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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage4
第43回バトル 作品

参加作品一覧

(2021年7月)
文字数
1
小笠原寿夫
1000
2
サヌキマオ
1000
3
ごんぱち
1000
4
アレシア・モード
1000
5
川路柳虹
1419

結果発表

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スティーブン・スピルバーグの遺書
小笠原寿夫

 拝啓 我が息子たち
 君たちがこれを読んでいるという事は、もう既に私はこの世界にいないことになる。そのことを踏まえて、私の主張を聞き入れて欲しい。
 私が、一代で財を成した男であることは、君たちも周知の事だろう。財産の話は、別の遺書に書いてあるので、そちらを読みなさい。これは、私が生きた証として、君たちに残しておきたいものを書いた私の意思である。
 君たちも知っての通り、私はエンターテインメントの分野で、財を成した。それは形のあるものではない。そうして、引き継げるものは、君たちの中にはいないと思う。要するに、エンターテインメントというものが、世の中に永遠たるものだと再確認して欲しい。
 人は、泣き、笑う。
 その感情は、他の動物にはない。
 そういった意味に於いて、私は、仕事をしたと思っている。私が残していった作品の中に、バック・トゥ・ザ・フューチャーが含まれる。如何に子供に夢を与え、わくわくさせたかは、君たちも知っているだろう。
 しかし、私の死後、作品は色褪せる。古いものとして、扱われてしまう。それは、哀しい事の様でいて、実に素晴らしい事なのだ。何故なら、私の作品が古典として扱われるという事は、それだけエンターテインメントの分野が発展しているからに他ならない。
 過去や未来に移動するデロリアン号は、私の夢であり、特殊相対性理論に基づいている。
 そうして、また新しいエンターテインメントが出来た時、この時代と照らし合わせて欲しい。近い将来、新しい分野の映画が完成するだろう。それを、見届けて欲しい。
 それから、人の感情を揺さぶるという事が、如何に大きな仕事だったか、という事を、更に、見直して欲しい。
 映画は、かけがえのない文化である。全世界に恥じない映画を作るために、どれほどの予算と人材が要求されたかは、わからない。
 只、これだけは守って欲しい。もし仮に、新しいジャンルの映画が公開された時、君たちの子供たちに、それを大人の目線で見抜いて欲しい。映画の根本は夢であるが、本質は違うところにある。映画というのは、夢であり予言である。将来、こうあって欲しいという願いや湧き上がる感情が、監督に映画を撮らせ、エンターテインメントへと昇華する。
 本題は、ここからだ。
 子どもに夢を与えよ。本質を見抜いた上で、子供たちに夢を持たせて欲しい。何故なら、子供たちが夢を持たなくなったら、世界が滞る。
 敬具
スティーブン・スピルバーグの遺書    小笠原寿夫

紫陽花
サヌキマオ

 夕方六時前に家を出る。家の周りでは紫陽花が花盛りだが、最近はいろいろな種類のものができたものだ。赤褐色のもの、万年筆のブルーブラックのようなもの。根元に拳銃を埋めたから、鉄分でそこの紫陽花だけ青くなる、という推理ものをかつて観たような気がするが、やはり埋めるものが違うのだろうか。
 紫陽花の群れは甲高い声でキャンキャン吠える。吠えない品種というのもあるのだろうが、見かけたことがない。静かにしていたらしていたでふごふご云っている。健康に黒く濡れた鼻からの息が荒い。木の下に臭いよだれが貯まる。
 紫陽花のある風景は人を忙しないものにさせる。第一、ああいうものを、なんで人は庭に植えているのだろう。

 †

 インターネットで検索していたらこのページに辿り着きました。<紫陽花のある風景は人を忙しないものにさせる>とはどういう意味ですか。あなたの感性が間違っているのではないですか???
 Re:本文をよくお読みください。

 返信はなかった。きっと気ちがいだと思われたのだろう。
 ところで、紫陽花にはかたつむりがつきものと云われているが、実際のところはどうだろう。かたつむりの乗ったあじさいの花は実に迷惑そうにしている。極めて情けない声でひゃんひゃんひゅーと鳴く。直訳をつけたら「取って取ってヤダー」であろうか。とってやらない。そも、かたつむりにとっては紫陽花なんぞただの通り道でしかないのだ。かたつむりは紫陽花を横切り、
アスファルトの道路を横切り、
車に轢かれた猫を食い尽くし、
帰って暖かくして寝るのである。

 †

 かたつむりは植物性のものは大抵食べるので、紫陽花も食べるのではないですか?????
 Re:そういう個体もあるでしょう。

 返信はなかった。

 娘は保育室の奥から飛び出してきた。今日は機嫌が良さそうだ。塗り絵を見せてくる。うんこ塗ったよ! と娘。たしかに差し出された紙の上には、色々なキャラクターに混じってとぐろに目鼻の着いたものがあって、割と几帳面に肌色に塗ってある。これはうんこじゃなくてソフトクリームの妖精さんだよ、などと云いながら帰る。路路に咲く紫陽花に興味を向けようとするが「あじさいかぁ」くらいの興味しかないようだ。アイス買って帰る。

 †

 ダイバーシティの重要性が叫ばれる昨今肌色とはどういった肌の色でしょうか? また、このような表現方法についてのあなたのお考えをお聞かせください。

 返信しなかった。
紫陽花    サヌキマオ

Gの検討
ごんぱち

「――ご注文はお決まりですか?」
「ジャンボ餃子定食。蒲田は?」
「俺はみよしのセットかな」
「お待ち下さい」

「――なあ蒲田、餃子定食って、日本じゃ当たり前だが、中国だと驚かれるそうだな」
「らしいな、四谷」
「ニンニクと言い、醤油系のつけダレと言い、焼いた香ばしさと脂っ気と言い、ご飯のおかず以外の何で完結するというのか」
「中国の餃子はニンニクはデフォルトではなく、水餃子が主で皮の存在感があり、そして、焼き餃子はその水餃子の余りを温め直す為に行う調理法と認識されているようだ、という前提でだが」
「おう」
「ご飯のおかずというのは、基本的に味が濃く脂っこければ、多少炭水化物が多かろうがおかずになる。この残り物系焼き餃子も、日本で言えば残り物で作ったお好み焼きぐらいの位置づけであって、ごはんのおかずにする者は十分にいるだろう」
「だよなぁ。やっぱりおかずになるよなぁ。ご飯欲しきこと焼肉の如しだ。驚いたってのはデマだろう」
「いや、デマでは、なかろう」
「どっちなんだよ、お前の意見は」
「四谷、日本で、一辺の肉もないすき焼きの残った汁で卵とじをしてご飯にかける、みたいな料理はあるが、レストランでは売らんだろう」
「ああ?」
「クリームシチューにカレールーを適当にぶちこんでリフォームカレーにするとか、鯖味噌煮の缶詰めの汁だけでご飯を食べるとか、売らんだろう?」
「……だんだん分かって来たぞ」
「中国において、焼き餃子で飯を喰うというのは、あんまりお行儀の良いものではない。『えー?』って顔はするが、あくまで建前に過ぎない、そういう事ではないか?」
「つまり、中国人に『焼き餃子はご飯のおかずに好適だね』と言ったところで……」
「『まあ、かしこいどすな。そないな食べ方、うちらようしませんなぁ。東夷の田舎のお方は、おもろい事しはりますな』と、返される訳だ」
「……ニュアンスまではっきり分かったぜ、蒲田、流石はオレに分かる説明をさせると天才だな」
「よせやい四谷。褒め言葉の天才かよ」
「お待たせしました」
「おっ、早いね店員さん。早さの天才だね」
「お客さんはお世辞の天才ですね」
「いただきます」
「いただきます」
「うむ、うまい。みよしのは餃子の天才だな」
「カレーの天才でもあるな」
「天才を融合させる天才でもあるな」
「お客さん、少し静かに食べて下さい。慎み深いのも天才ってもんですよ」
「はあい」
「分かりました、店長・ザ・ジーニアス!」
Gの検討    ごんぱち

ポップコーン0指令
アレシア・モード

 何かイライラする。
 私――アレシアは苛立っていた。ショッピングモールの一角、ゲームコーナー近く。何の変哲もない場所だ。だが、この苛立ちの原因は何だ。
『……熱々のポップコーンはいかが?』
 頓狂な唄とともに流れる音声。ネコのキャラを形どった、よくあるポップコーンの販売機。
(そうか、こいつが!)
 私は気付いた。そのスピーカーから流れる唄の高周波成分に、別の音声が重ねてエンコードされている。単純なフィルター、敢えて私に知らしめるかのように!

(……何者だ)

 機械は歌い出した。

♪ハロー・ネコーおいでやす(熱々のポップコーンはいかが?)ネコーは楽しいお友達(熱々のポップコーンはいかが?)みんなで仲よく食べに来い
 私は……ネコー星人。アレシアよ、よく我が正体を見破った。だが我々の【ポップコーン0指令】を止める事はできぬ。【ポップコーン0指令】とは

 出し抜けに音声は途絶えた。
「おい、お前ッ」
「はあ?」
 近くに居たどっかの親子が私を見た。
「あ、いえ何でも……」

(ポップコーン0指令とは何だ)

 機械は歌を再開した。

♪ハロー・ネコーおいでやす(熱々のポップコーンはいかが?)ネコーは楽しいお友達(熱々のポップコーンはいかが?)みんなで仲よく食べに来い
 ……という事だ。【ポップコーン0指令】が完璧だと理解できたかね。これ以上の干渉は止め給え、アレシア・モード。同じ、宇宙人同士じゃないか

「誰が宇宙人だ!」
 どっかの子が疑惑に満ちた目で私を見る。いや、そんな事より。肝心なとこだけ聞こえなかったじゃん。何を企むネコー星人!

♪ハロー・ネコーおいでやす(熱々のポップコーンはいかが?
 私は……ネコー星人。アレシアよ、よく我が正体を見破っ

「ループしてんじゃねえ!」
 私は怒った。この邪智暴虐のネコを除かねばならぬ。私には宇宙は分からぬ。私は南洋生まれの台風女だ。だがその美しい体には正義の血が隠されているのだあ!」
「ちょっと、あんた」
「喰らえ鉄拳、プラズマクラスターパンチ!」
「ばかたれー」
 制服を着たオッサンが腕を掴んだ。貴様、ネコー星人の手先かッ」
「アレシアさぁん、すいません混んでて……」
 馬鹿の声がする。そうだ、私はトイレから戻らぬこの馬鹿を待ってたのだった。
 馬鹿が何やらヘコヘコすると、辺りは静まった。
「ご免なさい、遅くなって。あ、ポップコーン欲しいんすね。さあ僕と一緒にハンドル回しましょう
「いやだぁ」
ポップコーン0指令    アレシア・モード

番地
今月のゲスト:川路柳虹

 交番の前へきてひとりの男が巡査にきいている。
――隼町八番地というのはどこですか。
――八番地ですね、エーと…
 巡査はボックスの壁に張ってある受けもち区域の地図を指でさがしてみる。
――フム、ここが七番地……だからここが、
 と七番地の次にあるべき八番地を指で辿ってみたが、生憎とその地図は下方が破れていて八番地とかいた処が見つからない。
――つまり、その……このへんですな、巡査はその破れた地図のところへ指をやってみて男の方へふり向きながら言った。
――この横の通りを真すぐに行って、一つ、二つ、三つ目の小さな巷路を入ったところです。
――いや、どうもありがとう。
 男は巡査に教えて貰った通り交番の横の通りを真すぐに行って三つ目の巷路を入った。そして注意ぶかくその辺の町名を記したプレートを見て歩いたが、そこは平河町となっていて隼町八番地という番地はどこにも見当らない。
――ちょっとお尋ねしますが、隼町八番地というのはどこでしょう。
 彼は或る荒物屋の前でそこの主人にきいた。
――隼町? ここは平河町でしてね、私も近頃ここへ越してきたのでよく知りませんが、そこに交番がありますからきいてごらんなさい。
――その交番できいてこの辺だと教わってきたのですが。
――そうですか、じゃ向う側の豆腐屋さんでおききなさい。
 男は豆腐屋へ入ってまた同じ質問をした。すると、小僧が出てきて男にたずねた。
――何という家ですか。
――磯村というお宅です。銀行の頭取をしている方です。
――磯村さん。隼町なのですね。多分そこでしょう。この横丁を右に入って左の角の家です。
――ありがとう。
 男は急いで教えられる通りの町角へでて表札をみると「今村孝」とかいてある。しかも隼町三番地である。
 困ったなあ――と男は少し途方にくれてまた元きた道を還って隼町の交番へきた。前のお巡りさんがいる。
――先刻うかがった番地のところをたずねましたが見つかりません。
――なんという家ですか。
――磯村勘右衛門という○○銀行の頭取をしている方の家です。隼町八番地……
――磯村、磯村……
 巡査は呟きながら今度は名簿を繰ってみた。がそんな名前のものはなかった。
――見つかりませんな、磯村というのは。ここの管轄区域にはないですな。
――隼町八番地ならここの管轄区域ではないのですか。
――八番地はそうですが……磯村というものはありません。
――八番地はどこでしょう。
――さっき教えた通りのところです。七番地がここだから八番地は……
 巡査はまた地図の破れた所をさした。
――おかしいな。番地があって、その家がない。
 彼は何か少し笑い出したくなった。
――八番地はたしかにそこですか。今尋ねましたらあなたの言われた処は平河町三番地になっています。
――ナニ平河町? 平河町ならここの交番の管轄区域ではありません。平河町の交番へ行っておききなさい。
――平河町じゃない、隼町八番地なんです。私の尋ねてるのはそこなのです。
――では今教えてあげた処です。ここが七番地、だからここが八番地。
 巡査はまた破れた地図を指した。その地図の八番地と記した文字は生憎どこにも見つからないのだが彼は彼の独断で七番地の次が八番地と考えているにすぎないのである。そしてそのほかは管轄外で押し切っている。
 尋ねる男はやむなくまた教えられた方角へと歩いて行った。だが地図の破れたところを実地にさがしてみてそれが徒労にすぎないことを彼はよく知っているのである。