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第2回高校生1000字小説バトル
Entry6

作者 : SO-SUKE[そすけ]
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文字数 : 991
 僕にはつき合っている人がいた。
 いた、と言うからには過去形で、つまりはそういうことだ。
 彼女の名前は椎名唯と言う。
 告白したのは僕で、別れを言い渡したのも僕だった。
 別れた理由は些細なことだった。喧嘩したのは覚えているが原因
は思い出せない。今思えばあの醜い言い争いの疲れが、僕に別れて
もいいと思わせたのだった。
 僕の唯への想いが本物だったのか、今ではよく解らない。

 唯と別れてから、一週間ほど経ったある日。僕らのクラスは、来
週に迫った体育祭でやるダンスの練習を運動場でしていた。
 空は既に朱に染まっている。
 練習自体は暗くなるまで続くだろうが、僕らはそのとき休憩中だ
った。僕は座って、友達と喋っていた。
 だが、そうしているうちにも、僕の眼は習慣となったその行動を
無意識のうちに実行していた。
 僕の眼は片思い時代から、暇さえあれば唯の姿を探していた。い
つも見ていた。もう関係がないはずの今でも、眼は無意識のうちに
唯を追っかけている。
 レーダーのようにあたりを見渡し、目的の人物を見つける。
 いた! 唯だ。
 自分でも馬鹿だなと思ったときだ。ふと、唯と眼があった。
 彼女はすぅ、と薄く微笑んだ。とてもキレイだった。
 瞬間――僕の瞳から熱いものがこぼれる。
「お、おい?」
 驚いた友達の声がする。無理もない。
 何で……いったい何で泣いているんだ僕は?
 ――はやく、涙を止めなきゃ。
 だけど止まらない。
 視界の真ん中で唯の姿がぼやけてゆく。思考の奥の奥がちりちり
と痛んだ。
 どれだけ唯のことが好きだったのか。自分にとって彼女がどれだ
け大切な人だったのか――全て思い出してゆく。
 全部好きだった。
 何故ああも簡単に別れることができたのだろう。何故あのとき涙
がでなかったのだろう。何故今頃僕は泣くのだろう。
 様々な疑問と想いが、頭の中で渦巻いてゆく。
「近すぎて見えないこともある。
 離れてから解ることもある」
 頭の中の冷静な部分がそう言っている。
 僕は彼女が本当に好きだったのだ……
 涙は止まらなかった。視界はぼやけたままだった。唯はどこだ?
 誰も見えない。誰もいない。僕は独りだった。






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