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第8回チャンピオンofチャンピオンバトル詩人部門 Entry4

万年筆


詩を書くための万年筆を長いこと探していた
もう見つからないだろうと諦めかけた頃
公園のベンチで隣に座った男があげると言って一本くれた
使い込まれた万年筆を受け取って繁々と見ながら
でもあなたが困るでしょうと聞くと
もう私は詩を書かないからいらないのだ
インクが切れているから新しく買ってくれと言って立ち去った

けれど何処を探してもインクを見つけることは出来ない
いや、インクは世の中にたくさんあるのだが
貰った万年筆にはどれも合わないのだ

インクを捜し求めて立ち寄った店の主人が
この万年筆に合うインクはありませんと言った
何処にもありません
しかしあの男は新しいインクを買えと言ったんだ
元の持ち主はご存じなかったんですね
ご自分が詩を書きたい時にインクが出るということを
他の人に譲ってもインクは出てこないんです
それなら私が詩を書きたい時にインクが出る万年筆もあるのか
あるかも知れません
何処にあるのだ
それは誰にも分かりません
どうしても欲しいのだ、何とか手に入れてくれないか
すると主人は悲しそうに笑って
私ではどうにもなりません
万年筆が人を呼ぶのですからと答えた

今も私は詩を書くための万年筆を探している


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