≪表紙へ

1000字小説バトル

≪1000字小説バトル表紙へ

1000字小説バトル stage4
第19回バトル 作品

参加作品一覧

(2019年7月)
文字数
1
勘我得
1000
2
野崎 紺
976
3
ごんぱち
1000
4
サヌキマオ
1000
5
蛮人S
1000
6
島崎藤村
1024

結果発表

投票結果の発表中です。

※投票の受付は終了しました。

  • QBOOKSでは原則的に作品に校正を加えません。明らかな誤字などが見つかりましても、そのまま掲載しています。ご了承ください。
  • 修正、公開停止依頼など

    QBOOKSインフォデスクのページよりご連絡ください。

コミュニケーション

QSHOBOU掲示板

パノプティコン
勘我得

私は洞窟にいた。
正確に言うと、気がついたら洞窟の中にいたのだ。
いつから記憶が無いのかすら、覚えていない。
もちろんここがどこか、なぜここに居るかさえ分からない。
明かりも光もないから最初は洞窟であることすらわからなかったのである。
ひんやりとしているが、寒さは感じない。
肩に触れる岩肌の感触で、多分洞窟なんだろうということしか分からないから仕方がない。
すこし目がなれてくると、壁の様子がうっすらと見えてきた。岩だと思っていたのは、硬く固められた砂か細かな石のようだった。さらにそれは先に続き登り坂になっている。

その光景は記憶にある。
あの場所であることに気がついたのは、暫くしてからだった。

「ここがどこか知っている」と思った。

正確には、どこかは知らないけれどいつも夢で見るあそこであることは間違いない。でも、そこがどこかは分からない。よく知っているが、知らないどこかなのだった。
つまり夢の中で夢の中の光景を思い出しているという不思議な体験をしているのだ。そう思うと、我ながら頭がこんがらがって意味がわからないデジャブを体験していることすら夢ではないかと思ってしまう。

そのとき音が聞こえて、続いて声が聞こえた。上のほうから人の声がする。
「気がついたようだな」
機械音のような声でゆっくりとした話し方だった。
「<パノプティコン>へようこそ。おとなしくしていればなにも心配しなくて良い」とだけ言って消えた。

<パノプティコン>とは確か、18世紀に哲学者ジェレミ・ベンサムによって考案された全展望監視システムのことで、いわゆる監獄で最小の監視者で受刑者を多数監視できる建築のことだ。

監獄に幽閉されている事を知らされたとたん。脱力した。
なんとかして逃げ出す手はないか?何かを繰り返し試してような気がする。だからこの施設のことも、逃げ出せないことも知っているかのように感じるからだ。

ここは黙して様子を見よう。驚きのあまり気絶したような振りをしてみることにした。

◇◇◇

「気絶したようですね。今度の被験者はなんとかなると思ったんですがね?」
モニターを背にした男は、皮肉をこめてそう言った。
「なぜそう思うんだ?この被験者は完璧だよ」
そして博士は振り返ってこういった。

「そもそも<パノプティコン>は刑務所と考えているようだが、本来は究極の更生施設で<教育施設>なんだよ。
彼は9度目にして、気絶すると言う選択肢を自ら選んだのだからね。」
パノプティコン    勘我得

うにきゅう
野崎 紺

なんかね、最近さ、部屋の中で音がすんの。

なんていうか、カサカサって、そうだな、コンビニの袋を擦り合わせるような音。
でね、気づいたんだよ。いつの間にか「それ」が部屋にいることに。
オレは「それ」に「うにきゅう」って名前を付けたんだよね。だって「それ」って呼ぶのもなんかアレだなとおもったからさ。
んで、なんで「うにきゅう」なのかって言うと、色が黒くて、まあ、まあるい。球体なんだよ。で、よく見ると小さなトゲがたくさん生えてる。あの、バフンウニのトゲをもう少し、短くしたようなのがね。だから、「うにきゅう」。
んで、コンビニ袋のカサカサしたような音。もしかしたら、コイツ「うにきゅう」の仕業なんじゃないかって。たぶん生きてるんだよね、コイツ。毎日少しずつトゲが伸びて、大きくなってるような気がするんだ。
毎日仕事で疲れて帰ってくると、カサカサ聞こえるの。毎日。最初はさ、気味悪かったよ。ネズミかな?とか誰かいんのかな?とか。
あ、もちろんオレ、一人暮らしなんんだけどさ。彼女とかいないし。
でもさ、なんか最近、カサカサ聞こえると少し安心するんだよね。あ、「うにきゅう」がいるってね。
最初は、ゴルフボールくらいの大きさで、部屋の隅っこに転がってたんだけど、最近ではもう中型犬くらいの大きさになっちゃってさ。形も球体じゃなくなってきた。で、モゾモゾ動くようになってきたの。んで、なんだかんだで愛着わいちゃってさ。撫でようにも、トゲが生えてるから触れないしなあ。
んでさ、昨日仕事から帰ってくると、部屋のなかを移動してたんだよね。モゾモゾって。ついに移動するようになったのかっておもったよ。その日は一晩中、カサカサしてた。
でね、今日は仕事が休みでさ、オレ物ぐさだから枕元にテレビのリモコン置いてて、目が覚めたらいつも、とりあえずテレビ付けて、ベットでゴロゴロしながらみるんだけどさ、たまたま付けた番組でニュースやっててさ。
「連続バラバラ殺人事件、ミンチ状になった遺体と、その部屋の中には黒色の細かいトゲ状のものが散乱」だって。
「黒色の細かいトゲ状のもの」だって。

ところで、ウニってさ、体の表から見えない、底のほうに口があるだろ?
うちにいる「うにきゅう」、一回も底のほう見たことないんだよね。

でね、その「うにきゅう」、いまオレの枕元にいるんだよね。
うにきゅう    野崎 紺

鬼婆の棲家
ごんぱち

 夏間近の正午過ぎ、飯塚節子と、姑の秋江が差し向かいで食卓を囲んでいる。
 食卓には素麺とたっぷりの薬味、それに蒸した春巻きの皮が並ぶ。
 秋江は春巻きの皮に、薬味のキュウリ、錦糸卵、鶏肉のそぼろを乗せ、ゆず味噌をつけて巻く。
「――節子さん、生春巻きもお食べなさいな」
 笑みを浮かべ、秋江は春巻きを差し出す。
「お義母様」
 節子はほほえみ返しながら、春巻きから身体を遠ざける。
「私が蕎麦アレルギーって知ってますよね」
 そば粉入りの春巻きの皮はところどころに黒い粒が見える。
「その事だけど」
 秋江は春巻きを手放さないまま言う。
「アレルギーって、遠ざけすぎてもダメなのよ」
 言い返そうとする節子に、秋江は言葉をかぶせる。
「漆の職人って、小さい頃から少しづつ漆に触れていく事で、アレルギーを克服するの。誰でもかゆくなる漆ぐらいに強いものでもそれなのよ。この皮なんて、そば粉は二割しか入ってないのよ。麺のお蕎麦なんかより、ずっと安全だわ」
「何度も、アレルギーの発作起こしている事知ってるでしょう」
「そこであきらめるからダメなの。一口でも良いから食べなさい、食べ物を粗末にするなんて許さないわ。うちの家系はおじいさまの代から蕎麦好きなのよ、あなたのような家柄の人間を嫁にしたんだから、それぐらいは従う義務があるでしょう」
「サラリーマンにどんな家柄があるのかは知りませんが、命をかける程のものじゃありません」
「命って大げさねぇ。あなた、何度も発作になったって言ってるけど、まだ生きてるじゃない。ちょっとの発作で過保護にするから免疫も付く前に終わっちゃうのよ。克服しなさいな。孫に遺伝でもしたら大変だわ!」
「どうして分からないんですか! 発作で死ななかったのは奇跡に近いし、そうでなくても地獄の苦しみなんです!」
「そういうのは実際に死んで地獄に行った後で言えば良いでしょう。理屈ばかりで姑の言う事を聞けない嫁なんて、いる意味がないわ! 食べなさいったら」
 秋江が春巻きを握ってテーブルをまわりこむ。
 節子は咄嗟に飛び下がると、椅子を掴み上げ、思い切り振り下ろす。

 それで、終わりだった。

 節子は肩で息をしながらも、割れた頭蓋から血を流す秋江を担ぎ、裏の蕎麦畑に投げ落とす。
 証拠の隠滅の意図はない。ただ、これ以上床に血が広がるのが嫌、そんな考えだけが節子の頭には浮かんでいた。

 それからです。
 蕎麦の茎が赤くなったのは。
鬼婆の棲家    ごんぱち

ノギス
サヌキマオ

 五所川原三吉は居間で独り、腕を組んで考え込んでいた。眼の前に広がるのは新聞の日曜版で「にちようファミリークイズ」とある。動物園で遊ぶ人々のイラストがふたつ並んで載っている、いわゆる「間違い探し」だ。
 なにがファミリーなものか、三吉は五つあるという間違いの内、ようよう四つは探し出した。ウサギの着ぐるみの首が取れている、肩車した息子が父親のカツラを取っている、売店の風船にイソノナミヘイのような落書きがしてある、ハゲワシがカツラを被っている。はっとして着ぐるみに視線を戻すと、中の人もやはりつるっぱげだ。そうなると、五つ目も当然髪に絡めてくるだろうという固定観念がいけないのであろうか、あるはずの間違いがどうしても見つからなかった。どう公平に見ようとしてもハゲに絡めてしまう。頭に手をやるとずいぶん汗ばんでいた。もう禿頭として三十年、天頂から吹き出した汗がそのまま背筋に滑り降りてくる。
どのくらいの時が経っただろう。時計を見ると十一時だ。かれこれ朝食から四時間も間違い探しとにらめっこしていたことになる。急に嫌になってきた。毎週嫌になるのであった。ナンバークロスや数独は得意である。そうして毎週答えをはがきに書いて新聞社に向けて発送してきた。もう十年にもなるだろうか。
 試す眇めつ、紙面を切って重ねたがどうしても見つからない。もうすぐのど自慢が始まってしまう。ああもういやだ。三吉は思い余ってボールペンを一気呵成に走らせた。これが間違いだと紙面に大きく丸を書いた。

 三吉は店のカウンターで独り、腕を組んで考え込んでいた。眼の前に広げているのは、市役所が用意した中小企業用の融資の契約書だ。あと三ヶ月で七百万を返し終わるのだった。店中の時計が一斉に鳴る。もう十一時だ。店の入口から配達夫が郵便をもってくる。見慣れない小さな箱だった。新聞社の名前が書いてある。おや、懸賞の、ファミリークイズの景品だろうか。箱は素っ気もない無地の白い箱で、中にはプラスチックのノギスがはいっていた。
 このノギスには見覚えがある。三吉はカウンターの一番引き出しを開けると、過たずノギスが入っていた。プラスチック製の、ただなんとなく格好いいからという理由で買った、百均のノギスだ。唯一違うのは、送ってきたノギスには新聞社のロゴが印刷されたシールが貼ってある点だ。
 三吉はフッと笑うと、ノギスを箱に戻してそのへんに打ち遣った。
ノギス    サヌキマオ

ワニシャーク! 法隆寺SOS
蛮人S

 雨は音を立て降り続いている。豪雨だ。
 法隆寺の背景を彩っていた山も、今は何も見えない。
「アメリカからはるばる奈良に来たのに、俺たちツイてないよな」
 宿の窓から空を見上げてマックがぼやいた。ゼンシューはため息をつく。
「これはツユという日本の雨季だよ」
「いや激しすぎだろ」
「ねえゼンシュー。バンビはどこにいるの。大阪で串カツ食べた方が良かったな」
 アレシアがぼやいた。ゼンシューは首をかしげる。
「そこがおかしいんだ。奈良にバンビが居ないとは、祟りのせいかも」
「祟り?」アレシアが身を震わす。
「この斑鳩の地には、かつて帝に敵対した聖徳太子の怨念がある。それを抑えるため建てたのが法隆寺だけど、そこに七つの謎が隠されていると言う」
「謎だって?」
「ああ。太子は七人の侍を一度に相手する超人で、法隆寺にはそれに関係する秘密がある。謎の1、池の中には隻眼のフロッグマンがいて……」
 突然、サイレンの音が響き渡った。
『大和川の堤防が決壊しました。すぐ避難して下さい』
「ヤバくないか、ゼンシュー」
「見て、あそこにサメがいるわ」
 アレシアの指差す先、巨大な三角形の影が水面を動いている。ゼンシューが叫んだ。
「ワニだ! 神話のワニシャークたちが大雨で蘇ったのだ」
 サメたちはすでに窓の外を包囲していた。
「ねえマック、どうするのー」
 マックは言った。
「俺に作戦がある。奴らの数とアメリカ人と、どっちが多いか数えると言って騙し、背中を飛び越えて行くんだ。あいつらバカだしな。アレシア、ここを脱出したら結婚しよう。おーい、サメども、俺の話を聞け……」
 マックは死んだ。
「おおマック、なんてバカなの。神話を侮るなんて」
「アレシア、裏口から法隆寺に脱出するんだ」
「オッケー」
 二人は法隆寺南大門に向かって走った。サメたちが背後から襲いかかる。
「ゼンシュー、もう尺がないわ」
「謎の4、門前の石より先に魚は入れない!」
「ほんとだー」
「謎の7、塔の九輪に刺さる鎌から稲妻が出る!」
「出ないわ―」
「拙者に任せるでござる!」
「ああ隻眼のフロッグマンが、電線を繋いでる」
 法隆寺の塔から稲妻がほとばしり、ワニシャークは滅び、斑鳩の里に平和が戻った。
(ありがとうマック。君の死がなければ神話は完成しなかったよ……)
「ゼンシュー、やっぱ尺が余ったんで、隻眼のフロッグマンと大阪行くから後よろしく」
「え?」
 フロッグマンの、怪しく笑う口許。
(溶暗)
ワニシャーク! 法隆寺SOS    蛮人S

今月のゲスト:島崎藤村

 花火が上る。
 川開の夜の光景ありさまを見ようとして、群集はうしおのごとくに押寄せて来ている。両国橋のたもとは言うに及ばず、広小路、柳橋、浜町河岸へかけて、空地くうちという空地は拍手の音や狂喜するような叫声で満たされて居る。日頃町の左右にまなこを配って、用事、買物、もしくは納涼の為に、いそいそと出歩く人達ですら、もう羞恥はじも無く、外聞も忘れ、ただただつれに離れまいとして、逆上のぼせるような息づかいをした。おまけに、蒸暑い夏の夜の空気は人々の心を酔うばかりにさせた。殆んど平素の習俗はここに来て忘れられたかのようにも見える。皆な奈何どうかした。男や女は互いに手を引合って歩いた。
 私が二人の姪を連れて両国橋近くに行ったのは、九時過ぎであった。その日は親類一同揃って昼間のうちに写真を撮ったし、夕飯には表を開けひろげて、涼しい風の来る古簾の影で、一緒に冷麦を取寄せて、食った。河岸の種菓子屋からは使があって、家の者はかわるがわる見に出掛けた。信州出の子守女なぞは時々眼を円くして帰って来て、『まあ、東京というところは、男と女が手を引いて歩いてる、』斯う言って息をはずませて居た。本所の大将はまた大将で、家の表の涼台すずみだいに腰を掛けて、扇子をパチパチ言わせながら、『世が世なら、伝馬てんま一艘いつそうも買切って押出すのになア、』と深い嘆声を発していた。
 私共は、肩と肩と摩れ合うばかりの群集の中を通り抜けて、花火のよく見える処へ出た。丁度そこは電信柱の側で、片隅には多勢おおぜい動かない人が居る、一方には押しつ押されつする人達が暗い波のように入り乱れて居る。手を引合った男女は、幾組も、幾組も、私共の立って見ている前を通り過ぎた。
『叔父さん、御覧なさいよ。』
 と年長としうえの姪は笑い乍ら、無遠慮な夫婦をゆびさして見せた。親子と言っても可さそうな人達は相携えて歩いて行った。
『あらた来てよ――ハイカラねえ。』
 と言って、年長としうえの姪はえりかき合せた。年少とししたの姪はまだ田舎から出て来たばかりで、都会の風俗を蔑視さげすむような眼付をして、何となく見るに堪えないという様子をした。
 ポンポン花火が上る。十年前には見られなかった薄紫の煙が夏の夜の空に映る。混雑した群集の中で、私の心は遠く少年の昔へ往った。亡くなった叔母が一緒にの花火を見に来た時、私の手を握って放さなかったことは、長い間の疑問として残っていた。それは私が少年の時のことであった。其晩――ちょうど私も叔母の年頃に成って――はじめて私はの時の叔母の心地こころもちを想像することが出来た。