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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage4
第42回バトル 作品

参加作品一覧

(2021年6月)
文字数
1
Bigcat
955
2
小笠原寿夫
1000
3
サヌキマオ
1000
4
ごんぱち
1000
5
小川未明
1837

あなたが選ぶチャンピオン。

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コミュニケーション

QSHOBOU掲示板

一杯のレモネード
Bigcat

  高校生の泰三君は大変無口で、クラスではいつも独りぼっち。友人はひとりもいませんでした。担任の岡田先生が心配して、ゆっくり話をしたいと思い、ある日の放課後、彼を職員室に呼び出し、自分のアパートへ来るように言いました。

 泰三君は話なら学校の面談室ですればいいのにと思いながらも、先生の強い語調に押し切られて、その日のうちに駅前の先生のアパートを訪ねました。

 リビングのソファーに座ると、先生は穏やかな口調で尋ねました。
「君はいつも静かだね。誰とも話をしたがらないみたいだし、何に対しても興味が湧かないように見える。学校の成績にも出てる。何故なんだ?」
 泰三くんはしばらく逡巡した後、重い口を開きました。
「とても辛いんです。今まで悲しいことばかり。家の事、学校の事、将来の事、いつも考えつづけていて、何にも集中できないし、誰とも話す気が起こらないんです」

 先生は泰三君の話を注意深く聞いた後、
「レモネードでも飲むか」と言いました。
 彼が黙って頷くと、先生は立ち上がって、キッチンへ行きました。作り置きして冷蔵庫に入れておいた原液を取り出し塩と砂糖を加えます。その時、塩を余分目に、砂糖を控え目にしました。

 先生が持ってきたレモネードを一口啜ると、泰三君は変な顔をしました。
 先生は尋ねました。
 「どうした?まずかったか?」
 「ちょっと、しょっぱいです」
 「そうか、飲めないのか。じゃあ、捨てるわ」こう言ってレモネードを
 捨てようとすると、
  泰三君はちょっと慌てて、
 「先生、捨てる必要ないです。ちょっと塩からかったんです。もう少し砂糖を
 入れれば美味しくなると思います」と言いました。

  これを聞いた先生はちょっと微笑んで、
「まさに君から聞きたかったことを言ってくれたね。これを君の人生と比べて
ごらん。わかるだろう。レモネードの味を良くするためには、塩を取り除くん
じゃなくて、もっと砂糖を 加えればいいんだ」
 そして先生は更に付け加えました。
「私達もすでに起こってしまった悲しい出来事を人生から取り除くことはできないけれど、辛いことや悲しいことを、良い経験をした時の甘い記憶で消すことはできる。いつまでも過ぎ去ったことについてくよくよしていると、君の現在は良くならないし、将来を明るくすることにもならないんだ」
一杯のレモネード    Bigcat

楽しかった思い出
小笠原寿夫

 エーテル臭が鼻を突く。
 液体窒素のボンベなどがぶら下がっているところで勉強していた。最初に白衣と保護メガネが配られた時、学生は沸きに沸いた。
「ロッカーがあるって嬉しいよね。」
そんな声も聞かれた。
 実験の際には、必ず純水で手を洗い、エタノールで滅菌し、エーテルで乾かすという順序が取られた。分厚い保護メガネをつけながら、ガスバーナーで、丸底フラスコやビーカーの中に入った酸や塩基を炙るような実験があった。
 もうそんな事は、忘れてしまった。20年以上も前の話である。
 それよりもそこで出会った人々の事は、よく覚えている。出来損ないだった私は、留年する毎に、友達の顔が変わった。
「したっけね。」とか、「なまらうめぇ。」などの方言が、新鮮でそれでいて、「ほな。」とか「めっちゃ旨い。」といった関西弁を使いたくてしょうがなかった。だから、その都度、大阪で学生生活を営んでいた高校時代の友人には、よく電話をした。
「へこんでるねん。」
「今度はどないしてん。」
「バイト先で、一言も喋れんかった。」

 大学生活二年目に入るとき、私は仲間と、飲み会を開いた。一年目で合気道部のジンギスカンパーティーで、一発芸がダダすべりして、二年目で仲間と飲みあえるようになった。三年目にも入ると、教授たちとの飲み会もあり、それはそれは楽しかった。四年目に入った時、構造化学研究室に配属になり、事務移転の為、引っ越しに駆り出された。
「早く論文のテーマを決めなくては。」
と思っていたが、どうやら論文のテーマは、担当の教授によって、ある程度、何をテーマにするのかは、決まっているらしかった。

 札幌には、クラシックという旨いビールがある。内地から足を運んだ人は、好んでそのビールを飲む。札幌の名物は、海鮮類だったり、ラーメンのイメージが強いかもしれないが、実はカレーである。

 高い授業料を出して、残ったのは、煙草を吸う習慣とビールが飲める口。
 私は、退屈な学生生活を送りながら、神戸に帰って福祉職に就こうと決心した。恵迪寮の先輩からは、
「多分、色んな大人に止められると思うけど、頑張ってください。」
と応援して頂いた。米を残していたので、後輩に渡した。
「ごっつぁんです。」
と言っていた。
 あれこれ思い悩み、教授連中に相談した挙句、私は、札幌を後にした。
 最初に就職した会社の社長は、仰った。
「紙切れ一枚貰って来い。」
もう頭に雪がちらついている。
楽しかった思い出    小笠原寿夫

豆腐とネギ
サヌキマオ

 豆腐屋の壁は内も外も水色に塗られていたが、経年劣化で塗料が浮いて鱗状になっている。
 豆腐などスーパーに行けば三つで百円みたいにして買えるのであろうが、そもそもスーパーがない。ないものは仕方がないので豆腐屋で買うことになる。日差しは世界をくっきりとさせ、陰影をくっきりさせた石畳の先、くっきりと闇に沈んだ豆腐屋の中は私の目に優しい。
 エアポンプの設かれた水槽の底には豆腐が並べられている。四角四面の白いかたまりはゆっくりと浮いたり沈んだりしている。
「豆腐ですか」店内の闇の中から浅黒い。髪だけ真っ白の老人が出てきた。老人は鎖グローブを右手に嵌めると、左手で擂粉木を持って水槽の腹をごんごんと叩いた。中の豆腐が一斉に水面に浮かび上がってくる。老人の目はどの豆腐を掬おうか少し迷っているように見えたが、一番奥のものに決めたらしく、浮かび上がった豆腐の口に親指を突っ込むと、一気に引き上げた。豆腐の持つ細かな歯が金属を噛むがりがりという音がする。老人は構わず、豆腐を私の持ってきたボウルに投げ込むと、豆腐は水の中でしばらく縦にくるくる回ったあとにおとなしくなった。
 金を払って外に出ると、また強い日差しの中だ。遠くに一点だけ黒い雲が見える。こちらに来て夕立になるだろうか。
 豆腐はオレンジ色の琺瑯のボウルの中で静かにしている。酸素が足りなくなると急に活動しなくなるそうだ。だったらそのまま水槽に沈めておけばいいような気もするが、それだとあっという間に鮮度が落ちていくのだと聞いた。豆腐屋の老人に話を聞いたのももう十年以上前の話だ。強い日差しがずっとボウルの中の豆腐に当たっている。大丈夫だろうか。大丈夫かね、と私は豆腐に声をかけた。口があって歯の生えているものだから話も通じるかもしれないと思ったが、そんなに甘い話ではなかった。
 そもそもお前、これをこの後、食うのだぞ?
 ネギは道端の畑に植わっている。いっそもっと人のいないところに植わっていればいいだろうのに、決まって人通りのある、にんじん畑の柔らかい土に、無理矢理尻をねじ込んで落ち着いている。ネギは迂闊なのでなんでもないふうを装って一気に引っこ抜けばいいのであるが、今は両手で豆腐の入ったボウルを持っているのだった。ボウルを置いたら最後の力を振り絞って豆腐が逃げてしまうかもしれない。辺りが暗くなったので見上げると、さっきの黒雲がすっかり真上にいる。
豆腐とネギ    サヌキマオ

つまる
ごんぱち

「なあ蒲田、手土産とかを渡す時の『つまらないものですが』という言い回しがあるよな?」
「あったがどうした、四谷」
「謙譲表現だというのは承知の上なんだが、人様につまらないものをあげるというのは、結局相手を見下している事にならないか?」
「ならないぞ」
「そうは思うんだが、こう」
「どうした今更、それは昭和の頃からあった不思議の国ニッポンツッコミの定番じゃないか」
「改めて考えさせられる事があって、原点に立ち戻ろうと思ったんだ」
「フフッ、そんな顔をするな。お前の言いたい事は多分理解したぞ、四谷」
「流石は蒲田、我が友、相州男児」
「この件は、あまり字義通りに解釈するものではない、という事だ。行間を読まねばならない」
「だろうと思ったが、そこの具体的な解釈を訊きたい」
「つまらない、というのは相手にとってのことだろう」
「相手か」
「そう。そもそも、土産は贈り物の一カテゴリだ。贈り物を選ぶ時に相手に喜ばれるものを選ぶのは大前提だ。これは贈り物の構成要件だ。ロボットに三原則を組み込んだ陽電子頭脳を装備させたのではなく、三原則を組み込んだ陽電子頭脳が組み込まれたものがロボットだろう?」
「アシモフ世界では確かに」
「『私としては、心を尽くして最上のお品を用意しました』そしてその上で、へりくだる訳だ」
「……そうか。『ですが、目上で良い物を色々と知っているあなた様にとっては、つまらないものでしょう』か」
「そういう事だな」
「分かって来たぞ。最近ネットの書き込みで見かけた『老眼だから何を買ったか分かりませんが』という話に違和感があったのは」
「それだと『自分としては何かも分からずに買ったので、つまらないものかも知れません』で、自分にとってもつまらないものになる可能性を許容している。こんな不誠実なものは土産ではない」
「なるほど合点が行った。というか、これを何故か褒める書き込みがあって、どうも違和感があったのだが、どうも言語化が出来なくて困ってるところだったんだ。ありがとう、蒲田」
「良いって事よ。お前と俺の仲じゃないか」
「お礼と言ってはなんだが、これを。つまらないものだ。弁当に付いてた醤油パック」
「本当につまらないものだな?」
「逆接にしないとこうなる訳だな」
「しょうゆうこと」
「せめてしょうちゃんだったら!」
「でもあれも、長く使ってたら詰まるしな」
「再利用しないだろ。あの手でまた使うのはせいぜい峠の釜めしぐらいだよ」
つまる    ごんぱち

抜髪
今月のゲスト:小川未明

 ブリキ屋根の上に、ぬかのような雨が降っている。五月の緑は暗く丘に浮き出て、西と東の空を、くっきりとさえぎった。ブリキ屋根は黒く塗ってある。家の壁板したみも黒い。まだ新しいけれど粗末な家であった。家の傍には、幹ばかりの青桐あおぎりが二本たつている。若葉が、びらびらと湿っぽい風に揺れている。井戸がの下にあって、汲手くみてもなく淋しい。やはり雨が降っている。うちには若い女が一人で住んでいるのだ。
 私は、この若い女を見たことがない。暮春ぼしゆんであるけれど、寒い日であった。私は、窓から頭を出して、黒いうちを見た。ひょろひょろとした青桐が、木のように見えぬ。人の立っているようだ。此方向こちらむきの黒い壁板したみには一つも窓がなかった。彼方あちらには窓があるかも知れない。私は、まだの家を廻って見たことがない。ただ、若い女が住んでいるということを聞いた。
『女は、どうしているだろう』と思った。女は、琴を弾かない。また歌わない。いつもあの黒い家には音がなかった。私は、どうかして、井戸に水を汲みに出る姿でも見たいと思ったが、ついの女の姿を見たことがない。
 私は心で、いろいろの女を想像して見た。ある時は、痩せた青い顔の女だと思った。ある時は、もう寡婦でつやのない、頭髪かみのけの薄い、神経質な女だと思った。私は、女のことを考えているうちに、日が暮れた。
 やはり雨が降っている。こう幾日もつづいて降ったらみんな物が腐れてしまうだろう。
『そうだ。みんな物が腐れてしまったら……』と思った。
 黒い夜だ。腐れて毒となつたような夜だ。暗い色はぼうとしているだけだ。黒い色には底に力がある。私は暗い夜でない黒い夜だと思った。私は、深い穴を覗くような気がした。つめたな舌でなめるように風があたる。もう黒いうちは分らぬ。あるけれど分らぬ。私は不安であった。けれどやはり私は窓から頭を出していた。
 あくる日も雨だ。私の空想はもはや疲れた。朝から、青桐に来てからすとまっている。茫然ぼんやりと窓にもたれて、張り付けたような空を見ていると、からすが、時々頭をかしげて何物かにひとみこらしている。私は、手を上げてうのもものかった。自然に逃げて行くのをまつていると、からすじつとして動かなかった。
 私は、窓を閉めた。急にへやの中が暗く陰気となった。暫くして、また窓を開けて見ると、まだからすが青桐にとまっていた。……とうとう日が暮れてしまう。
 あるばんふと眼をさますと、窓の障子が明るかった。戸を開けて見ると、雲が晴れて、空は暗碧あんぺきだ。古沼に浮いた鏡のように青い月が出た。銀光がおののき戦き泳いで来る。幾万里のあいだ音が亡びて空は薄青い沈黙である。二本の青桐もざめたように立っている。黒いうちままだ。ただ湿れたブリキ屋根に青い光が落ちて、とう西ざいの黒い森にも青みをんだ光りは流れていた。
 私は暫らく、窓にって青い月の光りを受けた黒い家を見ていたが、いうにいわれぬ悲しさがシミジミと胸に湧いた。
『若い女! まだ見ぬ若い女!』ああ、の若い女が恋しい。私はなぜ今迄いままでの女を見なかっただろう。私は余り考え過ぎた。考え過ぎているうちに春も過ぎてしまった。この青い月の光り! もう春でない。淡い夏が来たのでないか。夏? そうだ夏だ。病的な、暗愁の多い春はさつて、淡々として白い夏が来たのだ! しかし、もう遅い。春はさつてしまった。私は、過去の邪推、疑念、無駄な空想を呪った! 後悔した! 私は始めて、若い女は唇のあかい、髪の緑の、眼の美しい、処女しよじよであったということ……そしての女は、はずかしくて姿を隠していたのでないかということを考えた。
 めよ。春はいてしまった! といわんばかりに月の光りは淡かった。
 幾日か降った雨、それは恋しい、懐しい、春の行くのを泣いた泣いた女の涙であっただろう……私は、そのよる後悔とざんに悶えた。悶えた。

 白い雲が、日の光りに輝く青葉の上を飛んでいる。緑葉みどりばは一夜のうちに黒ずんだ。青桐の葉は大きく延びた。の蔭が地の上に落ち、はっきりと刻んだ。井戸の釣瓶の縄はいつの間にか切れて、もはや水を上げる役にたたない。ブリキ屋根には赤い錆が出て、黒塗の壁板したみには蛞蝓なめくじの歩いた痕が縦横についていた。私は、黒い家の周囲まわりを廻った。果して窓があった。東向ひがしむきになっている窓が閉っていた。私は、窓のそばに近づいて、戸を開けて見た。うちは暗くて、人の住んでいるはいもない。物の腐れた臭いが激しく鼻を衝いて来る。僅かに射し込んだ日の光りで、狭い、へやの中が見えたが、畳の上には、女の抜髪が一握ひとつかみほど落ちていた……。
 若い女は、もはやの家に住んでいなかった。