エントリ1
コーヒーカップ 駄々
もう長い間使っていた
コーヒーカップが
割れた
こんなに愛した人が他にいただろうか
エントリ2
再会 Tsu-Yo
千年、万年、億年なんて時を経るまでもなく
わずか十数年足らずの間に
僕らはもうその構造からして
まったく違う生き物になってしまったのだろう
進化でも退化でもない変化を繰り返し
誰かとの分かりあえないものばかり数えることで
自分自身を構築してきた気がする
下世話な香りが漂う東新宿のラブホテルで
あなたとふたりベッドに潜りこむ
わずかに伸びた爪をその背中にたてて
薄皮一枚剥いでみれば変体途上のあなたが溢れ出す
エントリ3
奴隷 大覚アキラ
夏という季節は
ひとつの国のようなものだ
無慈悲な王が支配する灼熱の国だ
蝉の声が轟きはじめると
おまえたちはまるで
夏という国に力ずくで連れて来られた
哀れな奴隷のようになる
うなだれて
顎の先から汗を滴らせ
茹だるような熱気の中を歩け
老いぼれの野良犬のように
亡者のように
来る日も来る日も
叩きつける太陽から逃れるようにして
日陰と日陰の間を
息を止めて這いまわれ
やがて
夕暮れに涼しい風が吹くようになると
おまえたちは
夏という国から
帰ってきたような錯覚に陥るだろう
そして
あんなに苦しかった日々を
おまえたちは懐かしんだりもする
黒く焼かれた肌を眺めて
夏という国の思い出に浸ったりもする
結局
おまえたちは誰もが夏の奴隷なのだ
あの灼熱の太陽に焼かれて
真っ白な灰になってしまいたいと
心の奥底では願っている
愚かな奴隷なのだ
奴隷どもよ
夏はこれからだ
塩辛い血の汗を流しながら
歓喜の悲鳴を上げろ
王にその叫びが届くまで
エントリ4
山 石川順一
活用語尾が飛び立った
太い綱で鞭打たれる様な
春の飛び立ち
夏の飛び立ち
えらの苦しみ
首の直ぐ下あたりに
荒地が忍びよって来る
夜の衝撃は
寝入る前に来て
社団法人〜協会が
消去して行く
似て居ない顔立ち
YAH YAH YAH を歌って居る
エントリ5
It's mourning 凛々椿
小さな町が海に飲まれた日
とても嬉しかったわ
だって数年前 あの町の若者たちは
女を車に閉じ込めて何日も連れ回したのだもの
有り金を奪い
空腹を精液で補わせて
あの中の一人ぐらい死んだのかしら
復興を祈ります なんて
まるで嫌み
ね
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