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第23回中高生1000字小説バトル Entry1

ザ・ゴースト

 ヒデキは今、山間の心霊スポットに来ていた。
 心霊スポットといえば夜ということで、ヒデキは夜の帳が降りた竹薮を、カメラを携えて歩いていた。
 その後ろから不安げについてくるのは、友達のリサである。
「ヒデキ、もう帰ろうよ」
「だめだめ。何かフィルムに収めてかないと、来た意味がない」
 ヒデキは振り返り、リサを見据えて言った。
 ヒデキとリサはサークルの友達で、今日はヒデキの独断で若い女の霊が出るという竹薮に来ていた。
 ヒデキはやる気まんまんだが、リサは乗り気で無い様子。
「どうして、カメラ持ってるの?」
「霊ってよくカメラに映るだろ。決定的瞬間を撮影し損ねないようにな」
 と、ヒデキは買ったばかりのインスタントカメラであちこちを見回した。
「確かに、そういうのには私達は体を具現化させやすいけどさ…」
「え? 何か言った?」
「なんにも。それよりも、やっぱり帰ったほうがいいよ」
「わかったよ。例の若い女の霊は出そうもないし、帰るとするか」
 ようやく飽きてきたヒデキは、溜め息をついて来た道を戻りだした。
 リサもその後についていった。
 竹薮の林野を下って、車を止めてあった林道に出た時、ヒデキはあれっ? と思った。車に寄りかかっているのは、リサだった。
「あ、ヒデキ。やっと戻って来た」
「あれ? リサ、おまえ、ずっと俺の後ろにいなかったか?」
 リサは不思議そうな顔をした。
「何言ってんの? 私は、ずっとここで待ってたんだよ」
「…そ、そんな馬鹿な」
 じゃあ俺についてきた女は誰だったんだ?
 おいおい、まさかあの女が例の幽霊…?
 そこまで考えた時、ヒデキの顔をじっと窺っていたリサが、突然吹き出した。
「あはははは。なーんてね」
「え?」
「ちょっと先回りして驚かそうと思っただけだよー」
「な、なんだそうだったんかよ」
「さ、早く帰ろうよ」
 そう言ってリサは車に乗りこんだ。
 ヒデキはほっと息をついてから車に乗りこみ、発進させた。
 人気のない道路を走っていると、不意にヒデキの携帯電話が鳴った。
「はい」
「あ、ヒデキ? どう、調子は?」
「…え、誰…?」
 ヒデキはその声を疑った。
「やあねえ、リサよ。今日は急用で一緒にいけなくてごめんね。あ、それから例の若い女の霊、すごい怨念を持った自縛霊なんだって。気をつけてね」
 プツっと、電話が切れた。
 ヒデキの背中に冷たいものが走った。
 おい、じゃあ、今後部座席に座ってるのは、誰なんだ…?

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