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3000字小説バトル

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3000字小説バトル stage3
第57回バトル 作品

参加作品一覧

(2020年4月)
文字数
1
サヌキマオ
3000
2
ストリンドベリ
3764

結果発表

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コミュニケーション

QSHOBOU掲示板

ちやほやされたくて
サヌキマオ

 逆茂木中の氏家依世いよといえば、女子バスケ部の主将としてずいぶん関係各所に名の知れた存在だった。それはバスケットボールの腕だけのみならず、天真爛漫と豪放磊落のあわいから迸るカリスマ性にあったろう。一方、午堂満茅まちといえばソフトボールでファーストを守るのっぽとして主に同部内で知られていた。朴訥と質実を積み上げて百八十センチに仕立て上げた様子は特に人の目を引かなかった。それゆえ、この二人が中学校生活の間にずっとつるんでいたとしても、多くの人は「あれ、そうだったっけ?」と首をかしげることだろう。ところで、あの氏家依世がスポーツ推薦でも何でもなく万歳高校に進学したのを惜しむ声が少なくなかったことをお覚えの方もあるだろうが、この決断は、依世が満茅と同じ高校に行きたいがゆえだったということは、おそらくは本人以外誰も知らないことだ。
「嘘はいけないなあ」
 十月の爽やかな月曜の朝だ。満茅が校門から校舎への途についていると、依世が後から大股で追いついて声をかけた。いつにしても快活だ。
「なに?」
「いなかったじゃないか、舞台に。土曜日」
 満茅はうんざりする。先週の土曜日は定期自主公演があった。
「云ったよ? 私は裏方だから。照明だから、舞台には出ないって」
「そんなことはない。おまえが裏方に甘んじる人間でないのは私がよく知ってるんだ。おたくの顧問は何をしてるんだ」
「それも割と最近説明したよ? 新入部員は裏方から始めるんだって。そういうルールなんだって」
 依世はすっかり記憶にないふうで、しばらく考え込んでいたが、
「下積みというやつだな!」
 と急ににっこりとした。バスケ部にだって下積みはあったろうに、と異を唱えたくなるが、そういえばこいつは中学の時、入学当初からレギュラーだったのを思い出した。ゆえに同じ一年生の中でも序列が出来ていて、本人にとっては下積みも何もなかったんだろうと思う。もうひとつ腑に落ちた。依世の家も広い庭と三階建ての建物の豪邸なのだ。二、三度しか行ったことがないが、ねえやと呼ばれる四十代くらいのお手伝いさんが二人住み込んでいる。
 そういう世界観の持ち主なのだった。氏家依世という女は。
「それで、いつ出るんだ?」
「来年の三月くらいじゃないかな、新入生歓迎公演になって、初めて新入部員に役がつくんだって」
「まてまてゴドー」
 常日頃は鷹揚で和やかなやつであるが、今日の依世は心なしか無表情に見えた。
「ということは、来年になるまで、役者であるおまえは見られぬということか」
「まぁ、そうなんじゃないかな」
「ほーん」
 依世は実につまらないといった風につぶやくと、向こうにいた女子の群れに向かって歩いて行ってしまった。もう校舎の玄関に着いていた。
 放課後。満茅が掃除を終えて視聴覚教室に入ると見慣れた後ろ姿がある。一メートル七十五の長身を、がっしりと鍛え上げられた下半身が支えている。堅そうな髪の毛を首筋で切り詰めて、頭頂にはくせっ毛が跳ねている。
 すわ、もしかして。満茅は内心ぎくりとした。よもや自分に役を与えるべく顧問に直談判に来たのではないか。依世の普段からすれば、大人に意見するくらいどうということもない。可能性は高かった。余計なことを。
「お、来た」
 振り向いた依世は爽やかな顔をして笑う。
「なんだ、午堂と知り合いか」
「同中だったんですよ、午堂さんと」
「左様か」顧問とも思ったより和気藹々としている。それで、
「じゃあ、今日は稽古を見ていってもらおうか」
「ではそうさせてもらいます」
「入部届は――」
 今手元にないからあとで――と聞くやいなや、満茅は膝からがっくりときて、間近の客席に座り込んだ。

「あんた――バスケは?」
 気がついたら依世と二人で駅までの道を歩いていた。
「考えようによったらだよ? バスケとソフトボールに拘ることはなかったんだ。せっかく一緒の学校に入ったんだから、ゴドーと同じ部活に入ったらいいじゃないかって。駄目かな?」
「駄目ではないけど」
 もう十月だ。期末テスト前の最後の部活だ。半年ほど遡って、「わざわざあの氏家依世がうちのバスケ部に!?」と、バスケ部らしき女子が狂ったようになって喜んでいたのを満茅は思い出した。
「バスケ部は、駄目だったの?」
「いや、バスケ部は悪くなかったよ? ただ、私は――」
 珍しく依世が逡巡した気がする。
「単にちやほやされさえすれば、どこでもいいんだなぁ、と思って」
 しばらく二人で無言で歩く。本当にかける言葉がなかった。
「私、変なこと云った?」
「いや、変じゃないけど、氏家らしいな、と思って」
「ここが微妙なところでさ、ちやほやされたいんだよ。で、現にちやほやはされてるんだよ。知ってるだろうけど」
 いろいろなシーンが浮かぶ。中学時代、バレンタインデーにはデパートの紙袋三つ分のチョコレートを持って帰って、開封作業を手伝ったことがある。
「でも、違うんだよ。頼りにされるのと、ちやほやされるのは違うんだよ。バスケはみんながみんな自分の仕事をちゃんとするから強いんであって、誰か一人、スターが全権を司っちゃ駄目なんだよ。わかるよね?」
「まぁね」
 万歳高校のバスケ部は、おそらくは、そういうことだったのだろう。ひょんなことから落ちてきた得がたいスターに、部員も顧問も、もしかしたらコーチも目が眩んでしまった。そういうことだろうか?
「そういうこと、って自分で言うのは面映いけど、そういうことなんだよ……だったら私は、新しい場所でちやほやされたい。今後とも全身全霊でちやほやされていきたい」
 そう云うと依世は制服の上から自分の胸をぐっと掻き抱いた。中学の時からバスケの試合ではさらしを巻いているのは知っているが、それでもありあまる胸部の存在感は、依世をより只者でなく見せていた。本人にとってはただの癖なのに、氏家依世が男女関係なく人を圧倒してしまう要因の一つであろう、と満茅は分析している。

 中間テストが終わって、部活がまた始まった。
「おいおいおい、また嘘をついたな」
 例によって朝から依世に追いつかれる。今度は満茅にも身に覚えがない。
「伊武先生、男じゃないか」
「知らなかったの?」
「だってほら、常識的に考えておかしいだろう? 完全に格好は女物だ」
 すっかり自明のものとしていたが、高校の教師が長い髪に女装をして教鞭を執っているというのは、実は異常なことだった。我々、演劇部は状況に慣されている。そして、
「というわけで、私は演劇部を辞めようと思うんだ」
「待って」
 そういえば思い当たる節があった。逆茂木中学の大エースも、女子だけに高い人気を誇っていたのだった。もっと云えば、共学にありながら、依世は男子との、男性教師との接触を必死に避ける人生を送っていた。
「その設定、まだ続いてたの?」
「人の苦手を設定呼ばわりしてもらっちゃ困る」
「でも」満茅は独りごちる。「男だって判る前はあんなに懐いていたじゃない」
「うっ」
「こんどメイクを習いに先生の家に遊びに行ってよろしいですかー! って云ってたじゃない」
「ううっ」
「大丈夫だよ、今更」満茅はなんだか妙に嬉しかった。バスケ部の、もとい演劇部音響の氏家依世は、なんだかんだで部内に溶け込んでいたからだ。
「ちやほやされたい」とはずいぶん違う気もするが、鷹揚な様子から顧問に「大将」とあだ名されて、今日も音響のスイッチを押している。
ちやほやされたくて    サヌキマオ

民衆へ――世界の解釈と真の意志――
今月のゲスト:ストリンドベリ
秦豊吉/訳

永遠なるもの  舞台に現れず
悪の精神、簒奪者、現世界の主領
ルチフェル光を齎す者、王位を奪わる
天使の長
天使
アダムとエワ
序幕 天
 神とルチフェル、各王座にあり。天使これを取り囲む。神は年老い、顔の表情厳かにして、殆ど怒れるに近し。長き白褒、小き角あり。ミケルアンジェロのモオゼを見る如し。
 ルチフェルは若く美し、ブロメトイス、アポロ、基督に似通る。顔の色は白く、晴れやかに、眼光り、歯輝く。頭上に毫光射す。

 神
 ああ、動いて欲しいものだな。じっとしているのですっかりだらけてしまった。一つ神の力を見せてやろうか、尤もわしが身を裂かれて、未熟な多数になって消えてしまう危険は冒すつもりだ。
 見ろ、あの下の方の火星と金星との間に、わしの太陽系の中が二三ミリメートル空いているな。あすこに一つ新しい世界を造ってやろう。その世界は無から生まれて、いつかはまた無に還ってゆくベきだ。その世界に生を享けるものは、わしらと同様に自分を神と思わなければならぬ。その生物どもが互いに闘い威張り合うのを見るのは、わしらの悦びだ。だからこれを愚の世界と名を付けてもよい。この宇宙を統御する力の内で、天の河の南の方を治めているわしの兄弟ルチフェル、お前はこれをどう思う。

 ルチフェル
 主にして兄弟よ、あなたのそんな悪戯な意思は、悩みと堕落を求めているのです。私はあなたの考えを好いと思いませんね。

 神
 天使はわしのこの案をどう思う。

 天使
 主の御心の通りです。

 神
 わしの言った通りにしよう。可哀そうなのはこの愚の世界にいてその源と任務を解釈しようとするばか者だ。

 ルチフェル
 悪を善といい、善を悪と名付ける者こそ哀れです。闇から光を、光から闇を造る者こそ哀れです。苦みから甘さを、甘さから苦みを考える者こそ哀れです。私はあなたに永遠の裁判の前に出て貰います。

 神
 わしもそれを待とう。お前はあの永遠の者がこの世界にたずねて来てくれる時に、十万年に一度以上も度々逢う事があるかね。

 ルチフェル
 私は人間に真理を言ってやります。あなたの計画もこの真理に対してはめちゃめちゃです。

 神
 ルチフェルめ、お前こそ呪われていろ。お前のいる場所はこの愚の世界にする。そうすれば人間の苦しみが目に入るだろう。ばか者共はお前を悪者と名を呼ぶぞ。

 ルチフェル
 あなたはきっと勝つでしょう。あなたは悪のように強いのですからね。人間に対してはあなたは神です。このロ悪の悪魔が。

 神
 この謀反人を突き落せい。進め、ミヒャエル、ラフハエル、ガブリエル、ウリエル。叩け、サマエル、アツウェレル、メハツェエル、吹け、オリエンス、パイモン、エギン、アマイモン。(ルチフェルは旋風に吹き捲くられて、地獄に突き落とさる)


第二幕 地上
 アダムとエワ智慧の樹の下にいる。やがてルチフェル蛇の形と成って現わる。

 エワ
 ついぞこんな樹を見た事がありませんわ。

 アダム
 この樹に触ると大変だよ。

 エワ
 誰がそんな事言って。

 アダム
 神様さ。

 ルチフェル(登場)
 どの神様です。神様も沢山いますからね。

 アダム
 今何とか言ったのはどなたですね。

 ルチフェル
 いや僕です、ルチフェルです、光を齎す者です。あなた方の幸福を祈り、あなた方の苦しみを苦しむ者です。あの太陽の帰ってくるのを知らせる新しい朝の星を御覧なさい。あれがわたしの星です。その上に鏡があって、真理の光を照り返しています。時がくればこの星が砂漠の方から羊飼ひを秣槽の傍へ案内をしてゆきます。その秣槽の中でこの世界の救済者であるわたしの息子が生まれるでしょう。
 あなた方はこの樹の実を召し上がると、何が善で何が悪かお分かりでしょう。人生というものは悪だという事も、あなた方が神でないという事も、それから悪い奴があなた方を目くら滅法に打ったという事も、あなた方の存在は神様連中のお笑いに供する為に転々してゆくに過ぎないものだという事も、みんなそれでお分りになれましょう。さあ一つ召し上がって御覧なさい。あなた方は死の悦びという苦しみから自由になれましょう。

 エワ
 わたしそういう事を知って自由になりたいと思うわ。あなたもお喰べなさいよ。(両人禁断の実を食う)


第三幕 天
 神とウリエル

 ウリエル
 残念です、私らの悦びが無くなりました。

 神
 どうした訳だ。

 ウリエル
 ルチフェルめが地球に住んでいる者に我々のやり方の種を明かしてしまって、人間どもはもう何もかも承知して幸福でいる様子です。

 神
 幸福であると。それは残念だな。

 ウリエル
 そればかりではありません。ルチフェルめが解放という贈り物をしたので、人間どもは無に還る事が出来るのです。

 神
 死ぬ事が出来るのか。それならばよし、死ぬ前に殖えるがよい。愛よ生まれろ。


第四幕 地獄

 ルチフェル(縛られて)
 この世の中に愛が生まれてから、おれの力は死んでしまった。アベルはカインの手で自由に成った。けれどもそれはあの男が自分の女きょうだいに子を生みつけておいてからだ。おれは誰もかれも自由にしてやろう。水も海も、泉も川も、お前達はみんな人生の焔を消す事を知っているだろう。溢れろ、一切を滅せ。


第五幕 天
 神とウリエル

 ウリエル
 残念です。私らの悦びは無くなりました。

 神
 どうした訳だ。

 ウリエル
 ルチフェルめが水を呼んだのです。水が溢れて来て、生きている者を解放しているのです。

 神
 それならばわしも知っている。わしはその中から最も単純な人間を一組だけ助けておいた。この一組は謎の言葉を決して知る事がないであろう。この二人の乗った方舟はこぶねはもう三の水の間の山に着いている。そして燔祭を献げていた。

 ウリエル
 けれどもルチフェルはこの人間に葡萄の樹と名を呼ぶ植物を與えています。この樹の実の汁が愚かさを癒すという事です。葡萄酒という飲物ですね。今に目につくようになるでしょう。

 神
 余計なおせっかいをするやつ等だ。わしがこの樹には、気違いとか眠りとか物忘れという珍しい徳を備えさせておいた事を知らぬと見えるな。どうせ目で見たより多くは知らぬであろう。

 ウリエル
 実に残念ですね。あの地上に住むばか者共は、あの下で何をするでしょう。

 神
 塔を築くのだ。天まで突進してこようというのだ。ルチフェルめは人間に疑いを起すという事を教えたな。よし、わしは人間共の舌に触ってあいつ等が疑いを疑って何の解答も獲ないようにしてやろう。わしの兄弟ルチフェルめ、物を言う事はならぬぞ。


第六幕 天
 神とウリエル

 ウリエル
 困りましたね、ルチフェルが自分の息子を寄越しました。この息子が人間に真理を教えるのです。

 神
 何とその息子が言っていた。

 ウリエル
 この息子というのは処女の胎から生れて、人間を解放する為に来たと考えているのです。そして自分の身を殺して死に対する恐れを除こうと思っている。

 神
 人間どもは何と言っている。

 ウリエル
 一人はこの息子を神だと言っています。すると又一人は悪魔だと申して。

 神
 人間どもは悪魔をどんな者だと思っている。

 ウリエル
 ルチフェルを悪魔だとしていますので。

 神 (怒って)
 地上に人間を造った事をわしは後悔する。人間はわしよりも強くなった。もう今となってはこの大勢の人間を、どうしたら愚かさと無智から導いてやれるか、わしには分からなくなってしまった。アマイモン、エギン、パイモン、オリエンス、わしのこの重荷を取ってくれ。あの地球を地獄へ突き落してくれ。あの謀反人の首の上に呪いあれ。呪われたあの遊星の額の上に首絞め台を立てろ。犯した罪と懲しめと悩みのしるしを立てろ。(エギンとアマイモン登場)

 エギン
 主よ、確かにあなたの残酷な御心と仰ったお言葉の通りに成りました。地球は軌道の上を暴れながら進んでおります。山は崩れました。水は陸の上に溢れました。地軸は北を向いています。寒さと暗さと、流行病と飢えが人間を荒らしています。愛は死のような憎しみに変わりました。親孝行は親殺しに変わりました。人間はまるで地獄にいる心持です。それからあなたは、主よ、あなたは王位を奪われました。

 神
 助けてくれ、わしは後悔を悔いる。

 アマイモン
 もう後悔なされても間に合いません。一切が成るように成ってゆきます、あなたが力を解いておしまいなされてから……

 神
 わしは悔いる。わしはこの魂の火花を汚れた生物の中へ入れたのだ。人間の妻が体を汚して、己れの夫を汚すと同じように、あの生物の淫楽がこのわしを辱しめたのだ。

 エギン(アマイモンに)
 老人がばかな事を言っているぜ。

 神
 あの生物がわしから離れてしまっては、もうわしの力というものは尽きてしまう。人間の堕落はわしを戦慄させる。わしの子孫の愚かさはわしの心を痛める。永遠なるものよ、何をわしはしたのであろう。このわしを哀れんでくれ。永遠なる者は呪いを愛した。呪いはもうそこへ帰ってくれ。また永遠なる者は祝福を喜ばない。どうぞ祝福はそこを避けてくれ。

 エギン
 何といううわ言だ。

 神 (倒れ伏して)
 主よ、永遠なる者よ、神々の中にあなたに似た者は一人としてない。あなたの仕事は比べるものがない、あなたは偉大だ。あなたは奇蹟を行える。あなた一人が神だ、あなた一人が。

 アマイモン
 ばかばかしい。

 エギン
 神様連中が喜んでいて、人間がそれを瞞しているのが、之が世界の経路というものさ。