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第89回詩人バトル

エントリ作品作者文字数
1仮面蒼ノ下雷太郎380
2水無月の君西山海音※データ無
3アンサー月見里星維280
4ほら待子あかね389
5The Doors大覚アキラ1264
6きみの柔らかさについてトノモトショウ237
7死んだ魚の肌触り紫生330
8ぼくのすきな人葉月みか654
9知らない町で桜はるらん447
10眠っちまったら石川順一161
11エンドロールTsu-Yo527




 


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エントリ1  仮面    蒼ノ下雷太郎


仮面を被っていた

自分の素顔なんて知らない、僕も見たことがないから
僕は初めから、仮面を被っていたから

仮面を被っていた

君は僕の仮面を取ろうとした
僕の素顔を見せてほしいと、暖かい手で僕の仮面を取ろうとした

僕は怖かった

僕でさえも見たことがない素顔を、君に見せるのが怖かった
君に嫌われるのが怖かった

だから、仮面を被っていた

なのに、君は仮面を被っていなかった

みんな誰もが仮面を被っているのに、君だけは被っていなかった
みんな自分の素顔を見せるのを怖がっていたのに、君は怖がらなかった

それを君に言ったら、君は否定した
そしてこう言った、私は悲しい時にしか被らないだけと

仮面を被っていた

君は初めて僕の前で、仮面を被っていた
仮面の下からは、冷たい滴が落ちていた

だけど、君は笑顔の仮面を被っていた
そして、もう君は僕の仮面のことを言わなくなった

そんな君に僕は、ごめんねとしか言えなかった





エントリ2  水無月の君    西山海音


このたましいは空からきた
このからだは大地からきた
それはよく覚えている

空がどこからきたのか
大地がどこからきたのか
それは思いだせない

はじめにひとつの色があった
暗闇のなかにともる色

きみのひとみの色が
それに似ている気がして
追いかけてみたらちがう色だった
でもなつかしいのはなぜだろう

(137億光年の、ぼくたちが永遠とよぶもの。)

ひろすぎる世界と
ちいさすぎるぼくとをむすぶ
きみのひとみの色は
あたたかで
つめたくて
やわらかで
とがって

ああ、水の色に似ている
大地が大地であるその証に
とてもよく似ている
ぼくたちが恋とよぶものに

作者付記:雨は嫌いだ。でも、夏の雨は別だ。
初投稿です。お手柔らかに。m(--)m






エントリ3  アンサー    月見里星維


これから何があるのかな?

男の子がそれを聞いたとき
風は上を指さした
見上げた空はどこまでも
広くあおく澄んでいた

これから何があるんだろう?

少年がそれを聞いたとき
風はまた上を指さした
見上げた空は灰暗く
低くしろい雲ばかり

これから何が起こるだろう?

青年がそれを聞いたとき
風はやっぱり上を指さした
見上げた空は何もなく
くろい闇から冷たい雨が降った

これから何をすればいい?

男がそれを聞いたとき
風はどこも指さずに吹き抜けた
見上げた空はちっぽけで
四角く切り取られた空間だった

それから何年も何年も経って

もう何も聞かなくなった老人が
最期に見上げた空は輝いて

ただ静かに星月(ほしづき)があるだけだった


作者付記:テーマは、「“大人になる”につれて失われていくもの」について。

「大人になる」につれて失われていくものって、あると思うんです。例えば無邪気さだとか、信じる心だとか、ひたむきさだとか。「大人になる」につれて可能性は限られてって、固定観念に囚われて視野も狭くなって、やろうと思えば何でも出来るけど、自力でやんなきゃいけない。挫折も疲れもある。んで、年老いたらそれなりに視野も広くなる。動じなくなる。変わっていくものと、変わらないもの。だから、あんなふうにしてみました。

そんな感じ……実は男まではそんなに考えて書いてないけど、老人はちょっと苦労しました(笑)そんなわけで、今までの自分の作品たちとは、多少毛色が違うように仕上がったと思います。あ。ちょっとだけ、谷川俊太郎氏系統っぽい……かもしれないです。

引用ではないですが、この作品にはインスパイア元が存在しますので記しておきます。
タイトルもメーカーも対応OSも忘れたのですが、10年強前のPCゲームで「マリモ」を育てるゲームがありました。で、育ててるマリモにエサをやったり話しかけれたりするんですが、いくら話しかけても「マリモは何も答えません」という衝撃のアナウンスのみ。あまりに強烈なその台詞は様々な付加を伴って、10年越しで「アンサー」を生み出しました(笑)






エントリ4  ほら
    待子あかね


首に巻きついたものを外してよ
気持ち悪いから
気味が悪いから
首に巻きついたものを外してよ

空が地面で 地面が空にある
走る 走る 紅い自転車
走れ 走れ 紅い自転車
空が地面で 地面が空で

首に巻きついたものは ブランコ
公園のブランコがひとつ
また ひとつと巻きついている

そんなありもしないことを
そんなありもしない みえないことを
いつもみている いつもみている

そこにいる少女はだれですか
肩にのっている少女はだれですか
にっと こちらをみて ほほえみましたね
にっと ほほえみながら こちらに近づいてきましたよ

いつも 紅いすべり台の前に集まっている
少女が3人 階段にすわっていた少女と
ミカの肩にのっている少女と
ミカのベットにねむっている少女と

さかさまパラダイス さかさまパラダイス
みえないものばかりがみえるんだ
また ひとつ 巻き戻る

さかさまパラダイス さかさまパラダイス
あの日の海が今
右の耳で響いたよ





エントリ5  The Doors    大覚アキラ


扉がある、光がある、ギリシャ風の彫刻の陰で眠る娘の右手には剣
が握りしめられている、見ろ、開け放たれた窓の向こうに広がる暗
い森を、降りしきる雨を、ピアノ線のような銀色の雨を、雨がうる
さいので夜はなかなか明けない、真っ暗で、真っ白で、恐怖だ、恐
怖そのものだ、子犬の腹の中には虫が巣食い、虫の腹の中にはさら
に小さな虫が巣食い、その小さな虫の腹の中にはもっと小さな虫が
巣食う、種子は重力を感知する、あらかじめ決められている約束事、
呪い、契約、扉がある、決して開くことのない扉がある、孤独な者
は幸いである、希望を持たない者は幸いである、友よ、お前に知恵
があるならば今すぐにお前の友と訣別せよ、気が向けばそんなもの
は金でなんとかなる、お前に金があればの話だが、そう、お前の金
を守れ、それを奪い取ろうとする者から、親切そうな顔で近づいて
くる者を信じるな、傷ついた姿でお前に救いを求めてくる者を信じ
るな、唾を吐きかけろ、踏みにじれ、重い灰皿で殴ってやれ、タバ
コに火をつけろ、ゆっくりと煙を吸い込んで奴らの顔に吹きかけろ、
そう、成り上がりの億万長者の真似をして、いやらしい笑みを浮か
べて、太った腹を擦りながら、ワイングラス片手に株の話とゴルフ
の話を続けるんだ、お前の肝臓が悲鳴を上げるまで、お前の心臓が
停まる時まで、お前の成功は約束されている、お前の勝利は約束さ
れている、しかし油断するな、気を抜くな、父を欺け、母を裏切れ、
友を売れ、常に財布の中の金を数え続けろ、戸締りに気をつけろ、
扉がある、開いたままになっている扉がある、災いはそこからやっ
てくる、喉元を駆け上がってくる血の滾り、眼の裏側が熱くなって
いく、頭の芯が凍りついたように冷たくなっていく、殺意、暴力の
予感、震えているのは怖いからだろうか、そうじゃない、これから
始まる新しい欲望の形への期待、満たされていくワイングラス、ゆ
っくりと開かれていく太腿、舞台の上、スポットライト、踊り子は
いつも孤独だ、孤独なプロフェッショナルだ、踊るという行為は何
かの代替行為なのか、それとも祈りか、願いか、償いか、男たちの
遠慮のない視線に晒されて、踊り子の白い肌は紅潮していく、踊り
子の右手には剣が握りしめられている、見ろ、剣がミラーボールの
光を反射して光を放つ、2回短く光って、1回長く光って、少し間
を空けてごく短く3回光る、その繰り返しだ、2回短く光って、1
回長く光って、少し間を空けてごく短く3回光る、2回短く光って、
1回長く光って、少し間を空けてごく短く3回光る、退屈だ、退屈
で仕方がないお前はとりあえず席を立ってトイレに向かう、扉があ
る、開け放たれた扉がある、扉の向こうの個室で男が二人抱き合っ
ている、男たちの荒い息遣いがトイレの中に低く響いている、床に
は脱ぎ捨てられた靴下や下着が落ちている、便器という便器はこと
ごとく詰まっていて汚物が溢れている、お前は気分が悪くなって店
を出る、店の外は土砂降りで、ピアノ線のような銀色の雨で、真っ
暗で、真っ白で、恐怖だ、恐怖そのものだ、扉がある、扉がある。





エントリ6  きみの柔らかさについて    トノモトショウ


名無月は騒がしくて
ゆらゆれて煌めいて

汚物に色めくアスファルトにて
虹猫のザラついた舌先の角度で
謎めき逆巻く突風を読み返して
まるで継ぎ目のような路地裏で
きみの柔らかさについて
特別な解を見つけて

油断する関節は犇めき合って
予定調和の吐息は七月蝿くて
ギギと握り潰す感触は断続で
映画で観たようなスタイルで
きみの柔らかさを抱いて
ひとしきり泣いて

中点に淀む恥じらいを囁いて
危うげなバイヴレイションで
甘く匂い立つチョコレイトで
そんな試行錯誤を意味づけて
きみの柔らかさが愛しくて
迅速に愛し尽くて





エントリ7  死んだ魚の肌触り    紫生


夜は死んだ魚の肌触り
どんよりと冷えきった粘着質の海
波は太刀 潮騒は幽哭
寄せては返す
濃い
血の
やみ

いっそ揮発性の香りとなって
レモンのような香りとなって
この不憫な夜に溶けてしまえたら良いよ

言葉はいつだって
気持ちの速度に追いつけぬので
闇のすき間に吹きだまっては押し黙る
吹きだまってはうずくまる
さながら声を売り渡した泣きべそのマーメイド

言葉はいつだって
ココロという重力の奴隷で
闇の目玉のど真ん中 吸い込まれては行方知れず
吸い込まれては神隠し
まるで魂をかどわかされた不甲斐ないドロ人形

夜は死んだ魚の肌触り
しっとりと寒々しい鉛色の沼
風はメタン 葉音はトリル
盤踞し とぐろを巻く
深い
血の
やみ

いっそ揮発性の香りとなって
気違い水の香りとなって
このいびつな夜に燃えてしまえたら良いよ





エントリ8  ぼくのすきな人    葉月みか


ぼくのすきな人が死にました


ぼくは「ぼく」と言っているけれど女の子です
「好き」という字は女の子と書くからきらいです
ぼくのすきな人は男の子です
だから好きはヘンだとおもいます


ぼくのすきな人が死にました


ぼくのすきな人はまっしろいうたをつくる人でした
とてもきたないほんとうは
とてもきれいでいたいけど
逆ギレ気味のファルセットのむこうに
いつもまっしろに澄んだひかりが見えました


ぼくのすきな人が死にました


うたはのこりました
プレーヤーからは次の日が見えるうたが聞こえてきます
でもぼくはいやだ
いつまでたってもあのソロがひけなくてもいいよ
ときどき歌詞をかえてあそんでもいいよ
イントロでまちがえてはずかしそうに笑う顔が見たい
アウトロでくりかえしつぶやく祈りみたいなことばが聞きたい
全身全霊でたいこをたたくやさしい人と
びっくりするくらいベースの上手いしずかな人
あのふたりに支えられてうたうあなたがすき
プレーヤーからじゃなくすぐそこで鳴る音がすき
いまここにないあたらしい曲だってきっとすき
すきだよ


ぼくのすきな人が言いました

「鳴り終わらない音楽があなたに届きますように」


ぼくにはそれがまだよくわからないよ
あしたもギターをひいて
あさってもうたをうたって
いまは泣きながらせがみ続けてしまうよ
あなたの選ぶコードがすき
あなたのつむぐ言葉がすき
あなたの声がすき
あなたがすき
すき
すきなの


ぼくらの代わりはいくらでもいるってこと
ディレイをかけたギターで
いつもうたってくれたけど
あなたじゃないとうめられないものがあるんだよ


ぼくのすきな人 どうか死なないで。





エントリ9  知らない町で    桜はるらん



夕陽を浴びたサイクリングロードに
自転車を乗り捨てて地面に這いつくばる人
それを見て地面から跳ね起きる
メタリックなアンドロイドの影が長く伸びる

ライオンとキリンが
仲良く草原で遊んでいる
無邪気にカンガルーに
エサを与える子供のそばで

イルカに頭を食べさせる外人
ひまわりに咲いた犬
ペットボトルの光が眩しい子猫
夕べ帰らなかった幸せの青い鳥

お湯を捨てるのに失敗して
食べ損ね流しに投げ出された
インスタントのカップ焼きそば
引越しそばの出前を頼む気にはなれない

新幹線のホームのベンチで
眠り込んでいるネクタイのおじさん
「本日の新幹線は終了しました」
のテロップが頭の上で流れている

パソコンのタスクマネージャーに
入っている家族全部の名前
パソコンにこぼれている
トーストの散らばった粉

二階の窓から遠くに見えるキャンパスの時計台
プラチナを散りばめたアスファルトの朝の輝き
新聞配達のバイクが窓の下で止まる音
ポストに名前はまだ書いていない

僕の朝はきっと
いま始まったばかり
この町にどんな人がいるのか
これから誰に会うのか僕はまだ知らない







エントリ10  眠っちまったら    石川順一


眠っちまったその後に
遅れた朝のフレンチトースト
眠っちまったその後に
遅れた昼のお好み焼き
眠っちまったその後に
昼食とって図書館へ
眠っちまったその後は
歩くほかにはすべも無く
眠っちまったその後で
手話の録画に遅れとり
眠っちまったその後が
シミュラークルで大笑い
眠っちまった後遺症
一巻返す事忘れ
眠っちまったか今日もまた
歌謡曲でも口ずさむ

作者付記: 中原中也ではありません。途中から少し意識しましたが。これでは全くねえ。でもまた日記みたいな詩になってしまった。





エントリ11  エンドロール    Tsu-Yo



ぐるぐる果てしないエンドロールの中に
僕の名前がながれてきて
そんなことには誰も気が付かなくて
誰かが気付いたとしても
次の瞬間には忘れてしまうけど
僕はせめて
最後に登場するこの世界の監督を見届けたい
たとえそれが、昨日池袋の路上で
ゲェゲェやっていたオッサンでも
僕は後悔しない


世界の歴史ではいつだって
大きな驚きの後には
否定出来ない絶望が待っていたじゃないか
コンプレックス ショウ
二十世紀の大戦に巻き込まれなかったことを
感謝している
僕はあまり勇敢な人間ではないから


朝刊を読むよ
少しずつずれているんだと思う
一気にじゃない
食器棚から皿が一枚一枚落ちていって
飛行機が飛び墜落し
その度に何かが壊れていく
少しずつ
地球は相変わらず
ワルツのリズムで回っているが
僕等はひどく音感が悪くて
嘘の有閑


銀河にはまだ余裕がある
宇宙の隅の惑星に
ポカンと空間が寝そべっていて
何よりも堅い自分がそこにはある
感情は信じていないが
感覚は信じている
誰かの感性の気まぐれで回る
完成しない映画のラストシーンで
迷子になることの虚しさが世界


ぐるぐると回り続けるエンドロール
例えば神様と戦争と悲しみの映画
摂氏八度のスクリーンに映る僕は
いつでもひどい大根役者で
何一つ嘆く暇を持たず
ただぐるぐると
最後一つの点となるまで