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イグチユウイチ
ホムンクルス
ごおごお と燃える 炎のかべに守られた
やさしいお花畑のひみつを
おまえだけに こっそり教えるよ
果物を ほおばったままでいいから
これから話すことを よくきくんだ
とても大切な おはなしだからね
じぶんのおなかを見てごらん
ながい ながい へその緒が ついたままだろう
まずは それをずっと たどって歩きなさい
途中で 小川をこえたり
小さな山をのぼったりするから
ときどき休みながら のんびり行きなさい
やがて 大きな森のなかに入ったら
足もとに気をつけて
くさのかげに へびがいるかもしれない
へびと へその緒を まちがえてはいけないよ
へその緒は 森のまんなかの
ひときわ背の高い のっぽの木のしたから
土の中につながっているんだ
でも いじわるな森の木が とおせんぼをして
合い言葉をきいてくるから
お母さんのなまえを まちがえずにいいなさい
そうすれば とおしてくれるよ
お花畑のひみつはね
のっぽの木から へその緒をぬくと
炎のかべの むこうがわへ行けるということなんだ
どうするかは じぶんとよく相談して決めなさい
時間をかけてもいいから
かならず じぶんで決めなさい
それでも ぬいてみたいのなら
両足をしっかりふんばって
へその緒を 力いっぱいひっぱるんだ
とても力がいるけど そのうちぬけるから
あきらめないで 引っぱりつづけなさい
へその緒がぬけたら どどどお ごごお と
大きな爆発が とおくからきこえるはずだ
それは 炎のかべが こわれた音だから
いそいで のっぽの木のいちばん上までのぼりなさい
落ちないように気をつけて
下を見るとこわいから 上だけ見ていなさい
いっしょうけんめい 木をのぼって
のっぽのいちばん上まできたら 下のお花畑をみてごらん
炎のかべがこわれたところから
真っ黒な海が つよくおしよせてきて
お花はみんな のみこまれてしまっただろう
おいしかった果物も たくさんあそんだ原っぱも
みんな みんな 真っ黒な海になってしまっただろう
とても とつぜんで とても かなしくて
たくさん涙がでるだろう
泣いても 泣いても まだ涙がでるときは
時間をかけてもいいから
むりをせずに おさまるまで泣きなさい
いつか 涙がとまったら
のっぽの木の上をよくさがしてごらん
オオカミのぬけがらが ひっかかっているだろう
そいつのキバを一本抜いて ナイフをつくりなさい
できあがったらまず じぶんのおなかからぶら下がった
へその緒を切りおとしなさい
いきおいよく切ったほうが痛くないから
思いきってやりなさい
それが終わったら つぎはたいへんな仕事だ
ナイフをつかって のっぽの木から 船をつくりなさい
あの黒い海をわたるための 船をつくるんだ
木のみきをくりぬいて のるところにして
太いえだを けずってオールにすればいい
どんなに時間をかけてもいいから
とおくまで海をわたれる じょうぶな船を作りなさい
じょうぶな船ができるあがるころには
きっとおまえも じょうぶな子になっているはず
それまで ずっと ここから見守っているから
ずっと ずっと おまえを見守っているから
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