは未だに体中が熱くって仕方ないんだけど

!?

気が付くと私の手に彼の手が添えられていた

「まだ寒い?」
「あ、ふ、ぇ」

ヤバイ、コレはヤバイ
ただ手を重ねられただけで私は思考能力と言語能力と身体能力を封じられてしまった
十分上がっていた体温が更に上がっていく
夕日が落ちきっていたら一発で真っ赤なことがバレたろう

残念なことに私の手は一口サイズの砂糖菓子で出来ているわけではないので
たとえ限界まで縮込めたとしても完全に彼に包まれられるかは微妙なところだ
でも手を動かすとその拍子に手を離されてしまいそうで
ソレが惜しくて動けなくなってしまっていた

「大丈夫?」

黙ってしまった私を心配して手を離し顔を覗き込んでくる
止まった世界が動き出した
「だ、大丈夫だよ。ちょっと驚いただけ」
「あ、ごめん変なことして」

言語中枢が体に追いつかずブンブンと首を振って否定する

「あの、う、嬉しかったから」

「そ?」
と言うが早いか彼はもう一度私の手に触れ
今度は指を絡め握ってくる

「ぅ、ぁ」

右隣に座る彼が右手で握ってくる関係上
私たちは向かい合うしかないわけで
私の顔面は真正面に見られるわけで
顔を逸らそうとしても180度は首は回らないわけで
もしかしなくても右頬あたりにガッツリ視線を感じるわけで
漫画とかだったらボンッってなってるわけで

「捕まえちゃった」

その一言に私は 捕まっちゃった なんて意味不明なことを思いながら
貧血で倒れたのだった







エントリ02  欲しがり     ナキ


 
 同級生の、会話が聞こえた。他愛のない、何でもない会話だった。

「結局俺、ソレ捨てちゃったんだけどさ、今更惜しくなってさ……」
「あ〜、分かる分かる。失くしたモンとかさ。」
「そうなんだよなぁ〜。なくなった途端、また欲しくなるんだよな。」


 『本当に大切なものは失ってから気付く』

よく聞く言葉だ。そうか。大切なものは失ってから気付くのか。
でも、同級生の会話を聞いていたら思う。
さほど大切なものではなくとも、それがなくなると不意に欲しがる。
人とはそんな浅はかな、愚かなモノではなかったか?


 「ただいま。」

無音。僕は鞄を放り投げると所々穴の開いた襖を静かに開けた。
「何よ。」
その女(ひと)は言った。
「ただいま。」
僕がもう一度言うとその女は眉間に皺を寄せた。
「帰ってこなくても良かったのに。あんたなんか要らない。」
もうずっとこの調子だ。もう傷つくのも疲れた。
この女、何でいつも同じ事しか言わないのだろう。
いい加減、飽きた。その態度に、言葉に、顔に。


 僕が襖を閉めると、これ見よがしにあの女は泣き始めた。
まさひと〜、と父の名を呼びながら。
 可笑しな女だ。僕には理解できない。あの男が生きている間は喧嘩ばかりで、悪口の言い合いしかしていなかったというのに。
アレはこの女なりの愛情表現だったのか?じゃあ、この僕に対しての態度も?

 まさか。そんな筈は無い。
ああ、そうだ。欲しくなったんだ。「無くなったモノ」だから。
だからこんなに求めてるんだ。馬鹿な女だ。いや、馬鹿は僕か。
求めて欲しい。こんな女にでも、求めて欲しい。僕を。
 僕は小さなカッターの刃を5cm程出して左の手首の上でスーッと引いた。横に引かれた線から赤い血が、零れた。
遠退く意識の中で僕は思った。
『これであの女も僕を求めてくれるだろう。』
あの女が泣きながら僕を呼ぶ声が聞こえた。どうやら助かってしまったみたいだ。
しかし僕は満足していた。僕は求めてもらえていたのだった。あの女に。嬉しかった。
でも、それも束の間の事だった。
 僕の傷が消えてきた頃、あの女はまた、僕を邪険にし始めた。
そうか。この女はそうだった。この女が求めるのは「無くしたモノ」
であって僕でも、父でもない。僕は、忘れていた。


 当たり前でないものを当たり前だと思い込み、当たり前の時には大切にしなかったものを当たり前でなくなった時に急に欲しがる。
人は、馬鹿だ。

 それなら仕方がない。僕があの人の「当たり前」にならなければいい。
簡単だ。次はもっと深く切ろう。もう助かる事のないように。


 母さんが僕を呼ぶ声が聞こえる。きっとこれは永遠に……













エントリ03  さようなら冬の君、また会いましょう     咲夜


「…寒い」

冬はもう目前まで迫ってきている
寒さから冷たく赤くなった両手を擦り合わせてはぁっと息をかけた
いつも、だったら
いつもだったら、アイツがしてくれること、なのに

『お前はホントに手、冷たいよな』

そう言って太陽みたいに温かい笑顔を浮かべて、
あたしの両手を大きくて温かい手で包んではぁって息をかけて、
目が合えばふっと微笑んで、なのに
昔からずっと一緒に居たアイツは、今年はあたしの隣にいない

「…ばーか」

小さく呟いた声は冷たい空気中に消えていく
さっき少しだけ温かくなった手はもう冷たくなっていた

「…かっこよすぎんだよ、ばーか」

最後に見た、アイツの顔は笑ってた
見ててぽかぽかする、アイツの笑顔だった

「子供助けて、とか…ドラマかっつうの…」

小さな、小さな命を助けて
自分だってまだ何十年も生きられたのに
だけどそこが好きだなんて、自分で自分に笑ってしまう

「…好き」

『んなもん、最初っから知ってるよ』

「…大好き」

『俺はお前の何倍も、お前のこと好き』

ねぇ、ねぇ、涙が止まらないよ
悲しくて寂しくて仕方ないよ
ねぇ、あたしを泣かす奴はアンタがぶっ飛ばしてくれるんでしょ?
それなのにアンタがあたし泣かしてどうすんの?

「ふ、ぅ…ぇっ…」

子供みたいに泣きじゃくった
大声で泣き叫んで、喚いて、でもそうすればする程空しくて堪らなかった

「っ…ひく…、ばぁか…」

ねぇ、今年もまた冬がやってくるよ
あたしの手はずっと冷たいままだろうね
でも、それでも構わないよ
あたしは気が長いほうじゃないけど、アンタのために待っててあげる

忘れてなんかあげないよ
思い出になんかしてやらないよ
いつか、あたしはアンタの事を忘れなければならない日が来るだろうけど
それまでは、絶対にアンタを無かったことになんしてしない

また春が来て、夏が来て、秋が来て、そうしてまた冬が来る
あたしの手を温めてくれるのは別の人になるかもしれない
今、この世界でアンタとの幸せな未来が無いのは分かってるから

もう一回、あたしもアンタも二人して生まれ変わって出会えたら
…ううん、絶対に出会うから、そうしたら
そうしたら、今度はまたあたしの手を温めて
それで二人で手を繋ぎ合って、肩を寄せて
「好き」って愛を囁きながら、離れないように誓いの口付けをしよう







エントリ04  舞い踊りの裏で     市営プール


「乙姫様」
 宴席を中座した乙姫に、廊下で控えていた亀が、そっと声をかける。
「なんじゃ、亀か」
「太郎殿を、いつまで引き留めておくつもりでございましょう?」
 亀は心配そうな顔で、乙姫が出て来た襖を眺める。
「飽きるまで居させてやろうと思うが?」
「そのような事をされては、地上でいかほどの時が流れるか。地上に帰れば、知る者は誰もいない事になってしまいますぞ?」
「それも太郎殿が選んだ事」
「選ぶ? 私は太郎殿に何も言っておりません。時の流れの速さの違い、知らせれば今すぐにでも帰ろうとされるやも……」
「だから」
 乙姫は亀から視線を逸らす。
「言わぬのだ」
「何故、斯様に太郎殿の事を?」
「……妾がまだ幼く、海蛇と変わらぬ程に小さかった頃、人の子らに捕まり、殺されそうになっておったところを、救われた」
「なんと……だとすれば、私にあのような小芝居をさせたのは」
「笑いたくば笑え」
「であれば……好いたお人を不幸に陥れるような真似は」
「……あの時、助けられた妾は、嬉しかったのだ。人の身でありながら、海の者の命を気遣う太郎殿の優しさが愛おしかったのだじゃが」
 乙姫は自嘲気味に笑う。
「それは、お主のような亀に対しても与えられる慈悲。そんな慈悲に惹かれてしまった我が身が、無性に悔しくなってしまったのじゃ」
「姫様……」
「太郎殿が妾を選べば良し、そうでなく、地上を――誰でもないあらゆる人や生き物を選ぶようであれば、そんな太郎殿の傍らに居る事は耐えられぬ。妾は、太郎殿の一番でありたいのじゃ」
 亀が何か言おうとするより前に、乙姫はまた、宴席に戻って行った。
「手に入らぬならば、か」
 亀は閉じた襖を見つめる。
「せめて、恩人の行く末に幸あらんことを」
 呟きは泡になって、水面へ上がって行った。







エントリ05  隣の彼女     草


彼女は隣に住んでいる。


「おはよう」
「あ。おはよう」

僕らは扉を開けて挨拶をする。
それから各々の扉に鍵をかけて出かけて行く。

ボロアパートの二階、毎朝八時の出来事だ。

僕と彼女は二カ月前に付き合い始めた。
だがしかし、彼女について、僕はほとんど何も知らない。
ただ、朝の八時に何らかの理由で部屋を出るってことと、太股の付け根に三つ黒子が並んでいることしか知らない。
僕はと言えば、朝の八時に出て行って、大学で授業を受けている。
八時に出なくても良いのだけれど、彼女に会いたくて、八時に出かける。

彼女はとても痩せていて、かと思うと、一ヶ月後には太っている。

彼女の髪はとても短くて、かと思うと、次の日には長くなっている。

彼女には日常が無い。
それはとても素敵な事だ。
だから僕は、彼女に恋をしている。

でも、素敵な事だと思うのは僕だけのようで、友達は苦い顔をした。

「そんな安定しない女のどこが良い? 怖いじゃあないか」

怖い?

でも僕は、日常が、日常として過ぎて行く方が怖い。
いつの間にか時間が過ぎて、年を取っていくのが怖い。
この、虚ろな毎日が、何よりも怖い。

彼女は僕を恐怖から救ってくれている。


10月の彼女は痩せていた。

トレンチコートから出てる手首が痛々しいほど細くて、そこまでして日常を拒む彼女に、僕は溜息さえ吐かずにはいられない。
愛おしくてたまらない。

僕が口づけた後、彼女は不思議そうに聞いた。

「どうして私を好きだと言うの?」

僕の説明に、彼女は笑った。

「私は、とても疲れているわ。非日常を生きるのに。君にもそのうち解ると思うけど」


1月、彼女は僕の前から姿を消した。

僕が帰省している隙に逃げだした。
僕には理由が分かった。僕は彼女にとって、日常になろうとしていたのだ。
僕にとっての彼女がそうであったように。
僕たちは細心の注意を払って、お互いを知られないように努めていた。
日常を壊したくて。

僕は彼女を探さなかった。

だって、僕たちは、もうお互いを必要としていない様に思ったから。
少なくとも、僕は彼女を必要としていなかった。



3月、彼女は冷たくなって発見された。

その死体の、足の付け根に黒子が三つ並んでいると、風の噂に聞いたのだ。
断定は出来ないけれど、なんとなく彼女だと思った。

彼女の部屋の前を通る時、彼女の声が聞こえた気がした。
「私はとても、疲れたわ。非日常を生きようとするのに」


隣の彼女はいなくなった。

僕は初めて日常を恋しく思った。