第10回高校生1000字小説バトル
Entry4

空へ

作者 : Began
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文字数 : 999
俺の父は英雄だった。
子供の頃その話を祖母から聞き、それ以来毎年父の墓参りを欠か
していない。
父は、俺がまだ卵の中にいる時に死んだそうだ。

地上に住むために肉食恐竜を倒そう、父の誘いに、他のプテラノ
ドンは皆曖昧な態度を示した。その頃から強風の日が多くなり、
確かに空は住みにくかったが、大きな翼を持っての地上生活も困
難に思えたのだ。
父は大きな石を口でくわえ、たった一匹で飛び出した。重い石を
持っているのにも関わらず、すいすい飛んでいった。ある所でぐ
んぐん高度を上げて、急に翼を畳み、落ちた。その先には一匹の
ティラノサウルスがいた。
次の瞬間には石が頭にのめり込んだティラノが、倒れていた。す
でに父は空にいた。
見ていた同輩達が、口々に石をくわえ始めた
その時、
空から「赤い拳」が降った。父を影に隠し、一瞬で落ちた。空の
翼も無い。
目で追うと黒く焦げた大岩がひびもなく地にはまっている。すぐ
前まで燃えていたらしいその大岩の表面からは白い煙が出ていた。
「天罰だ」話し終えた祖母は力無く呟いた。


空から降った大岩が、そのまま父の墓となった。威圧感は十分だ。
生まれた時、俺は崖上にいた。そして、今も。何故か。それは俺
達が地上に住んではならないからであろう。天罰と祖母が言った
気持ち、今の俺にはよくわかる。
ぴくんと、空が割れる様な音を、耳が拾った。天を仰ぐと、何か
が落ちてくる。直感で「赤い拳」と理解した。
瞬間、俺は墓に尾を向け逃げていた。墓は重くて運べぬと割り切
った。
気ばかり焦って風をうまく探せない。無駄に翼を打つ。打つ打つ
打つ。
父の翼が俺のものだったら!
急に後ろから強い風に押される。どうやら拳が地を叩く音を聞き
逃したらしい。その風で随分飛ばされたようで、次に叩く音が聞
こえた時、風はほとんど伝わってこなかった。
ピンと翼を開き、振り返った。次々と飛来する拳が父の墓を力任
せに殴りつけている。土煙がもうもうと膨らんでいく。ほの赤く
見える物体が、その中に緩やかに流れ込む。拳の群は、とても美
しく、今まさに生まれんとする卵に命が吹き込まれている、そん
な光景をも思わせた。父の墓を壊しているというのに、何故か優
しく包み込むように見……
──いや、そうなのかもしれない。空は父を許したのだろう。墓
場という一点に身を縛られる所から、際限のない自由な空へ、父
を帰したのだ。「空の王者」の名の下へ。
ただ眺め続けた。
俺は翼を持って空にいた。 






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