novel
日向さち
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蜂の子

 我が家の庭には、昔から砂利が敷かれているので、大きさといい、色といい、遠目では分からなかったが、近くまで行くと、蜂の巣が落ちていると分かった。台風が掠めていった翌日だったので、風雨に煽られたせいで落ちたものだったのだろう。
 見つけたのは、兄と二人で小学校から帰ってきた時であった。
 どこから落ちたんだろ。親は飛んでないなぁ。兄は、屋根の辺りを見上げていた。親も中に入ってんじゃないの、と私が言うと、ばか、親はこんなとこ入ってないよ、と兄が教えてくれた。まだ七歳だった私には、四歳年上の兄が頼もしく感じられたものだった。そのせいか、少し言葉が荒くても、まったく悪い印象を持つことはなかった。
 親がいないとなると、何も警戒する必要はない。巣を手に取ってみると、幼虫が四、五匹、穴の中に見えた。
 落ちていた巣は四センチほどだったが、元々の巣はもっと大きかったらしく、側面には欠けた跡があり、若干ボロボロになっていた。いくつかの六角形は白い膜で覆われており、中にも子がいるのが分かった。
 兄が、アシナガかなぁと呟きながら、中にいる蜂の子を傷つけないよう、慎重に膜を取り除いていく。一つ穴が開くごとに、身動きしない生命体が顔を現した。羽の生えたものもいたし、まだ幼虫のままのもいた。ムチッとした姿の幼虫は、栄養がたっぷりと詰まっていそうだった。
 通常、佃煮にする蜂の子は地蜂なのだが、私たちにとっては、蜂の子でありさえすれば構わなかった。土地柄、蜂の子といえば食べ物だと思っていた。
 栄養の供給源を失い、巣を破壊された蜂の子たちは、もう成長することができない。体内のエネルギーを呼吸などで消費してしまえば、あとは、終わりだ。当時の私でさえ、そのことを心の奥で理解していたように思う。
 すべての膜を剥がした巣を手に、これ、佃煮にするんでしょ、と兄の顔を見上げた。
「ううん、無理無理。だって、こんな少しだけ煮たってしょうがないだろ。煮てるうちに形がなくなって、食べるとこなんか無いぜ」
 入っていた蜂の子は、全部で十匹程度だった。煮崩れたり、巣から出す際に潰してしまったりしなくても、味見程度しか口に入らない。
 そういうものなのかと納得した私によって、巣は、再び庭へ放り出された。放り出されてしまえば、それが蜂の巣であることなど、さして意味はない。一面の砂利と同等である。
「もったいないね」
「うん、でも仕方ないよ」

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