第108回体感バトル1000字小説部門

エントリ作品作者文字数
01コレクターまさやん1002
02リクールートおおきぼんの1000
03温暖化問題土目1000
 
 
 ■バトル結果発表
 ※投票受付は終了しました。
掲載時に起きた問題を除き、訂正・修正はバトル終了まで基本的に受け付けません。
掲載内容に誤り等ございましたら、ご連絡ください。

QBOOKSは、どのバトルにおきましてもお送りいただきました作品に
手を加えることを避けています。明らかな誤字脱字があったとしても、
校正することなくそのまま掲載しておりますのでご了承ください。

あなたが選ぶチャンピオン。
お気に入りの1作品に感想票をプレゼントしましょう。

それぞれの作品の最後にあるボタンを押すと、その作品への投票ページに進みます (Java-script機能使用) 。
ブラウザの種類や設定によっては、ボタンがお使いになれません。その場合はこちらから投票ください → 感想箱

エントリ01  コレクター     まさやん


 昨日、私を含めた自治会のメンバー八名は、自治会の恒例行事である茸採りのためにこの地元のT山に入った。幼い頃から格好の遊び場だった勝手知ったるこの山は私にとって裏庭同然であった。入山するなり皆から独り離れて茸が多く自生している、私だけが知っている場所へと向かった。そこに着くと予想した通り、様々な種類の茸が群生していた。舞茸を幾つか採り、籠の中に入れようとした瞬間だった。私の眼の前に黒い大きな物体が立ち塞がったのが、手元に落ちる影の揺らめきで分かった。――熊だ。私は視線を合わせないようにゆっくりとした動作で足元にあった大きめの石を両手で掴んだ。それを熊の奴に目掛けて振り下ろそうと私は考えた。手にした石はジメジメと湿っていて、苔むしているようだった。それを持ち上げた瞬間、石の側面に何か文字が刻み込まれているのが眼に映った。「馬頭観世音」そのとき、熊の鋭い手爪が私を襲った。私はその場に倒れこみ、気を失ってしまった――。眼を覚ましてから、一晩をここで過ごている。どうやら頭に深い傷を負ってしまったようだ。それでもこうして私はまだ生きている……いや、これは悪い夢なのか?……しかし……それにしても寒い……。
 「ずいぶん顔色悪いけど、大丈夫かしら?」K美が私の顔を見つめながら背中をさすっている。気づくと私は馴染みの銀座のクラブにいた。「ああ……」そう答えるとK美は私の手を握り、もう閉店だから外で待っていて、と云った。私たちは寿司屋とバーを梯子し、最後にホテルに向かった。K美と知り合って二年が経つ。しかし彼女はこれまで私に躯を許したことはない。その晩の彼女はいつもと違った。K美は私をベッドの上に押し倒し、上に覆い被さると、貪るように私の唇の亀裂に舌先を這わせてきた……。朝目覚め、眼を瞑ったままK美を抱き寄せようとした。しかし彼女はいない。では私が腕に抱きこんでいるものは一体なんなのか。うっすらと眼を開けたその瞬間、私が眼にしたものは地獄絵そのものだった。白いシーツは血で染め上げられ、生臭い匂いが部屋中に充満していた。私が大事そうに抱いているものは切断された馬の首だった!

 前半の熊の襲撃のくだりと後半のクラブの女性のくだりは発見された手帳の同じページに書かれていたものだ。この二つの事柄は関係性があるものなのかどうか、それはこの手帳の持ち主である、遭難死したAさんに訊いてみなければ分からない。







エントリ02  リクールート     おおきぼんの


「よろしくお願いします!」
「……あの、面接の前に聞いておきたいんですけどね」
「はいっ!」
「その格好は何ですか」
「え? はい、節電の為に、クールビズで、との事でしたので」
「いやね、確かに要項ではそう書いてありましたよ。でも、限度ってものがあるでしょう。まず、ネクタイがないってどういう事ですか」
「クールビズですから」
「ワイシャツというのは、ネクタイがある事を想定して作られた衣服ですよ。あなた、ベルトせずにズボン穿きますか? ジャージとかじゃないですよ、普通のズボン。ベルトはするでしょう? それと一緒です」
「はい……」
「それから、上着がないって何なんですか」
「は? クールビズですよね」
「ワイシャツっていうのはあなた、何だと思います? 下着ですよ。前が伸びてるでしょう、あれは元来、こう、後ろと繋いで褌みたいにするものです。そんなもの一枚で人前に出るんて、常識を疑いますね」
「あの……」
「何です、文句でもあるんですか」
「それじゃあ、クールビズでも何でもないんじゃ……」
「お前何様だよ。そういう、最低限を押さえて、他のところで工夫をしろって言ってるんだよ。まったく、最近の若い連中は、仕事も出来ないクセに、自分の良いように解釈して口応えばかりだ」
「とすると」
「なんだ、もう帰れ」
「あなたが陰茎を丸出しにしているのは……」
「クールビズだろ、それぐらい見て分かんないか?」
「一一〇番っと」
「あっ、ちょっ、こら! 止めなさい!」

「丸出し部長、懲役お疲れ様。半年ぶりですね」
「……いやー、まったく。最近の学生の常識知らずにはまいったよ、面接中に通話をするんだから」
「ハハハッ、最近の若い者って言い始めたら年寄りですよ」
「なんだと、こいつぅ」
「ハハハ!」
「ハッハッハ!」
「あ、そうだ、丸出し部長、辞令出てますよ」
「どれどれ……『丸田出男 右の者、不法行為によって当社の信頼を著しく損ねた為、就業規則第十二章解雇規定を適用し、懲戒解雇とする。損害賠償については別紙に定める』なんだってーー!」
「ありゃりゃりゃ、災難ですね、丸出し元部長」
「畜生! どうして、何が悪いってんだ!」
「どうしてでしょうね、丸出し元部長」
「こうなったら、社長を殺して会社を全焼させてやる!」
「そんな事したら余計熱いですよ。まさか上着を脱ぐんじゃないでしょうね、丸出し元部長?」
「そんなワケがなかろう! 私を常識知らずの学生と一緒にするな!」







エントリ03  温暖化問題     土目


「あつがなついわねー」

気だるそうに部屋に入ってきた先輩は、
髪を纏め上げ、長袖は腕まくり、アイスを片手に汗だらだら。
実に夏をエンジョイしている様子であった。

「まぁ年々気温も上がってますしね」
低血圧の低温症な僕は割りと平気なのだが、
先輩のあまりにあまりな姿を見てエアコンのスイッチを入れる。

「ミサイルとか打ち込んでどうにかして地球の温度下げれないかしら」

未だに頭が働いていないのか眼鏡越しにうつろな目を僕に向けてくる。
先輩の脳内では僕に向けてミサイルでも発射しているのだろうか?

「カキ氷食いてぇ」

あなたが今銜えてるのは何ですか?
と言いたかったけれどアイスミルクと氷菓の違いについて
長時間の教義が開かれる予感がしたのでやめておいた。

「流石に器具も氷もシロップもありませんからね」

「わかってるわよぉ、言ってみただけぇ」

先輩はエアコンの風入口に向かい猫のように伸びをしている。

「ふぅー頭冷えてきたー」

「それはよかった」

片手間にレポート類をまとめながら相手をする、
コレではどちらが年上かわかったものではない。
と言うか僕はあなたの保護者じゃないのですが。

「日に日に熱くなってくこの現状をどうにかしたいんだけど、できれば物理的に」

「それができたら、卒業までは安泰でしょうねー」

「願うだけでは叶わない、きびしー現実ってやつねー」

ごろりと横になった先輩は、
食らい尽くしていたアイスの棒をポトリと落とすとむむむとうなり始めた。

「よし、いっちょ考えて見ますか、割とできそうな方向で!」

「は?」

「案1! でっかい冷蔵庫を造る!」
何か始まった。

「どっから電気まかなうんですか、むしろ熱くなりますよ」

「案2! 人体改造! 熱くても平気な体を作る!」
何か健康的だ。

「現状を平気にしても気温が上がり続けたら一緒じゃないですか?」

「案3! 過去にタイムスリップ! 涼しい時代で暮らす!」

「それは、また……」
ずいぶんと突拍子もない。

「うん! 決めた! 夏休みの自由研究はコレにしよう!
 ていうか私の生涯の研究課題にしよう! タイムマシンを造る!」

何か決まってしまった。
タイムマシンのどこができそうな方向なのだろうか。

「と言うわけで、サポートはよろしく頼むよ!」

冗談ですよねあははと乾いた笑いをする僕に、
先輩は食べつくしたアイスの棒をくれた。
報酬のつもりなのか、単に捨てろと言うことなのか解らなかったが、
とりあえず僕はそれをゴミ箱に捨てた。