第100回体感バトル1000字小説部門

エントリ作品作者文字数
01北風と太陽……それから志崎 洋811
02ろぼろぼ土目1000
03地から去った跡にZOO−TOL−B707
04本当の私久遠998
 
 
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エントリ01  北風と太陽……それから     志崎 洋


「ぼくの勝ちだね、北風くん」
 太陽はいかにも自慢そうに北風に言った。
 どちらが旅人のコートを脱がせることができるか競った勝負は、太陽の勝ちだった。

「負けたよ。確かに君が旅人の着ていたコートを脱がせたからね」
 北風はさも悔しそうに答えた。
「でも……」
 北風が言葉を続けた。
「あの旅人はまだ帽子をかぶっているじゃないか」
 確かにその旅人は暑くなったのでコートは脱いだが、日差しが強いので帽子はまだかぶったままだった。
「あきらめが悪いな、北風くんは」
 太陽は憮然とした。すると、
「いやっそうじゃないよ。いくら太陽さんでもあの帽子は脱がせられないんだなと思っただけさ」
 いく分皮肉めいた口調で北風は言った。
「じゃあ、君は脱がすことができるのかい?」
 太陽は、ちょっと怒って北風に言い返した。
「いや、ぼくにもできないよ」
 さっき、強い風で吹き飛ばそうとしたが、旅人がしっかりと手で帽子を押さえ込んだのを思い出し、北風は残念そうに答えた。
「そうだろう、ならもう負け惜しみは言わないことだね」
 太陽は勝ち誇ったように北風に言った。
 北風はあきらめかけたが、あることを思い出し太陽に言った。
「でも、いつかこんなことがあったよね」
「えっ?」
 太陽は聞き返した。
「ほら、君が雲で隠れてしまった時、ぼくが雲を吹き払ったおかげで出てこられたこともあったことさ」
 そういえばそうだった。太陽が厚い雲に覆われてしまったところを北風が吹き払ってくれたことがあったのだ。
 太陽は北風に少し言いすぎたなと思い、
「そうだね。自慢したぼくが悪かったよ。これからもなかよくしようね」
「うん、ぼくも強がりだったよ。なかよくしようね」
 北風もちょっぴり反省した。そして太陽が雲に少し隠れたので、北風はそっと吹いてあげた。
 薄日の中にさわやかなそよ風が心地よく吹いた。
 
 その時だった。
 旅人はかぶっていた帽子を思わず脱ぎ、そっとつぶやいた。
「ああ、いい気持ちだ……」








エントリ02  ろぼろぼ     土目



「はい、朝飯」
そう言って笑顔で単三乾電池を手渡すコイツには
朝飯の代わりにキャメルクラッチを食らわしてやった。

「ギブ!ギブ!ちょっとしたお茶目!」
「じゃあ今のは冗談なんだな?」
「…」
「オィッ! また勝手に人の体いじったのか!」
「エヘっ」
「二度と俺の部屋に入るな! とりあえず落ちろ!」

あざやかにヘッドロックで元凶に止めを刺す
と俺は思考を切替えた。

自己修復が働く午前零時まで何とかやり過さねば
問題はエネルギー消費、食物からの消化吸収ができない以上
昨日の貯蓄分でもたすしかないか
間違っても乾電池を食うような真似はしたくない
というか食ったところでエネルギーにはならんだろう

取り合えず残量を計測してみるがやはりすでに枯渇寸前である。

「まいったな…」
とりあえず機能確認をしてみる。
前屈、伸脚、屈伸、特に問題なく体は動くようだ。
「ふむ…」

コレなら意外と食ってもいけるんじゃね?
消化機関は繊細なので一番に壊れるのだが、ものは試しだ。

とりあえずレタスを一口食む。
この時点では問題なし。
恐る恐る飲み込んでみる、と
『ぎゅるるるるるる』
「!!!!」
『ダダダダッバタンッ…ジャー』
「やっぱり無理か…」
無駄にエネルギーを使ってしまった。
体は完全に食物を受け付けなくなっている。
都合よく博士が帰ってこないかなんて考えてみるが現実は無情である。
「起きたよー!」
元凶が目を覚ました。
もう一度落としておこうかとも思ったがそろそろ本格的にエネルギーがやばい。
できる限りに寝て過ごすしかない。
「ゴメン大丈夫? そんな辛い?」
流石に今日はやりすぎたと思ったのかしょげた顔を見せてくる。
お前の所為でこうなってんだぞ。
「辛くはない眠いだけだ、今日は寝て過ごす」
「じゃぁ子守唄歌ったげる」
「いらん、あー喉渇いた、水」
「水は平気?」
「冷却水に行くから大丈夫だ」
「解った」
と適当な嘘で追い払って俺はその場を退避
屋根裏へ逃げ込みそこで意識を途絶えた。

夜中の二時ごろ目が覚めた
機能が回復し自己発電によりある程度エネルギーを確保できるようになったのだろう。
そこで足の上に載った重量感に気づく。
スパナ、やドライバー、コンデンサやレジスタ、工具や部品がそこら中に散らばっている。
どうやら力尽きて寝るまで何とかしようとしていたらしい。結局自己修復してしまったが。
恐らく目を覚ましたコイツにまた体を弄られることになるなと思いながら
俺は肩にかかった毛布をかけなおした。







エントリ03  地から去った跡に     ZOO−TOL−B


 昔、何でも出来る天才がいました。
 天才なので、イケメンなのでした。
 もちろん、天才なので金持ちです。
 当然、天才なので家柄も良く、
 天才なので人格も高潔でした。

 天才は喋りました。
 天才なので、その言葉一つ一つは凡人の心を震えさせ、完膚無きまでに叩きのめしました。凡人達はその言葉に相応対価を支払おうとしましたが、天才にとってはそれは当たり前すぎる事で、それに対して評価を受ける事は甚だしく不当な利益のように思えたので、これを辞退しました。
 凡人達は天才の謙虚で高潔な精神に感動しました。
 そして、天才よりも遙かに劣った言葉しか発せぬのに、対価を求める醜く卑しい詩人を広場に引きずり出し、八つ裂きにしました。凡人なので、上手に八つには裂けられず、二八七一に裂けてしまいました。

 天才は歩きました。
 天才なので、その一歩づつが、凡人の心をまたしても震わせました。
 そして、凡人達はダンサーを海に引きずり出し、鯱に喰わせてしまいました。

 自分が行った事で、詩人とダンサーを死なせてしまった事に、天才は悲しみました。
 そこはそれ、天才なので、その悲しみは凡人の心を震わせました。
 結局、徳光和夫は尻をひっぱたかれました。

 詩人を失い、ダンサーを消し、徳光和夫から涙を奪った凡人達は、天才を崇め、暮らしました。
 数十年が過ぎ、天才が地を去った後、誰一人詩を作る者はいなくなりました。
 不用意に詩を発した者は、ことごとく八つ裂きにされました。
 天才の言葉は人々の記録から抜け落ちて行きましたが、詩を発する者を八つ裂きにする事だけは、陽炎のように残りました。

 だから次の天才が現れた時も、最初の一言で、八つ裂きにされました。







エントリ04  本当の私     久遠



 バイト先の私の評判はすこぶる良い。自慢じゃないけれど、上司や同僚に好かれるだけのお愛想と、困っている人をすぐに見つけて助けてあげられる機転と、面倒なことを上手に交わすずるさを持っている。
 だから、私がバイトを始めてからずっと好きだった人から「付き合ってください」と、言われた瞬間に、私は酷い罪悪感に苛まれた。
 私は何も言えなくて、逃げるようにその場を後にした。

「勿体無いねー。あんた好きなんでしょ、その人の事」
 後日、某カフェにて、友人に事のあらましを伝えると、彼女は冷静にそう言った。
「好きだけどさー、私って普段こんなんじゃん?」
 強気な口調でネガティブな発言をするのはもう癖になっていた。普段はがさつで女の子らしい要素ゼロ。
 上品でしとやかで女の子らしいね、と、見た目と中身が随分違うんだね、と言われた回数は同じくらい。
 だから、バイトを始めたときには見た目通りの女の子を繕って、全員騙してしまおうと決めていた。こんなに好きな人に出会うなんて想定外だった。
「思うんだけどさー、その人が本当のあんたを知ってがっかりしたら、どうするの?」
 彼女にそう聞かれ、私は一瞬考え込むと、すぐに答えが出た。
「結局男って簡単に私みたいな女に騙される単細胞生物だよねって罵ってやらあ」
 けっ、と吐き捨てるように言うと、私はお冷を一気に飲んで、ついでに氷もがりがりと歯で砕いた。
「そーゆーやつだよね」
 彼女はどこか呆れた瞳で私を見つめた。それから、すっと立ち上がった。私が不思議に思って彼女を見上げると、彼女は今まで私に見せたことのないくらい格好良い微笑を浮かべていた。
「アンタの勝ちだね」「え?」
 私が首を傾げると、後ろに人が立つ気配を感じた。振り返ると、彼が立っていた。
「なん…っ」
「そうだね。俺単細胞だったね」
 頭の中が真っ白になると言うのは、恐らくこういうことなのだろうと思う。私は、自分を取り繕うことも、ごまかすことも出来ずに呆然とするしかなかった。
「これからもっと、君のこと教えてもらって良いかな」
 手が差し出された。私は暫く呆然とその手を見つめて、それから急に嬉しさと、今まで必死で取り繕っていた自分を恥じる感情がない交ぜになって、笑い出したくなった。
「本当の私を好きになってくれますか?」
 私は手をとった。
「喜んで」
 彼は今まで私に見せたことのないような満面の笑顔で、私の手を強く握ってくれた。