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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage4
第40回バトル 作品

参加作品一覧

(2021年4月)
文字数
1
Bigcat
1104
2
ごんぱち
1000
3
サヌキマオ
1000
4
アレシア・モード
1000
5
芥川龍之介
967

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コミュニケーション

QSHOBOU掲示板

キスマーク
Bigcat

「純子、もう起きる時間違うの?」
 ある真冬の朝、OLの純子さんは目覚ましをかけ忘れ、母の声で起こされた。慌てて身支度をする。

「あれ、何か出来てる」
 首筋に赤い突起物を発見して純子が叫んだ。なんだろうと思って近寄ってきた母が、
「オロナミンでも塗っとき。すぐ治るわよ」と軽く片付けた。

  アレルギー体質でもなく、普段、湿疹などには縁のない純子さんは、なんで出来たんやろとアレコレ思いめぐらした結果、付き合っている彼氏にクリスマスプレゼントされたネックレスが原因かもしれないと思い当たった。
 日頃、ネックレスなどしたことのない純子さんだが、これだけは特別だわと毎日肌身離さず身につけていた、思い入れの深いプレゼントである。そしてまさに、赤い突起物の場所は純子さんの想像通り、ネックレスの鎖の位置にピッタリ一致したのだ。

「しばらくネックレスを外していれば、すぐに治るわよ」と母親が言うので、純子さんも一旦は気楽に考えた。しかし、この湿疹、できた場所が悪かった。右肩上の首筋である。鏡でしっかり見ると、まさにキスマークである。

「黙っていたら、会社の同僚になに言われるか分からないわ」

 その日、純子さんは出勤すると、会う人ごとに、
「あーあ、ネックレスにかぶれちゃったみたい。見て、何だかキスマークみたいでしょ?
いややわ」
 と、キスマークでないことを積極的にアピールし、ゴシップ好きのOL仲間を納得させたのである。

 その努力の甲斐あってか、同僚の反応は純子さんに好意的で、女性はみんな、
「大丈夫、すぐ治るわよ」
 と慰めてくれた。

 それから五日が経過した。湿疹は治らなかった。大きさに変化はなかった。
「オロナミンじゃあかんみたい。でもそのうち治るやろうし、長期戦でいこう」
 純子さんはそう思って、再びネックレスを愛用し始めた。すると、しばらくして、湿疹は痒みを伴って、見る間に三センチほどの大きさになった。あまりに痒いので我慢できず、つい搔きむしったのが祟って、キズが化膿してしまったのだ。

  医者嫌いの純子さんも、これにはたまらず、自宅近くの皮膚科を訪れた。中年の医者が患部を触診しながら、
「金属アレルギー、要するにかぶれやね。夏場に多いんだけど、首の周りは皮膚が薄いのでかかりやすいんや」
そう言って、ステロイド外用剤をくれた。
  翌日、軟膏を塗ったガーゼをバンソウコウで留めた純子さんは沈んだ気分で出勤した。
しかし、同僚のOLたちは今度は全然無関心なのである。病状を聞くどころか、
「なーんだ、やっぱり湿疹だったんや」と、つまらなそうに言う。
同僚はみんな湿疹とは思っていなかったという事実を知らされて、純子さんはがっくりきている。
キスマーク    Bigcat

くすぐり
ごんぱち

「なあ蒲田、この記事読んだか?」
「なんだ四谷。ああ、子供をくすぐってからかう事の是非か」
「何というか……俄には信じがたいのだが、くすぐることがコミュニケーション手段だと思っている人間がいるのか?」
「そうらしいな。これを読む限りは」
「だって、くすぐられる感覚は毒虫の這い上がる感触への危険信号で、笑うのは自律神経の混乱で疲労と苦痛だけのものだろう。、古代ローマで拷問に使われたとの説もある。つまり、叩くつねると一緒だろう? それが何故、コミュニケーションになるんだ?」
「四谷、世の中には、マゾヒストというものがいるし、DV男に惹かれてしまうだめんずウォーカーなんてのもある」
「ふうむ……しかし蒲田、それは、子供相手に行われる行為の理由になってるか?」
「うむ。子供のマゾヒストの割合は不明だが、経験則からくすぐる人数よりは遙かに少ないだろう」
「だろう」
「子供相手の場合、単に抵抗する力のない者に対し、抵抗は無意味との権威を思い知らせ、コントロールをし易くするマウントの意味はあろう。だがそれはあまりに遠回りだし、やはり支配欲、すなわちある種の性欲の代償行動だろう。つまり実際には子供との性交を希望するが果たされない為のな」
「なるほど、そう考えると理解は出来るな。しかし蒲田、お前は彼らを擁護したかったのではないか? これではレイプ願望がある危険人物である事が明らかになっただけではないか」
「結論を急いではいけないぞ四谷。レイプ願望があったとしても、実行に至る事と、くすぐりという代償行動で解消出来る事の間には確実な隔たりがある。彼らは極めて強靱な精神と崇高な倫理観によって、強烈な幼児強姦への欲望を必死に押さえ込みながら、いきり立ったり濡れそぼったりしている陰部を気付かれる事なく、ただ、くすぐりという比較的ダメージの小さい嗜虐行為によってこれを解消しているのだ」
「何と崇高な志だ! まるでマシュマロを目の前に置いているのに、舐めるだけで食べるのを我慢出来た子供のようだ!」
「分かってくれたか、四谷! むしろそのシチュエーションでは食べるのが当たり前、褒めて伸ばす方がずっと健全だ」
「そうか、ようやく理解した! ならば讃えよう、彼らのくすぐりを。だがほどほどにしておくが良い。子は育ち大人は老いる、くすぐりの代償はいずれ訪れ、その形は殺傷を伴うかも知れない!」
「くすぐる大人達よ」
「出来れば、やらぬ事だ」
くすぐり    ごんぱち

瀬可博士の胡乱な実験
サヌキマオ

 助手小路家は天文博士・安倍晴明の助手を長年勤めた助手小路景雅を初代として現在まで伝わる名家です。今日も助手小路の名に恥じぬよう、瀬可博士の助手としてN県N村のへっころ谷にやってきておりました。その数ざっと七十名。
「この村では昔から日照りになりますとなぁ、人柱を立てて雨乞いしますんですじゃ」
「そうかそうか」
 雲ひとつない晴天が続いていました。村の古老の何度聞いたかわからない話を聞き流しながら、博士はスマートフォンで関係各所と連絡をとっている。
「気象庁発表によると本日は雨のないまま一週間が経過。湿度二十二パーセント。つまり、雨乞いにはベストのコンディションというわけだ」
 へっころ谷周辺三十箇所に配備された実験部隊が一斉に動き出しました。つまり、助手小路甲が穴を掘って、助手小路乙が埋める。この日のために集められた助手小路一族郎党が埋めたり埋められたり。
「地点F、検体完全に埋没」
「地点W、想定外に地下にガラが多く、掘り進めるのに時間を要しています」
 次々上がる報告をインターフェースに記録する助手小路丙は、普段博士のもとで助手を行っている助手小路君です。
「だいたい過去の実験と同程度の進行状況です」
「さすがにみんな手慣れてきたのお」
「それがこの村に水力発電所を建てないかという男がおりましてな、それが建設省の名を騙った悪いやつで」
 古老の話がようやく昭和中期に差し掛かったあたり、博士はじっと青空の向こうを凝視していました。
 雲を待っているのです。
「東京オリンピックの合宿村としてゲーム帝国の選手を招いたときには、それはそれは親のわからぬような子供が」
「むっ」
 体感的にはずいぶん近くでした。ふいに逃げ水のようなゆらぎが空中に沸いたかと思うと、一点にわかにかき曇ったのです。雲はあっという間に真っ黒な塊となり、明らかに目に見える形で地表に大雨を降らし、三度の発雷のあと、何事もなかったように消えていきました。
「まさに一点だな」
「ええ、まさにP地点に、一点のみです」
「点Pの人員は落雷の直撃を受けたため、緊急搬送します」

――二十五回中、すぐに雲の姿を確認したのが三回、開始二時間以内に広範囲に1mm以上の雨が降ったのが二回。これはつまり、
「降らない雨はない、ということだけはわかる」
 降らない雨がないということがわかっただけで助手小路家の損害は殉職三、重症六、軽症十七。
 とんだ話もあったものです。
瀬可博士の胡乱な実験    サヌキマオ

注文の多くない宇宙料理店
アレシア・モード

 二人の宇宙紳士が、ぴかぴかする銃をかかえて、白熊のような人造兵士を二体つれて、宇宙の深淵を彷徨っています。
「ここの宇宙はけしからんね。文明の一つもない。早くババンとやってみたいものだ」
『ばばーん、はっ、はあ、ばばーん!』
 そこは無限の深宇宙です。案内してきたダラニスケ星人が蒸発して、人造兵士もプラズマを噴いて死んでしまいました。
「じつに僕は、十八億スペイカの損害だ」
『ほんがいんが、があ!』
「もう戻ろう。しかし腹が減ったな」
『がらげだらあ!』
 と云った二人が後ろを見ますと、なんと立派な造りの宇宙食堂があるわけです。玄関には、
宇宙創作料理
クァール軒
 と、札があります。
「これでなかなか開けた宇宙だな。入ろうじゃないか」
『がいろんがん!』
 二人は玄関に立ちます。白の宇宙煉瓦で組まれた立派なものです。扉に金文字でこう書いてあります。
<どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません>
 二人はさっそく扉を開けて入りました。そこにはすぐ次の扉があって、大切なことが書いてあるのです。
<銃と弾丸は置いて行け。さあおなかにお入り下さい>
『ぐぉもっかーす!』
「ああ、どうもおかしいぜ……見な、扉の鍵穴から、蒼い眼玉がきょろきょろしてやアがる」
(え、もうバレた?)
 私――アレシアさんは悲しく思いました。懸命に考えた作戦は失敗したのです。お皿を洗って、青菜も塩でもんで置いたのに、ナフキンもかけて舌なめずりで二人を待っていたのに、何ということでしょう。
 宇宙紳士たちは、がちゃり、と機関砲を構えました。
「戦争だ、やってやるぜ」
『ばおーんばばーん!』
 忽ち起こる銃火の響き、食堂の扉が壊れましたので、アレシアさんは仕方なく顔を見せて云うのです。
「ちょいとお客さん、勘弁してくださいナ」
 紳士たちは動きを止めました。
 一人の紳士は、からだ中の毛が逆立って、一本一本、皮や肉をつけたまま弾けましたので、最後は服と骨と銃ばかりになって崩れました。
 もう一人の紳士は、からだも顔も練炭の灰のようになって、叫ぶたびにぼろぼろ割れて落ちましたので、最後は服と灰と銃ばかりになって崩れました。
 ご馳走は台なしです!
「ああん、おなかがへったよ」
 アレシアさんは、泣きべそをかいて座りこんでしまいます。
 そのとき「わん、わん、ぐゎあ」と声がして、あの白熊のような人造兵士とダラニスケ星人が、扉をやぶって飛び込んできました。
注文の多くない宇宙料理店    アレシア・モード

黄粱夢
今月のゲスト:芥川龍之介

 せいは死ぬのだと思った。目の前が暗くなって、子や孫のすすり泣く声が、だんだん遠い所へ消えてしまう。そうして、眼に見えない分銅が足の先へついてでもいるように、体が下へ下へと沈んで行く――と思うと、急にはっと何かに驚かされて、思わず眼を大きく開いた。
 すると枕もとには依然として、道士のおうが坐っている。主人のかしいでいたきびも、いまだに熟さないらしい。盧生は青磁の枕から頭をあげると、眼をこすりながら大きな欠伸あくびをした。邯鄲かんたんの秋の午後は、おちした木々の梢を照らす日の光があってもうすら寒い。
「眼がさめましたね」呂翁は、髭を噛みながら、笑みを噛み殺すような顔をして云った。
「ええ」
「夢をみましたろう」
「見ました」
「どんな夢を見ました」
「何でも大へん長い夢です。始めはせいさい氏のむすめと一しょになりました。うつくしいつつましやかな女だったような気がします。そうして明くる年、進士の試験に及第して、なんの尉になりました。それから、監察御史や居舎人きよしやじん制誥せいこうを経て、とんとん拍子に中書ちゆうしよ門下平章事へいしようじになりましたが、ざんを受けてあぶなく殺される所をやっと助かって、かん州へ流される事になりました。そこにかれこれ五六年もいましたろう。やがて、えんすすぐ事が出来たおかげでまた召還され、中書令になり、燕国公に封ぜられましたが、その時はもういい年だったかと思います。子が五人に、孫が何十人とありましたから」
「それから、どうしました」
「死にました。確か八十を越していたように覚えていますが」
 呂翁は、得意らしく髭を撫でた。
「では、寵辱ちようじよくの道も窮達きゆうたつの運も、一通りは味わって来た訳ですね。それは結構な事でした。生きると云う事は、あなたの見た夢といくらも変っているものではありません。これであなたの人生の執着しゆうじやくも、熱がさめたでしょう。得喪とくそうの理も死生の情も知って見れば、つまらないものなのです。そうではありませんか」
 盧生は、じれったそうに呂翁のことばを聞いていたが、相手が念を押すと共に、青年らしい顔をあげて、眼をかがやかせながら、こう云った。
「夢だから、なお生きたいのです。あの夢のさめたように、この夢もさめる時が来るでしょう。その時が来るまでの間、私は真に生きたと云えるほど生きたいのです。あなたはそう思いませんか」
 呂翁は顔をしかめたまま、しかりともいなとも答えなかった。

(大正六年十月)