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ヨケマキル
驟雨
東京には空がないと言ったのは高村智恵子
いや 空はちゃんとあるじゃないか と言ったのはわたしの友人の岡崎龍夫である
そんな あるのだかないのだかわからない空から
ざざ雨が落ちる初夕のうす暮れ
そんな時わたしは
幼き頃義父から受けたひどい仕打ちを思い出し
生命がフリーズする
義父の 首の 後ろの 大きなほくろを見たからといって
頭を ひどく 打たれ
ざざ雨の中
外に放り出された
空があるのかないのかはわからないが
雨は田舎と町では違うように思う
においや音
佇まいなど
単純なものではあるけれど
その仕打ちを受けた日より わたしの内なる膏盲に
暗暗裏に
血液のように
ゆるりと
しかし激しく
その黒いフィヨルドは形成された
破けた網戸が風にひらひら
誰も愛さず誰からも愛されず
親を捨て子を捨て
自分に起こるすべての事を いや 万物を
誰かのせいにし何かのせいにし
何も励まず何も動かず
ある時
まぼろしが
蓮のうてな座った亡き義父が
「憎しみが あなたを しあわせに しましたか?」
と言う
空はある
わたしは すべてを 許す
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