おはようございますという挨拶がございます。それ自体に何の意味もございません。「おはようございます」がどうしたというのでしょう。
「本日はお早いことでございます」
くらいなら意味も通りましょうが、それを略して、「おはようございます」という言葉が出来たんやそうでございます。挨拶と申しますのは、「私は、あなたに敵意を持っていませんよ」という合図のようなものなんやそうでございます。挨拶の次に重要になって参りますのが、相手を誉めるという作業なんやそうでございます。道端で親子連れにあってもね、「や~かわいい顔してまんなぁ、女のお子さん? いや、まぁ、男の子でんの。あんまりかわいいから女の子と勘違いしとりましたわ。ニコニコ笑ってる顔がなんとも愛らしい。末は総理か大臣かっちゅーお顔してまんがな。将来が楽しみでんなぁ。さいなら、ごめん。」とこう言ったら、相手も喜びまんがな。
「こんにちは。お早いこってございます。」
「どないしたっちゅーねん。」
「たまには旨い酒飲みたいっちゅーて来とりまんねや。旦さん飲んでる酒はどこの酒でんねん?」
「おぅ、これは灘の酒や。」
「どないして手に入れましてん。」
「海外に出張に行った帰りがけの旦那捕まえて、色が黒なりましたなっちゅーたらこの酒おごってもうたんや。」
「色が黒いっちゅーだけで一杯もらえんのかいな。」
「色が黒いにはちゃんと意味があんねや。海外で仕事してお金儲けしてきたんや。それをぐるっと一周回って色が黒いとこういかんかい。」
「はっはーん、相手を誉めたらよろしおまんねんな。」
「お前に極意を教えたろ。相手の年を聞け。で、年より四つ五つ若こ言うてやったら相手も喜ぶわい。」
「四つ五つ若こ言いまんのかいな。」
「相手が四十五なら四十に見えまんな、とこういかんかい。」
「ほうほう。ほな行って参ります。」
「こんにちは。アンタいくつ?」
「アンタ誰や。」
「アンタこそ誰や?」
「色が黒おまんなあ。」
「誰にもの抜かしてけつかんねん。」
「お宅の年はいくつでんねん。」
「わたい、四十になります。」
「四十じゃ具合悪いねん。四十五にしてもらわれへんやろか。」
「何ゆうてなはんねん。四十に見えなんだらいくつに見えんねん。」
「どっからどう見ても四十にしか見えまへん。」
「当たり前や。」
「ここに寝ているお子さん可愛らしい顔しとりますけど年はいくつでんねん?」
「まだ三つや。」
「へぇ~、まだ産まれてない。」