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1000字小説バトル

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1000字小説バトル stage4
第28回バトル 作品

参加作品一覧

(2020年4月)
文字数
1
サヌキマオ
1000
2
ごんぱち
1000
3
蛮人S
1000
4
方定煥
1386

結果発表

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コミュニケーション

QSHOBOU掲示板

金星
サヌキマオ

 日曜日に市場へ出かけ意図と朝を買ってきた。
 意図は通り沿いの酒場の裏で売っている。建物の裏手にまわっても間口に合わせた広い石段になっていて、地下一階は別の店舗というわけだ。昔は地上の酒場でさんざん飲んだ面々が地下に降りて賭博に明け暮れたのだという。警察が乗り込んでくるたびに博徒や酔客たちは一目散にこの石段を駆け上がった。今となっては改装されて往時の面影はなく、開いているんだかいないんだかわからないようなひっそりとした佇まいだけが残っている。
「旧ソビエト政権時代、ヨシフ・スターリンが三日連続で髭を剃らずに執務室に現れた。その意図は」
「それ、いただこう」
 朝は町外れの露店に限る。地元の老婆の手によって丁寧に摘まれた朝は籠の中できらきら光る。
 月曜日はアフロを巻いて、火曜日はアフロに入る。
 なかなか天然物のアフロが手に入らない昨今、手軽にハンドメイドできる似非アフロがおすすめだ。屠殺場から引き取ってきたドナドナの毛を焼鏝でくるくると巻いていくと巨きなアフロができあがる。一晩おくと夜露を吸って縮むので、あとは実際に中に入ってみてサイズ調整をすると良い。一日仕事になるので同時進行でポトフを作るのが慣例となっている。

 水曜日はトモダチが来て、木曜日に送っていく。どうせポトフ目当てだ。ポトフがあるときだけは友達面をしてくる。
「まーた作ってやがるな」
 そう云うとヤツは勝手知ったる人の家、深鉢とおたまを引っ張り出してきてポトフをよそってがつがつと食い始める。ポトフは寸胴にいっぱいにあるが、夜明け頃には空になり、そこで彼女との関係も終わる。家の脇の投石機から吹っ飛ばすと、女は世界の方々に朝を撒き散らして金星に帰って行く。
 金曜には買っておいた意図が孵化して、ようやく為政者の気持ちがわかる。アフロから首だけ出して街に出かけるがずっと黙っている。今、この世でスターリンの意図を理解しているのはきっと私だけだ。
「旧ソビエト政権時代、ヨシフ・スターリンが三日連続で髭を剃らずに執務室に現れた。その意図は」
「フルシチョフが本当に莫迦なのか試してんだよ」
 土曜日になった。やはり沈黙は一日しか持たなかった。我慢できずに喋ってしまった。子供のころからある、黴びたアヒルのおもちゃに喋れば喋るほど朝は失われ、とうとう昼を過ぎて夜になってしまった。また明日には意図と朝を買いに行かねばならない。買わぬ朝はない。
金星    サヌキマオ

木村は二人
ごんぱち

 スーツの男は、一礼して名刺を差し出した。
「きむらさんとアポイントメントがあるんですが」
 受付の社員は、名刺を受け取り、端末を操作する。
「申し訳ございません、こちらの予定が確認出来ませんが、どのような件でしょう?」
「新商品の使用に関する打ち合わせで、これからすぐの予定です。今し方きむらさんと電話で決めたので、まだ連絡をされていないのかも知れません」
「左様でございますか。木村は、ウソツ木村と、ショージ木村がおりますが、どちらでしょう?」
「えええと、ウソツ木村さんだった筈です」
 男が答えた瞬間。
 警報が鳴り響いた。

 現れた社員達に、瞬く間に男は椅子に荒縄でグルグル巻きされた。
 男のネクタイに仕込まれたマイクロカメラや、ベルトのバックルのカメラ、それからカフスボタンのカメラ、義眼に隠されたカメラ、袖口のタクシーの奴、水にとけるメモなど、あらゆるスパイひみつ道具を奪われていた。
「……な、何故、分かった?」
「フフフ、産業スパイ君、簡単な論理学だよ」
 言いながら、先ほどの受付の社員が進み出て、カツラを取る。
「初めまして、依頼を受けて調査を行っていた、探偵の四谷だ」
 受付の社員に分した四谷京作探偵は、男――産業スパイの胸ポケットに、名刺を差し入れる。
「論理学とはどういう事だ!?」
 産業スパイは、四谷を睨む。
「当然、ウソツ木村は嘘つき、ショージ木村は正直だ。君が本当に彼らのいずれかとアポを取っていたとしたら、それがウソツ木村である事は決してない」
「どういう事だ……ハッ!?」
 ある事実に気付き、産業スパイは目を見開く。身体を縛る荒縄がきしんだ。
「そう」
 四谷は頷く。
「ウソツ木村は、嘘つきだから、自分をウソツ木村とは絶対に名乗らない! そして、ショージ木村は、自分をショージ木村と絶対に名乗る! 従って君は、この二人のいずれに会っても、ウソツ木村と名乗られる事は絶対にないのだ!」
「し、しまった……外出しているのがウソツ木村だったから、不用意に名を出した」
「だとすれば、貴様が架空のアポイントをでっち上げた産業スパイである事は明白! 大方、この会社が開発した、トコロテンカッティング技術のノウハウを盗むために送り込まれたのだろう!」
「み……見事だ」
 産業スパイはがっくりうなだれた。
「四谷探偵、一つだけ、教えてくれないか」
「なんだ」
「なんで、ウソツ木村なんて、雇ってるの?」
「社長の親戚」
「あー」
木村は二人    ごんぱち

蛮人サポーター【新番組】
蛮人S

「ううっ、シルパー仮面はさすらい仮面……」「どうした蛮人! なぜその歌を口ずさむ。これはシルパー仮面の歌じゃないぞ!」
 大和国最大の城下町・郡山! 春のお城まつりの演奏会で市民らの奏でる大正琴の調べに耳を傾ける蛮人。次々と演じられる昭和歌謡、今度の曲目は晩年の裕次郎が唄った『北の旅人』だ。だが演奏を聴く彼の脳内になぜか被ってくるのは、往年の特撮ドラマ『シルパー仮面』のオープニング曲『故郷は地球』。危ない蛮人! それは特撮脳を持つ新人類を狙った罠だ!
 次回『荒城の月、花の宴』みんなで見よう!


「見て、ユーチューブにシルパー仮面の全オープニング動画があるよ……これを全市民にシェアしなきゃ」「だめだこいつ、早く何とかしないと!」
 歴史の過ちで日本の首都になれなかった城下町、郡山! 『北の旅人』と『シルパー仮面』さほど似てもいないのに一度思い込んだらシルパー仮面としか聞こえなくなる攻撃に侵された蛮人は、前頭葉の八〇%をシルパーに占拠される。狂ったようにシルパーいいねを押す蛮人! 現れた謎の人物、女王卑弥呼とは?
 次回『狂宴さくら地獄』みんなで見よう!


「いったい、あなたは!」「私は郡山を守護するという設定の一年女王、卑弥呼。蛮人、あなた疲れてるのよ」
 一説には邪馬台国もあったという夢想史観の町・郡山! 自称・卑弥呼のハイパーリンクで、大和に育まれた味と風情豊かなひとときを織り込んだおもてなしを貴方に、JR郡山駅から徒歩8分、料理旅館「尾川」の情緒を満喫した蛮人の前に現れたのは、春日と名乗る兄弟。彼らの正体は? 彼らが発明した、郡山の未来を変える技術とは?
 次回『ステマ倭人伝』みんなで見よう!


「キントトト! 郡山の池を破壊するリニア計画は反対だトット!」「やむを得ん、こうなったら変身だ。シルパー!」「だめだ、みんな、争ってはいけない」
 リニアの駅も出来ると予言される未来都市・郡山! 春日兄弟は、新型の光子リニアシステムを完成していたのだ。だが、そこに襲いかかる謎の魚人たち。なぜ彼らは妨害するのか。郡山の未来は?
 次回『金魚のきもち』みんなで見よう!


「われわれはアンドロメダに向かって旅立つ」「はい!」
 いま二五〇万光年の彼方、アンドロメダ銀河へ飛び立つ、蛮人・春日兄弟・金魚人きんとっと。急げ蛮人、郡山は君達の帰りをたぶん待っている!
 最終回『俺たちの戦いはこれからだ』みんなで見よう!
蛮人サポーター【新番組】    蛮人S

虎の兄さん
今月のゲスト:方定煥
蛮人S/訳

 昔、虎が煙草を吸っていた頃。

 頭の良い木こりが一人、深い山奥へ木を伐りに行きましたが、道もない森の中でとても大きな虎に出会いました。
 何日も飢えたような恐ろしい虎が、待っていたようにその大きな口を開いてくるところにばったり出くわしました。大声をあげても何の役に立つでしょうか、逃げるにしても走る事もできましょうか。身動きもならなくて、そのまま捕まえられて食べられてしまいそうになりました……。
 うわあ、という声さえ出せずに、そのまま気を失って倒れそうなところですが、この木こりは機転のきく肝の太い人間でしたので、背負子を負ったまますばやく体をひれふして、一度ていねいに拝礼をすると、
「ああ兄さん! ついに出会い、お目にかかる事ができました」
 と言って、手でもにぎるようにそばへ近づきました。虎も兄さんという言葉にはあきれたのでしょうか、
「こやつ、人間めが、おれを見て兄さんなどと、兄さんとはどういう兄さんだ?」
 と言いました。
 木こりは何くわぬ顔をして図太くも、
「私たちのお母様はいつも仰っておりました。お前の兄は幼い頃に、山に行って道に迷ってそのまま帰る事ができなくなってしまい、死んでしまったものと思っていた頃、それから時々夢を見て、兄さんが虎になって帰って来られないと泣いているのだと、つまり確かにお前の兄さんは山の中で虎になって帰る事ができないらしいから、お前は山で虎に会ったなら、兄さんと呼んで詳しく話をするのですと。今あなたにお目にかかって、まさに私の兄さんに違いないと思います。ああ、今までの間、この山の中でどんなご苦労をなさった事でしょうか」
 と言って、涙まで浮かべてみせました。
 そこで、虎も静かに考えますと、自分が誰の息子なのか、それも分からないし、生まれにしてもどこで生まれたやら、幼い時の事もまるで分からないので、この人間の言うように、自分が木こりの兄だったのかもしれないという気がしました。そのように考え始めるとすぐ、母親にそんなにも長く会う事のできないまま一人で山の中にさびしく暮らした事が悲しく思われて、
「ああ、おお、そうだ、お母様は今も達者にいらっしゃるのか」
 と、涙を流しました。
「はい、お元気にいらっしゃいますが、毎日兄さんを思って泣いてばかりおられます。本日このように会いましたので、早く家に行ってお母様を尋ねましょう」
 と、木こりがすすめると、
「ああ、おれの心は今にも一気に走って行ってお母様にお目にかかり、これまでの不孝の罪をお詫びしたいが、このような虎の面を付けた姿でどうして行く事ができようか……おれは行ってお目にかかれずとも、月に二回、豚を一匹ずつ持って来てやるから、お前はおれの代わりにお母様の面倒をよくみてあげてくれ」
 と、言いました。

 こうして、木こりは死ぬのを免れて帰ってきましたが、虎は本当に月に二回、一日と十五日の晩になると、裏の垣根の中に豚一匹を置いて行くのでした。木こりは夜の間に虎が、母を養うために捕まえたものを置いて行くのだろうと思いました。
 その年の夏が過ぎて、また秋が過ぎて、また冬が過ぎる時まで、必ず月に二回ずつ必ず豚を捕えて置いて行きました。その後、実にお母様はお亡くなりになりましたが、その後にはずっと月初めと十五日になっても豚を置いて行く事もなく、会う事もなく、何の便りもなくなってしまいました。どうしているのだろうかと気になりながら過ごしましたが、ある日に山に行きますと、三匹の小さな虎に会いました。恐れる事もなくじっと見ていると、その尻尾に布切れをぶら下げていました。あんまり変なので、それは何かと尋ねてみると、小さい虎はとても親しげに、
「へんなものじゃないですよ。私たちのお婆様は虎じゃなくて人間なのですが、お婆様のいらっしゃる間、私たちのお父様は月に二回ずつ豚を捕って、さし上げてまいりました、お婆様がお亡くなりになったと聞いて、その日からお父様は洞窟の外へ出る事もせず、食べ物を捕って来る事もなく、洞窟の中にだけ閉じこもって食べ物も食べず、『お母様、お母様』と呼んで泣いてばかりいらっしゃいましたが、病気になって亡くなったのです。それで私たちは白い唐只テンギを捧げているんです」
 と、言いました。

 たとえその場の嘘の謀りごとから虎を兄さんだと言ったのであっても、その一言のために虎がそこまで義理を守って、孝行の思いを尽くした事に感服して、木こりも涙を流しました。