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1000字小説バトル

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1000字小説バトル stage4
第27回バトル 作品

参加作品一覧

(2020年3月)
文字数
1
山中 清流
1000
2
サヌキマオ
1000
3
ごんぱち
1000
4
アレシア・モード
1000
5
渡辺温
1386

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コミュニケーション

QSHOBOU掲示板

執念の恐怖
山中 清流

とある夕刻の森のはずれで、おそらく最後の生き残りの一匹であろう魔物の生物が俺を苦しそうな目で見あげている。この魔生物、十年前にはこの世で最も恐ろしい百魔の王とも呼ばれ、魔王や王国騎士団ですら匙を投げた恐るべき魔物だった。一匹一匹の戦闘力もかなりのものだが、その残虐性、知能が低いことによる損得勘定のなさ、そして一番恐ろしいのは数百万にも及ぶ数の暴力だった。この魔物の集団に滅ぼされた村や人間は数知れなかった。そう、そしてその中には俺の妻や愛する娘、後継ぎの息子も含まれている。とある街の領主だった俺は、街ごと愛する家族をその魔物に奪われ、俺自身も左手を食いちぎられた。その時から俺のその魔物への復讐によって生きてきた。この魔物には力の討伐は不可能、ならどうするか。俺が選んだ方法は、人間の知能という最も悪辣で残虐な方法だった。まず、奴らの寝床の森を焼き払った。数匹を捕まえその魔族の不治の伝染病に感染させ群れに戻した。水場に毒を流し、主たる餌の小魔物を根こそぎ駆除した。そして屈強なこの魔族の雄を数匹捕まえ、不妊魔術手術を施し野に放った。もちろん他の雄より魔法により数倍強くして他の雄を圧倒し、しかも短命というおまけ付きで。数年繰り返し、領主としての財産が目減りしていく中で、その魔族はみるみる数を減らしていった。生存する領域を無くしていけば、どんな恐るべき者でも生きていけない。そのよい例だったのだろう。そして俺の財産が尽きるころ、目の前の最後の一匹がいま、息絶えようとしている。凍えるような目で見降ろす俺を、その魔物は恨めしそうに見上げてそのまま息を引き取った。その姿を見取り、恨みの願いを成就した俺は、すでに暗くなって星が出ている空を見上げた。気が付いたら頬が濡れている。頬を伝う涙は願いが成就した喜びでも魔物に対する憐憫でもなく、ただただすべて終わったことによる虚しさの空虚な涙だった。魔物を絶滅させても家族は帰ってこない。そんなことは十年前から判っていた。もはや空っぽな男を動かしてきたのは憎しみでもなく悲しみでもなく、ただ復讐しなければ空の俺は存在できないから、ただそれだけだった。そして男はその場に倒れる。この十年自分のことなどどうでもよかった男も、もはや命尽きようとしていたのだ。薄れていく意識の中、男は空に向かって呟く。「なあ、妻よ、子供たちよ……俺は本当にこれで良かったのかなあ」
執念の恐怖    山中 清流

サヌキマオ

「あのとき助けていただいた鶴です」
 通訳はそう云うと、自分と石油王、二人分の名刺を差し出した。

 そんなこともあったかもしれない。二十年も前だったか、たしかに罠にかかった鶴を――助けたというか、セーフだったのだ。ただ罠にかかっていたのであれば、鶴は罠を仕掛けたやつの獲物だ。ほんのちょっと……罠は鶴の翼を挟んでいた。骨肉を銜えこんでいなかった。助けたところでどうせ助からないかもしれないが、まだ生きるのではないかと思った。
 はたして鶴は飛んでいった。逆光だった。よく覚えている。
「私を生かすべく、お前のような人間をカミが遣わせたもうたのだ。インシャフェカー」通訳は淡々と石油王の言葉を訳していった。
 聞けば不幸な身の上。この石油王、親が***人に金を貸していたがとうとう踏み倒されかけた。返せ返せぬの押し問答の果てにあの***人奴、息子である私に鳥の呪いをかけて逃げ去った。随分とオリエンタルの趣味があったようで、誰も知らぬような日本の鳥に身を化かしてしまえばかの地獄と思しき砂漠ではとてもとても生き残れまい。私は死を恐れずに白い羽根を陽光に閃かせルブアルハリの大地を「つー」と飛んでいくと「るっ」と網に捕まった。なんでもこの辺りの部族の姫が鶴を見ていて「アレを取ってこい」と召使いに命じたとか。
 私はしばらく姫君のところに身をおいていたが、元来姫君というのは飽きやすいものだもの、まもなく隣国の王侯に贈答という形で押し付け、押し付けられた王侯は出入りの宝石商に借金の肩代わりに押し付け、宝石商は知り合いの大蒜屋に預け、大蒜屋は「知り合いに役人在りし大蒜屋(回文)」の文句の通り役人に大蒜のおまけに付け、役人が気分良く鶴を夜の街に連れまわしているうち、いつしか鶴は極東に着いていた。
 石油王の話は、自分が罠から逃れてからいかなる遍路歴程を経て人間に戻り、かの利己陰湿なる***人に復讐の鉄槌を食らわせたかまで続くのであった。やがて夜が来てまた朝が来た。また朝が来て夜が来て朝が来ようとして、ようよう石油王はしゃべるのを止めた。
「それで、あんたがたは私に何の用なんです」
「フェカーが私の生に関わった人間全員に、この顛末をすべて話して聞かせろと仰せである。フェカーがそう望むのならばそうすべきであろう」
 石油王と通訳は長々待たせていたヘリコプターに乗り込むと、あっという間に朝日の方へ、逆光で去っていった。
鶴    サヌキマオ

雪おんなは腐らない
ごんぱち

 昔、猟師二人が、狩りの最中に吹雪に遭い山小屋で夜を明かす事にしました。
 真夜中、火の番で起きていた若い猟師が、眠気を感じながら薪を囲炉裏にくべていた時、ふと何かの気配に顔を上げました。
 いつの間に入ったのか、若い猟師の前に、女が一人立っていました。
 女は若い肌つやをしているにも関わらず、髪は真っ白でした。そして肌も着物も、雪のようでした。
「雪女……?」
 呟く若者の顔を、女はじっと見つめた後。
「――お前は若く美しいので生かしておいてやろう。だが、今日の事を他の誰かに言ったなら、その男と同じになると思え」
 女が去った後、若い猟師は、歳を取った猟師がすっかり凍り付き息絶えている事に、ようやく気付きました。

 しばらくして、若い猟師は、隣村から嫁を貰いました。嫁は髪は黒く肌に血色はありましたが、顔かたちは、不思議と雪女にそっくりでした。
 子供も独り立ちした後、猟師は中風、今で言う脳梗塞になりました。
 嫁は甲斐甲斐しく看病しましたが、猟師の身体は治らず衰えは進む一方でした。
「なあ、おゆき」
 老いた猟師は、会った頃のままの姿の嫁の名を呼びます。
「なんです、お前様」
「お前は本当に似ているな」
「何に、ですか」
「若い頃に出会った、雪女に、だよ」
 嫁はじぃっと猟師を見つめました。
「とうとう、言ってしまいましたね」
「うむ」
「あの時はああ言いましたが、子をもうけ、共に数十年過ごした身、それも忍びない」
「まあそう言うな」
 猟師は笑います。
「このまま床で腐るよりは、ずっと良い」

 雪女と猟師は、雪の山道を歩きます。
「どうです? お前様」
「若い頃と同じか、それより楽なぐらいだ」
 猟師の四肢と下顎部分には、電気駆動のサポーターが装着されています。背負った制御システムは、健側の動作、患側の動作抵抗と脳波、更に環境パラメータを統合、AIにより目的とする動作イメージを推測し、これに必要最低限な運動を計算、サポーターの駆動量を調整する事で、日常生活動作を再現させます。
 単純な動作のサポートのみならず、残存する脳に対しても動作経験が蓄積する事で常識を覆す改善をする例も報告されています。
「よく六〇〇年も待ってくれたな」
「いつか出来るとは思っておりましたよ。凍らせた人を蘇らせる技術の方が、後でしたけどね」
「……お前何歳なの? 単なる面食いかと思ったら、重度のショタコンとかそういうのだったの?」
「うふ、うふふふふ」
雪おんなは腐らない    ごんぱち

ヨッパライ冥府魔道
アレシア・モード

 私――アレシアは死んだ。

 私は酔った足取りで、ハーデースへの階段を降りていく。酔ったと自覚しているから大丈夫だろう。ハーデースは冥王であり、冥府である。つまり死後の概念の存在で……」
『おい、舟の渡し賃払いな。1オボロス』
「これを実体化したり擬人化したものが冥府とか冥王という表現として……」
『あっ、こら、どこ行く。舟だ。舟に乗るんだよ』
「へえ、大丈夫っす」
 なんか後ろでオッサンがわめき続けてるが、ああいう手合いを相手にするのは田舎者だけだ。酔った女と思ってなめてるのだ。私は満面の笑みで水を掻く。ごらん、私は泳ぐ事も出来る。かつてシンクロナイズドスイミングで入賞した私だ。嘘だけど……


『あの、冥王様おじさま……』
『どうしたヘカテー』
『アケローンの河原に、女の溺死体が流れ着いてたんですが。はい、これ』
 ハーデースは立ち上がった。
『アホか! 冥界で溺れ死んでどうする。ゴラァ、起きよ土左衛門』
「誰がポール・サイモンやねん!」
 キョトンとした顔の冥王めがけ腹に溜まってた河の水などを噴射すると、冥王は悲鳴をあげた。効果は抜群だ。心身ともにスッキリするとサワーとか飲みたくなる。
「えっとチューハイ頼める?」
『あっ、この女……前にも来た事がある……第30回3000字バトルでケルベロスとペルセポネーを拉致した女!』
 そんな話あったっけ。あ、本当だ。当時はキカイダーがマイブームだったか。
『ええい、帰れ』
「まァ、つれないわ、冥王様♡」
『ちわっ三河屋です。酒ここに置きやすんで。あらっす』とヘーラクレースは帰っていった。
『誰が注文した! あっ、もう飲んでおる』
「キャハ、このスピードが良いよね、ストロングゼロ……」
 つい、よろめいた私は、そこにあった椅子に座り込む。冥王が噴火のような嗤い声をあげた。
『ふはは、馬鹿が座りおったわ。その忘却の椅子に座りし者は総ての記憶を失い、自分が何をせんとしていたかさえ忘れ、永劫に座り続けるのだ……ふははは!』
「うがあ!!」


 何も覚えていない。気がつくと朝だった。私は自分の部屋のベッドで寝ていた。目の前にマリがいる。
「なんでここにいるの?」
「――あなたが呼んだから……鍵穴にキーが入らないとか何とか。酷い酔い方だったわあ……毎度の事だけど」
 こいつ、ずっと見守ってたのか?
「ねえアレシア……この椅子、なかなかアンティークね……」
 えっ?
「――どこで、手に入れました?」
「……分かんない」
ヨッパライ冥府魔道    アレシア・モード

足 ―― A PARABLE
今月のゲスト:渡辺温

監獄。

死刑

絞首台。滅法めつぽう細長くて高い。
その天辺てつぺんに吊し上げられた男。
男の逞しい両足にぶら下がっている二つの大きな鉄の玉。
総理大臣があわただしく這入はいって来る。
王子殿下の御足だ!
獄吏たち頭を下げる。
総理大臣手を振って獄吏に命令する。
男の体が引き下ろされる……
監獄病院の手術室。
男の体が手術台の上に横たわっている。
鉄の玉を結びつけられた男の足。
白い消毒衣を着た博士の手が輝く大鋸おおのこぎりで男の下肢を切断する。そして代わりに痩せて弱々しい小さな下肢をつなぐ。
その足は見すぼらしい女の子の靴をはいている……

特赦

監獄の門。男がよろめきながら出て来る。
女の子の足である。
男は一つ大きくのびをして、さてふところから手いっぱいの紙幣をつかみ出して眺める。
新しい大きな希望が男を感動させる。
危うい女の子の足が兵士の行進のように勇ましく踏む……

街へ

街。道ばたに群がる群衆。みんな手に手に旗を打ち振っている。
男が群衆の一人に訊ねる。
王子さまの御足がお癒りになったのです
やがて王子の行列が差しかかる。
太鼓をたたく者。横笛を吹く者。ラッパを鳴らす者。
美々しい軍服の兵士達。

そして王子――

美少年の王子。
だが王子の足ははだしだ。それはまことにけだものの足のように逞しくて、しかも大きな鉄の玉が一つずつ結びつけてある。
その鉄の玉を四人の侍従が力を合わせて担いでゆく。
群衆は王子を見て旗を振りながら万歳万歳と叫び立てる。
男はおどろいて
それから腹を抱えて笑いころげる……
贅沢なる料理店。
紳士たち。淑女たち。
クワドリールを踊る踊子たち。

哀れな女の子

勘定台の上で、うれわしい顔をした痩せた女の子がその踊りを見ている。
男が這入はいって来る。
あまり卑しい身形みなりなので、踊子も給仕も尻目にかけて行き過ぎる。
男はそこでさっきの紙幣をバラ撒く。
たちまち踊子たちは男の体にむれたかり、給仕たちは床を這い廻わる。
他の客たちはみな唖然とする。
勘定台の上の痩せた女の子が男を見る。
小さな女靴をはいた男の細い足。
勘定台の上の痩せた女の子の眼が輝く。
男は酔っぱらった。
踊子たちは男に踊ることをすすめる。
けれども男は決して踊らない。
勘定台の上の痩せた女の子の眼が何時までも男の足に喰い入ったままはなれない。
男はやがてそれに気が付く。
男はコップを痩せた女の子になげつけて
そして勘定台から引きずり落とす。
女の子は床の上にころびながら泣く。
女の子に、足が両方ともない!
女の子は男の足を指して叫ぶ。
その足を返しておくれ!
男の顔が蒼ざめる。
男はよろばいながら、顔を覆ってその場から逃れ出る……
自動電話。
男がけたたましく電話をかける。
総理大臣ヤアブアル!
総理大臣室にあって総理大臣が受話機をとる。
男は叫ぶ。
王子の古い足は何処にあるのだ?
大臣答える。
国立博物館にございます
男は自動電話室を飛び出す……
国立博物館へ、男の乗った自動車が真一文字に走る。
博物館のうす暗い石造の室。
室の中央に大きなガラスの箱が置いてある。
三人の番兵が銃剣を持っていかめしく両側に立っている。
男が飛び込んで来て、そのガラスの箱を覗き込む。

死んでいる足!

ガラスの箱の中には、アルコホル漬になって二本の大根のように膨らんだ白い足。
王子グリ・ウリ殿下のお足――と書いた貼紙。
男は、いきなりガラスを打ち破ってその足を盗もうとする。
そこで二人の番兵は両方から銃剣で男を突き刺してしまった。