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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage4
第50回バトル 作品

参加作品一覧

(2022年2月)
文字数
1
小笠原寿夫
1000
2
サヌキマオ
1000
3
ごんぱち
1000
4
アレシア・モード
1000
5
水野葉舟
1664

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コミュニケーション

QSHOBOU掲示板

かかり祭りの日に
小笠原寿夫

 かかり祭りも終わりに差し掛かり、私は下駄の鼻緒を犬止めした。先ほど露店で買った解き飴を舐めながら、その甘さに舌鼓を打った。最近では行われなくなった人形音頭もあったし、ほろ酔い小唄も風情があり、昔ながらのかかり祭りだったと思う。京都の着倒れという言葉もあるくらいだから、着物が多少、擦れていても気にはならないし、それ相応の盛況ぶりだった。これまでも祭りは行われていたが、その規模は小さくなり、ここ最近では永歌が聴かれなくなったのが、残念だったが、今年はその分、国語知らずがあった事が、唯一の収穫であった。勿論、私が青春を謳歌していた頃は、湯気焼きや小袋流しがあったので、時代を感じざるを得ない。私も歳を重ねたものだな、と思いつつ、子供たちの燥ぎぶりを見ると、何故か安心してしまう。ふと視線を上げると、高床喧嘩が始まっている。この時代に高床喧嘩を見られた事に感動を覚えながら、じっとそれを見つめる。高床喧嘩とは、この土地に習わしとしてある一種の儀式で、男なら一度は経験したい、縄括り相撲の事を指す。縄括り相撲は雪解け地蔵を獲り合う喧嘩で、ぴったりとして動かない雪解け地蔵を縄で括って奪い合う喧嘩の様なものである。
(懐かしいな。)
私は、そう思った。私が若かりし頃は、雪解け地蔵を何が何でも獲りたい一心で縄に細工をしたりして、高床喧嘩を楽しんだものである。周囲から、「右へ曲がれ!」だの「覆い被され!」だのという野次が飛ぶ。
(今もあるのか。)
私は、そう思った瞬間、血が騒いだ。気が付けば満月が大分、西に傾いている。高床は犇めき合う若者の恰好の的であった。解き飴が口の中で、六個甘みを無くしかかったその時、私は、着物が破れんばかりに「縄を結わえて!」と声を張り上げていた。昔取った杵柄という奴だろうか。高床に上がらんばかりにその群衆に紛れ込んだ。片一方の若者が、縄を雪解け地蔵に結わえて、押し倒そうとしている。
(いいぞ。)
こういったかかり祭りのような文化を継承する者もいる。そういう若者を見ると、私は安堵と興奮が、ない交ぜになって、嬉しくなってしまう。一年に一度のかかり祭りが、大吞電神輿で幕を閉じたことは、特記せずともご理解いただけると思うので、その模様は割愛させていただこう。ともすれ、この地域に根ざした若者達の頼もしさに感慨を覚え、この祭りがこれからも代々、受け継がれていく事を願い、境内にて筆を折る。
かかり祭りの日に    小笠原寿夫

OH HAPPY DAYS
サヌキマオ

 人の群に行き遭った。王子の駅から少し飛鳥山公園を越えて入ったところで、路地の坂道を登って急に広々としたところに巨きな聖堂がある。詳しくはないが、海外からある宗教の要人が来るとかならず訪れるような場所だというトリビアは識っているし、明治時代からそこに建っていたと言われても納得のいく威容を誇っている。塀に囲まれた建物の正門の前が広くなっていて、場合によってはたくさんの車が停まるようになっているのかもしれない。行き遭った「人の群」というのは正門の前で何かを待っている人々だ――その様子を遠巻きに眺めているあたしの横を、一台の黒塗りのハイヤーがゆっくり通り過ぎて、目の前で停まる。中からわらわらと黒いスーツの男が出てきて、うやうやしくバックドアを開ける。すかさず幾人かが後部座席の――座席はなく、車輪のついた棺のような箱に取り付いて、ゆっくりと引き出してくる。一連の流れるような動き、箱の中が少し見えて、絹と思しき光沢の白布の上に、服装も髪も真っ白の老婆が横たえられている。死んでいるのかと思ったが、落ち窪んだ目には光があるように見える。
 一瞬のことだったが、あたしはこの老婆を中心に「人の群」に取り囲まれていることに気づく。老婆の入れた「箱」が黒服たちによって運ばれる。人々はくぐもるような声を上げて、みな手に手に同じ本を持っている。遠目にもわかる、件の老婆のグラビアが表紙になっている。「箱」は集まった人々を押し開くように進む。感極まったひとりが「本」を箱の中に投げ込むと、釣られるように他の人も「本」を箱の中に投げ入れ始めた。見る見る間に箱は本で埋まり、大量の本を盛り上げたまま正門に吸い込まれていった。思わず一次始終をずっと見てしまったが、本を箱に投げ入れた人は一様に「やりきった」という表情を見せている。
「オー・ハッピーデイズ」思わず口をついた。目の前のシチュエーションからふと「天使にラブソングを」の一場面を思い出しただけだ。別に同じようなシーンがあるわけではないが、考えるだけ無駄な話だ。「なぜ人々は集まったのか」「あの老婆は何者か」「どこからきたのか」「あの本はなんの本なのか」「沢山の本の下敷きになった老婆は、大丈夫か」「なぜ人々は満足気なのか」オー・ハッピーデイズ。すべてはこの一言で済むのだった。やや間があって「ゴッド・ブレスユー」と返事があった。もちろんあたしにしか聞こえない。
OH HAPPY DAYS    サヌキマオ

赤ちゃんが乗っています
ごんぱち

 スパイクタイヤに踏み固められピカピカに磨かれたミラーバーンを、くたびれかけたMINIが走る。
 歩道側の雪山は、人間の身長に近い。
 カーラジオから流れる深夜放送は、27時という時刻を告げていた。いつから地球の自転は24時間を超えたんだ。
 眠気はともかく疲労感が強い。
 定年退職者が続いたにも関わらず、新たな人員の応募がないと言われ、今さら何故退職者を引き留めなかったと人事が言う。年寄りはもういらないと言ったのも、補充人員の約束をしたのも、半年前の社長だ。
『独り残ってよく分からない作業をしていると、他の部署で噂されている』
 支部長からそんな事を言われた。

 住宅地から橋が近くなったところで、ブレーキランプが目に入った。
 減速して距離を詰める。
 近づくと、除雪作業中だった。
 この街で、除雪は冬の夜に当たり前の光景だ。
 夜中に目を覚ますと、大体ガリガリと雪を削る音がして、そのまま寝付けず過ごす。
 勿論、雪が積もっていては、自動車なんかただの箱と変わらない。感謝しても足りない程の、冬のヒーローだ。
 とはいえ、除雪で塞がれた道路を走り抜けられない今があるのは、事実だ。
 脇道を抜ければ、どこかに出るかも知れない。出られた気もする。行き止まりになる路地はそれほどない。
 けれどぼんやりと停まったまま、前のデミオを再び見る。
 デミオかよく分からないが、ともかく四角いヤツだ。
 色はシルバー、運転手まではよく見えないが、『赤ちゃんが乗っています』のステッカーをくっつけていた。

 これを、別の課の面白社員が「じゃあどうしたらええねん。いたから何やねん!」とか言っていた。
 多少語尾は違ったかも知れん。
 分かって言ってるだろ。赤ん坊が乗ってれば、クラクションを鳴らせば驚いて泣き出すかも知れない、追突したら殺人量は二倍だ。異変があって動揺して運転が疎かになる可能性もある。
 車間距離を多めに取れというだけの事だ。
 お前、子持ちだったろ。何か面白い事、言いたかったんだろ。
 あいつみたいに、さほど考える事もなく言葉を歯の外に出して、愛想笑いをされるのが、本当の幸せとやらなのかも知れない。

 ようやくデミオが動き出した。
 こちらも動き出す。
 慎重に走ろう。
 スリップを注意して。
 無灯火はいないか。
 歩行者はどうだ。
 横断歩道の滑り止め砂は、むしろ走行感を狂わせる。
 事故は起こさぬよう。
 退職届けは、もう出した。
赤ちゃんが乗っています    ごんぱち

卓球の母エース
アレシア・モード

 キッチンで夕食の支度をしていると、居間から義母の声がする。
「ねえ、ちょっと来てくれる?」
 私――アレシアは居間に向かう。そして彼女は左手にピンポン球、右手にラケットを持って立っているのだった。
「さあ、一緒に卓球をしましょう」
 私は夕食の支度をしているのである。
「はいこれを持って」彼女はラケットを手渡す。いや私は夕食の支度を。
「お義母さん、ワタシ遊び方がわからないよ」
「簡単だから」と彼女は言った。「ほら、この球を打つだけ、ほら」彼女は腕を弱々しく前後に振り、球を打つ方法を教え始めた。「ほら」
「ああ、ああ思い出しました。卓球知ってます。ちょっと待ってネ」
 私は一旦キッチンに帰った。スマホを叩いて集合知センターを呼ぶ。
《義母が卓球をやりたがる件で》
《卓球せよ、アレシア・モード》
《――了解》
 とりあえずキッチンから離れても大丈夫な事を確かめ、居間に戻った。テーブルには既に卓球ネットが張られている。先日何かの通販でこの卓球セットが届いたのは知っていたが、私は敢えて話題にする事を避けていた。
「行きますよ」
 ネットの向こうで何かの術者のように構えた彼女は、撚るように球を打った。球は斜め上に跳ねて落ちた。あらあらと言いながら彼女は球を拾い、再び打った。球は殆どそのまま落ち、やれやれと言いながら彼女は跳ねる球を捕まえて再び打った。サーブミスを四回続けた所で私は交代を提唱した。
 返し易そうな所へコン、と落としてやる。彼女は俊敏に反応し打ち返したつもりだったようだが、その座標と時間軸は物理的におかしい。「惜しいです、お義母さん」先が見えた私はテーブルを動かし、一方を壁に着けた。
「タイミングはイケてますよ! 壁打ちで練習してみましょう」
 とか言って彼女の背後に回った。これで球を拾う手間が少し省ける。カッツンコッツンやってるうち、次第にラケットが合ってくる。
「まあ」
 ああ、人はこの年齢でも向上できるのだ。跳ね返ってくる球にラケットが当たる。たまに手首の角度が合えば、なんと球は前にも飛ぶ。けっこう面白い。育成というのは。
「あらあら」

 私はキッチンに戻るとスマホを叩いた。
《空間認知能力向上を確認。心身とも良好な成果を得た気がする》
《アレシア・モードに次の科学的提案;視覚に深刻な障碍のない人間の心を衛星からの鳥瞰図で鮮明な画像にして得る方法。ステップ1。アンテナ設定》
 あ、そういうのはいいです。
卓球の母エース    アレシア・モード

野の声
今月のゲスト:水野葉舟

東京の郊外(大久保)の風情を心地よく感じた「私」は、家を借り妻子とともに移り住むことにした。
 何はともあれ、私達は塵と埃とで、すっかり汚れて居る、人間の臭い呼吸の染み込んだような街の中から、広々した日光が惜し気も無く、全身を照らして居る、土の色の清らかな野広い処に出たのだ。霜解けで歩きにくい道を、大悩みで歩いて居て、二月の寒さに汗をかいても、それでもほんとに嬉しい。今までは新しい家――私は結婚したばかりなので、新しい家だ、新しい家だと思って居る……その新しいと言う心持ちにも、不似合いなくすんだ、古い色をした汚れた町の中に居た。それがこの風までも、心持よさそうに吹き廻って居る処に来たのだ。……幾度繰り返して見ても、嬉しい! 心持が新しい。
 ふと、空を見ると、空は凍りきって、碧く光って居る。
 で、私達は四人連れで、私が見つけ出した家までやって来た。これは夫婦と、外には、私の弟のようにしている友達と、久しく一所に暮らした事のある友達との四人で、早速、この新しい家の掃除にかかった。そして、物珍らしそうに、井戸を覗いたり、家の周囲を見て歩いたりした。私は家の裏手の処で青々とした、雑草が二株三株生えて居るのを見て、もう手を組んで、目を瞑って何とも言えない心になった。自然の懐かしさ、涙が沁み出るような自然の懐かしさが、この小さい草の若々しい緑の色の中に満ち満ちて居るようで、私はホッと、おどってたまらない胸の奥から吐息をした。
 そして、表に廻って、女や、友人ともだちの顔を見ると、自分の胸一杯に力が充ちたようで、一所になって、力の限りに物を運んだりして見る。……本当ならば、この広い空の下に立って、声を限りに呼んでみたい。そしてこの胸の嬉しさが、涙になって、その涙がほろほろとこぼれるなら、こぼれるにまかせたい。……ただ一言で、嬉しい! と言う心持を人の胸にも刻みつけるような声が出したい……
 そのうちに、二月の日は薄い陰になって落ちて行った。――少し落ち着くと、女は晩餐を作るのだと言って買物に行く。
「薄暗くって、道がわるいわね」
 門の処に立って、心細そうに言う。日が落ちると、何処となしに寂然しんとして、薄闇の中に居るのが恐ろしい、心細い心持がする。……と、年の若いS君が、僕が一所に行ってあげると言って、出て行った。後に残った二人は、縁側に腰を掛けて、疲れた身体を横にしながら、向かい合って居る。
「ここらは、だね」
 一人が言った。
「野だね」
 一人が答えた。……二人の顔が薄暗い中に、朧に見える。
 私は立って、ラムプを点した。しつの中が明るく見える。私は振り返って、M君に、
「野中の一つ屋のようだね……」
 と言った。心にはこの寂しい、寂然しんとした野広い中に住むのが、心細くも思えるし、味の深いようにも思われる。
 やがて、四人は晩餐の食卓についた。温かい、蒸気ゆげの立つ食卓を囲んで、賑やかに笑いながら話して居た。――その時に、私はふと耳を立てた、外は寂然しんとして居る。闇の広さが計り難い程だ。そしてこの家もこの野広い郊外の地も包んでしまっている。闇がこの野の中で湧き出るように思われる。……その時に、三人は何かしら、一時に大きな声で笑った。すると、その声が、いつとなしに外の闇の中に吸い込まれて行ってしまった。
 私は闇の中のこうを思った。
 そのうちに二人は帰って行った。……夜は更けて行く。私達は賑やかに笑った後で、俄に静かになって向かい合った。
 外からは寂しい野の気が、ひしひしと押し寄せて来るようだ。私達は、俄に騒がしい響きの中から、この野に持って来られたので、神経が鋭くなって、外の闇の中に自然と心が引かれる。
 と、
「きしきし、きしきし」と少しずつあいだを置いて、枯葉が擦れ合うような音がする。それが何処か深い処から響いて来るようだ。……すると、次には、
「ざわざわ、ざわざわ」と、幽かだが、笹の葉のざわめくのが聞える。
「風が出たね」
 私はふと女にこう言った。すると女も、
「そうですね」
 と答えた、外の声を一心に聞いて居る。
「…………」
「…………」
「寂しいわね」
「寂しい」
 私はじっとその物の響を聞きながら、これが野の声だなと、思った。