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第18回パラ1000字小説バトル

  第18回テーマ:「残暑を、なんか凄い良いものみたいに思わせる」 テーマ詳細


エントリ作品作者文字数
01(作者の希望により掲載を終了いたしました)
02フェルマータの午後ごんぱち1000
 
 

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エントリ02  フェルマータの午後     ごんぱち


 窓を開け放した音楽室で北里誠一は独り、合唱曲の一節を歌う。
「……ん、違うな」
 ピアノの鍵盤を叩き、音を確認し、また歌う。まだ声の完全には出来上がっていないテノール。
 開け放した窓から入るのは、蝉の声ばかりだった。
 北里の額には汗が浮かび、前髪が貼り付く。
 少しづつ、少しづつ、同じフレーズを繰り返しながら、先の小節へ進む。
「そこ、そんな早くないよ」
「そうか?」
 振り向きもせずに、北里はまた歌う。
「テンポ・プリモでしょうが」
 日野夏美が後ろから手を伸ばし、北里の譜面を指す。
「ってことは、たんたたたたんたんじゃなくて?」
「たあん、たんたんたん、たあん、たあん」
「ふむ」
 日野はピアノの前に座り鍵盤を叩き、北里は歌う。
 つかえつかえしながらも、独りの時よりもずっと早く曲は先へ進み、最後の小節へ辿り着いた。
「じゃ、通し」
「おう」
 日野は立ち上がり、最初の二音だけを鳴らしてから、軽く手を振り拍を刻む。
 音を取りたての、頼りない旋律が音楽室に響く。
「そこ、入りおかしい」
 途切れ、歌い直す。
「ん、ん? アルトってそんなか?」
「あ、ソプラノ歌ってた」
 また途切れ、歌い直す。
 そして、二人は最後まで歌い切る。
 と同時に。

「うーーー、あぢーーー!」
 北里は叫ぶなり、音楽室の隅に置かれたロッカーから団扇を引っ張り出しバタバタと扇ぎ始めた。
「がああああっ、あづい!」
 日野もまた、同じように団扇で扇ぎ始める。
 二人は、椅子にだらりと腰掛け、ひたすら扇ぎ続けた。
「――今日、休みだろ?」
 北里がだるそうに日野の方に顔を向ける。
「夏休み明けたらすぐ学祭のステージでしょうが」
「オンオフの切り替えが出来ない人間は、大成しないんだぞ」
「その言葉、乾燥アワビ付けて返す」
 蝉の声が一層大きくなった。
 暫し、二人の会話が途切れ、団扇の音だけになる。
「――また奨励賞だったな」
 ぽつりと北里は呟く。
「減点方式だからいかんのよ」
「来年、連盟のコンクール出ね?」
「Nコンで、引退でしょあたしら」
「出るも出ないも、オレたち次第だろ」
「……まあ、そうだけど」
 日野は団扇を指揮棒に持ち替え、壁にかかった鏡に向かう。
「何やんの?」
「二曲目」
 応えつつ、日野は指揮棒を構える。
「んじゃ、音はまかせろ」
「……まあ、ないよかマシか」
 日野が指揮を始め、北里は合わせて歌い始める。
 西日に灼かれる校庭に、蝉の声はまだ賑やかに響き渡っていた。