第17回1000字小説バトル結果
第17回チャンピオンは蛮人Sさん作『怪獣啄木』に決定です。
蛮人Sさんおめでとうございます。
* 第16回バトル作品『首』(仏)への感想票でした
●怪獣啄木(蛮人S)
- 「怪獣啄木」蛮人Sさん、「真夏の音場」紺詠志さん、「くすり」吾心さんに惹かれた。どれもとっても上質の笑いを下さった。蛮人Sさんは啄木の三行書き短歌を軽妙に使ってくれたし、それを怪獣と掛け合わせた面白みもたまらない。紺さんは独特の感性でもってひとつの異世界を作ってくれた。「みよみよ」がしばらく頭の中から消えない。吾心さんは最後の主人公の壊れっぷりがなんとも言えず巧み。それぞれいいところがあった。けれども、蛮人Sさんの笑いがひとつぬきんでていたと思った。パロディの、新しい考え方を教えてもらったように思う。
- 今回は「怪獣啄木」で文句なし! ユーモアや面白さで他の作品を突き放していたと思います。本当に笑えました。
- 一之江さんの「九月の花束」と蛮人Sさんの「怪獣啄木」で悩みましたが、笑い転げさせてくれた、蛮人Sさんの作品にします。まず、啄木の短歌が、怪獣(多分ゴジラ?)の心境としてのパロディになっているという発想が凄い。蟹と戯れるはずが、海老(エビラ)の腕をもいでしまうし、母の変わりに翼竜(ラドン)を担いで一本背負い。ラストでは、この作品自体を作者が書き上げて喜んでいる様まであるという凝り様で、今回はこれにします。
- 今回は、パロディですが面白すぎるこれでしょう。
- 「蝉」少年の日の情景が、心地よいなつかしさで伝わってきた。そしてその日のことを思い出す、今。とても良い。
「真夏の音場」もしかしたら大変なことが起こっているかもしれない場面と、くだらないと片づけて相手にしない男の対比が面白い。
「怪獣啄木」とてもまじめな文体で笑わせる。とても上手い。粗暴な行動を、とても風流に楽しんでいる。認識の違いが笑いを生むという手法を、こんな形で表せるとは。脱帽。
「ファイナルアンサー?」何も言いません。もう次から次へと湧いてくる発想。1000字で連載をしているといっても過言ではありません。今回は投票しませんが、大フアンです。
- 文芸としてのパロディがコンパクトにまとまっていると思います。こざっぱりとした文章も好感が持てました。
- ユーモアの中に、読者だけでなく作者自身をも茶化しているのではないかと思われる皮肉が込められているように読みました。やられた、という感じです。なのに、そこが妙に心地よい。そんな魅力があると思いました。
- というわけで、優勝おめでとうございます。哀愁に満ち満ちた怪獣の後ろ姿を描かせたら当代随一との前評判通り、ぶっちぎりでしたね。あらためてその飄然たる、泰然たる、スチャラカなる構えに敬意を表します。相手の剣に惑わされず、自分の剣に囚われないその構えは、きっと1000字というストライクゾーンが50000字くらいに見えるのでしょう。以上、誠に簡単ではありますがお祝いの言葉とさせていただきます。このたびは大変おめでとうございました。
- きほん的に、こういう作風すきです。ただ、もうちょっと、推敲があってもよかったかな。全体の雰囲気として、まとまってるから、いいか…。
- 感動した、というわけではないのですが、日本語を上手く、美しく使った作品、ということで、一票。
●九月の花束(一之江)
- 読んでいて切ない。自分が小説の登場人物でないのが残念だ。深みでは「夜の蝉」(伊勢湊さん作)、また完成度の面では「真夏の音場」(紺詠志さん作)を挙げたいが、純粋に読む楽しみを味わせてくれたという点で同作を推します。
- 非常に爽やかな内容で、美しいと思った。「言葉がでて来なかった」と言うところが良い。
- まず第一に、小説以前に文章。芸のない文章はそれが効果になっていないかぎり優等生が書いた国語の作文のように退屈だ。ヘタでもいいから小説を読んだ気にさせてくれる文章を読みたい。その点から5作を選んで、内容でしぼったのが以下の3作。
『怪獣啄木』(蛮人Sさん作)だからなんだといったら、なんでもない。哀愁があるといったら、あるかもしれないが、たんに、手法のおもしろさでモノを言っているナンセンスな作品と見る。まずだいたいにして、なぜ怪獣が啄木風の物思いにふけらなければならないのか、という根本的な必然性が、まったく不明であるところからしてナンセンス。しかし、もったいないことに、「書き手オチ」というじつに論理的で明解な「有意味」でしめられて、ナンセンスではなくなってしまった。『焦げる空』でしめたらかっこいい。タイトルとのからみもあるし、好きずきだろうが、このオチならないままでよかった。
『九月の花束』(一之江さん作)きれいな文章で、きれいな物語が描かれている。それほど陳腐に思わせせないのは、『享』の不器用さがごくしぜんだからだろう。客商売に慣れて器用な印象をあたえる人間の、おおいかくされた不器用といったかんじ。そういった意味で、器用ぶる方法を身につけて、それに疲れたりしている多くのオトナたちを、アコガレさせるちょっとした恋の情景ではないだろうか。さらっとムードで感じさせる好作。ゆえにか明日になったら忘れてしまいそうで、なにかひとつ印象的な言葉があったらよいが、これはこれで、はかなげでまたよいのかもしれない。
『ラーメン』(越冬こあらさん作)くだらないことを、いたってシリアスにやっているというのは、それだけで上等の喜劇だが、そう見られる当人にとっては不幸なこと。そこがまた、見る人の残酷なよろこびをくすぐるのだろう。この作品の主人公は、そういう、バカにして見られる人間としての哀感の下に、亡き妻を想うという自身の悲しい状況があって、じつはかなり悲劇的な物語だ。が、ループ(だと読んだが)でしめて、あくまでコッケイな喜劇の体裁にしたてているのがいい。個人的には、多少、主人公に自覚、自嘲的な部分があったほうがホッとする。これでは、れっきとした「病人」に見えなくもないし、狂人なるものはわれわれ常人から見ておもしろいに決まっている。
キズのなさから消去法で『九月の花束』を推す。
●ぷりゅっ(りんねMomo)
- 吾輩は猫である、へのオマージュでしょうか。話の持っていきかたが軽妙で、ひきこまれました。手法が好きな作品でした。
- 前半はちょっとブラックなのかなあっと思ってたんですが、オチがよかったです。可愛かった♪ 最後の科白で一気にほのぼのしちゃいました。
●戦後*年にささぐ(有香)
- 仮名表記で若干気になるところがなかったでもないんですけれど、(「いひのです」とか)致命傷ではないと思いますし、単純に作品としてまとまっていると思うので一票を投じます。
- 人のことは言えませんが今回本当によく人が死んでますね。さて、有香さんの「戦後*年にささぐ」を推します。雰囲気があって妹さんの語る様子が見える様です。1000字以上の内容が感じ取れます。
●夏祭り(川辻晶美)
- 話の入り方からうまいと思った。情景がストレートに入ってくるし、読後に引く余韻もいい。他と読み比べてもひと味違う作品と思った。
- 安易に「死」を題材にした作品が多い中、男女の心情が丁寧に表されて好感がもてた。
●蝉(高坂尚志)
- 投稿作品の中で、一番リアルさがあった。特に、蝉が手の中で暴れている感触がこちらにまで伝わってきた点を私は評価したい。ただ、ちょっと擬音語が多すぎる気がする。「ひ、と息を飲んで」からの擬音語オンパレードが無ければ、もっと洗練された仕上がりになったと思う。あと、Q書房さんのこのサイトには前から目をつけていたのですが、1000字とかとなるとやっぱり小説と言うよりは詩っぽいのが多いですね。
- 一番の理由は構成が好きだったことです。一つの作品としてまとまっているにもかかわらず、前後を予感させるような内容で楽しめました。
●ウルトラマンの懺悔(松拳)
- 面白かったです。そうですね、確かに三分で変身は解けちゃいますもんね。タイマーって大体三分だし、そう思うと便利だなあ、ウルトラマン。
●真夏の音場(紺詠志)
- 笑いを狙った作品に笑わされた。これ以上の推薦理由があろうか? 絵的にとても可笑しい。主人公の反応も最高。いい意味で馬鹿馬鹿しい話でした。
●衝動(放物線)
- 全体的に暗い独白調で、唯一の事件である「ひったくり」も現実感がありませんでしたが、それだけに「唐突な殺意」にスポットが当たり、正に衝動自体がリアルに描かれていると思いました。
●ファイナルアンサー?(鮭二)
- 鮭二さんの『ファイナルアンサー?』を推します。個人的には最もクるものがあった作品です。夫婦?のセックスで難しいのはプロセスとタイミングかもしれません。ムードに無頓着な片桐と、マニアックすぎる夕子。それでもたまに会う恋人同士なら、わりかし最初からシンクロ状態だし、あるいは常時接続可能な若さでもあれば、まあどうにかなるんでしょうけれど。対象を限定する作品とは思いますが、私には興味深く読めました。
●首(仏)(無効票)
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