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1000字小説バトル

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1000字小説バトル stage4
第23回バトル 作品

参加作品一覧

(2019年11月)
文字数
1
サヌキマオ
1000
2
金河南
1000
3
ごんぱち
1000
4
蒲松齢/ 柴田天馬
987

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コミュニケーション

QSHOBOU掲示板

丸まった死
サヌキマオ

 相談室を稼業にしている。昼前にポストに送られてくる質問に答えると、部屋の柱にかけられたステンレスの貯金箱がチャリンチャリンと鳴って、開けると五百円玉がざらざらと出てくる。
 今日の相談は「タピオカの"タピ"はなんですか?」だ。しばらく腕を組んで考えてから窓の外を見た。秋晴れの空の下、にんじん畑、ニンジン畑、人蔘畑。
「タピオカのタピとは」言い出しがよくない。説明を言語化するのは難しい。
「死という漢字があって」こっちのほうがうまくいきそうだ。死の上の横棒がクルッと丸まってしまうとタピとなる。そう、もともと「タピオカ」は死オカだったのだ。「オカ」もなんとかなりそうな気がする。オカ。功? 字を崩して書けばそうなる気もする。「才力」はどうだろう。死才力。なんだろう、死力とどう違うのだろう。死力は尽くすもので、死才力は奮うものだろうか。
 貯金箱を気にするが、特に動きはない。五百円玉が発生するときには音とともにかすかに震えるのだ。

 埒が明かないのでミアメァちゃんと散歩に出た。ミアメァちゃんは同居のハムスターで小さくてふわふわしている。駅前まで出るとタピオカミルクティーの店がある。平日の昼下がりなのにがらんとしている。店内は狭いが、店前の路地にむりやりオープンカフェ風のテーブルと椅子をふたセット出していて、通行人がやや迷惑そうに通り過ぎる。
 タピオカミルクティーは六〇〇円もする。普段いっぱい二〇〇円でこぼこのコーヒーを飲んでいると「タピオカ分が四五〇円なんだなぁ」などと考えてしまう。まぁ仕方ないが、それでも「このミルクティーの底に沈んでいるタピオカの個数をn個とすると、タピオカ一個の値段は四〇〇/n円なんだよなぁ」などと考えてしまう。ふと気づいてメニューを見ると、ブレンド四五〇円とある。そうか、ここはコーヒーが四五〇円する店だったのだと思い知る。
 おっと、思わず考え込んでしまった。太いストローから飛び出してくるタピオカは奥歯の圧力をしっかりと受け止めてくる。こういう食感で人が喜ぶのはなんでだろうなぁ、とふとテーブルの上に目をやるとメアミァちゃんがうつ伏せに倒れている。フハッ、とあわててひっくり返すと頬袋にタピオカを詰め込んだまま白目を剥いている。
「事程左様に」もうすでに日が傾いている。
「タピオカのタピは、丸まった死である」
 そう回答すると、貯金箱がチャリンチャリンチャリン、と震えた。
丸まった死    サヌキマオ

エクストリームちりがみ交換
金河南

 B〇〇Kオフで安く買いまくっていた古い漫画を、読み終わった順に積み重ね紐で束ねる。60冊ぶんの束を両手に玄関へ持って行くと、そこには既に200冊近くの束が山積みされていた。
 遠くから、じわじわとちりがみ交換の声がきこえる。毎度ぉ~、お騒がせしておりますぅ~、という拡声器のダミ声。近づいてくる。
 すかさず母さんが居間から顔を出した。
「あんたのマンガやら雑誌やら、とっとと交換に出しちゃいなさい!」
「はァーい……」
 ああいうのって、手を挙げてたら停まってくれるのかな。っていうか、時代も時代だからトイレットペーパー交換って言ってくれればいいのにな。サンダルをつっかけて家の外に出ると、今まさにちりがみ交換の看板をつけた軽トラックが「ぶぅん!」と通り過ぎ、向こうの角を曲がっていった。
 速っ……。
 家の中に戻り、母さんに「なんかもう向こうに走って行った」と言った直後、また遠くからちりがみ交換の声が聞こえて来た。今日はこの町内をグルグルまわっているのだろう。もしかしたらもう一回家の前を通るかもしれない。そう考え、道路のすぐ横で待ち構えていると、やはり来た。控えめに手を挙げると軽トラックは「ぶどぅるん!」と通り過ぎ、向こうの角を曲がっていった。
 いくらなんでも速すぎる。
 こっちは手だって挙げているのに。
「母さーん? なんか、速くてとめらんなかった。また今度でいーいぃ?」
 テレビを見ている横顔にそう伝えると、母さんはため息をついて立ち上がった。玄関に行き、本の束を両手に提げて外に出て行く。またちりがみ交換の声が通り過ぎたと思ったら玄関の戸が開き、母さんがトイレットペーパー1個を持って戻ってきた。
「次」
「えっ、」
 ポイとトイレットペーパーを投げてよこすと、母さんは次の束を両手に提げ、外に出て行った。そしてまたトイレットペーパーを1個。次の束。トレペ1個。また次。一体どうやって? 思わず外に出る。道を爆走する軽トラック。速度をゆるめない。母さんが最後の束を前後にゆらし、勢いとタイミングで軽トラの後ろにシュート! すかさず助手席の人がトレペを放ってくる!! 野球の内野手並みの動体視力でマザーグレートキャッチ!!! ザザザ、アスファルトにこすれサンダルがうねるッ!!!!
「や……、いやいやいや停まってもらおうよ?!?!」
 母さんはやり遂げた顔で親指をたてた。
 路駐禁止の道路標識がキラリと光った。
エクストリームちりがみ交換    金河南

タイムパトロールのある風景
ごんぱち

「――タイムパトロール隊員、への7号、出動せよ!」
 出社するや否や、係長の命令が下った。
 オレはいすず社七十四年製タイムマシン『ピクシー』パトロール特別仕様に乗り込み、エンジンをかける。
 こいつは、オレがこの仕事を始めた時からの愛機で、前方にコックピットと視認性の良い窓を持ち、後方に拡張性の高いコンテナラックを装備する。旧式だが、最初のボーナスの時のこっそり二兆年先に行って、第六銀河の知的生命体『アドル』と接触し、時空シールドと次元エンジンを積み替えているから、人類の終わりまで世界最高最新鋭のマシンだ。
 七億次元タキオン加速器が、空間を張り詰めさせるような唸りを上げる。音とは違う、心地よい圧迫感だ。

 コンマ五秒で目的地の目的の時間に到着した。
 瞬間にオレはスタンギアを起動させる。既にトリガーには思考をかけていた。認識すれば十分だった。
 時間犯罪者は昏倒し、その場に崩れ落ちる。
 犯罪者が持ち去ろうとしていたそれは、良い具合に煮上がったビーフシチューの鍋だった。

 こいつは、タイムマシンを使って事もあろうに出来上がりの料理を未来の自分から奪おうとしていたのだ!

 未来窃盗は重罪だ。これが横行したせいで、我々の文明は一度滅んでいる。
 その時に組織されたのが、タイムパトロールの前身、『子どものために正しい時間を残す親の会』だ。同会は荒廃の原因となったあらゆる原因を、タイムマシン駆使して修正し、文明滅亡の前に人類の意思と種類を統一し、時間汚染されていない時空へ避難させる事に成功したのだ。
 利己的な原住民との「調整」は困難を極めたが。

 昏倒させた時間犯罪者をコンテナに放り込み、きっかり二秒でオフィスに戻る。出発のコンマ二秒後合わせ。これを間違えると、オートシールドに弾かれて、一分は到着がずれてしまう。時間旅行の一番危険な操作だ。
「――首尾はどうだった」
 オフィスに戻るなり係長が尋ねる。
 報告装置は使っていた筈だが、こいつは時々こういう事を言う。これで新人社員が七人は辞めた。まあ、作業効率から考えれば、今更新人も必要はないが。
「出来上がりのシチューを盗もうとしていた。凍結ルームにぶちこんどいたよ」
「ご苦労。帰って良いぞ」
「おう」
 タイムカードに打刻する。
 勤務時間三分。実働四分。今日はよく働いた。
 明日に備えて、二年程バカンスに行こうか。それとも、夕食のためにマグロを釣りに行こうか。
タイムパトロールのある風景    ごんぱち

種梨
今月のゲスト:柴田天馬/翻訳
蒲松齢/原作

 いなかの人が有って梨をまちに売りに出て来た。たいそう甘いにおいのよい梨であったから、たちまちねだん騰貴たかくなった。すると破巾やれずきん絮衣やれころもという身なりの道士があって、車の前にもらいに来た。いなかの人は咄之しかった。けれども道士はいかなかった。郷の人は怒って、加之ますます叱り罵った。道士はった、
「一車に何百顆なんびゃくとあるのじゃがナ。老衲わしはその中のたった一つをくださいというので、居士あんたには大した損でもないのに、なぜそう怒りなさるのじゃ」
 そこで観ていた人たちが、劣者わるいのを一枚やっていかせなさいと勧めたけれど、郷の人は執不肯きかなかった。みせの中にいた傭保ほうこうにん喋聒やかましくて不堪たまらないところから、とうとう銭を出して一枚だけいとり道士にった。道士は拝謝おじぎをした後、周りに集っているひとびとにむかってった、
出家人しゅっけじんというものは吝惜けちということをりませんじゃ。わしは佳い梨が有りますでナ。それを出してお客さんがたにげたいと思いますのじゃ」
 と、あるひとった、
既有之もってるのに、なぜ自分で食わんのだい」
 道士は曰った、
わしは特にこのたねって種にようと思いましたからじゃ」
 そこで梨をにぎって啗且くってしまい、その種を手に把ると、肩上かたすきおろして、地上じめん深幾なん寸かり、それを納れて覆以土つちをかぶせた。そしてまちの人たちに向い、沃潅かける湯がほしいといった。好事ものずきな者が路店にって沸瀋あついゆもとめ道士にやった。道士はそれをうけとってった処をしめした。万目みんな攅視みつめているとまがったが出てくる。漸々だんだん大きくなる。俄に樹となる。枝葉が扶疎しげる。たちまちにして実がる。碩大おおき芳馥においのいいのが累々満樹すずなりに生ったのであった。道士はそこで即樹頭きから摘みとって観ている者たちに分けてった。頃刻すぐ而尽なくなってしまった。すると道士はすきで樹を伐りはじめ、丁々とんとんやや久しくやっていたが、乃断きれたので、葉のついたまま肩頭かたに荷い、従容徐歩しずかに而去いってしまった。
 初め、道士が法術をやりだした時、いなかの人もやはりおおぜいの中にまじって、引領くびをながくして注目みいっていた。竟忘其業しょうばいもわすれてしまっていたのである。道士が既去いってから始めて車の中を、梨はもうなくなっていたのでやっといま俵散わけてやってたのが皆んな自分の物であったのを悟ったのである。また細視よくみると車上くるまたずなが一つくなっていて、それはあらた鑿断きりとったものであった。心大たいそう憤慨くやしがって急いであとをつけていった。へいかど転過まがりとったたずな垣下ねがたに棄ててあった。やっと、道士の伐り倒した梨の木が、即ち是物これであったのを知ったのである。道士の所在ゆくえ不知わからなかった。一市まちじゅうでは粲然おおわらいをしたのであった。
訳者註
(一)俵散(ひょうさん)とは分ち與えることである。俵は分かつことで俵(たわら)というのは和訓である。
(二)粲然(さんぜん)とは白い歯を出して大笑することで穀梁伝に軍人皆粲然而笑とある。