第10回高校生1000字小説バトル
Entry2

熱っ!

作者 : 秋
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文字数 : 768
 ――ピッ。
「外」から聞こえてきた電子音に、彼は体を震わせた。
 ついにこの時が来てしまったのだ――
 闇の中でそうつぶやいた。誰にも聞こえないことはわかっていた
が、つぶやいた。それが、彼がこの世界を生きたという証になると
信じて。
 彼は怯えていた。この暗闇の先にある光に。なぜならその光は、
彼の生に終わりを告げるものだから。
 ここに閉じ込められてから、はたしてどのくらいの時間が経った
のであろうか。一秒、一分、一時間、一日、一週間? 完全に光を
奪われた彼には、それを知るすべはない。だが、もう時間など関係
なかった。もう彼は、買われてしまったのだから。

 せめて――
 祈る。
 せめて、固めが好きな人でありますように――

 しばらくのち、彼は熱の横に置かれていた。そして彼は、この熱
が自分に入ってくるということを知っていた。そしてそれは、彼が
もっとも恐れていたことであった。
 外から「びりっ」、という音が聞こえる。
 ああ、そろそろだな――
 悟る。そして、覚悟を決める。
「びっ」、と、先程とは違った、少し湿った感じの音が響いた。運
命の扉が開かれたのである。
 彼は久しぶり――少なくとも彼にはそう感じられた――に光と出
会った。目の前に、「世界」が広がる。ワンルームのアパートらし
い。目の前にポットが置いてあ る。そして横には小汚い男。
 こんな男に。そう思うが、しかたのないことである。この姿で生
まれてきた時から、運命は定まっていたのだ。もはや何も言うまい。
彼は運命を甘受した。
 次の瞬間。彼は頭から熱湯をかぶった。
 ――……っ!
 声にならない叫び。体中を灼熱の炎が走りまわる。
 扉が閉められ、呼吸が出来なくなる。長ければ、三分間の地獄…
…
 そう思った瞬間、彼は意識を失った。
 そして、二度と目覚めることはなかった――

 追記:男はやわらかめが好きだった。 






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