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第5回高校生1000字小説バトル
Entry11

ヒョウタン池より 愛をこめて

作者 : KAZU
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文字数 : 992
 涼しい夜風が僕を吹き抜け、公園の木々を軽く揺らした。
 肩にかけた愛用のフォークギターをジャンと荒く鳴らしてみる。
森のざわめきに混じって、音色は長く長く響いた。
 まだ七瀬は来ない。
 午前零時まであと10分。いつもなら七瀬が真夜中の散歩がてら
ギターを聞きに来てくれる時間なのに……。
 せっかく練りに練ったこの作戦も、七瀬が来てくれなけりゃ全部
おじゃんだ。
 僕はベンチに腰を下ろして、ヒョウタン池に映る満月をぼんやり
眺めた。
 今日に限って来ない? まさか……。

 「まだ弾いてないの?」
 振り向くと、濡れた髪を背中まで垂らした七瀬が笑っていた。
 風呂上がりなのだろうか。ちょっぴり汗ばんだ感じの七瀬は月明
かりの下ではやたら色っぽく見える。肩のあたりとか……。
 「コラ、何赤くなってんのよ! はい、これ差し入れね」
 七瀬は二本の清涼飲料の缶の一本を僕に渡すと、僕の隣に腰掛け
て自分も缶を開けた。石鹸のにおいがふわりと鼻をくすぐる。
 僕は慌てて中身を飲みほしたが、味はさっぱり分からなかった。

 あと3分。高鳴る胸を押さえて、作戦開始。
 「俺、昨日さ、新しいの一曲作ったんだ」
 おし、さりげなく決まった。
 「へー、新曲? じゃあ聞かせてよ」
 僕はおもむろにベンチから立ち上がり、七瀬の前で芝居風に深々
とお辞儀をしてみせた。
 「その前にクイズにお答え下さい」あと1分。
 「問題、明日は何の日でしょうか?」
 「何、それ?」
 「いいからいいから」
 「んー、甲子園開幕?」
 「ハズレ! もっと大切な日です」 30秒。
 「大切な日ね…。その曲と何か関係ある日なの?」
 「大ありです。七瀬に関係ある日だよ」 10秒。
 「あたしに? あ〜、何かあったような……」
 突然、腕時計のアラームが鳴った。続いてクラッカーの音が公園
に響く。午前零時。明日が今日になった。
 「七瀬、誕生日おめでとう!」
 あっけにとられる七瀬の顔。僕は隠しておいたクラッカーをポケ
ットに戻しながら言った。
 「今日は七瀬の誕生日でしょ、ダメだよ忘れちゃ」
 七瀬の瞳の色が驚きから喜びに変わる。作戦成功!
 僕はもう一回深々とお辞儀をした。
 「ギターだけの俺だけど、この新曲、七瀬に贈ります」
 やっぱし七瀬の笑顔が一番! 僕は大きく深呼吸してギターを構
えた。
 「じゃあ、今日の一曲目!」
 流れ星が一つ、ヒョウタン池に映った。






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