第25回1000字小説バトル結果
第25回1000字バトルの結果は、越冬こあらさんの『換気扇』がチャンピオン作品と決まりました。
越冬こあらさん、おめでとうございます!
皆さま、ご投票いただきましてありがとうございました。
※掲載ミスのおわび:
今回の結果発表は9月5日未明にいったん公開されましたが、その後、投票いただ
いた方より感想が掲載されていない旨、ご連絡をいただきました。
原因ですが、これは投票メールが私(蛮人S)に何らかのトラブルにより届かず、
かつ、私がそのチェックを怠ったまま集計し公開してしまったことによります。
このため私は結果発表のページをいったん閉鎖し、再度公開した次第ですが、最初
に発表したものとは異なった結果となってしまいました。
参加作者のみなさま、投票いただいたみなさま、読者のみなさまには大変ご迷惑を
おかけしましたことをお詫びいたします。今後十分に注意するとともに、ミスを起こ
しにくくするための手段を検討いたします。
今後とも「Q書房のQBOOKS」をなにとぞよろしくお願いいたします。
1000字小説バトル担当 蛮人S
※投票いただいた方へ:「投票したはずの一票が入ってない!」「私の感想文がない!」なおこのような事がございましたら、直ちにご連絡いただけますようお願い申し上げます。
- 換気扇(越冬こあら)
- この人の作品を推すのは個人的に大変悔しい気がしないでもないが、鼻差ぐらいで他の作品より出ているような気がしたのでしかたない。主題や書いてある内容は取り立てて目を引くものではないが、その取り立てて目を引くものではないものを独自の感性で上手にまとめているのがいいところだろう。押さえ気味の調子もいい。老練である。
以下、気になった他作品。
「フロア」加納利夫氏。筆が滑らずに落ち着いた後半は文章力をうかがわせる。読みにくさが少ないのが〇。ただし前半部の抽象的な記述は後半の描写があれば説明するに必要なしだろう、この手の作品では。ストーリー性を求めないのであれば、描写に徹するべきだと思うし、この作者ならできるように思う。読み手がそういった作品を好むか好まないかは別問題だ。
「平等な国家」ラリッパ氏。言われるのを覚悟の上で書いているのだと思うが不条理ショートショートは星新一を思わせる。しかしラストは「ひき逃げ犯を殺したらいいじゃん」と思わずにはいられない(犯人が男だったらだが)。矛盾を感じさせるとせっかくのアイディアの輝きが鈍る。もっとこのアイディアを大事にしても良かったのでは。
「完全なる世界」サトコフ氏。「緑の老人」には爆笑した。推薦作次点がこの作品。しかし「勝ってきたボードゲームを楽しんでいる」という構図からは抜け出しておらず、張っておいた伏線としての「蚊」もラストの段階でいかなる意味を持っているのかいまいちわからない。「ゲーム」を挟み込むように「蚊」がもっと面白く展開することもできたのではないか。そうすれば小さい構図を破壊して外に出られる――気もする。
「猿と龍、既定の宿命」由述ヨシノ氏。オチ大好きで読んでいるのではないが、しかしこの作品は「落とし」の部分で見事にそれまで築いてきた作品の良さをなくしてしまった。「足りない男」というモチーフは大変面白かったが、その状況に切れて真っ裸で走り出す、という解決は安易ではないか。もっと違ったこの物語の終結はあったように思う。読者の想像に任せるなどの手段もあったはずだ。後半まで面白かったのに、残念。
「次はあなた」太郎丸氏。「クイズ師」(とか勝手に言っていいものかわからないが)という職業を創出した辺りは面白い。しかしその職業を活かすストーリーとしてこの話の展開でいいのだろうか。通常クイズ番組で始まるのはいいが、本来もっとも面白いはずの「クイズ師人生」があまりにも簡単に終結してしまうのが残念だった。1000字でまとめるのは難しかったか。
「引越し」asサーモンas2号氏。独自の切れ味で文章をつづっているので最後までしっかり読める。しかし、残念ながらそれ以上の発展はなかった。テーマがはっきりしていないのが最大の欠点だろう。話の焦点がぼやけてしまっているので、どこを読んでいいのかわからなかった。「変な格好」で倒れた「ばあさん」のキャラが、出だしのマックスからしぼんでいく一方なのがもったいない。が、この人のこういった作風はもっとたくさん読んでみたい。
- あれやこれやの緩やかな結びつきが描かれている起伏を楽しむことができました。読みすすめていくときの手応えが心地よかった。面白かったです。
- 最も自然に読めた作品でした。
換気扇と潰瘍を描写する視点が、
すごくうまいと思いました。
後半部の、「そうだろうか。」という一文が、
それまでのテンポとうまく調和していて、
好みです。
- 8月のはじめにプリントアウトした全作品を読み、いま、タイトルだけを見て内容が思い出せた作品。
2.「聖人と教祖」のぼりん@SSEAさん
10.「夕焼けの廃校。ちょっとした過ち。」瀬田春風さん
22.「Lonsome Moon」川辻晶美さん
27.「ふたり」ウエダカホリさん
28.「アルマジロ」三月さん
29.「換気扇」越冬こあらさん
月初に読んだ時点ではあまり良いとは思えなかった作品も私の脳味噌にしたたかに忍び込んでいた。あらためて上記6作品を読み返してみる。
2と10は当初あまり良いとは思えなかった、いや正直にいうと、そのオチを嫌悪した。負の印象が私の記憶に止まったらしい。読み返してみてもその印象は変わらない。しかし、一ヶ月間にわたって読み手に嫌悪感を持続させたのは作品のエネルギーと言えないだろうか。
22と27は書き出しの取っ付きにくさがある。初読時にさほど印象に残らなかったのはそのせいかもしれない。
「彼女の細い指先が、その香草を挟んだ瞬間、僕はこれまでの恋なんて取るに足らない、友情のほんの少し延長だったことを思い知らされた」
「僕」の視線が甘ったるい。最初の一行でくじけてしまいそうになる。気恥ずかしい印象に貫かれている。恥ずかしいと感じるのは私自身の中にも「僕」が棲んでいるからだ。普段はなるべく気付かないふりをしている。
「ふたり」の平仮名はどうかと思う。まず読みにくい、単純に。それが初読の印象。それとやはり甘ったるさ。一ヶ月経って印象に残っていたのは「なか」にいる「ふたり」の過酷な現実であって、文体ではない。
28、29は初読と再読であまり印象が異ならない作品だった。安定した力があるのだろう。
「アルマジロ」は緊迫感の出し方がうまい。作りものっぽい緊迫感。B級アクション映画っぽい緊迫感。「そのとき、だった」の読点の打ち方、「がさり」の前後1行空けなど、「熊」に引けを取らない緊迫感。ぜひ今度は喜劇でその才能を発揮してもらいたい。
「換気扇」は堅牢な構えをもった作品だ。構えがあるからこそ、零れ落ちるものが笑えるのだ。チャップリンの目は笑っていない。伊東四郎の顔は怖い。喜劇とはそのようなものだ。換気扇カバーから医師の左手に掲げられたレントゲン写真への視点の移行がすばらしい。世界はそのようにねじれているのだと教えてくれる。
(asサーモンas2号)
※編集注:本人の要望により記名のまま掲載しています。
- 平等な国家(ラリッパ)
- 煮詰めると暑い時節ではあり、考えつめると「該当作なし」になりそうだし、さらにあえて「なし票」を出すならそれなりに委曲を尽くした総論を書かねばなるまいし、するとなおヒューズが飛びそうになるので、つとめて軽く考えることにした。
目をつけたのは次の四作品。
『平等な国家』『近所の床屋さんにて』ネタ・オチ系。
『Lonsome Moon』『換気扇』雰囲気系。
川辻さんの『Lonsome Moon』はある情緒があざやかに感じられたが、「サングラスの意味」等、腑に落ちない所が些かあった。とは言え、読み込みの不足かも知れぬし、気にしないで下さい。
越冬さんの『換気扇』は、換気扇掃除と病気。この二つを平行させて一つの段落に書き込む試みはわかるが、私の好みではもう少し風通しよく書いてもよかったと思いました。
やみさきさんの『近所の床屋さんにて』はこなれた語りがよく、今回はこの作品に限る、と途中までは思っていたが、最後の(おしまい)でどうにも取れなくなった。ちょうど1000字にこだわったのなら、全く無用だと思います。
ラリッパさんの作品、ネタは他愛ないが、目だった破綻もなく、過不足なくバランスが取れた姿をしている。参加作中ではいちばん「読める」ものになっていたと思います。
- スームズに苦なく読めました。それでいて面白かったです。
- とにかくこの「平等法」という破天荒な発想が郡を抜いていると思いました。後半、女性が死んだ場合の「現地調達」がどのようなかたちで行われるのか、読者の想像に委ねられていますが、「銀色の缶」が出てきたことで、単に男性が一人殺されるだけという想像が否定されて、去勢というかたちで中間的な存在になるのではないかという悪い予感も働いて、読後もウカウカしていられませんでした。
- Lonsome Moon(川辻晶美)
- どこにでもありそうな風景をうまく切り取っていると思います。
話の前後が想像できそうな感じで流れ方が自然。
ネタの内容としては少し使い古された気もしますが、
独特の匂いが感じられてよかったと思います。
- 川辻晶美さんの『Lonsome Moon』を推します。素直かつスマートにまとまりすぎて物足りないという声もあるかもしれない。でも1000文字には1000文字なりの余裕があっても良いとおもうのです。
- ふたり(ウエダ カホリ)
- ウエダ カホリさんの「ふたり」を推薦します。
視点がぶれる作品が多い中で、
一人称で表現されていてるし、テーマもしぼられていて読みやすい。
ひねくれた主人公の性格がよく表現されていて、
ひらがなと漢字の割合も内容に合っている。
「小説」というより「詩」に近いのが気になったが、
評価を割り引くほどのものではなかった。
この作者には、長い作品でも書けるスタミナを感じる。
- 表現が抽象的で詩みたい。
だけどきちんとりんかくが浮き出てて、ふしぎな雰囲気がきもちいい。
- 猿と龍、既定の宿命(由述ヨシノ)
- 何作かの候補はあったが、今回は明るい口調のこの作品を押します。
七五調の文体は、やはり日本人にはテンポ良く感じられるのか読みやすかったです。暗くなりがちな作品の多い男女の関係も明るく前向きに書かれていることにも好感が持てた。 - いつも1000字は選ぶのに苦労しますが、なにぶんいろんなタイプの作品があり、どういう基準にしようと迷ってしまうのです。1000字でトータルでといってもなあ。
僕が基本的に好きなものは雰囲気で訴えかけてくる「Lonsome Moon」「君の街は僕の街」など。しかし今回はコメディー系が秀逸。「アルマジロ」「次はあなた」。とくに「アルマジロ」はなんかまじで恐い。僕は影響を受けやすいので住んでいるところの近くに森があるのですがしばらく恐くて夜は通りたくありませんでした。しかし、そんな中で今回は「猿と龍、既定の宿命」にさせていただきます。笑えるのに悲しい。コメディータッチを思わせながら漂うせつなさと、それを壊したい衝動。(まあ、ストリーキングはすぐ捕まるだろうけど)いつだって一番になれるのはたったひとりで、栄光の影で突き抜けられない苦しさに人は足掻くものだから。
- 大きな椅子(川島ケイ)
- この『大きな椅子』を読むまでは、越冬こあらさんの『換気扇』を推そうと思っていました。1000字というごく短い枠の中で、一つの作品としてこれだけまとまった、かつ心に響くものが読めるとは思っていませんでした。モチーフの使い方、醸し出される雰囲気、どちらを取っても群を抜いていた出来だと思います。
また、有馬次郎さんの『君の街は僕の街』もとても好きな雰囲気でした。子どもの描写に愛情を感じます。ウエダ カホリさんの『ふたり』は、個人的にとても引っ掛かる話でした。何度も読み返してしまいました。ただ、「わかる人にしかわからない」的な印象が強かったのは、ちょっとどうかな? と思います。
- 最初に一通り全作品読んだときから、もうこれに投票しようと決めていました。
最近の私の読書傾向からもこの作品はストライクゾーンど真ん中に入りました。
最近、暖かい家族ものに弱いです。グッときてしまいます。
- 聖人と教祖(のぼりん@SSEA)
- 特に目を惹いた作品は『聖人と教祖』『ふたり』です。
『聖人と教祖』は、笑えました。もうそれだけです。ともすればオヤジギャグで消滅する馬鹿なアイデアを作品にまで引っ張り上げたパワーに敬意を表します――ところで、お巡りさんの目玉は繋がっているのでしょうか。
『ふたり』は、主人公の心情がよく描かれていて良かったです。難を言えば彼女の設定があまりに辻褄が合わなさ過ぎですが。
- 女神様のため息(よしよし)
- 「女神様のため息」「平等な国家」「大きな椅子」の3編が私としては好きでした。それぞれに傾向の違う作品で、「女神様のため息」の明るさ、「平等な国家」のブラック、「大きな椅子」の雰囲気、どれも甲乙付けがたいものでした。でもこのごろ暗い小説ばかり読んでいるので、明るさの希少さをとって推薦作は「女神様のため息」とします。
- 左右(完崎竜)
- そうですな、何となく印象に残りました。私はどちらかというと童話風なものが好きなので。変に小説ぽくしているのは何だかつまんないなー。
1,000字なんだから、メルヘンなのが良いな-
- 夕焼けの廃校。ちょっとした過ち。(瀬田 春風)
- いかにもなショートショートですが、
「役になりきる」役者の姿が面白かったです。
- 君の街は僕の街(有馬次郎)
- この作品の題名「君の街は僕の街」は、とても落ち着いた雰囲気が感じられ、タイトルが好きです。読み始めのところから中盤までは子供の話しとは分からず、「あ〜なるほど」と思ったときに全体の文章が急に生き生きしてきて良かったです。最後のたぶん家に帰っていくシーンは、子供心のちょっとした別れぎわの寂しさの様子がうまく表現されていると思います。
- 呪いの部屋(藤丸)
- 他の方の作品は背景やらテーマやらを読み込むのにも根性がいったのですが(待ちなさい)、この作品は落語みたいに純粋に楽しませてくれたので好きです。最後のオチのところで、そうかそう云うトコに来たかーっと膝を叩いてました。はい。懐かしいショートショートを読んだような感触でしたねv
- 無駄な時間(かわのプーさん)
- 近所の床屋さんにて(やみさき)
- かつら作ればいいんでは? と後になって思ったのだけど、
花の色鮮やかさが目に見えるようで、暗い状況を描いた話にもかかわらず、
華やかさが散りばめられていました。
次点は「ふたり」
語り手が胎児という設定をひらがなの多い文章で見事に
表現できていたと思います。
- 顔の記憶(伊勢湊)
- 今回、新しいタイプの小説の提案もいくつかありましたが、ストーリー性、光、音、香り、色彩、そして余韻などが読み手にしっかりと残る作品として次の5作品を推薦します。川辻昌美さんの「Lonesome Moon」、伊勢湊さんの「顔の記憶」、一の江さんの「雨やどり」、川島ケイさんの「大きな椅子」、as サーモンas2号さんの「引越し」。
どの作品もさすが、常連出稿者の顔ぶれです。(サーモン2号さん以外は。笑) ほんとうに1000字の枠内でどれも、きちんと小説になっています。
それら優秀作の中で、今回は「顔の記憶」の伊勢湊さんを推挙したいと思います。主人公の心理描写が際立っており、痛み、切なさなどが読み手に充分伝わってくる作品だと思います。この作者の作風には毎回、どこかしら印象に残る描写があり、いつの間にか、読み込んでしまう結果となります。
- 雨やどり(一之江)
- どうとでも取れる内容も、綺麗な文体だと心地良いです。素敵な雰囲気でした。
次点で雪名雄太の「美しい世界」
オチが良かったです。前半の単調さがなかったら、こちらに入れてました。
- 引越し(asサーモンas2号)
- ばあさんの格好を書いた最初の部分が好きです。西日に照らされている年季の入った柱が浮かんできます。
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