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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage4
第41回バトル 作品

参加作品一覧

(2021年5月)
文字数
1
小笠原寿夫
1000
2
サヌキマオ
1000
3
ごんぱち
1000
4
岡本かの子
1762

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コミュニケーション

QSHOBOU掲示板

自治会役員顛末記
小笠原寿夫

 集会所に人が集まっている。
 自治会の役員を決める総会があるからである。黒山の人だかりとは、よく言ったもので、集まった人間は、烏合の衆の如く、あれこれ言っている。
「さっさと決めましょうよ!」
鶴の一声とは、まさにこの事かと思われる甲高い声が飛んだ。
 その一声を出した人が、会長を務める事になった。
 後は、相談の上、私は書記に抜擢された。

 受話器の向こう側から、声が聞こえる。
「勇み足です。」
高くも低くもない声で、叱られた。書記に選ばれたことにより、根拠もなく湧き出してきたやる気が私を突き動かした。インターネットカフェで、文書を印刷し、高額な料金を払い、しかも領収証を紛失したのだから、叱られて当然である。

 お金の管理が出来ない私は、会計を困らせた。自然と低予算で仕事をするスキルを学ばせていただいた。

 夏に草刈があった。草刈は、駐車場の雑草を抜いていく作業だった。ある時、草刈を業者に任せようか、という提案が浮かんだ。すべては紙がものを言う世界にいるのも久しぶりだった。アンケートを取り、多数決で草刈は業者に任せる事になった。暑い夏に草刈を自治会役員だけでするという無理がそうさせたと思われる。

 パソコンが触れるというだけで、書記を任せられた私は、汗だくでコピー機で書面を印刷したこともある。

 何度も試行錯誤を繰り返しながら、させて頂いた仕事だった。集会の日に朝、起きられることだけが、悩みの種だった。会長は、住み心地のいい住宅にすることに奔走されていた。ごみ問題についても、かなり意識されていた。私はというと、たまにやってくる仕事が、何故か私の胸を躍らせた。

 そうして、役員最後の仕事を迎えた。昨年度に続き、総会は行われた。
 私は、最後まで、書記の仕事を全うし、役員を終えることとなった。最後に役員通信費という形で、2,000円を頂いた。任務を終えた私は、叱咤激励の末、自治会役員を務めあげた。これからも住み続ける住居として、私はこれからも市営住宅に貢献するつもりでいる。

 あらゆる人々のお陰で一年間、自治会の役員をさせて頂いたことには、大変、感謝している。最後に言い残すことがあるならば、
「あぁ、楽しかった。」
ということである。
 男の一人所帯で、役員を務めたのは、私にとって自信にも繋がった。
 たかが自治会、されど自治会。役員をした後に、住居人の方から、靴を頂いたことだけは、付け加えておきたい。
自治会役員顛末記    小笠原寿夫

昆海記より
サヌキマオ

 膳所ぜぜよう昆海こんかいありけり。村外の峠に庵を結び暮らせり。某日夜半に地震なゐありて、いと恐ろしく思へども闇夜のことゆえまんじりともせず静かにおれり。夜明け庵から這い出づれば、庵の前の道にめざましく巨なる雲古が積み上がりけり。これを評してなん、骨なし皮なし見たくなし、比類なく臭まりし雲古なり。
 臭い臭い臭うてたまらん責任者を呼べ。昆海はとるものもとりあえず雲古に手を合わせり。常人のしわざとも思えず、この世のものとも思わじ。
 くさ、臭かと人の洒落つきあい、通りがかりの犬が「わんおえげぼ」と驚きて走り往ぬ。「にゃんともたまらん」と猫も寄り付かぬ。昆海世捨ての身なれど峠をおりて村人に助けを求めれば村人いわく「それは重畳なり、いざ畑の肥にせん」と喜び勇んで一族郎党峠に向かいけり。もつこをもつもの、猫車を押すもの、ぶるどーざーを操るもの、なんとはなしに箸一膳携えて駆けつける腹ぺこあり。皆人三々五々午後参集す。この「ごごごごご」が云いたくて此を書きぬ。
 三々五々午後参集し(しつこい)諸人挙りて雲古を掻き出しぬ。峠向こうの村より来る一団もあり、誰も彼もみな着るもの穢しつつ雲古を運び、運び運びて終には無くなりぬ。昆海いと喜びて読める、

 うんもらけほにゅれへぽしなこんそらけ

 ある人「下の句は」と問う。笑うばかりで答えず。
 行商の伝えるにはこのような云われほうぼうにありき。いづこも山のような雲古に驚きし話なり。人のいわく、篠山に出し雲古より人の現れたる、まだ死人にはあらねど、掘り起こせし諸人の前で「やれ、助かりし」と一声叫びて亡くなりぬと云う。またある人の云いには、人馬もろとも雲古の上に突き刺さりけん、京に向け馬走らさんと往くところを急にひと飲みにされたとなん云いけり。馬は恐ろしきに窶れ果て、やをら気を違えてどこかへ行きぬぞかし。
 この事はすべて妖の仕業なり。ある陰陽博士云いければ、何人もその姿を見たものなし。これも妖なるべしと奇門遁甲にて占うたところ、鏡で照らせばその姿表さんと出る。すなわち大納言伊勢に参り、八咫鏡借りうけて帰り来れば、足音巨きくずしずしと殿上に近づきぬ。大納言鏡を頭上に掲ぐれば眩き光ありて、雲を突かんばかりの巨男ずいと現れぬ。侍ら一斉に矢を放ちければ、巨男大いに驚きて河内に逃げんとかや。
 堺によう傅戎でんかいありて昆海の弟なり。昆海堺に出向きて聞くに、かの巨男は売寅満に誅殺されしとかよ。
昆海記より    サヌキマオ

株ディフェンサー
ごんぱち

 むかし、あるところで、男が野良仕事をしていると、藪からウサギが飛び出しました。
 ウサギは大慌ての様子で、藪から出てすぐにあった切り株に気付かず、そのままぶつかってひっくり返りました。男はそのウサギを捕まえることができました。

「これは、切り株を見張っていた方がずっと良い稼ぎになる」
 そう考えた男は、野良仕事をやめて、切り株を眺めて過ごすようになりました。
 この時代、ウサギの肉や毛皮はとても有り難がられ、売れば良いお金になったのです。
 ですが、一日経っても二日経っても、再びウサギがぶつかる事はありませんでした。
「ひょっとして」
 一週間後、男はふと考えました。
「このまま待っていてもウサギは来ないんじゃないか? この前のは、万に一つの偶然ではなかったか」
 男はようやく腑に落ちた顔をします。
「ウサギは来ない! 畜生!」
 切り株に両手をかけ、踏ん張ります。
「こんなものに騙されて!」
 渾身の力を込め、切り株を引っ張り続けると。
 バリバリバリ!
 切り株は抜けました。
 男は切り株を藪に思い切り投げ込みました。
 豪腕から放たれた切り株は、藪から森の中へ入って百と一回跳ね返り、地面にめり込んで止まりました。
 するとどうでしょう。
 切り株にぶつかった鳥や獣が無数に目を回しているではありませんか。
「なるほど、待っているだけでは幸せは手に入らないのだな」

 男は切り株を投げるタイプの狩猟法の第一人者となりました。その後、木の実を拾っていた他人を巻き込んだ罪で、斬首されかけなりましたが、祈りに来た聖職者の首を引っこ抜いてぶん投げ、王様と王様の軍隊をまとめて殺してしまったので、自分が王様に成り代わって贅沢に暮らしました。
 王様となった後も、株投げの腕は衰えず、「まるでロケットパンチのようだ」「いや、反射衛星砲のようだ」「なんの、スーパーボールのようだ」と、喧々諤々の末、国民は男をスーパーボールキングと呼び慕いました。
 隣国の王女様がそれを聞きつけ、求婚して来たので男は結婚しました。初夜の時、王女様は「噂ほどではなかったわ」と言いましたが、そもそも睾丸は性交の快感に影響は与えないので、夫婦仲は良好でした。
 ですが、スーパーボールという言葉だけは、この国で禁句となりました。もしも、彼がアメフトに出ていたなら、その殺人パスで本当に人を殺す事もできたのに。
 才能とはかくも、人の運命を左右するものなのです。
株ディフェンサー    ごんぱち

晩春
今月のゲスト:岡本かの子

 鈴子は、ひとり、帳場に坐って、ぼんやり表通りを眺めていた。晩春の午後の温かさが、まるで湯の中にでも浸っているように体の存在意識を忘却させて魂だけが宙に浮いているように頼り無く感じさせた。その頼り無さの感じが段々強くなると鈴子の胸を気持ち悪く圧え付けて来るので、彼女はわれ知らずふらふらと立ち上って裏の堀の縁へ降りて行った。
 材木堀が家を南横から東後へと取巻いて、東北地方や樺太あたりから運ばれて来た木材をぎっしり浮べている。鈴子は、しゃがんで堀の縁と木材との間に在る隙間を見付けて、堀の底をじっと覗くのであった。
 彼女は、七八歳の子供の頃、店の小僧に手伝って貰って、を持ってよく金魚や鮒をすくって楽しんだ往時を想いめぐらした。その後、すっかり、振り向きもしなくなったこの堀が、女学校を卒業して暫くするとまた、急に懐しくなって堀の縁へおよいで来る魚を見るだけではあったが、一日に一度、閑を見て必ず覗きに来た。そんな癖のついた自分を子供っぽいと思ったり、あわれなものだと考えたりする。
 今日もまた、堀の水が半濁りに濁って、表面には薄く機械油が膜を張り、そこに午後の陽の光線が七彩の色を明滅させている。それに視線を奪われまいと、彼女はしきりに瞬きをしながら堀の底を透かして見ようとする。
 ただ一匹、たとえ小鮒でも見られさえすれば彼女は不思議と気持が納まり、胸の苦しさも消えるのだったが……鈴子が必死になって魚を見たがるのと反対に、此頃では堀の水は濁り勝ちで、それに製板所で使う機械油が絶えず流れ込むので魚の姿は仲々現われなかった。
 魚を見付けられぬ日は鈴子は淋しかった。落ち付けなかった。胸のわだかまりが彼女を夜ふけまで眠らせなかった。魚と、鈴子の胸のわだかまりに何の関係があるのかさえ彼女は識別しようともしなかったが……鈴子は二十歳を三つ過ぎてもまだ嫁入るべき適当な相手が見付からなかった。山の手に家の在る女学校時代の友達から、卒業と共に比較的智識階級の男と次ぎ次ぎに縁組みして行く知らせを受けて、鈴子は下町のしかも、へんな深川の材木堀の間に浮島のように存在する自分の家を呪った。彼女は、自分の内気な引込み思案の性質を顧みるより先に、此の住居の位置が自分を現代的交際場裡へ押し出させないのだと不満に思う。その呪いとか不満が彼女のひそかな情熱とからみ合って一種の苦しみになっていた。
 うっとりとした晩春の空気を驚かして西隣に在る製板所の丸鋸まるのこが、けたたましい音を立てて材木を噛じり始めた。その音が自分の頭から体を真二つに引き裂くように感じて鈴子は思わず顔が赤くなり、幾分ゆるめていた体を引き締め、開きめの両膝をぴったりと付ける、とたんにもくもくと眼近くの堀の底から濁りが起ってボラのような泥色の魚がすっと通り過ぎた。鈴子は息を呑んで、今一度、その魚の現われて来るのを待ち構えた。
「鈴ちゃん、また堀を覗いている。そんなに魚が見たかったら、水族館へでも行けば好いじゃないか。順ちゃんがね、また喘息を起したからお医者へ連れて行ってお呉れ」
 忙がしく母親が呼ぶ声を聞いて鈴子は「あ、またか」と思った。六歳になる一人の弟の順一が昨年の春、百日咳にかかって以来、喘息持ちになって、何時発作を起すか判らないので誰か必ず附いていなければならない。
 このおりさんの為めにも鈴子は姉として母親代りに面倒を見なければならなかった。女学校を出て既に三四年もたち、自分の体を早くどうにか片付けなければならない大事な時期だというのに、弟のお守りなんかに日を送っていることはつらかった。
「誰も、私の気持ちなんか、本当に考えていて呉れない」
 鈴子はそう心に呟き乍らまだ堀へ眼を向けている。
「鈴ちゃん、順ちゃんが苦しんでいるって言っているのに判らないかい」
 母親の嘆くような声が再び聞えると鈴子はしぶしぶ立ち上って「私だって苦しいんだわ」とに思った。しかし、いつまでしぶってもいられなかった。彼女は、急にしゃがんで小石を拾うと先刻ボラのような魚の現われた辺を目がけて投げ込んだ。すると、変な可笑しさがこみ上げて来た。鈴子は少し青ざめて、くくと笑い乍ら弟の様子を見に家へは入って行った。