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第9回チャンピオンofチャンピオンバトル小説部門 Entry8

緊急事態


 アタシはつまり『合コンや ファイト一発 玉の輿』ってノリで、徹君にお持ち帰られ、交際半年。いよいよ御自宅(古風な大御屋敷)に招かれた。

 応接間には、御両親様と御祖父母様が並んでおられた。
「生憎、徹の姉は、朝から外出しておりまして……」
 挨拶が済むと、お母様が丁重におことわりを述べられた。
「可愛らしい娘さんじゃ」
 お祖父様がそうおっしゃると、皆様頷かれ、和やかな雰囲気となった。

 暫らくすると突然、壁の赤ランプが点滅し、スピーカーが鳴った。
「科特隊より入電、緊急事態発生、御屋敷ロボ変身まで三十秒、二十九、二十八……」
「しまった、姉さんがいない。このままじゃ発進出来ない。どうしよう」
 徹君が慌てる。
「落ち着け! 仕方ない、この娘さんに加勢してもらおう。お嬢さん、正義の為だ、協力してくれ。よいな」
 お祖父様に睨まれて、アタシはようやく合点がいった。この家族こそ、巷で話題の怪獣撃退マシン『御屋敷ロボ』を操る匿名家族なのだ。人類の為に働くチャンスと玉の輿に乗るチャンス……突然のダブルチャンス到来にアタシは眩暈すら感じた。
「ああ、幸せが恐い」

「さあ、出動じゃ」
 お祖父様の総指揮の元、両手を御両親が担当され、徹君が右足、アタシが左足を操って、巨大ロボは動き始めた。武器全般はお祖母様の担当だ。
 オイッチニイ、オイッチニイ……「オイッチ」で徹君が右足を前に踏み出すので、アタシは「ニイ」に合わせて左足を前に踏み出した。両手は適宜、バランスをとり、お祖父様は的確に舵をとり、お祖母様は異常に興奮し、ミサイルを連射した。

 やがて、怪獣を肉眼で確認。
「ジャ、ジャミラ」
 アタシは驚いた。それは間違えなく、悲劇の怪獣『ジャミラ』だった。
「お祖父様、ジャミラを殺さないで。ジャミラは、宇宙飛行士なのよ。ご存知でしょう」
 アタシはお祖父様に懇願した。
「いや、本部はあくまでも『一介の怪獣として』処理せよとのことじゃ」
 御屋敷ロボは、ジャミラが口から吐く百万度の高熱火炎を浴びた。しかし、御屋敷ロボから発射されるミサイルの数が半端じゃなかったので、ジャミラは降参のポーズをとった。御屋敷ロボは、それでも攻撃を止めない。
「婆あ、止めろ」
 アタシはお祖母様に飛びかかり、首を絞め上げた。ミサイルは止んだが、左足が停止した御屋敷ロボは、前のめりに倒れ、大破した。ジャミラはあっけなく圧死。アタシのダブルチャンスは消えた。


※作者付記: 『ジャミラ』は、テレビ番組『ウルトラマン』他に登場した怪獣の名前です。


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