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第9回高校生1000字小説バトル全作品・結果一覧


#題名作者文字数
1なごり雪 彩霞 980
22月14日 AOI 1000
3自転車 Ruima 989
4睡夢〔スイム〕麻井カオル 998
5落花生四方 乃佐 593
6錆ゆくその生Began 988

第9回高校生1000字小説バトル
Entry1

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なごり雪

作者 : 彩霞
Website :
文字数 : 980
 雪だ。
 私は窓から手を差し伸べて、ひらりと落ちてきた粉雪に触れる。
「ママ、雪」
 ふと呟くと、そうね、と興味無さげな答えが返ってくる。私は雪
が手の上で溶けるやいなや、コートを着て外へ飛び出す。
「ちょっと、どこ行くの?」
「学校」
 …もう一年前から学校へ行っていない私。ドアをばたんと閉めて
言った言葉は、もちろん嘘。
 空は妙に薄明るく、きんと澄んでいる。ため息が凍りそうなほど
冷たく、三月にしては寒い。赤いコートをわずかに白くする雪を見
て、積もるかな、と期待した。
 私はここからはかすかにしか見えないあのマンションに向かうと
ころ。

 
 屋上からの風景は、邪魔なものが全部見えないから好きだ。
 このまま雪が積もって、灰色の空もビルも全部真っ白に消してし
まえばいいだとか馬鹿なことを考えながら、私は目をつぶってコン
クリートの床にあおむけになる。
 体に雪が降り積もっていくのがはっきりと分かる。
「このまま雪に埋もれていったらキレイだと思う?」
 聞いてみた。
「…馬鹿」
 苦笑気味の聞き慣れた声がして、思わず私も笑う。裕だ。
「おはよう」
「ん。おはよう」
 私は目も開けずにそのまま返事をした。
「何やってんの?」
「…死体ごっこ。」
 笑いながら聞いてきた裕にふざけて返すと、少し怒った声をされ
た。
「馬鹿」
 笑う私を無視して、裕がばさばさと私に積もった雪を払う。雪の
冷たさを感じなくなって、私は裕が傘をさしているのだと気付いた。
「裕、こんな話知ってる?
 その年最後の雪の日にはねぇ、いなくなったコイビトが帰ってく
るんだよ」
「何それ?初耳」
「信じないなら良いけどね」
 目をつぶったまま微笑むと、冷たい手で軽く頭を叩かれた。
「…そういえばお前、学校行ってんの?」
「秘密」
「あのな…まあ、お前がそれなら良いけど」
 言葉と一緒に私の好きな骨ばった手がすっと離れて、淋しくなる。
「俺、もうそろそろ戻る。風邪引くなよ」
「うん」
 手が、声が、裕が遠ざかる。
 そのスピードが速すぎる。
「じゃあな」
 …『待って』なんて馬鹿な事は言わないでおこう。
「またね」
 最後まで残っていた足音も、雪にまぎれて消えてしまった。

 涙のあとがうっすらと凍ったらしい。ようやく目を開けると、そ
こには黒い傘だけが残されていた。
 私は傘を差して、空を見上げて微笑む。
 来年もまたいなくなったコイビトが帰ってきてくれますように。

第9回高校生1000字小説バトル
Entry2

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2月14日

作者 : AOI
Website :
文字数 : 1000
 橋立拓巳。二月十四日に僕はこの名で生を授かった。
しかし、生まれてこのかたチョコレートなど貰った事が無い。
それどころか、母には誕生日プレゼントと一緒にされるのである。
いい迷惑だ。

 そして、十八年目の今日がやって来た。
いつもの通学路。学校の校門の所でつまずいた。何か他人の赤い糸
に引っ掛かったみたいで気分が悪い。
少し立て付けの悪い教室の扉を開けると、男どもがやって来た。
元来、何故か男にはもてる。その為、友人には事欠かなかった。
「拓巳、昨日のテレビ見た?」
こいつらには、クリスマスも正月もバレンタインも関係無いんだろ
うと真面目にそう思った。
「拓巳、聞いてる?」
はぁ……。

 ――チャイムが終礼を告げると、一斉に人の波が外へ流れて行く。
がらんとした教室を、今年も零個か…と考えながら出て行った。
「よっ、拓巳」
そこには、悪友の翔太が立っていた。
「なんだよ…」
力無く答えると、翔太は待ってましたとばかりにバレンタインの話
題を持って来た。
「今年も十個貰っちゃた。お前は?」
わざと聞いているのは分かっていたので、一瞥して歩き出した。
何故だか翔太は女にもてる。ただのお調子者なのだが…。
「わりぃわりぃ。許してくれよ」
追い着いて来た翔太は、磊落な笑顔でそう言った。
この笑顔の前では何故か許さざるをおえないのである。女にもてる
のは、この笑顔のお陰かも知れない。
「はいはい」
僕は軽く聞き流すようにそう言うと、靴箱の扉を開けた。
すると、白い封筒が天使の羽根の如く舞い下りた。
小柄な分、素早い翔太がそれを拾い上げると、声を出して読み出し
た。
「えーと、午後六時に体育館裏で待ってます。だと」
「うそつけ」
奪い返した紙には確かにそう書いてあった。
「頑張れよ」
そう言い、肩を叩いた翔太は確かに格好良かった。

 だいぶ日の長くなった空を背に、渡り廊下をゆっくり体育館に向
った。
汗ばむ手を握り締め、体育館の角を曲がる。
居た。ロングヘアーの小柄な女の子。
肩は小刻みに震えている。
声を掛けるか戸惑ったが、勇気を振り絞り喋りかけた。
「あの」
肩が一瞬ビクッとなったが、すぐにこちらを振り向いた。
そこに居たのは、口紅を口裂け女の様に塗った……翔太だった。
そして、僕の肩を叩きながら磊落な笑顔でこう言った。
「ハッピーバースデー!」
頭の中が真っ白な僕に対し、もう一言付け加えた。
「私、奇麗?」
僕は無性にやるせなくて、こう叫ぶしかなかった。
「あほーーー!」

第9回高校生1000字小説バトル
Entry3

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自転車

作者 : Ruima
Website :
文字数 : 989
 私の愛車は少し古い赤の自転車。間違えてもマウンテンバイクな
んかじゃない、いわゆるママチャリ。
 そのペダルに左足をかけ、サドルをぎゅっと握る。それから右足
で思いっきり地面を蹴る。それが、スタート。
 風を切って私は走る、走る、走る。視界を流れる家と緑の中、ぐ
んぐんと。速く、速く、誰よりも速く!

 電車のない辺鄙な田舎町。滅多に車の通らない広くまっすぐな一
本道を、自転車で走っていると、妙に心強く爽快な気分。
 前方に、青い自転車に乗った同い年くらいの男の後ろ姿。我なが
ら趣味悪いとは思うけど、人を抜かすのは嫌いじゃない。ペダルを
こぐ速度を少しだけ上げる。男の姿が近づき、それから後ろへ。さ
さやかな優越感、快感。私はますます高揚した気分で塾までの道を
走る。

 ……と、いつもはこうなるはずだった。ところが私が抜いてすぐ、
抜いたばかりの男がスピードを上げ、横に並んできた。ちょっとむ
っとしてそっちを見ると、勝気な笑顔。いいわよ、勝負してやろう
じゃない。
 私は強くペダルを踏み込んだ。私が加速すると彼も加速する。彼
が加速すれば、私も加速する。燃え上がる対抗心。私達は夕暮れの
田舎道を、猛烈な勢いで走った。

 お互い真剣に、前を見据えて。絶対に速度は落とせなかった。
 けれどそれでも微妙に遅れそうになり、私は自分の籠に入ってい
たリュックを彼の籠の中に投げ入れた。驚く彼。お互い少しだけス
ピードが落ちる。初めて聞く声。初めての会話。
「何するんだよ、ずるいぞ!」
「いいじゃないの。男女の差があるんだもの。ハンデよ」
 私が実はかなり疲れてきたのに対し、彼はまだまだ余裕って顔だ
ったから。ちょっとずるかったかな、と思いつつも、私は軽くなっ
た自転車で再び彼の横に並んだ。
 そういえば、曲がるべき道はいつの間にかとっくに過ぎている。
しまった、と思うがここで止まるのも癪だ。ちらりと横を見ると、
彼のクリアケースの中に私と同じ予備校のテキスト。なんだか嬉し
くておかしくて。
「ねえ、あなた、18になったら車の免許、取る気ある?」
「あるけど、友達が取るなって」
「私も!」
 風の中、私達は笑った。口をぽかんと開けたおばさん達が、視界
に入ったかと思うと一瞬で後ろへ。止まる気なんかさらさらない。
このまま全速力で、力尽きるまで走ってやる。

 もう誰にも止められない。自分にだって止められない。
 だって私はスピード狂だから。

第9回高校生1000字小説バトル
Entry4

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睡夢〔スイム〕

作者 : 麻井カオル
Website : 金曜日の子供
文字数 : 998
 春になったなと感じるのは周囲に花粉症の人が目立つようになっ
たからではなく、暖かい今日のような日、小春日和と云うのだろう
か、そんな時に空気の波立ちを感じるから。自転車で空を切ると耳
元で透明な渦が巻く。向かってくる微風は僕の皮膚には風として認
識されず、まるで体温と同温の水の中を泳いでいるようだった。風
景を後ろに押し遣りながら僕は何処かを目指す。ペダルを扱ぐ脚は
もう疲れの峠を越していた。
 身体は脚を動かすことだけを命令されて、僕の思考はそれに逆ら
うことは出来ない。そうぢゃなくても道を、道を、道を、何時の間
にかただ前に進むことしか考えないようになっていた。真っ直ぐに
延びる道は果ても無くこのまま僕を永遠の國へ誘う。見えない案内
役はしかし確実に先に立って僕を連れて行く。
 道は切り崩した崖の中に在り、右側は下に向かって落ちる地面が
目も眩むような急勾配を見せて、左には斜め上に向かって切り立っ
た崖、その上に生い茂る植林が覆い被さる勢いで僕を威圧する。酷
い坂道だった。ペダルが段々重くなる。肺の負担が通常以上になっ
て呼吸が激しくなる。肺に吸い込む空気も温度は同じで、酸素を補
給した気分には全くなれなかった。依然として苦しい内臓を抱えた
ままペダルを廻す。

 僕は何故こんな場処を走るのだろう。一体何を求めて……。

 突然、左手の崖の壁が消え失せて、視界が開ける。斜光が眸に突
き刺す。眩しい、けれど脚を止める訳にも行かず走り続ける。鼻腔
に微かに感じていた案内役の香が強くなる。

 梅だ。

 光に慣れて来た眸に映ったものは、見事に咲き誇った紅梅と白梅
だった。それぞれ一本ずつ隣り合って、拓けた丘の中心に枝を泳が
せている。僕は碧空を背景に臨み、自転車を捨て引き寄せられるよ
うに梅たちの間に立つ。左右を紅梅と白梅に抱えられて、身動きが
取れない。梅香が強く周りを囲み、僕はそのあまりにも強い香の所
為も有ってその場に立ち竦んでしまった。肺を圧迫する梅香に思わ
ず噎せる。
「う……けほッ……、」
 思わず倒れ込み胸の中に溜まった瘍りを吐き出すように大袈裟に
咳き込む。吐いた分量だけ更に濃い梅香を吸い込んで、身体の隅々
まで紅白梅に侵された気分になった。

 ……宙に舞い散る花弁が無風のくせにしてひらひらと、地面に横
たわる僕の身体を覆い隠そうと落ちて来る。紅と白の花弁が入り乱
れ斑に幕を引く。
 梅香に酔った僕は、今、碧空を抱いて微睡む。

第9回高校生1000字小説バトル
Entry5

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落花生

作者 : 四方 乃佐
Website :
文字数 : 593
三月のはじめに、落花生を拾いました。ほんの小粒で少しも香りは
しません。ポケットの中に入れてたたいても増えたりはしませんで
した。
三日たち茶色に変色してきたので少しの間手の中で転がしたりこす
ったりしてから割りました。からの中の片方は茶色の皮につつまれ
た小さな種。もう片方には小さい、やはり小粒の妖精がいました。
私がじっとみてると妖精もじっとみつめかえしてきました。
「なにが望み?それにしてもこういう訊き方って紋切型よね」
妖精はねむそうに、モーニングコールで起こしてくれたホテルマン
にお礼をいうかのように言いました。
「そこにいて辛くなかったかい?」
「少し退屈だけど、とても静かにおだやかにすごせたわ」
妖精は首をかしげ、けど少しも考えた様子はなくそう答えました。
私はもう一つの種をとりだし、ポケットにしまいました。
「ここは、あいてるかい?」
「どうぞ」

落花生の中も悪くはないものです。一日の半分は妖精とおしゃべり
をします。好きな色について、夕方の雑木林について、指の先の傷
について。話し疲れたら空想にふけるか、丸くなって種のように眠
ります。
そして私はこのまま落花生と同じように花になるのを待ちません。
はたして花になるのを待つ球根は幸せなのでしょうか? 私は花に
なって美しく咲く自信がありません。だから私は花になって枯れる
より、種でいることを選びます。ポケットにいれた種ももう、食べ
てしまいました。

第9回高校生1000字小説バトル
Entry6

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錆ゆくその生

作者 : Began
Website :
文字数 : 988
 「イヌ」が鳴く。
 Drは振り向きもしない。
 Drは「イヌ」に象徴される、現代の科学者達が嫌いだ。若い科
学者連中は知りもしない歴史を盾に、思考力を持つ「ロボット」を
恥と見なす。
 考えるロボットの存在が、人類にどれ程の恐怖を与えたか、それ
はDrも認めざるを得ない歴史だ。だがしかし……

 今から約二百年前、俗に言う"ハルマゲドン計画"戦争があった。
その時の恐怖の大王が思考型ロボットである。
 事件の発端は、ある新興宗教が造り出したロボットだ。リーダー
たる素質、カリスマ性、それに相応しい力、全てを有して誕生した
そのロボットに、世界中のロボットが従った。
 ロボットは団結する事を知り、そこから生まれる強さを覚えた。
強さはプライドとなり、独立への力となった。
 殺傷能力のあるロボットは人間を殺し、他のロボットは聖地へと
集まった。計り知れないその大軍。
 その時、大国の首脳達がうち立てたのがハルマゲドン計画である。
 彼らはコンピューターネットワーク上に嘘の情報を流した。曰く「宇
宙から巨大飛行物体接近」。ネットワークを誠と見なすその時代、人
間もロボットも全てそれを信じた。
 人類が大混乱する一方、ロボットは冷静に処理した。戦闘ロボッ
トは巨大物体を迎撃に、それ以外は宇宙へと旅立った。
 あっけない終焉だった。ロボット達は宇宙で燃料が尽きた。
 ロボットとは言え、その住処は地球しかない。かつて人間がした
過ちを、ロボットは死をもって知らされたのだった。

 人類は深く悔い、思考ロボットを禁止する条約を発効した。

「だがしかし、タイムマシンの完成は、思考ロボットなしではあり
得ないんだ」
 どんな高性能なマシンでも、人間が操縦する限り、微少でも誤差
を生ずる。過去から戻ってくる際、何万分の一でもずれれば、それ
は現在ではない。一方通行の旅となり、帰ってこれないのだ。
 だからこそ、時間移動の危険を十分に知りながら、しかしその
迷いは持たない、正確な思考ロボットが必要なのだ。
 Drがタイムマシンを作る目的は、人類の成長を止めるに至った、
あの条約を消し去ること。
 しかしそれには思考ロボットが必要だ。
 悲しくも強固な連鎖である。
──反省とは、未来の責任を負うことでもある。見栄や気分で決め
ていいものではない。
 Drが椅子から立ち上がる。その音を敏感に聞き取ったイヌはヤ
サシク鳴いて近寄り、ヌクミを発したその尾を振った。

バトル結果

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第9回投稿受付2月25日〜3月25日迄
作品発表4月1日〜
感想票受付4月1日〜4月25日迄
結果発表5月1日(予定)



第9回高校生1000字バトルは、

『なごり雪』彩霞さん作
『2月14日』AOIさん作
『自転車』Ruimaさん作


の三作が同着チャンピオンに決定しました。
彩霞さん、AOIさん、Ruimaさん、おめでとうございます。
票を得られた人、得られなかった人、次回も頑張りましょう。



作品
なごり雪(彩霞)2
2月14日(AOI)2
自転車(Ruima)2


なごり雪(彩霞)

2月14日(AOI)

自転車(Ruima)







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