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novel 小径 mail:kei-umeda@sai-yu.co.jp HomePage:
ブルースガール
げんかんで、あたしをまっててくれた。
金魚のはちにはいってる。おっきなおめめと、ミニひらひら。
たっぷりお水と、おじゃまな水草、大事な泡ぶくぶく。
動きずらそう。
大好き…だったよ。
でも、お別れ。
もう、さようなら。
きんぎょさんと、もう、お別れ。
「もういい?」
ママ、怒ってる…? 足をピクピクさせてるじゃん。
いらなくなった。で、棄てちゃう。
知ってるよ。
いつも、顔をしかめて。
カワイソウっていったけど、ママが、
『電気代がかかる』
『臭い』
『水替えが面倒』
『金魚蜂は狭い。川の方が広いから、金魚は川にいた方が幸せ』
という理由をつけたよ。理由ができたから? あたしはうれしい。かも?
それでいいの?
おかあさん。あたしに、そう聞いてよ。あたしに。
川は、おうちからちょっと、とおい。
さんだる履いて、外に出る。
お日様、お目目にいたい。
ゆっくりあるいて。
みいちゃんのお家を、みぎての方に見てから、石ころ道路をゆっくりあるいて、おっきな、かしの樹の崖から下見る。そこを下って。
小さな、河原。
お水さらさらに、日がきらっ、て。煌いて。
河原にとうちゃく。
岸の石は白いのに、川の底は黒い。
泳ぐ魚さんも。
「ここでいいわね」
独りごとをいって、川の傍でおかあさんは、はちを傾けた。
「まってぇっ!」
おかあさんは、きんぎょをかわに流しちゃった。
無造作に。
「金魚も、ここがいいって」
めんどくさそうに、お母さんがいった。
あたしは、なんにもいえなかった。
金魚は、強い流れに逆らって、がんばって尻尾を振って。
ずっと、そうして、いくのかな。
「いくわよ」
もうちょっとだけまって、そういって、川をシバラク眺めて。おかあさんがおこったのがわかって、つらくて。どなるかな? いやだな。つらいよ。
金魚は、暗い、川の底に、赤い体で、潜っていった。
短い尻尾をいっぱいいっぱい、ふって。
そのうち、疲れたように、浮かんできて。
体を、横たえて。
動かなくなった。
……が痛いよ。いたいっす。
「おかあさん」
きんぎょを、川が運んでいった。下へ。
真っ赤な点がなくなった。
真っ青おかあさん。なにかいって。
パクパクお魚みたいに。
「きんぎょたん、幸せ。だね」
川が風を運んできた。風はあたしをちょっと浮かせた、みたい。
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