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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage4
第37回バトル 作品

参加作品一覧

(2021年1月)
文字数
1
ごんぱち
1000
2
サヌキマオ
1000
3
添田唖蝉坊
777

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孝行糖アフター
ごんぱち

「おとったん、今日も孝行糖売れたよ」
「やあ良くやったな、与太郎。最初のうちは、お武家屋敷に売り込んで殴られたりしたもんだが、大分サマになって来たじゃないか」
「あはは、おとったん、人の事をバカって言う割には季節を間違えてらぁ。今は冬だよ、サマーじゃ夏さ」
「バカだな、サマーは秋だよ」
「ええっ、そうかい? でも、チューブにサマードリームって曲があるじゃないか」
「だからだよ。チューブは夏のものだろう」
「うん」
「夏に夏の夢は見ないだろう?」
「見るかもしれないけど」
「事実は小説より奇なり、というだろう。フィクションにおいては、リアルよりもリアリティが重要になる。偶然に起こりえる事だからと言って、起こして良い訳じゃない。また、当たり前に起きるだけの事については描写する事は無意味だ。そういう意味で、創作である限り『夏に夏の夢を見る事』が描写される事はない」
「なるほど。じゃあ冬は?」
「スキーやスケートの事を、ウインタースポーツ、というだろう。多分、あれは冬のスポーツという事を指しているんじゃないかと、俺は踏んでるんだ」
「なあるほど。だとすると、冬を意味するのはウインターかい?」
「そういうところがお前は浅はかだ」
「ひどいねおとったん、バカならまだガマンできるけど、ハカじゃ考える事も出来ないじゃないか。まして浅く埋められちゃ、犬が掘り返しちまう」
「そうじゃないよ、考えが浅いってんだ。良いか、英語で勝つ事をウィンって言うらしい。スポーツなんだから、勝ちたい気持ちがあるだろう。だとすりゃ、ウィンターのウィンは季節とは関係ない。つまり、冬はターだ」
「なるほど、ターかい」
「次に春だが、夏に春の夢を見るというのはちょっとおかしい」
「なんでだい?」
「物語は、先への興味を持たせるものだ。さもなければ、途中で飽きられてしまう。夏に過ぎ去った春の夢の事を歌っても誰も興味を持たないだろう」
「そうかな」
「考えてみな、クリスマスの当日には、おせち食材が売られ始めるだろう」
「チューブの歌はスーパーの食材かい?」
「売り物という意味では同じさ。だとして、消去法で何が残る?」
「……秋だね」
「そう。だから、サマーは秋なんだ」
「じゃあ、サマーになって来たたぁ、どういうこったい?」
「仕事に慣れてサマーに、つまりあき始める頃だから、気をつけろってんだよ。商いは飽きないてぇぐらいだ。一層頑張って励めよ」
「分かったよおとったん!」
孝行糖アフター    ごんぱち

マトリョーシカ
サヌキマオ

「また猟師か」
 クマはそうぼやくといま来た道を戻り始めた。
 追われているのである。人間もこんなに雪深い、足場の悪い森の斜面にわざわざ出向いてこなくてもいいと思うのだが、きっと需要があるのだろう。獣の頭ではよくわからなかった。それともそんなに食べるものがないのだろうか。雲ひとつない快晴だからただ単に遊びに来たのだろうか。命を懸けてまで。
 そういう自分も本来ならばこの時期、深い眠りについているはずなのだった。ここ数年はうまく眠れていたのだった。秋の貯えが心もとなかったのがいけなかったのかもしれない。ともあれ、起きてしまった。起きると眠れなかった。腹が減っていた。
 一面を雪で白く覆われた森の中で、遠くの方にぼんやりと見慣れた姿がある。なんだっけ、とクマはしばらく考えを巡らせていたが、一番最後に眼にした、例の雌年増によく似ていた。いや、もっとばあちゃんの、いつ死んでもおかしくないような傾きかたをした、よれよれの――そう納得仕掛けた途端、たーん、と爆ぜる音がする。一瞬網膜に閃いた影は左耳の毛先を掠めて後方に過ぎていった。恐怖心から痺れがきた頃には身を翻していた。ばばあの皮に向かって突進する。皮の目の穴から猟銃の砲身がにゅっと出てくる。勢いに任せて構わず腕を振り下ろすとぐしゃっ、とした他愛もない感触があって、やや遅れてどす黒い血が滲み出してきた。
 こうして急場をしのいだクマであったが、人間はそこかしこから湧いてきた。大木の木の皮に身をやつす者、雪にすっぽりと埋まって待ち構えていたもの、はじめは理不尽な怒りに任せて打ち倒していたが、さすがにくたびれてきた。息が荒くなって仁王立ちになったところを横から背中から幾度も撃たれる。このままではただの的だ。幾重にも重ねて着込んだ皮のおかげで痛みはないが、撃たれた皮が裂けては腹回りに重たく垂れ下がってくる。限界と思って一番上の皮を脱ぐ。また撃たれる――また一枚、また一枚、歴歴に遺されていた皮が一枚ずつぼろぼろになっていく。逃げ回って、脱ぎ捨てるほどどんどん身軽になる。
 日が暮れて、ようやく巣穴に戻ることができた。不幸中の幸いで腹もくちくなった。今度は春まで眠ることができるだろう。クマは着込んでいた皮をめりめりと脱ぎ捨てると、元のキリンになって穴ぐらの中に丸くなった。
 アフリカのサバンナからやってきて早八年、ずっとこんなふうにして暮らしている。
マトリョーシカ    サヌキマオ

沈んでいる塵芥箱
今月のゲスト:添田唖蝉坊

 浅草は、一塵芥ごみ箱から、夜が明ける。
 宮戸川の川面かわづらから、湧きのぼった乳白の朝の気が、音もなく、路地の中に流れ込んで来る。
 乳白でもある。紫色でもある。その静かな気流の底に、沈んでいる塵芥ごみ箱。
 一人の乞食が泳ぎ寄った。彼は、朝が湧いて来る方から、泳いで来たのだ。だから、昆布のような彼の袖と裾とが、ゆるくなびいているのである。
 彼は塵芥ごみ箱の蓋をあける。覗き込む。掻き廻しているようである。何か、つかみ出した。彼の袋が、少し膨れた。
 彼は元通りに蓋をすると、泳ぎ去ってしまうのである。
 ほんの暫らくの、時の
 別な乞食が泳ぎ寄った。彼は塵芥ごみ箱の蓋をあける。覗き込む。掻き廻しているのだ。何か、つかみ出したようである。彼の袋が膨れあがったのだ。
 彼は、元通りに蓋をすると、泳ぎ去って行くのである。
 彼が去ったばかりの箱へ、追っかけるように、別な黒い塊りが、喘ぎ寄った。
 塊りは、箱の蓋をあける。塊りは箱のふちに蔽いかぶさってうごめいている、塊りがふちを離れた。切り捨てたねぎの青い部分の一束を、抱え込んで行くのである。何故なぜか、青葱あおねぎの切り口が、ハッキリと見えるのである。
 塊りが開け放して行った塵芥ごみ箱のふちに、いつの間にか、別な浮浪者が、ひッついているではないか。彼は、もぞもぞと掻き廻している。いつまでも、何時いつまでも、掻き廻している。眼のいたくなるほど、見つめると、彼は何か食っているのだ、モグモグ、ひげの裏で口を動かしているのだ。
 ややあって、彼は泳ぎ去ってしまう。
 後から、後から、泳ぎ寄る影が、箱の中から、それぞれに何か知らん、つかみ出して行くのである。
 あの塵芥ごみ箱の中には、何がそんなにしまってあるのであろう。
 やがて、うす紫の気流の漂よいが、幕のように曳かれて行くと、地下鉄の塔の背のギラギラの太陽を感じて、塵芥ごみ箱は汚れたその木目を恥もなく現わしはじめた。