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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage4
第56回バトル 作品

参加作品一覧

(2022年8月)
文字数
1
サヌキマオ
1000
2
ごんぱち
1000
3
アレシア・モード
1000
4
磯萍水
772

あなたが選ぶチャンピオン。

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コミュニケーション

QSHOBOU掲示板

スイカ
サヌキマオ

 朝から今日の最高気温は三十九度だというのを見たが、一旦出かけてしまえば何度でもいい。気温が上がれば上がるほど空気は乾燥するものと思っていたがそんなに甘くはない。頭上にコタツの赤い部分があってずっと照らしている感じの上、今はスイカを抱えている。さっき道端で拾った。
 ようやく謝る機会を得られた。家に来ても良いという電話がくるまでずいぶん待たされて、それからさらに二週間だ。ゴールデンウィークごろに謝っていたのが、よもや8月にまで持ち越すとは思わなかった。
 それでも寝坊した。寝苦しかったのはある。寝ている部屋というのはなぜか午前二時くらいに室温がぐっと上がることがあって、たまたま目覚めてしまうと眠れないことがある。今日は折り悪くその日で、四時すぎにウトウトっとしてから目覚めると十一時を回っていた。まだ間に合うと思って家を飛び出して、土産を買うのを忘れた。
 スイカは電柱の脇に落ちていた。イメージよりもかなり巨きいようだが緑地に黝い縞が入っている――あおぐろい? と逡巡する気持ちもあったが、そのくらいのカラーリングのスイカが存在してもいいだろう、と安易に納得した。これも三十九度の為せる業である。スイカの肌は腫れぼったく熱い。日差しを吸収して手のひらを刺す――しかし。スイカの重さに意識が行くと、ふと脳裏によぎるものがある。これだけ熱々のスイカを持っていってもすぐに「食べよう」とならないはずだ。師匠のところにはおかみさんがいて、他に独立した息子さんと海外留学している娘さんがいる。このスイカ、持っていって、持て余してしまうのではないか。
 失敗した、という実感がよぎると汗がどっと吹き出してきた。寄り子ちゃん、たまたま日本に帰ってきたりしないかな。いやでも、人ひとり増えたところでさすがに食べきれないのでは、と考えたところで電柱に頭をぶつけた。額から汗の流れるままに前を見ていなかった。両の手から滑り落ちたスイカはまっすぐに地面に向かい、めしゃりと潰れる音がした。入った罅からぬるい液体が吹き出て灼けたアスファルトに湯気を生む。続いて中からぬるりとした鰭の付いた腕、嘴のついた頭、申しわけ程度の甲羅の付いた背中がまろび出る。
「わけのわからねえものを連れてきやがってどういう了見だ馬鹿野郎」
 すっかり懐いた河童をあとに従えつつ「トードの仲間だけに糖度が高い」などと考えながら駅までの下り坂を歩いて帰る。
スイカ    サヌキマオ

無敵の人
ごんぱち

「今回の犯行もまた、無職独身男で周囲との接点もない、いわゆる無敵の人によるものでした。このような犯罪を予防するためには、一体どのような方法が有効でしょう。本日は、社会犯罪学者の四谷京作先生にお話を伺います」
「よろしくお願いします」
「我々は、勤労の義務を犯している憲法違反かつ国益を蝕んでいる無敵の人という、人の皮を被ったイナゴ共を、一体どうやって駆虫したら良いのでしょう?」
「無敵の人の定義としては、社会との積極的な繋がりを断たれた人と考えるべきでしょう。彼らは社会的に排除された存在であるが故に、社会に対して価値を見出す事が出来ず、その破壊に躊躇がない訳です。これらの人を社会の一員として受け入れる、社会的包摂の概念が重要となっていきます。これには様々なアプローチが存在します。第一に、彼らは決して同一の理由で排除された訳ではない、という事です。部屋からも出ない引きこもりのイメージはありますが、それは極めて特殊なごく一部で、大多数は身体や精神の機能においても一見したところでは問題のない人々です。そんな彼らは、本来公共サービスの支援により救われる可能性があるが、知識不足で利用に至らないケースが大変多いと感じられます。この場合、自治体は申請主義ばかりではなく、アウトリーチの手法を用いていくべきです。無論、その為には多くの社会福祉の概念を理解した人員が必要となります。実はこの業務に振り分けられる可能性のある人達がいます。ケアマネージャーです。ケアマネは本来、複数のサービスを調整するための職種です。単一事業所しか使っていないプランに対しては、不要であると言わざるを得ません。無論、ケアマネには状態変化に気づきサービスを見直すという機能はありますが、予算が限られた状況においては削減されるべき贅沢でしょう。前回改正でAIや補助職の導入を前提としてケアマネの担当件数が引き上げられましたが、これに加えて単一サービスの場合事業所プランのみで現物支給可能とする事で、多数のケアプランが削減可能になり、余剰のケアマネージャーも増加すると考えられます。その半数が現場職に戻り、もう半分をこのようなソーシャルワーキングの人員として積極利用する事が、無敵の人対策であり、また、介護保険サービスの制度持続にもなるでしょう」
「馬鹿にも分かるようなアイデアで、お願いします」
「銃を合法化して、正当防衛要件を拡大しろ」
無敵の人    ごんぱち

聖地爆誕
アレシア・モード

 空が白い。輝いて、一面が夏の太陽となった。そして人、人、人々みな太陽の中、同じ場所へと歩いて行く。熱射に突かれて脳が一つに繋がったのか。いや、私――アレシアさんは知っている。人はもっと半端に個性的だ。
 人間は1677万の色彩を識別するというが、さて駅の東口からは赤色の群衆が流れ出ていた。私は子供連れの男性にマイクを差し向けた。
「――あなたは何色ですか?」
「もちろんツァーリ・レッドです。今日は皇帝の復活祭だから『爆心の塔』に行くのだゼーッ」
 彼は全身『皇帝の赤』グッズを装備し、子供もまた赤かった。赤い群衆は歩きながら『不滅皇帝Z』の歌を熱唱し始めた。
「♪皇帝は生く我らの裡に、今だ今こそ転生だ、悪のアレシア全滅だ」喧騒の苦手な私はその場を離れた。
 駅の西口から湧き出るのは緑の人々だ。テンション低い。何やら唱えて低周波の唸りとなって歩いて行く。鬱陶しい圧を感じつつ、私は一人にマイクを向けた。
「――あなたの色は?」
「アレシア・グリーンです。あなたもアレシア様を讃えに来たのですか」
「え――いやその」
「♪調伏の日――私達は仰ぐ『爆心の塔』――美しきアレシア――悪魔の皇帝を滅し給うた聖なる日」
「待て、この女は怪しい」
 誰かが私を指さして叫んだ。
「この暑いのに黒ずくめ、正義教会のスパイかも」
 それ皇帝がお友達だった教団じゃん。あんまりだ、あたしゃアレシアだよ。とか言うのも面倒で、私は陰鬱な怒号を離れて南口へ向かった。そこには黒っぽい人々が歩いていて「早くこちらに隠れなさい」とか手招きするのは無視して、爆心の塔へ向かう。
 近くの寺院を訪れた信徒らしい青い一団の一人は、
「ここって蒼蒼宗総本山の門前なのよ? 変な塔まで出来て本当困るわ。暗殺犯人のあれ、アサシア? 何で死刑にならないの」と嘆きつつ、路傍に並ぶ白いテントの土産物店で、皇帝と私らしき顔を印刷した扇子を漁っていた。店番の白シャツの男は、
「困った事しやがったとは俺も思ったよ。でもここは田舎で寂れてるしよ、人が集まるのはよ、正直有り難いんだよ」と明らかに地元の言葉と違った調子で答えた。
「やあアレシア君。久しぶりだね――」
 私はそっと振り返る。
「あっ、皇帝❤」
「また逢えて嬉しいよ。民衆も自由そうで何よりだ。楽園は、まだ出来ないのかな」
 皇帝は私を見つめて言った。
「緑色の顔はやめたのか」
「――じゃ、また」
 私は目を合わせぬまま、爆発した。
聖地爆誕    アレシア・モード

韃靼人の夢
今月のゲスト:磯萍水

 韃靼だつたんじんは魂を抜かれたような顔をして朝を迎えた。
 さもさも残り惜しそうに、情けない眼をして四方あたりを見まわした。
 韃靼人の思うものは見あたらなかった。
 韃靼人は嘆息ためいきをした。
 その日終日いちにちを韃靼人はためいきばかりして暮してしまった。
 夜は来た、韃靼人はいそいで寝床に横になった、この男は胸に一挺ひとつさじを抱いて、それこそ一生懸命に眼をつぶって居る、ほんとだ、
 この男はいま夢を追っかけて居るのだ、昨夜ゆうべであった、この男が寝ていると、現々ありあり枕頭まくらもとに寒天汁があらわれた、寒天汁は韃靼人が何よりの好物だ、この男もまたいんと韃靼人なので、やっぱり因果と寒天汁が大好物だ、
 けれどもであった、寒天汁は、深い、口の狭い壺に有った、でなくっても、こごりのようにぶりぶりとかたまっている寒天汁は、匙がなければ食べられない、まして深い壺の中だもの、
 けれどもであった、夢のうちに寒天汁を授かった、幸福のようで悲しい韃靼人は、おあいにくさまと匙という器用なものをもっていなかった、
 韃靼人はただ見たばかりで、食べる訳にはいかなかった、実際幸福しやあせのようで悲しい男であった。
 夢がさめて匙を掴んだ時は、寒天汁は、この男の眼から逃げていた。
 韃靼人はいま一生懸命に夢を見ようとしている、どうぞして昨夜ゆうべの寒天汁を発見しようとしている。
 忽然だしぬけに、どこかで誰だか、笑った。
 あかがねの壺をまるでかきまわしたような、男らしい気持のいい声だ。
 家根裏でもない、むしろの下では勿論もちろんない、壁土のなかでもない、帷布とばりの影でもない。
ばかな奴だ、ワハハハハ、けれどもうして匙を抱いて寝る気があれば、何時いつか一度また寒天汁にお目にかかれるのだ、可憐かわいい人間だ、ばかなりにういう人間は安心が得られるが、いまの若い奴等はどうだ、人一倍寒天汁を欲しがりながら、匙を抱いて寝る事を知らないのだ、韃靼人はばかなものだが、それよりもなおばかだ』