第22回タイマンバトル、開票開始! ○推薦作:与えられたとせよ 相川拓也 こりゃまた対照的な作品のタイマンになったなぁ、と他人事のように言ってみる芦野です。中身だけでなくタイトルも、「与えられたとせよ」はかなり有名な遺作なのに対して、「洗礼」はマイナーな前期の作品だし。 毎度のように『読ませる』相川くんの情景描写に、今回もひきつけられました。こういった無意識な美しさは、二度目に作品を読み返したときにはっきりとわかる気がする。特に「照明用ガス」の半ばで「落ちる水」のシーンがもう一度語られたところは、動いていたのは主人公のはずなのに、相手が話しているため客観的にその場面が頭に入ってきて、ぞっとさせられました。 ただ光にまつわる話の中で男の名前が「光」というのは、かなり直接的だったと思います。もう少しひねったほうが可愛らしいと思いました。私の好みの話ですが(笑 この場をお借りして。 タイマンやろーぜと前触れもなしに言ったら快くOKしてくれた相川くん、担当してくださったごんぱち先生、読んでくださった皆様、どうもありがとうございました。 ○推薦作:与えられたとせよ 相川拓也 芦野前さんの作品は真っ向勝負、ストーリーテラーとしての面白さがある。だけど力が入りすぎかな、ちょっと読んでいてこちらが面映くなるような感覚に襲われることがあった。最初の出だしはとても好きだったのでもっと軽妙なストーリーにしても良かったのでは。時代の雰囲気が出ていて、相当見えない部分でも調べたんだろうなあ、と感心した。 相川拓也さんはストーリーというより雰囲気で勝負したって感じ。巧いし読んでいて引っ掛かりが無かった。減点部分は無いけれど、ちょっと話としては面白みにかけるって所かなあ。 ううん、迷うなあ。どっちにしようかなあ。話は変わりますが、いっそ引き分けの時には二人で一枚のお好み焼きを食べて親交を深めるってのはどう? ああ、いらんおせっかいでした。すみません。 バトルだからシビアに完成度かな。今回は相川さんに一票。 でも、芦野さんのような挑戦的なストーリーテラーはきっと伸びるから相川さん油断禁物ですよお。(鳥) ○推薦作:与えられたとせよ 相川拓也 このタイマンをきっかけに、マルセル・デュシャンを知ることができて、それはとても収穫でした。『大ガラス』、いいですね。『泉』、たまらんですね。『パリの空気50cc』最高ですね。 そんなデュシャンの手法、レディ・メイド(=既製品(または既製品に少し手を加えたもの)を作品にすること)がからんでいるのは『洗礼』。舞台は、大量生産上等の産業革命。人物は、それに巻きこまれる少年少女。構成は、泣かせルーティン満載。出来合いのもの、万歳。 『与えられたとせよ』は、カギカッコなしによる会話が妙。でも、(自分もやったことあるけれど)言葉づかいに差をつけたりケンカさせたりしないと、効果が半減してしまうのが、カギカッコ無しスタイルなのですよ。デュシャンの作品としての『与えられたとせよ』を見たことはないけれど、たぶんこんな感じの作品なんだろーなと読んでてイメージできるところは吉。 ○推薦作:洗礼 芦野 前 冒頭から作品の世界に引き込むパワーはさすが。ぶっきらぼうな文体も、産業革命の裏側というどんよりした設定に合っている。台詞がややくさいなぁとも感じたが、ラストに至る部分なんかは、レイとラチェットの性格の描き分けも上手く出来ていて、ほんのり切ない感じもして、参ったなぁと思う。持ち味のニヒリスティックだけど希望の湧いてくるような感じもよく出ているし。話の展開も意表をついていて、素直に楽しめる作品だった。 バトルにこのようなすばらしい作品で応えてくれた芦野さん、場を設けてくれたごんぱちさん、それから読んで、投票して下さった皆様、ありがとうございました。(相川拓也) ○推薦作:洗礼 芦野 前 今回、どっちもどっち。よって褒めない。 「洗礼」 思春期の青年が「カラダは発育途上だが顔はまあ悪くない」とは云わないだろうなぁ。「近辺の工場主と契約を結んでいる大銀行だ」なんていわなくても、今の日本みたいにたくさんの銀行がしのぎを削る、ということもおそらくないと思うんだなぁ。 「どんな舞台装置か?」ではなく「どんな空気か?」ということであると思う。この辺、ロジックではなくてセンスなのでいいにくいが、その産業革命のおかげで不幸になった人々、何を拾ったらいいかね、教育の具合だったり、女の子にどれだけ喋るのに「慣れて」いるかとか、ディテールのつけ方はまだまだ余地があるだろうなぁ。ストーリー自体に目新しいところがない分、もっとディテールを作ることを作者が楽しめるとよかった。 ああ、締め切りギリギリで……というのは、ナシ。 「与えられたとせよ」 どうも書くべき対象に近寄っていない。例えば祖父母に連れられた子供の発言を「意味をなさないような、未熟な言葉」と形容するけれども、その言葉を祖父母はきちんと聞き取っているんだよな。ちゅことは、子供だってその年齢で精一杯何かを伝えようとしている。おそらく無意識にだろうが、こういうところでなんちゅかな、視線の「高さ」が見えてしまう。縁日の映像を見て「写生」することはできても、縁日の絵の中で肌に触れるものはまだ書けていないように思う。ゆえに、主客である存在と、対するもうひとり(ひいては自分の中で「都合のいい」受け答えをしてくれる存在)という構図にしてしまうんだな。実感の空気を書くことを極力避けているのは、逆に言えば作者本人に実感のストックがないのかもしれない。器用な作者ゆえにうまく繕っているようでも、ちょっとした「視線」に出るものが、出てしまう。 推薦作品なし、ではない。内容的には引き分け。 でもどっちかったら、そりゃあ女の子に入れるだろう。決定。 相川君はしっかりおごるように。この幸せ者め。(M) ○推薦作:洗礼 芦野 前 普通の物語っぽいものの方が好きなので。 モチーフには、それほど目新しいものもないですが。 ○推薦作:洗礼 芦野 前 空回りしてしまいそうな設定を最後まで引っ張って、ほろ苦い小説に完成させた腕前には、一票を投じるしかありません。お見事でした。 ○推薦作:与えられたとせよ 相川拓也 「与えられたとせよ」では、主人公が光の話ばかりして、孤独なのだなと、感じました。会話の対比が悲しくて、良かったです。 「洗礼」の、ラチェットのようなキャラクターが好きです。単純に。 でも、どちらの作品も好きでした。 今回は、色々考えさせられた相川拓也さんに一票。 追記 デュシャンに少し詳しくなりました。 ところで、「JからTへ」はデュシャンの作品名ですか? ○推薦作:洗礼 芦野 前 どちらもちゃんと読めた。 でも、物語性があってイメージを浮かべることができたのは、 芦野さんのほうかな。 3000字のなかで描ききれてないのが残念ですが。 ○推薦作:洗礼 芦野 前 芦野前さんの『洗礼』へ投票します。 基礎のしっかりと出来上がっている文章は、とても読みやすいです。話の展開も無理はなく、「手堅く」て安心していられました。 欲を言うと、主人公が傍観者であり、誘拐主犯や偽令嬢のドロドロした「想い」まで書き切れていないのが欲求不満でした。けれど視点を主人公に設定した場合は、あれ以上の描写なり書き込みはおかしいですし、3000文字に収まるかが疑問になってしまう。 もう1つ欲を言うと、全体が「手堅く」書き上げられていて、完成度は高いのですが、今一つの魅力というか面白さが少ないと思う。複数の作品の中で見たとしたら、私などは「へェ巧い」で流しかねません(汗) もっと描写で遊ぶか、メッセージ性を強くするか。 単に(千早丸の)趣味の問題かもしれませんが。 相川拓也さんの『与えられたとせよ』も、とても良く書けている、と思います。 実験文章のような独自の文体と、光にまつわる様々な話。 面白い――と、は、思うのですが―― いかんせん、読み難い(汗) 画面の文字列見ただけでヒキましたよぉ〜 物語の肝としては素敵な題材であり、とても丁寧な創作であると思う。 しかし「読者に読んでもらう」という気がまったくない、ような文章になってしまっている。 (全体を理解するまでに5回も読み返してしまいました/汗) ジャンルとしては純文になるのでしょうか? 物語は素敵です。ですので見せ方(魅せ方)をもう少し工夫してみて下さい。 (例えば対話の部分で「謎の話し相手(?)」の文字の色を変える、とか) しかし御二人とも学生さんですか? スゴイなぁ (by千早丸) ○推薦作:洗礼 芦野 前 芦野作品の瑞々しいテンポ感に惹かれた。相川くんの方は本来の持ち味の老成感、達者さが、物語の足をもたつかせてしまったように思えた。余談だけど”ラチェット”って名前から万能ドライバーを思い起こしてしまった。 ○推薦作:与えられたとせよ 相川拓也 どちらも楽しめました。よく出来てます。 けれど、デュシャンを引いた意味はどこに? 誰でもよかったじゃん、て感じです。 もっと期待してたんですけどもデュシャンを。 それでも、多少は意識をしてるみたいに感じる拓也くんかな。 意識はあっても、的外れではあるが……それともわたしのああ勘違いか。 精進しなさいね。(MaQ) ○推薦作:洗礼 芦野 前 読んでいて自然と吸い込まれて最後まで読みきってしまいました。世の中は矛盾と悲しみだらけだね。前向きな結末でよかったよ。 |