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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage4
第52回バトル 作品

参加作品一覧

(2022年4月)
文字数
1
サヌキマオ
1000
2
ごんぱち
1000
3
アレシア・モード
1000
4
江見水蔭
1735

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ミートピア
サヌキマオ

 とん吉はずっとキャベツ畑で働いていた。両親からノウハウを受け継いでいて、農場で頑張れば頑張っただけまるまるとしたキャベツが出来、飛ぶように売れていった。ときには日照りや長雨に苦しめられもしたが、おおむね平穏であった。平穏は空虚であった。
「どこから?」
 町から帰ってきたミヨシが手に封筒を持っているのに目を留めた。
「あんたによ」
 郵便が届くこと自体が珍しい。よほど手紙の中身が気になるのかと思ったら、ミヨシはコートやマフラーを床に脱ぎ散らかしてそのまま便所に駆け込んでいった。
 手紙というのはまず表を見るべきか裏から見るべきか、つまり、誰からきたのか誰にきたのかという話であるが、とん吉はまず送り主をしげしげと見て、裏返して宛先をじろじろと見た。とても自分に来た手紙と思えなかった。白い封筒の送り主には「ミートピア」とある。指で引きちぎるには度胸がいる厚さだ。鉄鋏はどこにやったかと見回すと、調理台のスイカに突き刺さっている。刃についた果汁のべたべたを丁寧に拭いて、とん吉はようよう封を切った。中には二つ折りのでこぼこした厚紙が入っていて、金の箔で「ご招待のご案内」とある。

「要するにだ」ミヨシに話すために要約する癖がついている。
「あんたは『よく生きている』からミートピアにご招待しますよ、ということだ」
「あんただけを?」ミヨシは眉根を寄せる。「ダントツに怪しいわ。どんなことがあるっての、それ?」
「さあ」とん吉は眼鏡越しに複雑でまわりくどい文面をほぐしつつ「謝肉祭というのだから、まぁパーティーみたいなものだろうよ」と答えた。
 ミヨシはきっとなった。「あんただけ?」
「そんなことはないさ――大勢様にておいで頂ければ幸甚にてそうろう、と書いてある、と思う」
「ならよし」ミヨシは急に鷹揚になる。「じゃ、いきましょうよ」
「じゃ、ってまてまて」とん吉は慌てて紙面に目を走らせる。「三月だ。三月のことだ」
「なんだ馬鹿馬鹿しい」ミヨシは急に興味を失ったらしく、おもむろに台所のラヂオを点けた。ここで「馬鹿馬鹿しいってことはないだろう」などと言い返そうものならばどうなるか、それはもう七年にもなる夫婦生活で学んでいることだ。しかしどうだろう!「謝肉祭」いい響きだ。自分たちなりにキャベツづくりを頑張ってきた豚生じんせいのつもりだが、ちゃんと見ていてくださる方もおられるのだ。
 ラヂオでは繰り返し、大嵐の予報を報じている。
ミートピア    サヌキマオ

枯れた話題
ごんぱち

「なあ、四谷、水平思考ゲームやろうぜ!」
「何だそれ、蒲田?」
「ウミガメのスープとも言うが、知らないか?」
「うむ」
「出題者にイエス・ノーで答えられる質問をする事で、問題の答えを推理するゲームだ。勝敗というより、過程を楽しむ頭の体操系のものだな」
「水平思考って……横井軍平だっけ」
「デボノというマルタ共和国の学者だか作家だかの造語だ。問題解決のために、一見関係なさそうな事も考えると、発想が広がるみたいなニュアンスと理解した」
「よし、やってみるか」

「ではお題だ。とあるレストランでウミガメのスープを頼んだ男が、その後自殺をした。この理由を考えろ」
「ふうむ。蒲田、その男はアレルギーがある?」
「ないな」
「鬱病は?」
「特にそういう症状はなかった」
「何を使って死んだ?」
「質問がイエス・ノーで答えられないので無効だ」
「本当に自殺だったのか?」
「イエス」
「スープが死ぬ程マズかった」
「ノー。店で出せるぐらいにはおいしい」
「自殺をした理由は、経済的理由?」
「ノー」
「精神疾患を発症した?」
「そういう訳ではない」
「精神的に大きなショック?」
「それならイエスだ」
「ウミガメのスープを自ら望んで食べたのか?」
「イエス」
「……ウミガメに意味があった?」
「もう少し具体的に」
「ウミガメ……の、スープに、思い入れがあった? 思い出とか」
「イエス」
「……期待していた味じゃなかった?」
「イエス。核心を突いた良い質問だ」
「……思い出のスープは、ウミガメのスープだった?」
「ノー」
「思い出のスープの材料に気付いて、主人公が動揺した?」
「イエス」
「……主人公は戦争中に劣悪な収容所で餓死しそうになった時、ウミガメのスープを貰って助かった。平和になって改めて食べてみたら味が全然違い、それが戦友の死体だと気づき、罪悪感と嫌悪感から自殺に至った」
「自分が人肉食をした事に気付いて罪悪感で自殺した、って部分でOK」
「よっしゃ。で、本来の正解は?」
「漂流して餓死寸前の時に、生き残りの仲間がウミガメと偽って食べさせた。その後は同じだな」

「なるほど。腑に落ちたが、どうも陰惨だな。もう少し明るい話にしようぜ! 今度はオレが出題するぜ!」
「おう」
「男がスープを食べ、おいしいと喜んだ」
「うん」
「その後、男が火傷した後に池で溺死しました。何故でしょう?」
「……見え見えじゃねーか」
「じゃあ、男が食べたものを柿にして、男の死亡理由を圧死に」
「それも」
枯れた話題    ごんぱち

シティ・ステイト・サヴァイヴァー
アレシア・モード

『AIが世界を席巻する今日、人間のためのスペースはあまりありません。結果として、人間がまともな生活を送るための唯一の方法は、都市に住み、AIのために働く事です』
 こいつ、いきなり嫌な核心を突いてくる。私――アレシアはAI相談員のアニメ顔の頬を指で突付いた。ハローワークやばいわ。
『人間としてのあなたの仕事の一つを提案します』
「へーい」
『あなたの任務は地図上のある地点から別の地点まで車を運転する事です。あなたはAIが指定する地点でパケットを受け取り、数多くのエネミーにぶつからないよう注意して進んで下さい』
「エネミー?」
『エネミーは、AIが制御する自動運転車両です。エネミーは運行を最優先するためAIに制御されない車両に対する安全を保証しません。あなたは自己の生存のため自律的に回避してください。またあなたはエネミーより速いタイムで目的地に到着せねばなりません。あなたの雇用はAIに出来ない成果を上げて初めて意味を為すからです。エネミーの運転能力には限界があります。AIは他の自動運転車や乗客、歩行者の安全を保証する義務を負い制約を受けるからです。そこを利用して優位に立ちましょう。なおあなたも同じ義務を負います』
 何を言ってるんだ、こいつ。私はもう関心を失っていたが、相談員は構わずに話し続ける。
『都市ステージを離れれば難易度は下がります。ただ荒野には需要がなく、お金を稼ぐのは難しいだけです。家賃に追いつき食べ物を買うため、あなたはより多くの任務を検索し、より危険を求めるでしょう――』
 私はとっくにハローワークの建物から出ていた。仕事探しなら実際ここに出向く必要はないのだが、一度来てみたかっただけだ。向こうから戦車のような車が轟々走ってくる。突然、いくつかの車が暴走し、小さな車に衝突した。重い破壊音が私を震わせる。運転手が車に引きずられて行く。すべて私の眼前での惨事だが、私に何の被害もないのはAIの威力である。運転手は死んだろうか。歩行者でも乗客でもないし。なるほどね。
 翌日、私はサイレンを聞いて目を覚ました。表の通りには赤緑青のエイリアンの侵略を見つめる多くの人々が立っていた。「オンラインに古い軍の悪魔が戻ってきただ」と誰かが言った。何を言ってるんだ、こいつ。彼らは車に乗ると、何か暗号を唱えながら次々発進していった。都会の仕事は複雑だ。一人が誤操作して、エイリアンの車に衝突した。

シティ・ステイト・サヴァイヴァー    アレシア・モード

氷魚縅
今月のゲスト:江見水蔭

 若草山の麓、ゆきさわの畔、梅樹ばいじゆ林を成して、枝を張り根を延ばしたる、自然のさかに花二三輪、紅なるは血の色にもやと疑われつ。飛びる小鳥の、の如く疾く空を切れば霞の陣幕吹きまくれて、朝日麗らかに照らす時こそあれ、水車屋みずぐるまやの軒の下、氷柱つららや折れて落つると見れば、太刀を手にせる一人の若武者、衣懸きぬかけやなぎの緑の黒髪、振り乱したる大童おおわらわ銀実ぎんざねを赤き糸にてよろいたる、宇治の網代の氷魚縅ひうおおどし。袖綻びて狩衣の小蝶此所ここよりや抜け出でなん。苦戦を刻みたる大のだれ、菖蒲あやめ造りの帽子先に、若楓わかかえでを貫きたらん如く血をしたたらして、後ろにしたる兜の後証ごしよう、紫なるは二月堂の藤の房にも見まごう可し。けん寺の合戦に敗れて、柏木の城に落ち行かんとするおおかどうね頼春よりはる、立ち留まって小手の紐を、唇に結ばんとする一刹那、一方に千軍の不意に発し、一方に万馬の俄に起こりたる、と見れば、東大寺の鳩の羽音、春日の社の鹿の蹄の響きなるに、先ず好かりけると一息して、胸板を撫ずるに、かつを覚えて、見廻せば、其所に古き井筒あり。釣瓶のあらぬにこうぜしが、奇智を絞りて、雑兵が残したる陣笠に、幕の打紐を結びつけ、手繰りて苔の花浮く水を得しが、かかる中にも思い出したるは、手向山の神事のみぎり、忍ぶ網代笠の廂越しに、見染め参らせしはやま庄司しようじの息女佐代さよ姫。今は敵味方と立ち分かれて、しのぎを削るあいだなれど、過ぐる歳此処ここ井筒のほとりに姫と二人立ちて、武蔵野の摘草に汚れたる手を、洗い清めたる事もありけり。その面影は、井の底の深く沈めり。その名残の香は梅の花、背後の老樹、当年の我を忘れしかと、振り向く、其所そこに、啄木縅たくぼくおどし着たる大荒武者、弥陀みだの四十八願、四十八枚張りの兜。火焔の前立まえたちに猛威を示し、頬当の鉄よりも黒き顔の色。大身の鎗、い込んで突っ立ったり。
「笠じるしは見えざれど、山瀬方と覚えたり。名乗らば相手を辞し申さじ。誰人たれひとそうろうぞや」
「笠じるし無しとや、血迷いたる眼の不憫さよ。彼所かしこの梅が枝に預けたるが見えざるか。落武者の自らかなぐり捨て、おいをあやかさんとるとは雲泥の相違」
「笑止や。大佛口の高重たかしげ四條畷しじようなわて正行まさつら、ためし多きを知らぬ和主か。笠じるし無しとて我を知る者少なからじ。柏木城主おおかどくがすけ頼之よりゆきの一子、同苗どうみよううね頼春よしはる、今日の合戦不利にして、無念ながら此所まで落ち延びたれども、呼び止められて梓弓、引きかえさじと云うことなし。持て余しの鎗の柄を、十分しごきて突けやよ、此所ここを」
 兜の紐のあごに掛かるを引き下げて、喉笛をゆるやかに示せば、敵は頬当の破れるまでに打ち笑い。
「若き者の口の強さよ。ほざく事人並みにおぼえしは、言わで鼻白むに何程かまされり。野森の池の薄氷うすらいを、東大寺の鐘楼の撞木にて、碎くに似たれどこれも戦場。聴け、我こそは、城州じようしゆう木津きづ雲雀ひばり城の主人、やま庄司しようじ一連かずつらの御内に、さる者ありと知られたる、円城寺げん照猛てるたけ
「名乗りを揚げたるその次には、弥陀みだの唱名、それなる。いで、鎗の穂先を此方こなたへ」
「太刀の刃を此方へ」
「いで」「いで」
 身構えたる啄木縅たくぼくおどしうおおどし佩楯はいたてからからと鳴ってこれより双龍両虎の争いあらんとするかん殆ど一毛髪。春風吹き返しの裏より吹いて、兜の内の伽羅かんばしきに、円城寺玄蕃、と身を引きて。
「情けを知るは武士の常。戦場に若武者の命を断つは、是非もなき世の有様なれど、花の蕾を散らすのは忍び難し。此所ここにて闘おうより、彼所かしこの野にて」
「好し、さらば」
 睨み合いのまま、じりじりとを運ぶに、頼春は先なり、照猛は後なり。古井筒をめぐりて、七八歩の箇処、去歳こぞの枯葉のうずたかきを、蕨根わらびねの草鞋に踏む時此時このとき陥穽おとしあな、深し、頼春は落ちたり。
「卑怯なり、陥穽おとしあなとは何事ぞ」
 下から呼ばわるを、上から覗き込みて、思いの他なる優しき声音。
「卑怯にもあらん、さりながら、何とぞして和殿を生けるまま、捕らえて雲雀の城に連れ行かんとの、拙者の苦心、図に当たれり」
如何いかにとや、生ける侭、雲雀の城に連れ行かんとは」
いくさに負けても、恋には勝利、御身を陥穽おとしあなに嵌めたるは、佐代姫のしわざ」
「や、や、や」
 照猛、延び上がって神苑の杜の方に向かい。
「柏木城主おおかどくがすけの子息うね頼春よしはるを生けったり、方々かたがたく、よ」
 用意は何処いずこにも行き渡りてあり。杉林の間よりは、輿かご一挺、附き添う雑兵の中に女一人ありけり。