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第2回パラ1000字小説バトル

  第2回テーマ:「さつき」


エントリ作品作者文字数
01ありふれ過ぎていてつまらないものロヨラ1000
02五月さつき1000
03盆栽(はちうえ)太郎丸1000
04チェインとむOK1000
05巨人焼き越冬こあら1000
 
 
 ■バトル結果発表
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エントリ01  ありふれ過ぎていてつまらないもの     ロヨラ


 居酒屋で彼女と大学の後輩と飲んでいた。彼女と後輩は大学の同級生で仲が良い。俺が用足しから戻ると二人は軽く抱き合ってキスしていた。俺が着席すると二人は離れた。四人がけの個室テーブル席で、俺と二人が向かい合う席順だった。
 おもえば不思議な関係だ。後輩にはどこかしら可愛らしさというものがあって、つい面倒を見たくなる。だから俺はよくその後輩を誘って飲んでおごってやった。だからか、その日も喧嘩になったりしなかった。
 彼女は酔っていた。飲みすぎて気持ち悪くなり、先に帰ると云いだした。それを後輩が送った。一時間戻らなかった。後で彼女から聞いたが案の定公衆便所でやっていた。しかし立たなかったらしいから、彼とは後輩以上穴兄弟未満ということだ。
 こんなことは友達集団なんかではありふれ過ぎていて、つまらないことであって、誰にも面と向かっては話せない。
 居酒屋に戻ってきたとき後輩は事実については黙っていて、俺の目を見なかった。こう云った。
「なんで俺が送らなきゃならないんだよ」

 ついさっきまでサツキをツバキだとかん違いしていた。百科事典で調べてみたら、サツキというのは要するに道路の植込みや庭木に多用されるツツジのことらしい。ツツジのなかでも、陰暦五月に花をつける種類をサツキツツジと呼ぶらしい。放課後の寄り道で、あの紅い花、中のミツを吸った。ありふれ過ぎているから、間違える。
 幼稚園のときの話だが、俺の住む公営団地の入口の脇に、ツツジの苗木を団地の子供会で植樹した。うちの近所は新興住宅地で、俺もその一員なのだが、80年代に大勢がべつの土地から引っ越してきた。だからこうした景観を自分たちの色に染めるための催しを、たくさんやった。
 このような記憶もありふれ過ぎていて、つまらない。あのぼってりとしたツバキは、特に白なら、サマになるだろうにとおもったりもする。

 母親には「行ってきます」も云わない。俺は時間の不規則なサーヴィス業で、母親も地元の和菓子屋でパートに出ている。そもそも、ほとんど顔を合わせない。
 父親は大変な借金を作っていま別居している。どうにもそれで母親は俺に申し訳なさを感じているらしく、弁当を必ず、忘れずに作る。会話もなければ挨拶さえないのに、いつも台所には弁当が置いてある。
 だがこういった母親の愛情も、ありふれ過ぎていてつまらないものだし、それが大切なことだとはなかなか、感じられない。





エントリ02  五月さつき     葱


 五月さつきって名前の人がいたんですよね。いや、僕が好きな人だったんですけど。なんか、いじめられてましたね。やっぱり名前で。
「かぶってるやん!」
 とか言われてね。あと、タモリ、とかね。ほら、ズラを被ったりするときがあるじゃないですか。あ、そんときは大阪に住んでたんですけど。
 うーん、そんなキレイな子じゃなかったですね。
 いたたまれなかったですね。僕も小心者だったから。なんか、そんなとこ見て、僕も意味なく机蹴ったり、ガラス割ったりしてですね。先生に怒られましたけど。人を殴る勇気がなかったんですね。考えましたよ。親もなんでそんな名前つけたんでしょうね。
 授業で、自分の名前の意味を発表するやつがあったんですけど、その子だけ言いませんでしたね。なんだっけな。…僕はてっきり、宗教がらみだと思ってたんです。早熟でしょ? 輪廻とか流転とかそういうやつかな。で、何だと思います?
 なんだっけな。忘れちゃいました。
 いいんですかね。こんなしょうもない話して。

「あのー、岡崎さんの申し送りとかってあります?」
「ん、あるけど、どうするん?」
「いや、いつも話するやつ知ってます? さつきさんがどうたらいうやつ」
「?」
「昔話か、妄想かわかんないすけど」
「はいはい。そんなん書いてないやろ」
「そうですか」
「何?」
「いや、どういう意味なのか、気になって。ほら僕、ヘルパーやって結構たちますけど、精神障害って初めてで…」
「まあまあ、気にせんとき」
「でも、意味が分かったら、今後の介助も変わってくるような気がして」
「(理屈っぽいやっちゃな)あれと違う?」
「何すか?」
「そういう名前の人がおったんやろ」
「いますかねぇ」
「じゃ二人おったんと違う? 苗字と名前ごっちゃになってるんやろ」
「そうかなぁ」
「じゃ知らん」
「うーん」
「そんなんな。医者に任せとったらええねん。領分をわきまえなあかん」
「………そうですね」
「今日、外出、岡崎さん? どこ?」
「ええと、聞いてないですね」

 枯れたね。盆栽が捨ててあったんですよ。団地のゴミ捨て場にね。五月にしては、蒸し暑い日でしたね。鳥かなんかについばまれたんですかね、ボロボロになってて。でも綺麗で。ひとつだけ、白い花をつけてましたね。
 サツキツツジって名前でした。最近まで知らなかったんですけど。
 その時は、一人暮ししてました。誰かと関係を持ちたかったんですよ。
 そう思えるようになりました。





エントリ03  盆栽(はちうえ)     太郎丸


 伝衛門は部屋住み旗本の次男であった。兄は健在だから役職には就けない。
 肌寒い日が続き、そろそろ岩魚の産卵の頃と屋敷を抜け出し山に分け入り、渓流で釣り糸を垂れたが釣果はない。
「伝衛門は良い身分だのお」
 このままでは、また兄から嫌味を言わる。
 竿を投げ出し横になると岩つつじの低木があった。そういえば殿はこよなく花木を愛でておられるらしい。
 珍しい花木を献上すれば心覚えが良くなるやも知れん。伝衛門は近くにあった枯れ木を使って小さめの木を3本掘り起した。
 しかし草木を育てた事がないから勝手が判らない。植え替えには土が付いていた方が良いとは聞いた事があったから、なるべく多くの土を根に付けたまま、羽織に包み持ち帰った。

「何をしておった。それにその格好はなんじゃ。武士とも思えん」
「殿に献上する為つつじを調達してまいったのです」
「殿に献上だと。ならば育ててみよ。期待しておる」
 伝衛門の土だらけの姿を見て、兄は薄ら笑いを浮かべた。

 伝衛門は兄を見返してやろうと、つつじを庭の片隅に植えた。
 冬を過ぎ春になり、1本は枯れたが残りの2本も花は咲かない。田植えの時期になった頃、白と紅色の花をつけた。
「伝衛門。咲かないつつじだ思うておったが見事。どこにでもある皐月じゃったのう」
 珍しい花を作ってやる。伝衛門は勉強し、白と紅色の花のおしべめしべを、色々組み合わせながら受粉させた。
 しかし皐月を種から育てようとしたが、めったに発芽しない。
 父が死に兄が家督を継いだ日、岩のコケから発芽したものを見つけた。
 これだ。それから伝衛門は種をコケに蒔き、新芽をつけてから植え替えるという手段を考え出した。種も傷つけたり別の種と合わせたりもした。
 新芽は2年後には花を咲かせ、あるものは白一色。桃色や紅色、斑入りのものもあった。庭は一面、皐月だらけになった。
「伝衛門。皐月は見事じゃが垣根にするなりなんなりして、庭を少し空けてくれ。野菜を作りたいのじゃ」
 父が死んでしまったからには兄は絶対だ。
 皐月は種だけ取って捨て去り、鉢で小さく育てる事にした。大きくならぬよう枝を払い、根と土の間に石を入れ工夫を重ねた。
 皐月の高さは1尺程の大きさに留めたが、花の色の種類だけでなく、花が鉢を隠すものから枝の先だけに咲くものなど千差万別。見事だった。
 その後伝衛門の鉢植え皐月は評判を呼び、殿からお褒めの言葉とお役を貰ったという。






エントリ04  チェイン     とむOK


 お小遣いをはたいて何本も鎖を買った。胸元からベルトから、鎖があたしの全身をにぎやかに縛っているから、黒いレザーのジャケットもミニスカートも、こんなあたしに良く似合ってるだろう。痩せた白い足を編み上げの黒ブーツに通して、厚目の靴底で音高く土間を打つと、小さな南京錠をかたどったピアスが血管の透けるあたしの頬を叩く。台所から魚が焦げる生臭い匂いと、食器棚を開け閉てする音。表の歩道を通り過ぎる同級生の無邪気な笑い声と、そして、かすかに下校のチャイム。あたしが捨てたそんなものたちからあたしは遠くにいるはずで、それなのにどこかにひっかかっていて、巻きつけた鎖がちゃらちゃらと鳴って、じっとしていられなくなる。
 勢いよく立ち上がったので、急に高くなった視界に目が眩んだ。曖昧に蒼い空の端で、庭じゅう咲き揺れる春の花々は色が多すぎて、混ぜた絵の具の塊に見えて、何だか気持ちが悪くなって、植木屋の娘なんて嫌だって思う。大きいだけの門を通り抜けようとした時、植え込みにうずくまる作業服が振り返って、あたしは反射的に目をそらす。雅君は少し困ったような笑顔になる。あたしが小さな頃からいつも控え目に話しかけてくる人で、親と顔も合わせない今もそれは変わらない。あたしと同じ名前の花が、迷惑なくらい庭いっぱい明るい桃色に咲いてて、自分がこの世に繋がれた生き物だって毎年毎年告げる。でも雅君の傍で咲いてるひと群れだけは違っていて、芯白を鮮やかな赤が縁取っていて、それがとても美しくて、あたしは隣に座り込んで見つめてみる。



どうして外側だけ赤いの。

爪紅って言うんだよ。

爪紅は鳳仙花でしょ。

花弁の先が赤く色づくのをそう呼ぶんだ。




さつきちゃんに似てて、可愛いね。

 何だか急に息が詰まる。あたしはタバコの封を開けて、大嫌いな青白い指先でタバコを取り出して、真っ赤なネイルが震えているのに、グロスリップで赤黒く光る唇にタバコをねじこんだ。雅君はあたしの唇からタバコを摘みとると、かわりに爪紅柄の小さなラッパを一輪くれた。どうしたらいいの。咥えればいいの。雅君はやっぱり少し困ったような笑顔。あたしの中から小さな叫び声がして鎖を揺するんだけど、胸に下げた鎖は重すぎて、どうにもできなくて、もうその場からすぐにでも逃げ出したいのに、自分で巻いた鎖に繋がれて足が動かない。あたしの上で青い空が悠々と広がっている。はるか遠くまで広がっている。





エントリ05  巨人焼き     越冬こあら


 昔から「江戸っ子は、さつきの鯉の吹流し。口先ばかりではらわたは無し」としてあります。さて、今夜もそんな江戸っ子のお話で、
「はい、ごめんよ。何が出来るんだい。『たこ焼き』と『いか焼き』えっ『イカ玉プレス焼き』も出来るのかい。最新流行じゃないか。直ぐに取り入れるなんざ、研究してんねえ。商売繁盛だな、けっこうけっこう。じゃあ、たこ焼きを一舟もらって、やっつけてる間にイカ玉プレスを二舟、お土産にしてくれ……おお、もう出来たのかい。早いねえ、この舟皿も本物で持ち易いし、楊枝もいい奴を使ってて、食べ易いよ。ソースはイカリヤだね。青海苔もずい分たくさんかけてくれて、クウウウ。たまんないねえ。この焼き具合といい、何といい。ハフハフ、フワフワ、表はカリッと、中がシナッと、アグアグ、グワァグワァ、カジカジ。ふうー、うめえなあ。あれ、ラジオ聞いてんのかい、イヤホンで。気付かなかったよ。いいねえ、控え目で。分をわきまえてるね。いやあ、いるんだよ、なんかわからないの、客の好みもお構いなしにガンガンかけちゃう店主が。嫌だねえ。ラジオドラマとか、歌謡曲とか、パンクロックとか、名人寄席とか。暴力だね。ああなると、もう。大嫌いだよ。そこいくと、静かにイヤホンで聞いてるなんざ、泣かせるね。気に入ったねえ。ここんとこは帰り道だから、これから毎日寄っちゃうよ。うん、決めた。毎晩、たこ焼き食べに来ちゃうから。昼も来ちゃうかなあ、お昼はやってないの、ああ、そうだよね。そうそう。そんなに働いちゃいけないよ。昼過ぎにジックリと仕込んで、夕方から開店。会社帰りのサラリーマンから始めて、商店を閉めた親父さんや女将さんたち、お店が引けたお姉さんたちとそのお客まで相手にすりゃあ、もう真夜中過ぎちゃうもんなあ。そこまで働きゃあ上出来だよ。うんうん、分をわきまえて、毎日こつこつだな。飽きずにやるのが商売のコツだ。おお、お土産も出来たかい。二舟。締めて幾らだい。千百五十五円かい、安いねえ。消費税ちゃんと取ってるかい。ああ、そうかい。ちょいと悪いけど、勘定が細かいんだ。百円玉だから、手ぇ出しとくれ。ひい、ふう、みい、よう、いつ、むう、時に、巨人は何点取られてる。えっサッカー。サッカー聞いてんの。Jリーグ、今四点差。ははは、大量得点だなあ。四点差か、いつ、むう、なな、やあ、九、十、十一、十二と。つりは要らねえ。じゃあな、あばよ」

※作者付記: 注)落語バトルの使い回しでは無い事を申し添えます。