第20回体感1000字小説バトル

エントリ作品作者文字数
1ピラミッドはなぜ作られたのかZYAPAN574
2ここを切ったらどうなる?じゅん1101
3GAヒロトモ980
4旅と人松原正一996
5龍騎士松本 拓也10000 ☆文字数過大です
6ぼくの名前は飯島辰裕1011
7花瓶と写真千早丸1022
8夏の課題とスプラッタヘビトンボ1000
9真夜中泉咲樹1587
10かくれんぼ1008
11世界の終わりに見たものメビウス1197
12白雪椿0
13チャリンコ日本一周忠 美希生 996
14デカダンスYAIBA2471 ☆文字数過大です
15幸せ良慶1032
16セカイノオワリむん1181
17運命奏者桜樹鉄太1697
18ずっとそばに青春海夏919
19砂時計天澤聖司1469
20Get Wildチワ太郎1000
21帰るところ中人436
22フリオの紙飛行機まる799
23朝の出来事坂本一平396
24何なんだ石井里奈31
25リアル1000
26レンジカノイ1124
27Herakleitosりら998
28空中メロン沙風吟999
29自転車坂中裕美540
30桜の木の下で。鈴木 麻希子1129
31八月のパンダ山本汎太1000
32くらのくら自由 銃従0
 
 
バトル結果発表

バトル開始後の訂正・修正は、掲載時に起きた問題を除き
基本的には受け付けません。
掲載内容に誤り等ございましたら、ご連絡ください。






エントリ1  ピラミッドはなぜ作られたのか     ZYAPAN


ある日の放課後、3人の女子高生が校庭でお喋りをしていた。

そのとき3人はどこからか子猫の鳴き声が聞こえるのに気づいた。

周囲を見回すと、校庭の隅の一本の木から聞こえるようだ。

そこでは子猫が高く登ったあと、怖くて降りられなくなっていた。

3人はもちろん助けようとしたが、手を伸ばした状態でも1m以上足りない。

教職員に言っても多分相手にされないと3人は考えた。

踏み台はないし、肩車も無理だし、と思案しているとその内の一人がある    

ことを思いついた。

「人間ピラミッドは?三段か四段で助けられるよ。」

毎年の運動会でやっている種目だった。3人で相談した結果、三段では

届かないから四段でやることにした。あと7人必要だった。

校庭にはテニス部員が練習を始める準備をしていた。

「ねえ!Aちゃんたち!ちょっとこっち来て、手伝って!」

3人の呼ぶ声にテニス部員が集まってきた。みんな快くOKしてくれた。

一段目には4人の一年生部員がなった。全員紺色のブルマーだ。

二段目には3人の三年生部員。テニスウエアに白いアンダースコート。

三段目には例の3人組みの内の2人。ミニの制服で下着は2人とも水色。

一番上には3人組の残りの一人。立ち上がって両手を伸ばす。

そよ風で制服のミニスカートがはためいた。淡いピンクだった。

子猫はすぐに助けられた。そして女子高生たちに見守られながら

元気に走り去っていった。







エントリ2  ここを切ったらどうなる?     じゅん



 「ここを切ったらどうなる?」
 台所で右手で包丁を持ち、左手首の辺りに目線を落とした奴は二メートルほど離れた僕に突然そう問いかけてきた。 いつでも酔った勢いでそういうことを唐突に言い出す奴なのだ。
 「動脈をそんな刃物で切れば、ものすごい勢いで血液が外へ流れ出すだろうね。」
と僕は冷静に答える。
 「血液が外へ流れ出したらどうなる?」
 「血液が失われていくにつれて君の意識は遠のいていくだろうよ。 そして確か血液の三分の一が体内からなくなると君は死ぬのさ。」
 奴はそれを聞いてふぅーんとため息なのか冷静を取り戻す声なのかわからぬ息を吐き出した。
 部屋全体にアルコールの臭いが充満し、次郎と太郎と美奈子はソファで狂ったように動き回りソファのスプリングが激しくきしむ音はなんとも痛々しい。
 「それじゃ、俺が死んだらどうなるのさ?」
奴は僕の顔を睨みつけるように言った。
 今度は僕が大きなため息をつく番だ。 僕は両手を彼の方へ向けてお手上げのジェスチャーを見せて「死ぬということは、君の脳には血が回らなくなり全ての臓器が活動をやめるということさ。 つまりは君は単なる炭水化物となってしまうわけだ。」
 「今の俺は単なる炭水化物ではないのか?」
 「違うさ。 君の脳はしっかり働き、考え動くことができるだろ? それが生きてることと単なる炭水化物になることの違いさ。 死んだら何もできない。」
 「生きていても俺はたいして考えもしなければ動きもしない。 死んでるも同然ってことか、つまりは。」 そう沈んだ声で奴は再び左腕に目線を落とし、右手の包丁をそこへ近づけた。 僕はわずかばかり汗ばんだ手を握り締めた。 「いや、生きているってことはだな……。」
 「死んだら俺の体は燃やされてみごとな灰になるわけだな。 その灰は植物の肥料ぐらいには役立ちそうだ。」 
 「ばかなことを言うな! 君が死んだら俺は悲しむし君の両親も悲しむだろ? 死ぬなんてことを簡単に考えるんじゃないよ。」
 「それはおまえらの勝手な事情だろ。 知ったこっちゃない。」そう奴は言って深く息を吸いこんだ。 僕は喉に詰まった大量の唾を飲みこむと、冷静さを装って「ちょっと待て。 そこで切られると大量の血がそこらじゅうに飛び散って大変だ。」と言った。 
 「……血が飛び散るか。」奴は一面白で覆われたキッチンを見渡し
 「俺の自慢のキッチンが汚されるのは絶対に許さねえ」と声を荒げた後包丁を持ったままその場に座りこんで寝始めた。 ああ、まったく、やっかいな連中だ。 後ろではまだソファのスプリングがぎしぎし鳴ってやがる。 うるさい!







エントリ3  GA     ヒロトモ



 見たこともない黒い蝶が、僕の目の前をヒラヒラと舞っていた。それは一見落ち葉のようでもあったし、また得体の知れない鳥の羽のようでもあった。
 三本目のタバコの灰がポトリと落ち、いつのまにかフィルターにまで火が移って、あたりに嫌な臭いが漂い始めたとき、僕はちょうど三年前を思い出していた。
 黒い蝶は力尽きたように地面に落ちると、二三度羽ばたいて動きを止めた。

 僕たちはいつものように酒を飲んでいた。彼はマティニを舐めるように飲み、僕はレッドアイとピーナッツを交互に口に運んでいた。店には他に客はおらず、バーテンはカウンターの奥で電話ごしに女と口論をしている。
「なあ、俺たちがいつかジジイになったとき、何を良しとし、何を悪しとするか想像がつくか?」
 僕は彼のその質問に対し何も答えなかった。なぜなら彼の酒とタバコで濁った目は、僕の遥か頭上に向けられていたし、ピーナッツの薄皮が上あごにくっついて、答えるのが面倒くさかったからだ。彼はもう一度前を向きなおすと、僕の答えなどはなから求めていなっかたように、再び話し始めた。
 「つまりさ、俺が言いたいのは、世界はもともと二分化されているってことなんだ。俺たちが歳をとって最終的にどういられるかってことさ」
 正直、僕には彼が何を言いたいのか全く持って解らなかった。それは今も、ずっとだ。

 黒い蝶は深呼吸をするように、もう一度ゆっくりと羽を動かした。しかし、飛び立つ気配はそこには、なかった。その瞬間、僕の心の中にチクリととげが刺さった気がした。それは蝶を見たせいなのか、それとも三年前を思い出したせいなのかははっきりとしなかった。しかし、その答えがわかったからといって、このふとした痛みが消えるはずもないし、黒い蝶が白い蝶に変わるわけでもない。つまり、答えには何の意味もないのだ。そんなことはわかりきっていた。けれども僕はあの日のことを頭から消そうとし、黒い蝶から目をそらした。風が強く吹き付けた。

 僕がだいぶ酔っぱらい、店の脚の長い椅子から滑り落ちそうになりながらトイレに向かったとき、彼はすでに便器の中に顔を突っ込んでいた。僕が揺すって起すと、彼は眠たそうに顔をしかめ、僕を何度か突き放そうとしたが、突然目を見開いてこう言った。
「人殺し!」
 
その通りだった。僕は人を殺した。

バーテンの口論はトイレにまで聞こえてきていた。







エントリ4  旅と人     松原正一


東京23時43分発のムーンライトながら号に乗り、大垣へそしてそこから各駅停車に乗り、そして僕は宮島口にいた。多くの町を通ってきたが、正直よく覚えていない。なぜなら、それらの町は今までのクラスメートのように、人生の中で確実に出会いながらも、ただの存在であり、僕にとって必要ではないからである。僕がここに今ここに居ることも決して、必要であったからではない。ただ僕の中で、無意識と言う経験の中で何かがあったから、あえて必要にしたに過ぎない。宮島口の駅から5分ぐらい歩くと、宮島行きの船に乗れる。宮島とはいわゆる日本三景の一つである。そして僕は宮島に降り立った。観光地というだけあって厳島神社に行くのは簡単だった。人が僕の道しるべであった。砂浜と土産屋そして人に囲まれ、この奇妙に交じり合う決して珍しくはないだろう空間を僕は、異人になった気分で、不安と特異さを感じながら歩いた。神社そして鳥居は当たり前のようにそこにあり、潮がひいてるため鳥居の周辺では記念写真を撮るものがいた。ただ、みんな、この有名な鳥居への興味はすぐに失せ、海に移っていた。僕もまた同じであった。僕は道路横にある石に腰を掛け、海を見ているようであった。どれほどの時間が過ぎたか、僕を呼ぶ声が聞こえた、一人の関西弁を話すおばさんであった。写真を撮ってくれとのことであった。僕の気持ちは無視されたが、協力した。おばさんはそれが叶った後も、僕に話しかけてきた。僕に一枚の宇宙から撮った地球の写真を見せ、これ古本屋で安く買ったんだとか、僕にとってなんのメリットもない話を延々としてきた。僕はただ隰・いていた。しばらくすると船の時間だといい、立ち去ろうとした。その時、そのおばさんが僕に100円玉を握らせ、ジュースでも飲みなといって、立ち去った。僕はお礼を言ったが心の中では、100円じゃ缶ジュース一本飲めないと思った。また時間がたった。もう船に乗っているはずであるおばさんが走って僕のところに来た。僕に50円を渡し、ここは100円じゃジュース飲めないみたいと言って、笑いながら、言ってきた。そして、すぐ立ち去った。その後も僕はしばらくそこにいた。夕日を見ながら、少しやるせない気持ちになっていた。いつの間にか日は沈み、潮も満ちてきた。僕は潮が満ちるのを確かめるとその150円を握り締め、帰ろうと思った。ここに来て良かった。そう素直に思えた。







エントリ5  龍騎士     松本 拓也


昔世界では2度も世界戦争が起き、戦争は5年続いた・・・・・・この戦争による被害者は何百万を越えたしかし被害はそれだけではない!原始爆弾の放射能によって変化した動物たちがドラゴン(龍)となって生まれてきたのだ。それから10年後・・・・スペリカという国のオスリアという町にルカと言う一人の少年が住んでいたその少年は幼い頃に戦争で両親をなくし1人でここまで育っていったのだ。ルカはもう16歳もう立派な大人だ。あの戦争が起きてから邪神龍オスタリアを倒すために15歳を過ぎた日とは自由にドラゴンを連れ旅に出ても良いという法律が世界各地で、できた・・・しかしその法律を見て旅立った何千人の龍騎士は帰ってこない・・・・しかもオスタリアの攻撃はすごく北東の大陸にある国オリンピア共和国は1ヶ月前に崩壊した・・・そのオスタリアを倒す為に今一人の少年が立ち上がった!
第一話 『他国への旅立ち』
このスペリカという町はオスタリアの制服している国『聖地アレシア』に遠い国だったので被害はなかった。なので隣の国アスカンに行くことを決めた。でもやっぱり行く前に今までお世話になった酒場にお別れを告げに行くことにした・・・。
カランカラン 酒場の亭主(ルドルフ):お!ルカじゃないか!どうしたんだ? ルカ:ルドルフさん俺旅に出ることにしたんだ・・・ ルドルフ:そうか・・・・あのお前が龍騎士にねぇ・・・・まずはどこにいくんだ? ルカ:俺は今ドラゴンの被害を受けているセンドミリカに行きたいんだけど遠いからなぁ・・・まずはアスカンに行くことにしたんだ。 ルドルフ:そうか・・・ルカ!俺に息子も龍騎士になる夢を持ち旅立って行った。でも今になっても帰ってこない・・・息子が前に一度だけ帰ってきてくれた事があったあの時に俺にこのドラゴンをとくれたそこでお前にもらって欲しい・・それがこいつだ。名をルードという。 ルード:キュゥゥ ルカ:え?でもいいのかい?息子さんのくれた最後のプレゼントかもしれないのに・・・ ルドルフ:バカヤロォ〜今でもあいつはどこかで生きてるさ・・・もっていきな・・・ ルカ:有り難う・・・ ルドルフ:後俺のバカ息子が何処かにいたら俺が早く帰ってこいって行ってたぞと伝えてくれ。息子の名はロキという名前だ・・頼んだぞ! ルカ:うん!じゃあね おじさん〜 ルドルフ:お前も早く帰ってくるんだぞ! カランカラン 
ルカ:さてじゃあアスカンへ行こうな!ルード! ルード:キュゥゥ〜
第二話 『初めての戦い』
ルカ:へぇ〜ここが文明都市アスカンかぁ〜いい所だなそう思わないか?ルード! ルード:キュキュゥ〜♪ルカ:やっぱりそうだよな〜ってこんな事してる暇はないぞ!!急いで町に行こう!! ルード:キュキュゥゥ!! ルカ:ん?なんでもっと早くに言わなかったんだって?このえらそうにしやがって〜(笑)ルード:キュキュゥ〜♪
ルカ:ハァハァやっと町に着いたな・・・・町民:うわぁ〜〜〜 ルカ:どうしたんですか?? 町人:ま、町にドラゴンが出たんだよ!急いで逃げないと殺されちまう! ドラゴン:グォォォォォ 町民:ウワァ・・・・ グシャ・・・ボォォ ルカ:見てられないいくぞ!ルード! ルード:キュゥゥゥ!!! 
ルカ:くらえぇ〜ルード極熱火炎だ!! ルード:キュウ!!ボォォォォォ!!!!
ドラゴン:ゴォォォォォ!!!ガハッ・・・・・バタ・・・ ルカ:・・・・・やったぞ!!ルード初勝利だ♪ ルード:キュゥゥ♪キュウゥ・・・・・・バタ・・ ルカ:どうしたんだ!!ルード!目を覚ませ!! 謎の男:大丈夫だ大したことない、ただ力を使いすぎて寝ているだけだ! ルカ:有り難うございます!!!!あなたは・・・いったい・・・ 謎の男:俺か?俺の名はロキというまた会おう!バサッ!バサッ!バサ!バサ!ロキは龍に乗り空を飛びながら消えていった・・・ ルカ:ロキって言ってたなぁ〜もしかして今の人がルドルフさんの・・・・・ 町民:有り難うございます。これお詫びの印ですこの町に向かしから伝わられている伝説の剣です。どうぞお使い下さい! ルカ:有り難う!さぁいくぞ!ルード!!ってまだ寝てるか(笑)さてルードでも負ぶっていくか(笑) 町民:いつでもこの町に寄っていってください私たちはいつまでもあなたを待っていますから・・・ ルカ:うん!じゃあまたな〜!
第三話 『残酷龍軍団』
ルカ:フゥ〜こいつも重くなったなぁ〜 ルード:キュゥゥ〜♪ ルカ:お前いつの間におきたんだ?何!!さっきからおきてたって??このやろ〜〜(笑)ルード:キュゥ〜  ルカ:ん?何だって?町から火の手が上がっているだって?本当に上がってやがる!いくぞ!!
これが町・・・・?何もないただの焼け野原だ・・・ 町民:ううう・・・生きてるのは俺だけか・・・ ルカ:いったいどうしたんですか? 町民:龍軍団が攻めてきやがったんだ・・見ろこの焼け野原を これは全て§ウイングドラゴン§のせいだ!しかも奴らは喋れる! ウイングドラゴン下っ端:まだ生きてたのか死ねぇ!!ボォォォ 町民:グワァ〜 ルカ:貴様!!ゆるさん!いくぞ!ルード! ルード:キュゥゥ!! ルカ:くらえ!!おりゃ!よけたのか?何だったんだ今のは・・・・ ウイングドラゴン下っ端:俺達の取り得は高速で動けることだからな!! ルード:ボォォォォォ!! ウイングドラゴン下っ端:グワッ!このやろう!!ギシャ! ルード:ギャォォォ!! ルカ:ルード!!大丈夫か? ウイングドラゴン下っ端:隙を見せるな!! ロキ:まて俺が相手だ!!やれ!オスタール!!グォォォ!ボォォォォォ! ウイングドラゴン下っ端:グワァ〜・・・バタ・・・ ロキ:危ないところだったな!無理はするな。 ルカ:すいません・・・あなたまさかルドルフさんの息子さんですか? ロキ:お前なぜ親父の事を知っている・・・この龍はルードつまりあなたがルドルフさんにあげた龍ですよ! ロキ:そうか・・・で?何のようだ? ルカ:ルドルフさんがもう一度だけ戻ってきてくれと言ってくれと言われています。 ロキ:フム・・久々に帰るのも良かろう・・お礼と言っちゃなんだがお前にいい情報を教えてやるよ。明日アルダムで龍騎士武道大会があるらしい俺も出ようと思ったのだが諦めよう代わりに優勝してきてくれよ! ルカ:はい!解りました! ロキ:じゃあな! ルカ:また会いましょう!
第四話 『アルダム武道大会』
アルダムかぁ〜遠いなぁ〜でも行かなくちゃな・・・船付き場があるぞ?乗ってくか!!! ルード:キュゥゥ♪ ルカ:嬉しそうだな(笑)出航まで後三分だぞ!!急げ〜〜 ルード:キュゥゥゥ!!!! ルカ:何とか間に合ったようだな・・さてもう寝るぞ!ルード! ルード:ス〜ピース〜ピー ルカ:ってもう寝てるよ(笑)さて俺も寝るか・・・・・・・ 次の日・・・ ルカ:ファァ〜もう朝か〜 放送:間もなく城塞都市アルダムに到着します。 ルカ:もう着くのか。オイ!ルード起きれよ〜〜!! ルード:キュゥゥ・・・・ ルカ:ハハ眠そうだな(笑)
さてここがアルダムかぁ〜。どこで武道大会やってるんだろう?ちっと聞いてみるか。すいませ〜ん武道大会はどこであるのですか? 町民:ん?武道大会なら首都オンカケリで行われるよ。 ルカ:有り難うございましたm(_ _)mさぁいくぞ!ルード!!! ルード:キュゥゥゥキュゥ〜♪ ルカ:後少しだ頑張れルード! ルード:キュゥ・・・・ ルカ:あれ?何だ?あの人だかりは・・ちょとすいません・・・フゥ〜やっと通れた・・・何をやってるのだろうか・・・・



※作者付記:まだ4話目(途中)です^^;私のサイトに入らしてくれれば乗せています^^



エントリ6  ぼくの名前は     飯島辰裕


 彼女はぼくにいいました。
「あなたは自分がなんて名前か、わかる?」
 ぼくには口がありませんでした。
 彼女はぼくにいいました。
「わからないの? あなたの名前は……」

 ぼくがひからびて死にかけていたとき、彼女はどこからともなくあらわれて、ぼくに水をくれました。ぼくはそれを一気に飲み干しました。それから顔を上げて、その先にある彼女の顔を見ました。彼女はやさしく笑っていました。ぼくはいっぺんに彼女のことが好きになってしまいました。
 彼女は毎日のように僕のもとへやってきました。そしてぼくに水をくれました。ぼくがそれを飲み干したあと、きまって彼女はぼくに話しかけてきました。しかしぼくには口がありませんでした。そのあいだ、ぼくから話しかけることはありませんでしたが、それでも彼女はかまわずに、色いろ話しかけてくれました。彼女は怒るそぶりすら見せずに、ただぼくのことをじっと見つめながら笑いかけたり話しかけたりしてくれました。ぼくは彼女の声を聞くのが楽しみでした。ぼくはとても幸せでした。彼女のことがますます好きになりました。それを伝えることは、かないませんでしたが。

 すっかり日が長くなった夏のある日、いつものように彼女と過ごしていました。その日の彼女はいつもに増してうれしそうに見えました。それがなぜなのかはわかりませんでしたが、彼女が笑うすがたを見ているだけで、ぼくは安心をすることができました。そして彼女はぼくにいいました。
「あなたは自分がなんて名前か、わかる?」
 ぼくには口がありませんでした。
 彼女はぼくにいいました。
「わからないの? あなたの名前は……」

 彼女はそのあとの言葉を継ぐ前に、あるいは継いだあとに、ぼくのからだをぎゅっとつまんで、上のほうに引っぱりあげました。痛い! ぼくのからだは、おなかのあたりから簡単にちぎれてしまいました。彼女につりさげられたまま下のほうを見ると、そこにぼくの足がころがっていました。
 信じられない気持ちで彼女の顔を見ました。しかし彼女はうれしそうに笑っているだけでした。ぼくはそれを悲しく思いましたが、自分の死が間近に迫っていることをしって、最期の力をふりしぼって「愛してるんだ」と叫びました。それは声にはならなかったのに、彼女は「愛してるよ」といって、ぼくの頭にキスをしてくれました。薄れていく意識のなかで、彼女の瞳に映り込んだぼくと、ひらひら舞い散る一枚の花びらを見ました。







エントリ7  花瓶と写真     千早丸


「お前の絵、綺麗だな」
 高校の、美術部の先輩からそんな評価をもらったのは、二度目だった。
 最初こそ「ありがとうございます!」喜んだが、真面目な顔で「いや、誉めてない」返されて、困惑した覚えがある。
 私はこの時、県の学生コンクールへ出品する為の絵を描いていた。テーマは「花」。だから花屋で(ちょっと奮発して)花束を作ってもらい、それをお気に入りの花瓶に生けてスケッチしていた。
 部活時間の後も居残って、そこへ忘れ物をした先輩が来て、この台詞。
 これで二度目。どういう意味で言っているのだろう?
「言葉通り」
 口数少ない先輩は、あっさりと言う。
 でも、私は知っている。本当は、コンクールに出品を勧められたのは、先輩の方。それを「描きたいモノがない」断わった。
 どういう意味? 馬鹿にしてるの? 自惚れてる? たかがクラブ活動って、気にもしていない?
 私は、真剣に描いているのに!
 しばらく無言で私と絵を見比べていた先輩は「そうだな」ボソリと言う。
「綺麗なモノを、綺麗に描いてる。上手いよ」
 それだけ言って、出て行った。

 絵はコンクールで5位に入賞した。
 でも、在学中の記録は、それだけで終わった。

   ◇

「それ」を見つけたのは、社会人3年目のこと。
 事務職で、面倒な手順の仕事は失敗ばかりだ。
 本当はイラストレーターになりたかった。私の絵は誰に見せても「綺麗で上手い」褒められた。――けど、どのコンテストに応募しても没ばかり。
「遊びは終わりよ! 現実を見なさい!」
 親に言われて、諦めた。しかし現実は、平坦でつまらない。
 だから時々、思い出す時、美術関係の雑誌など買う。
「それ」は、その時に見つけた。
『桜雪』
 新人コンテストの写真部門で一位入賞していた作品は、そう題名がついていた。
 白黒写真で、桜並木を撮ったらしい。舞い散る花弁は白く、雪のようで、画面の中心に女の子がいた。
 小さな、髪の長い女の子。スキップでもしているのか少し爪先が浮いて、長い髪が羽根のように広がっている。手も一杯に広げて、はしゃいでいた。カメラなど意識していない笑顔は可愛くて、白黒写真なのに、春の陽差しを感じるほど暖かい。
 投稿者名前は、あの、先輩だった。
 入賞のコメントは「ありがとうござます」一言だけ。
 雑誌を呆然と見やって――

 ああ、貴方は。
「綺麗なモノ」ではなく、
 綺麗だと「感じたモノ」を描きたかったのか。

   ◇

 私はその夜、布団に包まって、一晩中泣いた。


終わり







エントリ8  夏の課題とスプラッタ     ヘビトンボ


「ふう」
 八月も中頃、俺は夏休みの課題を終え、データをCDに保存した。そういやこの前、教科書が紙からDVDに変わって五年目ってニュースをやっていた。
「さーてあとはゆっくり休むかね」
 どうせなら学校へ行く用意まで済まそうと、古臭い鞄を開ける。
「げ」
 そこには『追加課題』とプリントされたCDがあった。恐る恐るドライブに掛ける。
「自由研究・・・高校生にやらすのか?」

 その後一週間何も思いつかないまま日が過ぎた。教師たちが最近の若者の想像力がどうのこうの言ってたがあながち間違ってはないな。

 こうなったらテキトーに終わらす他ないと、読んでいた古典の教科書を閉じ、ノートパソコンのキーボードを叩く。
「動物は本当に恩を返すのか、と」
 読んでいた本は『鶴の恩返し』だった。
 
「あー甘かった。都合よく罠にかかっている動物なんている訳ねえ」
 何か助けて即、「恩返しは無かった」で終わりにしようと思ったのだが。
「あ!」
 川原を歩いていると運良く罠にかかっている動物を見つけた。そういえば温暖化による熱帯雨林気候化がなんとかかんとかで大量発生が問題になっていた気がする。役所が罠を仕掛けたのだろうか。

「元気でなー」
 ケージのストッパーを外すと川に入っていく一メートルほどの比較的小さい奴を俺は見送った。

 家に帰り自室で「恩返しは無かった」とレポートを作成していると玄関のドアがガチャガチャと音を立てた。不審に思いながらもドアを開けるとそこには中学生位の女の子がいた。
「恩返しに来ましたっ!」
「は?」
 夢か?いたずらか?
「あのっ、これっ、どうぞ、食べてください!」
 この夏発売された急なスコールも大丈夫が宣伝文句の耐水バッグが妙に膨らんだ形で差し出された。
「あ、ありがと、って重っ!」
 ジッパーを開けようとしたら止められた。
「あたしがいる間は絶対に見ないで下さいっ!」
 そのセリフ、ここで使うか・・・。
「分かった」
「それじゃあたしはこれでっ、ありがとうございましたっ!」
 女の子は走って家の前の用水路に飛び込んで行った。

 九月一日、俺はいつもの古臭い鞄ではなく女の子にもらった耐水バッグを持って登校した。
 今、朝のホームルームで教師が俺の隣の席の女が夏休み中に行方不明になったと言っている。そして俺は机の横に掛けてあるバッグを見て、これをくれたワニの女の子と、中にバラバラになって入っていた隣の席の女を思い出すのだった。







エントリ9  真夜中     泉咲樹


 もう深夜の十二時が近かった。次の日になるまであと二十分足らずといったところだ。真っ暗な裏路地に入るとそこには、目立たないが常連客でいっぱいのカクテルバーがあった。店名は「デヴィル」といった。
 俺がこの店に通い始めてもう、何年が経つだろう。忘れてしまった。それくらい、常連になっていた。「デヴィル」には、いつも独りで通う。
今日も独りで「デヴィル」のドアをくぐる。このバーの閉店時間というのは、だいたいお客が居なくなってからときいている。だから、時間を気にした事はないし、今まで閉店にお目にかかったこともない。それに、年中無休。
「いらっしゃい」
恰幅の良い腹の出っ張った人の良さそうな顎鬚のマスターは、俺を見るなり目を細めた。
俺は、軽く会釈する。笑いかけられることが苦手なので、それが精一杯だ。
店内には、人がいる。広くない店内で、カウンターの他には、黒いテーブルを取り囲むようにしてある四脚の椅子のセットが四組あるだけ。照明は、薄暗い。一番奥のテーブルに掛けている若い男女二人ずつの四人とその横にあるテーブルにはカップルの二人組。カウンターには、女性が一人で座っていた。黒くて長い後姿だけで、綺麗だと思った。濃いグレーのスーツをきっちりと着て姿勢も良い。
俺は、いつもの勝手に決めている指定席に座る。右から三番目の位置だ。カウンターにお客の椅子が十脚ある。真ん中でもなく端でもないその微妙な控えめな位置が気に入っている。たまたま、カウンターにいる女性と一つ飛ばしになる。彼女は、左側になる。
その横顔を盗み見ると、知的な顔立ちをしているのが判る。
マスターは、俺を見るなりいつものカクテルを作ってくれていた。
「元気がないね。顔色も悪い。どこか具合でも? ちゃんと、食事はしてる?」
マスターは、誰にでも良く話し掛ける。他人の状態も気にしてくれている。
「元気が無いのはいつもさ。具合が悪いわけでもない。ただ、少し空腹かな」
実際、俺は、ここ三日程食事をしていなかった。水とアルコールで栄養を摂取している。それでも生きていけるものだ。
「若いんだからちゃんと食べなきゃ」
「食べる事に執着がないもので」
マスターは、俺のことを二十歳前ぐらいだと思っているらしい。確かにそう、見えるかも知れない。黒い革のパンツとジャケットに金髪。体つきも華奢な方だ。顔も幼い。
いつもの赤いカクテルが俺の前に出された。
俺は、隣の彼女に興味を持ち、話し掛ける。
「一人?」
女性は、少し驚いた顔をしてこちらを向いたが、やがて、笑顔に変わる。
「そうよ」
声もハスキーで俺好みだ。
「何かあったのか?」
「何も。どうして、そんなこと言うの?」
「女が一人で飲んでいる時は、統計的にみて落ち込むことがあった時だ」
「統計的? 貴方が調べたの?」
「そうだ。俺の統計」
「面白い人」
彼女は、にっこりと絶品の笑顔だった。
「どうかしたの?」
俺は、あらためて尋ねる。
「貴方に言ってもしょうがないことだけど、仕事でね、失敗して、上司から怒られてさ、落ち込んでるの」
彼女は、そう言ってため息を一つ。
「仕事のことか。俺は、てっきり、失恋かと思った」
「安心した?」
「したよ」
どうも俺の笑いというのは、企んだ感じになってしまう。
「貴方では、私が癒せないわよ」
軽い牽制。それが、余計に悪戯心をくすぐる。無理矢理にでも……。
俺は、今夜食事をすることに決めた。
俺は、気に入った人しか仲間にしたくない。
だから、なかなか食事が出来ない。
自分のために、自分の仲間を増やす。
自分のために、自分を犠牲にして。
自分の気に入ったものしか欲しくない。
これは、俺のエゴなのか?
それで、俺は幸せになれるのだろうか?
嫌なモノを避け続けて。
俺は、ヴァンパイヤ。
人の血を吸うことで仲間を増やすヴァンパイヤ。もう、何百年もそうして生きている。
「貴方の名前は?」
「セラ。君は?」
「レイよ……」
END







エントリ10  かくれんぼ     翔


 ある晴れた日、智はいつものように学校へ向かった。そして、いつものように近くの丘に登る。ここだと住み慣れた町でも低くなった気分になる。三年前、偶然この場所を見つけてよかったと思う。そうじゃなかったら今ごろは何にもないこの町で普通の生活をしていたに違いない。それがどんなに苦しいことなのか、友達を見ていれば、手にとるようにわかる。最近は、もしも今あの生活に戻ったとしたらと思えなくなっていた。
 ……さて、学校に行くにはまだ時間がある。今まで行ったことのないでも林に行ってみようか……
 その林はここからそう遠くないところにある。しかし、そこは昼でも暗く、木々が茂っているので、誰も踏み入れようとはしないところだった。しかし、その林はここから見ると大して大きいものではなかった。直進距離にして約1キロくらい。遅くとも5分くらいで林から出てしまうだろう。5分なら今から行っても学校には間に合う。

 どうしてか、今まではそこに近づきたくはなかった。それは、その林から感じられるただならぬ気配のせいかもしれない。昔、祖母からこんな話を聞いた気がする。『その林は多くの人が死んだ場所なんだよ。原因は今でもわからないんだ。でも、夜になるとその林の中から声が聞こえてくるんだよ。「助けて……」っていう声が。だからおまえは何があってもあそこへ近づくんじゃないよ。』
 怖がらせようとしていたのではないことは幼い私にもわかった。今まではその約束を守っていた。だが、どうしてもそこでなぜ人が死んだのか理由を知りたかった。祖母を裏切るようで少し後ろめたい気持ちもあるが、やはり好奇心には勝てない。
 林の前までくると、何か、とんでもないものがいるような気がしてその場を逃げ出したくなった。だが、それと同時に好奇心が高まっていくのも感じた。行くかどうか少しためらったが、結局林への一歩を踏み入れた。やはり、一生私は好奇心には勝てそうにない。
 林の中にいると、時間感覚がなくなる。今入ったばっかりの気もするし、もう何時間もここにいるような気がする。だが、確かなのはここには自分以外にも人がいることである。さっきからずっと話し声が聞こえる。小さくてよく聞こえないが、女の人の声のようだ。
 ふと声が聞こえなくなったと思ったら急に目の前が真っ暗になり、地面にドサっと倒れこんだ。同時に私は自分の中から何かが出て行くのを感じた。声が聞こえる。
「智ちゃん見っけ!」



※作者付記:……この物語にはある事件が関係していた。そう、これは今始まったものではなかったのだ……



エントリ11  世界の終わりに見たもの     メビウス


"皆さん、落ち着いて!まだ時間はあります!"
"シェルターの入り口はここです!皆さん一列になって…"
3004年1月18日…世界は人間の手によって滅ぼされようとしていた。今から2年前、世界各国が資金を提供し、隕石から地球を守るためのレーザー搭載人工衛星、WHシステムが完成した。世界中の皆が笑顔だった。しかし、その32分後には笑顔は恐怖に一変した。WHシステムにバグが発生、2年後の日本を攻撃すると表示し、通信が途絶え、コントロールが出来なくなった。地球を隕石と認識したのだ…

1月17日 街中はがらんとしていた…。少年は歩き疲れたのか道路に寝そべっている。逃げる気はなさそうだ。
「明日は誕生日か…」そう思いながら空を見上げる。空気が汚れているためか星は見えないが、月ならなんとか見える。綺麗ではない。
「何してるの?」いきなり声をかけられた。
「別に、星を見てただけだけど」適当に答える。
「逃げないの?」
「死ぬとかどうでもいいから」そう、どうでもいいんだ…。
「あんたはいいのかよ」
「別に」
「あんた、名前は?」
「三神雪。あなたは?」
「黒野鋼。珍しくないよな、コウなんて名前」この名前をつけた親はもう逃げてしまった。5時間前に、俺を忘れて…
「ちっ、明日は誕生日だってのに」
「…私も同じ誕生日だけど」
「珍しい。こんなこともあるんだな」昔なら大騒ぎしただろうな…。
あと30分…あと30分で俺は死ぬ。実感が無い…死に対しての…。
「日の出、見れるかな?」そういえば朝日を見たことが無い。
「さあ」
「一回でいいから見てぇな…」はぁ、とため息。
「早く起きたこと無いの?」グサリと刺さる。2年前までは遅刻の常習犯だった。2年前までは…
「な、無いな。てか今何時だ?」
「あと5分で終わるわよ」早い。もう25分たったのか…
「見れないか」
「みたいね。日の出まであと1時間あるし」最後に見たかった。

「カウントダウンでもするか!!」いきなりハイテンション。
「いいわね。あと30秒」は?なんですと?
「だから…あと20秒」いきなりだな
「10…9…8…7…6…5…4…3…2…1」
突然、雲が渦を巻く。その渦の中心の穴がどんどん広がっていく…
光が見えた。凄まじい光が。その光がまっすぐに地面に伸びていく。いくつもの光の輪を形成しながら…
強い衝撃。大爆発が起こり、まるで隕石が落下したかのようだ。一瞬で空は赤く染まり、ビルは飴のように溶けたりしている。鋼たちの意識は途絶えた…

暗闇…いや、小さい光が見える。
「気がついたのね」雪がいた。てかここどこだよ?
「宇宙…かな?」いやいや、地球とか太陽とか無いし。
「ちょっと前に大爆発したわ。同時に」ワヲ!じゃあなんで俺たちは生きてるんだ?
「生きてるとは言えないけど、思いだけ生きているというか…」あぁ、幽霊ね。納得納得
「これからどうする?」
「朝日が見れる星に行きたい」
「いいわね…じゃあ行きましょうか」


彼らは死んだ。間違いなく。だが、彼らは生きている。間違いなく。いつまでも…







エントリ12  白雪     椿


「雪が好き。」
そう言った彼女の声が今でも聞こえるのは、やはり今もまだ確かに僕の中に彼女がいるということなのだろう。
冬が来ると、決まって彼女は窓のカーテンを開け、吹雪くような模様の雪でも、静かな模様の粉雪でも、黄昏るように眺めるのだ。
窓際に寄りかかり、ただ雪を眺めてるだけの彼女は、付き合う前から綺麗だと感じていた。
普段は大人びた格好をする彼女がそうして雪を眺める姿は、存外に意外な一面なのかもしれない。彼女を知る僕の男友達も、「子供っぽい」やら「無邪気すぎる」やらと僕に聞かせてくれるのだ。
何も嫌いなわけではない。雪を見ることが。
ただ・・・・
「すぐに溶けるじゃないか。」
窓の向こうで舞う雪を眺める彼女に、僕は決まっていつもそっけなくそう言う。多分に、ベッドの上で裸のまま放ったらかしにされてるみたいだ、と思ってしまってるから皮肉を言いたいのかもしれないが・・・
だがそれでも彼女は、夢を信じる子供のように・・・
「だって、綺麗じゃない。」
と、笑顔で答えるのだ。
その度に想う・・・初めて惹かれたのがこの笑顔だったんだ、と。
だけど今はもう、雪が好きな彼女を抱くこともないし、彼女が好きと言った雪を、今では愛せない・・・。

「今日も、雪だね。」
墓前の前で僕は涙をかみ締めて語りかけた。当然、答えてくれる声なんてここにありはしない。
去年の暮れ、交通事故に遭い、即死−
知らされた瞬間、脳裏で霞んでいったのは彼女の笑顔と、その先に広がる雪だった。同時に、僕が雪を愛せなくなっていた。

『雪なんか・・降っても最後には溶けてなくなるじゃないか。』
『でも、綺麗じゃない?それに、最後には溶けてしまうかもしれないけど、溶ける最後の時まで、一生懸命白く輝いてる雪が、可愛いじゃない。』

墓前で、生前の彼女との会話を想い返す。
だが彼女が再び笑いかけることなどない。

「・・・ほら・・・雪は溶けて・・・消えるじゃないか。」

気づけば、今朝から降っていた雪は止み、雪と代わるように流れた僕の涙が、積もった雪に溶けた。







エントリ13  チャリンコ日本一周     忠 美希生 


 「お前の父親は、まだ生きとる……」それが、息絶える前に母が僕に残した、遺言だった。
今だからこそ、もっと他に言うことはなかったのかと、皮肉も思いつく。
例えば「お前を愛してるよ」とか、「へそくりは台所の床下に埋めてあるからね」とか……。
本当は、父親のことなんてどうでもよかったんだ。母が生きてさえいてくれたら。

 行き場のない思いを抱えたまま、僕は袴田のおじさんと旅に出た。
僕の父親を捜す旅へ。
 袴田のおじさんというのは、母の親しかった古くからの友人達の一人だ。
そして、母を亡くした僕を高校に通わせてくれた人だ。
奥さんは気さくな人だし、そのチビどもは僕の舎弟みたいなものだった。
最初は、養子の話もあった。僕は、即答して断った。
袴田一家が嫌だったわけでも、変に意地を張っていたわけでもない。
ただ、名字が篠崎から袴田に変わることだけが、単純に受けつけなかった。

 出発したのは、高校を卒業してすぐの春休みだった。
そのことを袴田のおじさんに話すと、せっかくの有給休暇を使い果たしてまで僕について行くと言い張った。
僕は、何だかわくわくしていた。

 父親のために金をかけたくなかった僕は、チャリンコ日本一周を敢行した。
一応、当てはあった。全国に散らばる母の旧友を頼ることだ。
毎年母に届いていた年賀葉書の住所のどれかが、僕と父親を繋いでいると信じた。近場で横浜、遠くて北海道まで、見事に点々としている住所のおおよそを、地図に赤く標した。
袴田のおじさんが、せっかくだから遠い方から当たってみようと言った。
 本島を縦断して青森県の龍飛崎に着く前に、短い休みは終わろうとしていた。
見知らぬ土地で、僕達は派手に喧嘩をやらかした。
近場から当たればよかったのにと僕が言うと、男のくせに一度やってしまったことを後悔するんじゃないとおじさんは言い返してきた。
「じゃあおじさんは、今まで生きてきて後悔したことなんか一度もないって言うんだな!」そう僕が言うと、おじさんは辛気くさい顔つきになった。
「俺のように、お前には後悔の人生なんて送って欲しくねえんだ」煙草に火をつけながら、おじさんは不意にそう言った。
僕は、奥さんやチビどものことを思い出した。
一見何事もなく幸せそうなあの家庭に、おじさんは何を後悔しているのか……。

 父親捜しはそれっきりになった。
働き始めた僕のアパートに、袴田のおじさんはよく酒を飲みに来るようになった。   







エントリ14  デカダンス     YAIBA


数ヶ月過ぎてみると妙なことに、この自分以外誰もいない暗い部屋の空間の中で、前ほど顔のことに傷つかなくなったことに気付いた。いや、むしろ、この火傷の前の自分と今の自分がまったく変わらないという錯覚さえした。しかし心の中には、まだ警戒心があって、この心境を鵜呑みにすることを恐れていた。とはゆうものの、その裏腹にどうしても押さえ切れない喜びがこみあげてきた。彼女は落ち着いた心持で机の前の椅子に座った。なにげなく机の引出しを開けた。すると彼女はある物を発見した。それは一枚の写真だった。・・・彼女と恋人、楽しそうに微笑みながら写っている。こういった二人を眺めながら、彼女は彼のことを回想しだした。遠くを見詰めるような眼差し・・・特に彼の横顔は魅力的だった。オチャメを装いながらそれでいて時々見せる陰のようなものも心を惹きつけられるのだった。そうした彼を思い出すたび胸をあつくした。こうした心境に陶酔しながら目の前に安らかな光が差したような気がした。


彼女はもう、あからさまに悲観的にならなくなっていた。自分のいい所だけを見詰めるように心掛けた。鏡を見る時、彼女は焼け爛れた左の頬を映さずに右の頬を映した。そして前となんら変わらない美しい顔を見て安心するのだった。それどころかその美しさに惚々するのだった。そうしてこういうことを積み重ねていくうちに自己のナルシズムが回復していくのであった。こういった行動の原動力には常に彼の姿があった。ただ彼に抱(いだ)かれたいとばかり夢見ているのだった。
「さあ、これからどうしよう!私はもう我慢できない!あの人の所に行くのよ!」
そうして目の前の外界に繋がるドアのドアノブに手を掛けようとした。・・・その時、彼女の体中を一瞬、強烈なものが走った。それは少し前にもう忘れてしまったと信じていたものである。

・・・目の前には重い鉛のようなドアノブの付いた外界への入口があるばかりだった。


彼女は或小説から精神的恋愛に強烈に惹かれるようになった。それはたしか「赤いリンゴ」という題の小説だった。高い次元での繋がり、何者にも侵すことのできない絶対的な絆。自分がこうした永遠(ほんとう)の相手と巡り会うことができたらどんなに幸福だろう。そう考えるたびに胸が締め付けられる想いがした。そうして毎日毎日まだ見ぬ永遠の相手との生活を空想するのだった。彼女の脳裏には一人の男の姿が浮かんだ。しかし彼を想ったが早いか、それをこう否定するのだった。

彼との恋愛には物質欲的打算が存在し、それは精神的恋愛よりも物質的恋愛だ。そうであれば二人の間は必ずこの物質主義に毒され破局するだろう。

しかし、彼を忘れることはできなかった。いや、もしかすれば彼が永遠の相手かもしれないと脳裏に去来するのだった。しかし、彼の瞳の美しさ、胸に響く声、神秘性を秘めた心、そのあまりにも魅力的なのが彼女には恐ろしいのであった。畢竟、彼は自分の恋愛相手というよりもカリスマなのではないかとさえ思った。彼女のいう精神的恋愛の相手とは、彼を省いた誰かなのだと、一種の禁欲的な拘泥を無理にでも彼女自身に押付けることに努めた。彼女の永遠の人となりうる者は彼女と同じ境遇にいる者でなければならなかった。同じ苦悩、同じ感性、同じ顔、いわば自分の分身、自分の鏡を愛さねばならなかった。しかし、どちらにしても彼女自身にナルシズムの打算があり彼女の本意を鏡に映す勇気の邪魔をしていたのだった。彼女自身、物質社会の価値観に執着し、精神的恋愛をも遠慮せざるを得なくなってしまっていたのだ。もし、この観念から解放されたら、或は彼との精神上の繋がりがあったとすれば素直に認められただろう。或は繋がりが存在しなかったならば他の相手を何の躊躇もなく打算もなしに本能のままに探し出すだろう。しかし彼女はその両方も得ることはできないのだった。目の前に永遠の相手が出現しても彼女自身、相手を受け入れる器を持ち合わせていないのだ。そして結果、彼女の救いは眼前から消滅せられるのであった。


彼女の顔はあまりにも特異な性質が具わっているのだった。

左の頬を鏡に映せば、そこには絶望的に醜い女がいた。
右の頬を鏡に映せば、そこには稀な美貌の少女がいた。

これだった。彼女の凡ての苦悩の根源はこれなのだった。矛盾する二つの性質が同時に具わっていてそれに板挟みになった彼女自身の不安定さ、割り切れなさ、それが彼女の体を締付け、束縛し、それによって、もがき苦しみ、発狂し、苦しみから逃れることができなかった。・・・いや、この呪縛を解放する方法がまったくない訳でもなかった。現に彼女は苦しみながらも、この方法は常に脳裏を浮かんでいるのだった。しかし、それは彼女には最も恐ろしい方法であった。それは云うなれば「神の審判」とでも形容しえるものだった。

井の中の蛙が、この水溜りを頼りとして近々来る夏の日差しに水溜りが干涸びるのは明らかだが、それを知らない蛙は悠々と水中を泳ぐ。

こういった話を彼女に例えるならば、彼女はなにも世の中に対する無知さ、愚かしさを反省しようとは思わないだろう。問題は、近々水溜りが干涸びてしまうことを知者から知らせてほしいか否かである。これこそが彼女の最も恐れていた「神の審判」なのである。確かに、それを知れば自分の居る水溜りを諦めて他の場所を探し求め見付け出せば自分の命運は望みを帯びて来るだろう。しかし、それにはあまりにもこの水溜りに彼女が依存してしまっているのだった。その原因は何か?・・・それは、この水溜りが苦味を与える日もあるのと同時に、また、甘味を与える日もあるからだ。そのどちらか片一方だけに属しているのであれば「神の審判」を受け入れ安いかもしれない。しかし、この飴と鞭のような矛盾する二つの併用は、人間を畜生のごとくだらしなくさせ気力を失わさせ、この、いずれ干涸びる水溜りに服従させられてしまうのである。彼女は確かに苦しいのだが、「神の審判」を受ける勇気もなく、ずるずるとこの法則に従うのであった。



※作者付記:この小説は僕が20〜22歳の時に書かれたものです。これを書いている頃は精神が不安定であり、文章的にもその不安定さが露呈されているかもしれません。僕はこれを書いた2年後くらいに精神分裂病を患いました。この病気は苦痛を伴いましたが経験して良かったと今は思っています。
自己否定だった自分が自己肯定主義に変革したのは、この経験があったからだと思います。




エントリ15  幸せ     良慶


20XX年。
ついに人類の夢が完成した。
それは意外にも小さな研究所で、たった一人の男によって。

「僕はこれで・・・彼女に本当の幸せを与えることができる」

男はそう呟いた。完成したばかりのタイムマシンの前で。

男には愛する女がいた。
いつも無精ひげを生やしている男にはもったいないほどの美人だった。
しかし、女は自分の力で歩くことができない体だった。
3年前、女は交通事故で両足を無くしてしまった。
同時に、当時付き合っていた恋人も亡くしてしまった。

女は悲しみに暮れた。
もう戻らない足と、癒えることのない心の傷をかかえて。

男は、女とは昔から友達だった。
そして長い間、男は女に想いを寄せていた。
しかし美しすぎる女と、自分の姿を照らし合わせては、
「高嶺の花だ。」と諦めていた。

そんな時、女は両足と恋人を失い、絶望の真っ只中にいた。

男は懸命に女を励ました。
そして多くの愛を与えた。
女は笑顔を見せるようになった。

そして2人は愛し合うようになった。

男は幸せだった。
行き詰まっていたタイムマシンの開発も、うまくいきはじめた。
男は・・・幸せだった。

しかし男は気づいた。
女がふと見せる悲しみの目に。
女の傷は多くの愛を持ってしても癒えることはなかった。
目の前で恋人を失った悲しみは、消えることはなかった。

男は決心した。
女に本当の幸せを与えるために。
女の悲しみを消し去るために。

それから、男はタイムマシンの開発に没頭した。

そして今、ついに完成した。
男は女に電話をかけた。
会って話そうとも思ったが、会ってしまえば決心が鈍ってしまうと思った。

「最近連絡もくれないでひどいじゃない!」

「ははは・・・ごめん。つい研究に没頭しちゃって」

「もー!」

そんなたわいもない会話が続いた・・・1時間・・・2時間・・・
それでも男は最後まで自分の決心について話すことはできなかった。

「じゃぁ・・・また明日。」

「うん。ばいばい」

最後の最後に「愛してる」の一言すら言えない自分がはがゆかった。

「僕は幸せさ」
男はそう呟いた。
自分に言い聞かせるように。

そして男はタイムマシンに乗り、女が事故に遭った日まで時間をさかのぼった。

女の足をまもるために。
そして、女の恋人を死なせないために。

数時間後、女の記憶からは男と愛し合った3年間が消えていた。
その変わり、恋人と愛し合った3年間が記憶されていた。
今も女の隣にいる、恋人との思い出が・・・。
「愛してるよ」
女は恋人に笑顔で言った。

研究所では、斧で金属を叩き割るような音と、男の泣き声がこだましていた。







エントリ16  セカイノオワリ     むん


1つの世界が終わりを告げる。
君と俺とあなたとその他は、滅するのか。
今わの際にみた風景。
彼女が泣いていた。
涙を拭おうにも、伸ばした手は宙を切った。
それが哀しくて、泣きたくて、でも泣くことも出来ず。
彼女の名前を呼ぼうとした。

草を枕に寝転がっていた。
うたた寝って気持ちいい。
俺の一番好きな時間かもしれない。
太陽が丁度真昼間で、目を瞑っていても光が映し出されている。
春の暖かな陽気、春眠暁を覚えずだっけ?
まさにそんな気候、気持ちよすぎる。
ふいに、目の前がフっと暗闇になった。
「気持ちよさそうね。」
彼女の声。
寝たフリをして、ぐ〜とイビキをかいてみたりした。
影が遠のく。
また光の中にいた。
草の匂いに混ざっていい匂い。ぐぅっと、情けなくお腹が鳴いた。
「寝てるならいらないよね〜?」
そういって鼻に匂いを近づけ様としたのを勢い余ってか、ベチョっと唐揚げが衝突した。
「あ、ごめん。」そう言って、カラカラ笑う。
お、唐揚げじゃん。
起きあがりながらお弁当を確認する。
唐揚げがイッパイ。お握りはいびつだが、まあ愛嬌だ。
自然に唾液がじわっと口に広がる。
「起きた?」
今起きたかのように、わざとらしく欠伸をする。
フフっと春の様に彼女は笑った。
春の木漏れ日の中、お弁当を平らげた。
これだけで幸せを感じられる。
ホント単純な生き物だと思う。

檻の中の俺。
か細い声で泣く彼女に、慰める術を持たなく、無力感に苛まれる。
俺の事より彼女が心配だった。
彼女は強い、故に脆い。
俺が居なくなったら、彼女はまた次を探してくれるだろうか。
彼女を慰めてくれるヤツが現われてくれたら哀しいけど、嬉しい。
そう思えるほど彼女が好きだ。
こんな気持ち、彼女が教えてくれた。
愛するってこういう事なんだろうか。
俺は届かなくとも彼女を想っていた。

春は俺の体調もよく、こうやって外に出ては二人過ごした。
夏は体調を崩して、病院通いの日々だった。
一緒に着いてきてはいたものの、不安げな彼女の顔を見るのが嫌で仕方がなかった。
秋は気候のせいか体調が良い日が多かった。
だけど、刻々と迫る命の灯火に、彼女が泣く日が多かった。
落ち葉も、高い空も、紅い景色も全てがもの悲しく、遠く届かない。
俺の気持ちも、届かない。
そして冬、俺はもう駄目だと聞いた。

なんて早かったんだろう?
彼女と居た期間は短かったかもしれない。
俺はそれが世界であって、その世界が終わる。
長さより、深く深く刻まれた。

俺は最後に彼女の笑った顔が見たかった。
無理な願いだろう。
今わの際にみた風景。
彼女が泣いていた。
涙を拭おうにも、伸ばした手は宙を切った。
それが哀しくて、泣きたくて、でも泣く事も出来ず。
彼女の名前を呼ぼうとした。
反応するように、彼女がハっと俺を見る。
伝えたい言葉があった。
感謝の気持ちがあった。
人間の言葉を発する事はできないけれど、
精一杯の思いを込めて俺は擦り寄ってか細く吼えた。







エントリ17  運命奏者     桜樹鉄太


グラスを持とうとした刹那、氷が崩れてカランと鳴った。
バランス崩して波を立てて、氷が静かにカランと鳴った。
周囲を取り巻く喧騒に、あらゆる澱みを拭(ヌグ)われた音。
光に晒され浮かぶ塵の間(マ)を、ふわふわ漂い溶け込んでいく。

俺はカウンターの左端で、宙を舞い泳ぐその音を探す。
塵の隙間に溶け込む音に、時に同化するその刹那に、
ありもしないはずの救いを求め、じっと中空を追い駆けるものの、
放り出された罵声によって、音は砕けて散って消えた。
グラスに視線を戻してみれば、呑気にジンに浸(ツ)かる氷。
それでも二度と鳴らない音に、俺は懲りずに思いを馳せる。

グラスを伝う水滴が、カウンターの木目に流れ込んだ。
そんな些細な景観にすら、「運命」の意義を照らし合わせて、
水滴に濡らした人差し指を、木目に沿って軽やかに這わせる。
けれどもやがて水分は飛び、三度うねって木目は途絶え、
切れ目に達した人差し指は、行き場を失くしてストンと落ちた。
「運命なんてそんなもんさ」と、
俺は卑屈に諭って笑った。



妙にリアルな夢のおかげで、朝からずっと胸が重い。

「ママァ、ママァ」と抱きつく兄貴。幼児となって母にしがみつく。
背中を撫でる母の顔には、一つの笑みも浮かんでなかった。
昼夜ダイコンを刻む兄貴。まな板に積まれてく短冊の山。
声を掛けても返事はなくて、肩を叩いたらクスッと笑った。
まな板を叩く小気味よい包丁が、妙技で奏でる「無感情」。
ザクザクザクザク。トントントントン。
高々積まれた短冊が、崩れるその度兄貴は泣いた。
「どうしてすぐに負けちゃうの? どうして僕は勝てないの?」
怯えた表情浮かべながら、ダイコン見つめて震えて喚いた。

やがて兄貴は親父のビルから、その数奇な生にピリオドを打った。
兄貴の部屋にはうず高く、三千枚の履歴書の束。
三千個もの氏名の上には、二重の線が一様に引かれ、
何か契約の終いのごとき、上から押された血色の捺印。
僅か三行のシンプルな履歴と、特技に書かれた「料理」の二文字。
感情を失くした達筆ぶりで、整然と並べられた文字の列は、
何一つとして兄貴ではなく、それら全てが兄貴だった。
兄貴は運命を超越し、運命は超越をも呑み込んだ。
それすら兄貴は理解していて、それでも生を放棄した。
そんな風に思ったけれど、答えが何処かにあるわけじゃなかった。


「くだらぬものだな、運命だなんて」
隣に座った黒い男が、誰かに向かって言葉を放る。
俺はそれを無理矢理掴んで、角を削って放り返す。
「運命だなんて、くだらないか?」
「くだらぬものさ、運命だなんて」
男はテーブルで腕を組み、「くだらぬ、くだらぬ」と語気を強めた。
「もしも、運命があるのなら、」
男は静かにそう切り出す。
「人の未来にそれはなく、人の過去にそれはある」
「俺の過去にそれはあり、俺の未来にそれはない」
俺は小声でそう繰り返す。男は「そうだ」と相槌を打つ。
「もしも運命があるとして、自尽(ジジン)はそれを凌駕するのか?」
ふいに俺は男に問うた。
問いの四隅をしばし撫でた後、やがて男は口を開く。
「遺された者が決めればいい。
あるいは全ての死たるものは、運命の内にあるのかもしれぬ。
どうあれ死の意義の決定とは、遺された者の意思に拠るのだ」
男は黙って席を立った。男の背中に視線を移す。
黒地に光が反射して、肩口に降りかかる中空の塵。
丸みを帯びた背格好が、兄貴の姿と酷似していた。
俺はフフンと鼻で笑って、グラスの残りを飲み干した。
兄貴は今頃机に向かって、二千枚目の履歴書を前に、
寸分違わぬリズムを刻んで、ただただ名前を記(キ)しては打ち消す。
生の儚き終焉の義(ギ)を、遺された者の意思に委ねて。



――俺の過去にそれはあり、俺の未来にそれはない

未だ止まぬ喧騒の中に、漂い浮かぶ人々の過去。
裸にされた電球が、静謐な光でそれを照らす。
散りばめられた幾つかもの過去を、流れるジャズが繋げていった。

空になったグラスを手にし、二度と鳴らない氷の音に、
俺は懲りずに思いを馳せる。
そうして過去を紡ぎ繋げ、やがてそいつを運命に変える。

俺は木目を指でなぞる。水滴に浸した人差し指で。
俺は木目を指でなぞった。切れ目がくる度飛び越えて。







エントリ18  ずっとそばに     青春海夏


「おーい! お前の後ろに犬がいるぞ! 」
寝坊して遅刻してきた僕は外で農園作業をしていた隣のクラスの友達にこう言われた。振り向いてみてみると、そこには一匹の年老いた白い犬がいた。その顔はどこか心配そうだった。僕は気にせず再び学校の方へ歩きはじめたが、その犬はずっと僕の後ろをついてくる。一限目の授業は国語だ。このまま教室までついてきたらどうしようかと考えながら下駄箱の所まで来て後ろを振り返るとその犬の姿はもうなかった。翌日も、次の日もそれは同じだった。
 今日で4日目になる。バスを降りた時には確かに犬はいない。バス停から学校の下駄箱までの五分間足らずの時に、犬はどこから現れるかが気になり、僕は今日、バスを降りてから後ろ向きで歩いた。周りの生徒からは変な目で見られたが僕は少し前を気にしながら後ろ向きで歩き続けた。その時だ !
「キキキィーーー」
驚いて前を向くと、ただの古い自転車のブレーキをかける音だった。ホッとしたのもつかぬ間慌てて後ろを向き返すと、やはりその犬はいた。そしてボーっとしているうちにその日も下駄箱に着いた時に振り返るといなくなっていた。
 その日の午後の授業中、教室の窓から小学生と犬が散歩しているのを見て、昔飼っていた子犬の「シロ」のことをふと思い出した。名前はただ単純に白色をしていたから「シロ」と名付けた。その当時僕は小学校の一年生で学校へは休みがちだった。父も母も毎晩のように、
「先が思いやられるなぁ…」
と言っていたものだ。夏休み明けには僕は学校へ行く決心をした。僕の家から小学校までは二、三分で着く近い距離の所にあった。シロは毎朝のように学校までの短い距離を僕についてきてくれた。おかげで毎朝僕はシロに勇気ずけられ学校へ行けるようになった。しかしある日、シロは学校の門まで僕についてきて戻る途中、車に引かれ死んだ。シロが帰ってこないのを心配し探しに行った母が道路で横たわっているシロを見つけたのだ。受験に追われている今、僕はシロのことを忘れかけてしまっていた。
 翌朝もやはり白い犬はついてきた。僕は心の中でこう言った
「大丈夫、僕はちゃんと学校へいっているよ」
 翌日から白い犬は僕の後ろをついてくることはなかった。







エントリ19  砂時計     天澤聖司


「アッー!」
 マキは突然、大きな嬌声を発した。まるで野良犬が淋しさを訴える遠吠えのように。僕は困惑しながら読んでいた文庫本から視線をマキのほうに向けた。
 「なんでこうなるんだろう・・・?」今度は子犬の鳴き声のように小さく下を向きながら呟いた。涙跡がきらきらと光り、5カラット程の涙が地面に落ちた。僕は隣に居合わせたものとして、何か言おうと模索したが適切な言葉が見つからなった。
 
 今日の朝の事だ。いつものように気だるい体に鞭打って、苛立たしいほどの陽射しを浴びながら、自分の持ち場に移動する際、何やら普段の景色にないものが視界に映りこんでいる。出入り口の脇で女の子がしゃがんでいる。後5分で始業のベルがなるという頃に、何分制服が褪せたピンクなので、”掃き溜めの鶴”とはいわないまでも、遠目でもよく目立つ。近くまで来てみるとマキが号泣しながら電話をしている。僕はマキと仲が良いとか悪いとかいう訳でもなく、挨拶程度の間柄であったが、どれほどの馬鹿が見ても失恋したと分かる光景だった。僕は無視するように通り過ぎて仕事を始めたが、少しばかり胸の奥底に何かしこりのような引っ掛かりを感じていた。そして、今は残業までの休憩の時間だ。
 マキは朝僕が通り過ぎたのを知っているので、こんなことを僕の傍で呟いたのかもしれない。しかし、冷たいようだが、僕は君の友達でも、ましてやカウンセラーでもない。ただのしがないフリーターだ。君が失恋でえぐり捕られた心の隙間を、癒し慰めるようなそんな言葉を僕は知らない。”生者必滅、会者定離”そんな語句を説明したところで何の意味も成さないだろう。何か物乞いをするようなマキの表情に、僕はおののきながら目線を反らし、「そんな時もあるよ・・・。」とだけ言った。これが精一杯だった。あまりにも空虚な言葉に僕も、そしてマキも白けていた。
 マキは適当なことを二言、三言独り言のように呟いて、その場を去っていった。何を言ったのか聞き取れなかったが、「この役立たずが!」とでも言いたげな表情であった。
 
 一瞬の静寂の中、僕の脳裏で閉ざしたはずだった記憶の扉が、無音で開き始めた。ダムの放流のごとく、一気に放たれた記憶の波が僕の頭中を満たしていく。彼女の一挙手一投足が、匂いや肌の感触さえも鮮明に思い出される。そう、僕も一年前に大きな失恋をしたのだ。ただし、あの頃のような胸をひどく突き刺すような痛みはなかった。
 
 時が僕の傷を癒し、想い出というカテゴリーに変えてくれた。砂時計のようにゆっくりと、喜怒哀楽を代替した砂粒が落ちてゆく。それに伴い僕の心もゆっくりと空虚になっていった。そして空漠になり、無感動なまでのカラになる。抜け殻のような自分に気づき何とか奮い立たせようとする。生への路頭に迷い、暗闇で身悶えしながら自意識の回復を待つ。ほんのわずかな自意識が芽生えた時、光を求めようとする。鉛のように重い体を引きずりながら何とか光の方に近づく。そして光の中に身を投じる時が、先の動きになる。自意識の芽生えも光の現れも、これからの動きのプロローグだ。自力か他力か、幸か不幸か、天使か悪魔か、そんなことはワカラナイ。何かが砂時計をひっくり返した。そしてまた、ゆるりと砂粒が落ちはじめる。新たな時の始まり、墜落への秒読みが。愚劣な僕らはこれを、飽きることなく何度も繰り返す。人生なんてそんなものだ・・・。
 
 次の日、マキは昨日の涙を質屋に入れたのか、安物の笑顔を振りまいて仕事に励んでいた。
 
 男の涙は、見苦しくて重いが、女の涙は、美しくても軽い・・・。







エントリ20  Get Wild     チワ太郎


「さあ、年に一度のクリスマスよぉ〜!がんがんいくわよ〜!!呑んで歌って踊り狂っちゃってね〜!」

 

 新宿に着いてから迎える何度目かの聖なる夜。
 ここではきよしこのよるでさえどんちゃん騒ぎ。地下二階の狭い店内はあたしに残された最後の砦。男を両親を故郷を恋人を捨てたあたしにたったひとつ残された宝石箱。

 これを守るためならばあたしはどんなことも犯してやる。
 たったひとつのあたしのホーム。どんな屈辱にだってたえられたし、どんな汚い手を使ってでも周りの店を蹴落とした。なかにはあたしを育ててくれたママの顔も見えた。あたしは見ない振りを装い、ひたすらこの道を突っ走った。
 迷いや後悔、そういったものを一切振り返らないで、走った。

 だから、あたしはここに残れる。
 この街で生きていける。

 自分が正しいなんて思っていないわ。
 あたしみたいなやり方じゃなくても、仲間と助け合い、自分の信じた道を迷わず進んで、それで成功している同業者を何人も見たことがある。

 でも、あたしにはできなかった。
 このやり方しかできなかった。自信に満ちたやつらの顔を憎んだ。

 あたしが人を信頼しようと近寄ると、きまってそいつは遠ざかった。
 裏切った。
 店の金をぜんぶ盗られた日は初めて臨時休業をした。
 ビルやら酒屋やら、とにかくいろんな方向から請求書が届いては、途方にくれて店のなかで一人酒を煽って、瓶を割り、そこらにばら撒いた。悔しさに泣いた。泣いて、また飲んだ。あの時は、本当に死のうとも思った。


 でもあたしはここに居る。そうでしょ?
 どん底を見た。
 反吐やら汚物を頭からかけられ、底を這いつくばり、醜い姿であたしは今生きている。貪欲なこの街で今日も息ができる。これはもう、奇跡に近い。
 あたしはここに居る。


 客につづいて地上に出ると、ちかちかのネオンがあたしを迎え入れる。乾いた冬の空気がスピーカーから流れるクリスマスソングで震えている。ここの空気は一度だって留まったことはない。常に流動していてそれでもこの落ち着きの無いこの空気があたしにはあっている。
 
 客が最後の振り向きをして笑顔で返す。それが終わるとあたしはまた地下のあの騒ぎに戻る。階段から見える通りの喧騒がそこしずつ狭まっていく。 頭を真後ろに向けながらそれを見据えるあたしは、やっぱりこの街を睨んでいるように見えるのかもしれない。

 あたしはこの街で甘えていたくはない。







エントリ21  帰るところ     中人


 正男は米しか食べない。朝はパンなんて絶対に食べないし、昼だって米以外食べない。夜もだ。
 両親は、正男が小学2年生のときに、そこら辺の通り魔に包丁でぶっ刺されて死んだ。男はすぐに捕まった。そのあと、正男は一度だけ刑務所に入る前のそいつと会った。
 「この、米粒頭が!」
正男の頭を見て、そいつは言った。確かに正男の頭は米粒だったが親を殺した男に言われるとは思ってもなかった。
                                   それから正男は米しか食べなくなった。引き取られたじいさんの家でも米以外食べない。米以外の物が自分の前に出されると、じいさんに向かって、
 「ハゲじじぃ!米を出せ!」と、怒鳴りつける。そして、仕方なくじいさんは正男の前に米を出す。
 あるとき、じいさんは切れた。
 「黙ってパン食え!米粒頭め!」
 すると、まさおは目を丸くしてじいさんを見た。そして、じいさんにこう言った。
 「米の国に帰りたいだけだい!!」
 そう言って正男は家を飛び出した







エントリ22  フリオの紙飛行機     まる


  午後2時

 屋上への扉はかたく閉ざされている。
僕は秘密の通路を使っていつも屋上へ行く。
三階 渡り廊下の窓。
そこから身を乗りだして上るんだ。
スリルの後の
誰もいない空の下
開放感
やめられない。

今日は少し違った。
誰かがいる。

同じクラスの
フリオだ。

フリオは真っ白な紙にペンで何かを書いている。「何してんの」
「紙飛行機作ってる」
「どこに飛ばすの」
「ミライ」

山のように作った紙飛行機をフリオは屋上から飛ばした。
「そんなに飛ばしたら先生に叱られるぞ」
僕が言うと
フリオは笑った。
「見えないさ」

屋上からハラハラ舞う
たくさんの紙飛行機を
眺めるのは
爽快だった。









数年後


重苦しい
家に帰りたくない。
この事実を妻に何て言おうか。

リストラ

まさか私が…

仕事する気にもなれず
私は午後の昼下がりに
街中をふらふら歩いていた。
息子も今年、大学受験だというのに…
仕事仕事仕事
こき使われた挙げ句
簡単に捨てられる。

私は一体
なんのために生きている
わからない…

道が
見えない…

私は立ち止まった。
歩くことができなかった
このまま歩き続ければ
行きつく先は
恐ろしい結末

それだけは…



コツ


頭に何かが当たった

振り返ると

足下に

真っ白な紙飛行機

私は拾って
広げてみた


『あきらめんな』


フリオの紙飛行機

ずっとずっと
忘れていた

あの屋上から
舞い上がる
紙飛行機たち

私にしか見えない紙飛行機を胸に抱いて近くのビルの屋上へ駆け上がった
紙飛行機に想いを託し
優しく
空に放した

家に帰ろう

妻がいる息子がいる
家族がいる

あきらめない

なんとかなるさ


だろ
フリオ









「なあなあフリオ。あの紙飛行機こっち戻ってくるよ」
「ホントだ。捕まえてみろよ」
「勝手にこっち来た」
「お前のことが好きなんだな」
「なんだそれ。そういやフリオは紙飛行機に何を書いたんだ」
「適当。見てみれば」
「僕のことを好きなこの紙飛行機には何が書いてるんだろうな…」



「何書いてた?」
「意味わからん」
「そんなん書いたかな」





『まだ地面には落ちるものか』







エントリ23  朝の出来事     坂本一平


シーツと布団の間から冷たい風が私の体を冷やした。

開けてもいない窓が私の目を開かせ、母の姿が視界に入る。

怪訝な顔の母はどこか誇らしげな気持ちを隠しながら私の顔を見るなり「起きなさい」と急き立てた。

昨日は映画を見ながら横になっていたのは憶えているのだが肝心の内容を思い出す事が出来なかった。

階段を降りるとすでに食卓には父と弟がいて、母は台所で味噌汁をおわんへと移していた。

みんな一緒の時間に朝食を食べる決まりがあるため、今日は私の部活の時間にあわせて7時を時計の針が指していた。

友達からは変な風習だと思われる朝食の決まりだが、生まれた時から続けている私と弟はその事に不満を持った事はなかった。

新聞を読みながらトイレへと向かう父を横目に、私は玄関を出た。

鼻に伝わってくる冷たい雪の香りと口から旅立っていく白い小人たちは私の体を目覚めさせ、私は自転車をこぎ始めた。

白い絨毯に黒い一本線を残しながら・・・







エントリ24  何なんだ     石井里奈


涙を流すほど心が美しくなるというのなら
あなたの心が一番美しい
悲しいことがあるたび優しくなれるというのなら
きっとあなたが一番優しい
頭にはいくらでも浮かぶ
慰めの言葉
あなたには届かない
慰めの言葉        こんな事書いてるけど本当は自分に当てて書いているんじゃないの?

         





エントリ25  リアル     猫


 それは記録を塗り替えるほど猛暑が続く近年では、珍しいほど涼しい日。いつもは暑さを倍増させる蝉の声まで風流に感じて、部活中に何度もそれらのセッションに耳を傾けて、身勝手なもんだと苦笑する。
 汗でつるつると滑るトロンボーンを持ち直して、楽譜に向かう。室内ではなく、渡り廊下で吹くので日光が目に痛い。首にかけたタオルで汗を拭ったそのとき、足元に伸びる女の子の影があった。
「いっちゃん」
 彼女は私が彼女に気がついたことに感づいて、私の名を呼んだ。成来と書いて『せいな』という珍しい名前を持つ彼女は、私の友人だった。
「どしたの、せーちゃん」
 部活動に入っていない彼女が夏休みに学校に来るなんて、と訝しげに思いつつ、私は成来のほうに向き直った。彼女は青ざめているように見えた。
「あたし、どうしたらいいのか・・・・」
「せーちゃん?」
「あたし・・・麻薬やってるの・・・」
 彼女は不良っぽい子ではない。故に私は驚いた。TVで色々報道されているが、まさか自分の極身近にそんな人がいるとは思わなかった。しかも、いつもニコニコしていて皆から慕われる成来だとは。
 彼女の話によると、彼女はそれを買ったわけではなく、大学生の彼氏から貰ったのだという。副作用もないし中毒にもならないから大丈夫だよ、と言われた。何故、と聞くと彼女はこう答えた。
「リアルじゃなかったから。今の生活にリアル感がなくて、毎日味気なくて。気がついたら、薬漬けの毎日だったの」
 分かるような気がした。馬鹿だと思ったが自分は絶対やらないか、と言われると自信はない。
「どうしよう。あたし・・・麻薬更生院入るのやだよ・・・・」
 彼女が言った。
「私も入るよ」
 いつの間にか勝手に口は動いていた。
「私も麻薬漬けになればいいんだよ。そしたら二人で入ろ」
 ペラペラと口は勝手に動く。別に彼女が特別好きなわけではない。恩義があるわけでもなく、むしろ嫌悪していたふしすらある。もっと惨めになればいい。もしかしたら、私はそう思っていたのかもしれない。
                      *
 長い時間が過ぎた気がする。腕の中には、赤いモノを体から流した成来がいる。床の上には、バラバラと散らばったタブレット。袋には、ただ『J』と書かれていた。彼女は泣き顔のまま動かない。饐えた匂いは、いつか外にまで広がって、警察が来るのだろう。
 リアルじゃないよね。そう考えて、ニヤリと笑った。







エントリ26  レンジ     カノイ


いつもと同じ帰途。

わけもなく図書館へ寄る。
電球と蛍光灯が半々くらいに感じる照明と、入ってすぐには感じないくらいの暖房、すごく高い天井、よくあるような図書館と比べると、本棚同士の距離が広くて余裕がある。
特別目的はない。図書館は好きだ。誰も自分を見ていない。本たちも、見ていない。
何かを売る店だと少し違う、こちらが商品を見るのと同じように、向こうもこちらを見ている。
自分のよく知る相手、よく知る店なら、それでもどうにかそこに染まれるが、相手に見当をつけられると、そう思うと、居心地はとても悪いものだ。

「興味」を探す。自分の中から。
あの作家の本は。探している情報。TVで喋ってるあのヒトが書いた本。誰かに薦められた本。自分の中を検索する。相手が本達でなければ、そんな悠長なやり方はできない。
一冊の本に手を伸ばす。いくらか読んでは戻し、気分をその本に預けながら歩き、別の本をめくる。ひと区切り読んでもとの場所へ還し、また別の棚へ。ひとつのジャンルを一巡りし、又同じ順路へ。もう一巡りして、そして別のジャンルへ。
自分のまとっているトウメイの防護壁が、薄くなり、消えていく感じがする、時間が自分から離れて、好きなリズムで動き出す。
そして本の中から「興味」を探す。誰も居ない本棚の前で止まり、知った名前、知った言葉を文字の群集からあてどなく探す。また手に取り、また戻す。それを繰り返し、繰り返す。何かを吐息と共に大きくはきだし、伸びをするようにあたりを見回す。
図書館の雰囲気が好きだ、ここに居る時だけは、ここに居る空気達と共に立っている。
それを拠りどころに、ここでは自分を立てられる。

ポケットに両手を突っ込んでカウンターの前を通り、すっかり暗く、驚くほど寒くなった外へでる。

扉を抜けると、その屋根にかかるようにケヤキの木がある。
手をのばす。
半ばすがるように触れ、そのままカラダを預ける、見上げると枝と葉の影の間から、白とも黒ともつかない雲が見える。
今日こそ、自分のアシ、自分の一部、探していた相方、あるべきカタワレ、切望する何かが見つかるのではないか。ジグソーパズルの背景のピースが、あるべき所にピタリとおさまるような、そんなときが訪れるのではないか。どこかへ行くたび、何かをするたびそう思う、今日こそ。

またいつもと同じ帰途。

自転車にキーを差し込む。

自分の中身がカラッポで満たされる。
「望み」も「意思」も「感情」も「思考」もない。
ただ自転車が倒れないように、足を動かす。
暗い道をただ進む。

そのためなら力の続く限り自転車のペダルを踏みつづけてやる。
……そんなモノあるのか。見付かるのか。それは本物か。それは永遠か。

ただ進む。「止まる」事は絶対にできない。できない。







エントリ27  Herakleitos     りら


「万物は流転するの。」

それが、彼女の口癖だった。何にしても次の瞬間まで同じ物はあり得ないというのが、彼女の哲学だ。だから、彼女は毎朝「はじめまして。」と、言う。「また、会えてよかったわ。」とか、「今日の私はどうかしら。」というのが、朝の挨拶になる。

「ねぇ、だってムネヒサ。自分が自分であると疑わないで生きているだなんて怖くないかしら?」

彼女の言うことは難しい。俺は頭も悪い方じゃなかったけど、彼女の言うことは今までのすべて、そう根本から覆すようで、もしかしたら怖かったのかもしれない。俺たちは夜中までよく議論をした。いろいろな空想が巡り、俺たちの中で様々な世界が生まれる。まるで神様の様な気分になれた。神々しい光に包まれた彼女を想像する。綺麗な首筋に光が走った。目の中は空っぽで、何も捕らえていない。いや、俺には見えないだけかもしれない。その空洞に引き込まれていく自分がいる。気が付くと、俺達は口づけていた。いつもとは違って、ぼうっとした恍惚に包まれた接吻だった。彼女の目を見る。微笑んでも、怒ってもいない、無表情だった。今、彼女の目は俺を通り越している。

「ムネヒサ。」

「なんだ?」

俺は彼女の蔭の見え隠れする髪を撫でる。

「私たちが死んでも何も変らないのね。」

俺は黙って頷く。

「私たちは毎日変っているのにね。おかしいわね。」

彼女の指が、俺の頬をなぞった。俺は目を閉じて、その冷ややかでなめらかな感触を楽しむ。

「私どうせ死ぬのなら、あなたに殺されたい。」

「何言ってるんだ、お前。」

「殺して欲しいと言っているの。」

「そんなことできるわけねぇだろ。」

彼女の奇抜な言葉はいつも俺を動揺させる。

「美しいあなたに殺されたい。その綺麗な指先で私の首を弄んで。」

彼女は俺の手をそっと掴んで、自分の首にもっていく。暖かい彼女の喉が波打つ。彼女が俺の手を上からきつく閉め、細い喉が動かなくなった。

「やめてくれ・・・やめてくれ、頼むから・・・。」

俺は泣いた。彼女は笑った。悲しそうに笑った。

「俺にはお前を殺せない・・・。」

「わかってるの・・・ごめんなさい。」

彼女の柔らかな胸で泣く。彼女もまた泣いていた。

「何故生きるのかしら。」

湿り気のある震えた声。彼女は暖かに微笑んで、目を瞑った。二人の涙遠く。二人の意識もまた遠く。死んでしまったように。


次の朝、彼女は言った。

「お誕生日おめでとう。」

欠けた月の裏側の様な笑顔だった。







エントリ28  空中メロン     沙風吟


 姉が風船を持って帰って来た。ヘリウムガスで宙に浮かぶ、糸がついた緑色の風船だ。
 と思ったらそれはメロンだったので、僕はびっくりして腰を抜かした。

「駅前の果物屋さんで売ってたの」と、姉はにこにこしながら云った。よく見ると彼女が嬉しそうに握っているのは風船の糸ではなく、白いビニール紐だった。そして彼女の頭より少し高い位置にふわふわ浮いているのは、まぎれもなく丸くて緑色で筋の入ったメロンなのだった。
「なぜかこれだけ飛んじゃったんだって。店先で紐に繋がってたの。可愛いでしょう?」
 僕は彼女の意見には口を出さず、上空2メートルに制止するメロンにそっと触れてみた。皮は固い。メロンの固さだ。メロン的な甘い匂いもする。確かな質量を指先に感じる。だが、なぜ飛んでいるのだこれは。
「これ、どうするの?」
 脳がぐったりと疲労するまで考えた後で、僕は姉に訊いた。
「食べるのよ、もちろん」
 明快な答えが返ってきた。なるほど、と僕は思った。きっとそれは正しい。

 しかし問題が生じた。メロンが降りてこないのだ。紐を解いたメロンを姉がまな板に押しつけようとすると、するりと手をすり抜けて元の高さへ戻ってしまう。僕がやっても同じだった。目標に近づけるほど抵抗が強まり、あげく掌の脇から逃げて行くのだ。メロンは断固として高度2メートルを維持した。
 今にして思えば、階段の途中に腰掛けてメロンを切れば全てうまくいったのかも知れない。けれど、僕も姉もゆっくりと考えることなどしなかった。ただそのメロンを切って食べる事だけを渇望していた。なにしろひどく美味そうな匂いがしていたのだ。
「空中で切りましょう」
 数十回の失敗の後、ついに姉は言った。

 たとえうまく切りわけても、頭よりも高い位置に浮かぶものを食べるのは難しいのではないか、と僕は密かに懸念していたのだが、それは杞憂に終わった。理由など知らないが、空中メロンのその奇妙な特性は、姉が剣豪よろしく大包丁の切っ先を叩き込んだ瞬間に失われたのだ。完全に。
 本来あるべき、落下。ぐしゃり、とメロンは足元に落ちてつぶれ、甘い匂いの汁と柔らかい果肉とが僕らの足の甲やすねやふくらはぎに飛び散った。
 数秒の沈黙のあと、僕は思わず吹き出し、姉は泣きながら外へ走って行った。

 暗くなってから、姉は普通のメロンを買って帰ってきた。普通のメロンは問題なく美味しかったので、我々はすっかり満足した。







エントリ29  自転車     坂中裕美


 自転車を急いでこいでる僕の横をキミが僕を追い抜かそうと僕よりもペダルに力を入れてこいでくる。

 僕も抜かされまいとペダルに力を入れ直す。その途端に僕は自転車から転げ落とされた。
 何があったのかは大体理解できた。調子に乗ってバランスを崩したのだ。

 キミは転げ落ちた僕を見て楽しそうに笑ってる。僕は恥ずかしい気持ちと笑ってるキミを見て楽しい気持ちが混ざったような感覚を感じた。

 けれどキミは僕の気持に気付かずにずっと笑い続けてる。
 アインシュタインのおじさんが言った事とは正反対にこの楽しい時間はとても長く感じる。

 僕はさっきまで忘れていた、自転車を立て直した。
 
 そして、ついさっきまた、ペダルをこぎ始めたキミを追いかけるために勢いよくペダルを押し始め、キミを抜かそうと追いかける。







エントリ30  桜の木の下で。     鈴木 麻希子


 私は夜の散歩が好きだった。
 夜、独特の風に透明感のある暗い空。星も月も唯一のやさしい明かりに変わるその時間は私の特別な世界となる。
 小さい頃から、人と話すことをしなかった。
「照れ屋さん」「顔見知りをするのね。」そんな言葉をやさしくかけてもらえる時間は短く、ある程度成長すれば「可愛げのない」「気に食わない」と悪態に変わる。
 妄想癖はそのころから。人と話すことが苦手だったからか、私の頭の中はいろんな言葉や映像が浮かんでは消えていくようになった。。それは歳を重ねても消えることはなく、続いていた。
 一人で暮らす様になって、家族がいなくなると、さらに話さなくなった。頭の中に積もっていくのはいろんな言葉の欠片や不完全な映像。頭痛に近い不快を感じて、夜の外へと逃げ出した。昼間とは違う世界。包む空気は何よりも大きくて、私を安心させた。その日から私にとって夜が特別な世界になった。
 ある日、いつもとは違う散歩道を歩いていると、少し高台になったところに大きな桜の木があった。堂々とした姿に惹かれて、近づいていくと、根元に白い猫がいた。何を感じたのか、私を見て離さない。「こんばんわ。」と小さく頭を下げてみると満足したのか、一つうなずいて顔を元に戻した。私も隣で同じ方を眺めて見る。そこには小さな夜景があった。
 私は出来る限り、桜と白猫に会いに行った。待ち人がいるのはとても嬉しかったし、誰かと同じ景色を眺め、同じ空間にいることが私には初めてのことだった。
 こうして過ごした4つの季節。
 再び巡って来た桜の時。いつもの高台にいつもの桜。でも、いつもとは違う。白猫がいなかった。たどり着くとそれはすぐ目に入った。いなかったわけではない。木に寄りかかるようにして、うずくまって死んでいたのだ。
 そっとしゃがみこみ、触れてみる。それはそこにある何よりも冷たく、固いモノだった。涙が出るわけでもなく、無意識に近くの石を使って、穴を掘り出した。夢中になって掘っていく。額に汗が浮き、手が疲れてあがらなくなるとようやく一息ついた。穴の大きさを確認する。そうして、白猫を抱え上げ、一撫でして顔を覗きこみ、そのままの形で穴の中にそっといれ、土をかけた。白と黒が入り混じった穴の中。掘り出した土をかけながらなんとなく分かってきた。白猫は私と出会うことを望んでいたのではないのだろうか。ここにいることが願いだったのだと思う。生きる者から動けぬ物、そして今度は動かぬ者となって、ここからの景色を眺めていたいと思ったのではないのだろうか。そう思うと私はこの時間、ここにいて、白猫に会えたことが良かったのだと思える。きっと来年の桜は今までよりもキレイに咲くだろう。
 私は少し笑って、少し泣いた。







エントリ31  八月のパンダ     山本汎太


潮の香り。高ぶる鼓動。いやおう無しに急ぐ足取り。
蜩がざわめく松林を抜けて、吹き付ける潮風によろけながら、
一気に駆け上った砂丘の向こうにはオレンジ色の海が広がっていた…
夏も終わり。
私は無理矢理に休みを取って来た。

もう海水浴には涼しすぎる。
子供の声が響いていたであろう砂浜も、今は不気味なほど静まり返っていた。
時折、主の無いビーチパラソルがパタパタと乾いた音を立てる。
舞い上がる砂に目を覆いながら、私は伸びる影について行く様に波打ち際を歩いていた。
こうしていると東京に置いて来たはずの物が想い出される。
ふらふらの夢。意気地なしの自分。変わりなく過ぎていく毎日。
気丈に笑い飛ばした背中ほど悲しいものは無い。
こぼれる溜め息は波の音がかき消していく。

―ふと振向くとパンダがいた。

目をこすった。頬をつねった。これは何かの間違いだと呟いてみた。
しかし、人間の大人程の大きさで、白黒で、ポーカーフェイスのパンダが佇んでいる。
呆気に取られる私の横をお構い無しに通り過ぎていくパンダ。
そして迷う事なく海の中へと消えていった。
突然の出来事に硬直する私。起こった事を整理出来ない頭の中では、波の音がワンワンと鳴り響いている。
しばらくして波間から真っ白なパンダが顔を出した。サクサクと近寄ってくる。

目が合った。

突如立ち止まるパンダ。
無表情な黒い瞳。どこか空虚な様であり、鈍い光の奥に悲しみが潜んでいる様にも見える。
そして静寂をやぶってパンダが口を開いた。

「徹夜続きでね 隈が出来て仕方ないよ」

言い終わると「ニッ」と笑った。「ニッ」と笑い返す私。唇の端が引きつった。
パンダは何事も無かったかの様に私の脇を通り過ぎて行く。
意を決して振向くと強烈な西日に思わず顔を覆う。しかし、私は手の隙間からの一瞬、去って行く背広姿の男を見逃さなかった。

ふと我に返った。

ゆっくりと伸ばした視線の先に白く光るもの一つ。
カシパンウニ。通称タコノマクラ。煎餅の様なウニである。
引っつかんで思いっきり投げた。やり切れない想いも全部。何もかも一緒に。

それなのにタコノマクラは、それはゆったりと飛んでいく。
「肩に力が入り過ぎだよ」と笑う様に、風に乗ってどこまでも伸びていく。
やがてオレンジ色の海に吸い込まれて見えなくなってしまった。
なんか空回り。力が抜けてしまうじゃないか。

砂浜を後にした。
明日帰ろう。
始めからやり直そう。
八月下旬の潮風がやけに心地良かった。







エントリ32  くらのくら     自由 銃従


穴があいた。
穴があったら入りたいので、入ってみた。

ここは暗いぞ。
まっ暗闇だ。

恥ずかしい部分。
恥ずかしいから。
そこをひらいて。
入ってみた。

あの世からこの世まで。
この世はまっ暗。
くらのくら。

ただののらくら。










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