QBOOKS
1000字小説バトル 3rd Stage
チャンプ作品
『よそくのじたい』ごんぱち
 ひと坪程のデパートのエレベーター内には、四谷京作の他に男と女が二人づつ乗っていた。
 三階、四階、五階、六階――。
「……ん」
 七階に向かっていたエレベーターが、止まった。
「ん?」
 階数表示は六階のまま、動かない。
「止まったのか?」
 中年のサラリーマン風の男が呟く。
「そうみたいねぇ」
 中年の女が不安そうな顔をする。
「マジで?」
 若い女が眉をひそめる。
「緊急電話、かけてみますか」
 ボタン前の若い男が、緊急呼び出しのボタンを押す。
「あー、すみません、エレベーター止まっちゃったみたいなんですけど――」
 話した後、若い男は振り向いて笑顔を見せる。
「ちょっとしたトラブルで、五分ぐらいで復旧するそうです」
「良かった、ありがとう」
「なーんだ」
「びっくりしましたね」
 皆、安堵の表情を見せる中。
(……む、おなら出そう)
 四谷は眉をしかめる。
(この閉鎖空間で、それはヤバイ、マジヤバイ)
 腹の力を出来るだけ弛めようとする。
(五分、五分待てば良い。たった五分、カップラーメン……だとダメか! いや待て、どん兵衛なら! どん兵衛ならやってくれる!)
 四谷は腕時計を見るが、先程、若い男が言った時間から、三十秒しか経っていない。
 乗客達は皆、携帯電話を開いていた。
(そ、そうか、ケータイで時間を潰せば良いんだ!)
 四谷は他の乗客にぶつからないように、肩にかけていたバッグをぐっと腹に抱えてから、ファスナーを開けて携帯電話を取り出そうとする、が。
(ぬ)
 バッグによって圧迫された事で、腸がグルグルと鳴り、キュゥと押し込むような痛みが下へ降りて行こうとする。
(ぬんぉおおお! 耐えろ、オレの括約筋! 頼む耐えて! い、いや、ダメだッ! もうダメだッ! 出すねッ!)
 ぶぼっ!
(え? オレ、じゃない?)
「あっ、すみません!」
 若い男が苦笑いを浮かべて頭を掻く。
「うふふっ、頼みますよ、この狭いのに」
「我慢してよ、もー」
 ばぶりっ!
「もう、オレも釣られて出ちゃったぜ、あはは、あはは、あはははは!」
「やだ、お兄さんも? アッハッハッハ!」
「ワッハッハッハ!」

「――という事があるな、同志」
「うむ、あれはホッとする」
「つまり、今こそ好機」
「うむ。違いない」
 どぼーん。
「さあ、任務完了だ。さっさとウラジオストクに戻ってウォッカで洗い流そう」
「大賛成だ」
 海に沈んでいく無数のドラム缶を見届けた後、二人の士官は船室に入って行った。





TOP PAGE
ライブラリ
作品の著作権は作者にあります。無断の使用、転載を禁止します

QBOOKS
www.qbooks.jp/
info@qshobou.org