誘い文句はエレガントに?
香月朔夜
「ねぇ、ねぇ、アヤっ、今日ねっ、今日お祭りに」
「行かねぇ―…」
俺の部屋に入ってくるなり、開口一番、非常にめんどくさそーなことを吐きかけた、今年十才になるはずの少女のたわごとを、俺は即座に却下した。
すると彼女は頬をぷうっと膨らまして、何処で覚えてきたのか、まったくもって意味不明な言葉を撒き散らした。
「あほっ、ぼけっ、とんちんかんっ、いけずっ、むほーものっ、タヌキっ、なすびっ、いんげんまめぇぇぇっ!!」
いや、ほんとーに意味わかんね―し。
はぁ…。しっかし、これでも一応俺の母親なんだよな、情けないことに。
あ―…正確には製作者と言うべきか?
とにかく、このどー見ても知能指数足りてなさそーなこのガキは、実はこの『機械人間』である俺を作ったIQ200の天才児だったりするのだ、これが。
ちなみに、この事実を口外しようものなら、もれなく笑い飛ばされるか、精神病院に連行されるはめになる。
まっ、それはともかく、
「祭りな―、めんどくさいと思うぞ、俺は。」
やる気失せ失せで、正直な感想を漏らした俺に、彼女は貴重な脳細胞が死滅するんではないか、というほど、ぶんぶん頭を振って否定した。
「そんなことないっ!おもしろいのっ!たのしいのっ!おいしーのっ!!」
ああ、そーかそーか。でもなぁ―…‥
「電車は混むし、車は混むし、人も混むんだぞ―…」
投げやりな俺のセリフに、だが彼女は何故かえへんっと胸を張った。
いやな予感がした。
「大丈夫。まず駐車場は満車で、渋滞で、おまけに車両乗り入れ規制がかかってるから公共交通機構を使って行こうっ!帰りの電車の混雑は、地図や路線図を見る限り歩いて1分の●●駅から乗れば避けられそーだし、念のため、祭り終了時の1時間後のに乗るからへーき。二十万人以上が一気に駅に押し寄せない限り、これは有効な手段なんだよ。あと、祭りの日には主なターミナルから往復切符が出てるから、これも利用しよっ。あ。でも。プリペイドカードも捨てがたいな。改札制限や駅への入場制限がない場合は、これだと改札機をスルーできるぶん時間の短縮なるんだよねっ。それに何と言っても祭りの記念になるし。そだっ!念のため現地の金券売り場もリストアップしておいたから―――――<以下略>―――――」
………こいつ……無駄なところに能力つぎ込んでやがる…‥‥
まだ延々と続きそーなマニアック情報を俺の白旗が打ち切ったのは、それから十分後の事だった。