←前 次→

第21回中高生1000字小説バトル Entry5

今とギター

 その日、ギターの弦が切れた。ついでに僕もきれてしまった。
 大分ガタが来ていたので、いつかは切れると思ってたけど…。ただギターを弾いていただけなのに。流行りの歌を歌おうと、そう思っただけなのに。すべてに拒絶されてしまったような絶望感が自分の物になった。そして僕はがむしゃらに夜へと飛び出して行く。
 しばらく歩く。こうるさい繁華街は、色んな人間がごったになっているところだ。キレイなお姉ちゃんにウインクしたら、うまくできなくて両目ともつむってしまった。まったく、おもしろくない。
 さえない僕はまだ歩く。流行りのリストウォッチが呼んでいる。フラフラと不安定な僕の足取り。
 いくらですか。
 二万五千円(税抜き)です。
 時計を買った。
 顔を上げれば看板に微笑むアイドルと目があった。そのアイドルの新発売のCD、ついつい手に取った。
 そのまま買った。
 同じようにしてスニーカーも雑誌もジーンズも健康食品もダイエットマシーンもシャープペンも買った。
 相変わらずフラフラな僕。空の向こうが白けてきている。そろそろ帰らないと。帰らないと。
 両腕が重い。
 気がついたらいっぱい「今」を抱えていた。ひとつひとつが、全部流行りものだ。なぜこんなに買ってしまったのだろう? 無意味な最先端達よ、お前らは僕を絶望から救えるのか否か。
 でも今は早く帰りたい。こんな問答してるヒマはないんだから、歩け自分。
 己を叱咤しつつ足をすすめる。カメとカバの合体以上にのろい足取り。あまりに多すぎる物をのせ、痺れる二の腕。半泣きの僕。
 ただいま。ただいま。ただいま。何度も繰り替えした。腕の中の物をすべて床に落とし、僕はベッドへとダイブする。勢いのつき過ぎにより、壁に頭を強打した。本当に、もう、バカだなあー。
 涙が出て来た。そして。
 ぼんやりした視界のすみっこに見なれたボディー。切れっぱなしの弦。僕の、古いギターがそこにいた。
 僕は弾いた。泣きながら、流行りの歌じゃなくて適当に音を弾き出した。お前はいつも変わらないままで僕を待っていてくれるんだね。足りない弦も気にせずに、ひたすら弾いた。
 長い間のあと、僕は出かけた。不思議な鎮静と見えている目的を持って、真昼の光へ。

←前 次→