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第40回中高生1000字バトル

エントリ 作品 作者 文字数
『未来』とつくと何でも輝いて見える 紅花花屋本舗 1000
彼女は正常、らしいよ 亜高 由芽 1000
死神もどき 篠崎かんな 1189
ラドリオ 神代高広 1000
中二の終わり。 1000
夏の空 CrazyON 1328
携帯電話 天霧 1000
原子記録式瞬間移動装置 BOX 904
10 時間(トキ)の力 やまなか たつや 999
11 CAFE yuki 1000
12 起きたら・・・ 今 紀仁 590


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バトル結果



エントリ1  『未来』とつくと何でも輝いて見える   紅花花屋本舗



 時代はどんどん進んでいく。私の把握できないくらいの速度で世界が変わっていく。
「でさー、俺このまえ新しい脳買っちゃったよ」
「うっそ、まじで!?」
 会話の言葉自体は十年前の中高生とさして変わらないかもしれないが、こんな会話は十年前には出てこなかっただろう。私もつい最近になって聞くようになった。
「新しい脳いいぜー? なんつーか、今まで以上に色んな事学べるし」
「例えば例えば?」
 あの語尾上げの口調はどうにかならないものか。何より、その十年前の中高生の言葉は今は誰も使っていない気がするのだがなぁ。最近のニュースで出てきた流行言葉と言えば『マジカル』という言葉があった。オタク文化の育った日本もついにここまで来たか、とため息をついたのはよく覚えている。実際の意味は別にオタクがどうとかそういうものではない、と友人が教えてくれた。少し安心した。
「あれは、『あの親父狩り時じゃーん?』『マジカルマジカルー』というような時に使われる、つまり『本気で狩る』て意味だぞ」
 それこそ聞かなきゃ良かったと更にため息をついてしまった。今年小学校に入学した私の息子も最近『マジカルマジカル』言い出し始め、昨日、何処で手に入れたのか分からない汚れた諭吉を自慢げに私に見せていた。既に一万円札の人が鈴木宗雄になっている昨今で、何処に諭吉を持っているような人がいるというのか。若者はまず持っていないだろう、ということは後考えられるのはそれ以上の年齢だろう。これ以上考えると自分の子どもを警察に突き出すという最悪のシナリオができてしまいそうなので、考えるのを止める事にした。
 まだ車は空を走らないが、十年間でこの世界は確実に変わりつつある。少年犯罪の低年齢化にハイテク化と、ネガティブに進行する面が多々にあるが。しかし僕が十年間で一番変わってきたと思うのは
「何、お前らまだ脳とか言ってんの? 古いなー」
「あ、FMV先輩じゃないですか」
 僕はまさかこの十年間で
「脳じゃなくてCPUとかハードディスクとか、ちゃんと言えよ」
「良いじゃないですか、人間のそれと似たようなものでしょ」
 彼ら、というかパソコンが自我を持って喋りだしたことだろう。
 しかも、愚痴まで言う。
「でも俺のご主人貧乏でよー。 貧乏人は嫌だよなー」

 目の前で私の事を言ってるこのパソコンにどういった処罰を与えるか私は考えた。
「まず、電源抜くか」
 
 今日も私の家は平和だ。


website: 紅花堂


エントリ2  彼女は正常、らしいよ   亜高 由芽



 僕はこの臭いを知っている。それは腐る死体の臭いだ。
「何してんだよ」
 僕に背を向けて屈んでいた女はびくっと身じろぎし、動きを止めた。そして僕の方へ振り返って、緊張していた顔を弛めた。
「なんだ、宮武君か」
 山本瞳は高校の知り合いだった。でも、こんな所で彼女と会うのはおかしいのだ。ここは、高校の近くの山だ。
「なあ、何やってんの」
 この状況で、何かよくないことがあるのは想像できる。だからこそ僕は聞かずにはいられなかった。やはり、山本は困った顔をした。僕は山本が答えようとしないので、彼女の背後に置いてあるものを見た。何か、白っぽい塊。
「それ、何だよ」
 空気が、彼女の静かな緊張によって凍っていくのがわかった。
「ミイラの作りかけ」
 返答は、棒読みだった。隠すのも、誤魔化すのも諦めたようだ。
「何で、ミイラなんて作ろうとしたの」
「作りたかったから」
「そう」
 僕は作りかけのミイラを見た。茶色い毛の生き物に、白い粉がたくさんまぶせられている。
「これは、元もと何だったの」
「猫よ。ここに死体があったの。可哀相にね、逃げないように後ろ足の骨を折られた上に、首を折られて殺されてる。非道いよ」
「山本さん、君は自分のやってること、非道いと思わないの」
 彼女は僕の顔を、怪訝そうに見た。
「わたしは、猫を殺そうとは思っていないし、殺してない。ただ、ミイラを作ってるだけ。悪いことはしていないわ」
「じゃあ、みんなにミイラ作ってるって言ってもいいわけ?」
「変態だって思われる」
「そうだろうね。変だと思われたら困るだろ」
「秘密にして」
 僕は彼女よりも、悪臭を放つ死体の方にばかり気を取られていた。
「秘密にするから僕にも手伝わせて」
 山本は軽く息を吐いた。
「いいよ。この炭酸ソーダを詰め直してくれる?」
 山本は粉の入った布袋を渡した。僕は内臓を取り除かれ、まだ柔らかい猫の死体から脱水し終えた炭酸ソーダを取り出し、新しいものを詰めた。頭が痛くなるほど臭かった。悪臭で僕の中の何かが崩れていく気がした。
「猫を殺したのは僕だよ。ここに来たのも、ちゃんと葬るためだった」
「何で殺したの?」
「殺したらどんな気持ちになるのか知りたかった。想像力乏しいからさ、実際やってみてわかった。楽しくはないね。その点、僕は正常だ」
 山本は僕を、軽蔑した目で眺めていた。僕は彼女を同類だと思って告白してみたのだが、彼女はそうとは思っていないようだった。




エントリ3  死神もどき   篠崎かんな



 人は自然には死なない。
 病気はこの世から一掃され、交通事故など皆無に等しい。老いすら克服された。
 だが人間には変化が必要で、サイクルが必要だ。自然に死なないのなら誰かが殺すしか無い。その責務を果たす職業、それが死神。
 真っ黒の服で鎌を持った、伝統的な姿。その姿の俺に、親しく話しかける人など居ない。仲良くした所で、死が免れる訳では無のだから。
 毎日、統計に沿ってお上から渡される、赤紙リスト。その人間を俺は殺す。両親だった事もあれば、妹だった事もある。泣き叫ぶ奴がたいがいで、静かに受け入れる奴は少数、ののしる奴はもっと少ない。
 周りの白い目はいつもの事だ。『お上に魂売って、人を殺す事で、死を免れている悪魔』
 自分が死神に成る気は無いくせに……

「おはようございます」
 少年が一人こっちを向いて挨拶した。
 無知は怖いね、知識が増えて言ったら、挨拶した事すら、おぞましく思うよ。

「こんにちは」
 いくらかの日々が過ぎた後も、その少年はこっちを向いて微笑んで来た。
 まだ、知らされていないのか?

「こんばんわ」
 相変わらず、目が合うと笑って挨拶をする少年。
 こいつ……成長していない、子供のままだ。

 不老はたしかに出来るが、大抵は20代で成長を止める。たまに、三十やら四十やらで、貫禄を見せたがる奴はいるが…… 子供のまま成長を止めた奴など異常だ。
 その少年に今日、赤紙が来た。

「お疲れ様です」
 丁寧に少年は言った。俺は少年に聞いた。
「君はなんでその姿に?」
「お母さんが、最も長生きするためにって」
 子供だからと言って、赤紙の順番が遅れる訳では無い。馬鹿な親だ。
「君はなんで、俺なんかに挨拶したのさ。怖く無いの?」
 すると、少年は無垢で素朴な笑顔を顔中に広げた。
「お母さん言ってたもん。死神様は大切なお仕事だって、この世に絶対必要なんだって。 それをやってくれてるお兄ちゃんは、いい人だから」
 胸が熱くなって、鎌を持った手が震えた……
 今まで誰であっても、ためらい無く殺してきた。世間の人は冷たかった、だから、人の心も良心も捨てて、殺してきた。目の前の、純真な少年、成長を止められた少年。久しぶりに感じた、人の心。俺に……この少年は殺せない。
「ねぇ、君さ」
「何?」
「俺のこれから、君にあげるよ。君が生きればいい」
 死神が、殺せなくなったら、やめる時。それは同時に死ぬ時だ。俺は少年の赤紙を握りつぶし、自分の体に鎌を突き刺す。
 生きろよ、少年……

「ふぅ……」
 少年は男の死体を眺めた、見慣れた光景だ。
 これで赤紙はまた後ろに回される。お母さんも便利な体にしてくれた。僕の体に良心はまだ育っていないし、これから育つ事も無い。僕は気兼ねなく死神を殺せる。
 でも、いつかは、身も心も死神と化した奴が出てきて、殺されるんだろうな。まぁいいや、そんな奴を作り出す世界に、生きる意味は僕にも無い……





エントリ4  ラドリオ   神代高広



 あなた、もしかして、疲れてませんか?

「今日のあなたはとってもラッキー、こんなチャンスを逃しちゃソンソン。お値段たったの百円で、効果バツグン、一服の清涼剤はいかが?」
「――ええと、コーヒーとサンドイッチで」
「やっぱりそう来ましたか。少々お待ちください」

 昼下がりの喫茶店ラドリオはいろんな人で賑わっていた。
 僕の右隣のテーブルには警官とナース服のカップル。左隣にはセーラー服とサラリーマンのコスプレ。カウンターの白装束はペットのイグアナをほったらかしにして読書に耽っている。
 バーテンの格好をしたマスターは相撲力士の「クリームソーダひとつ」の注文に応えてメロンシロップと炭酸水を手早くシェーカーに注いだ。
「お兄さん、お皿に水をくださいな」
 河童は頭の皿を僕に突き出した。コーヒーを注いでやると「あちちっ」と言って悶えながらその辺を転げ回った。河童は言った。「お兄さん、なかなかやりますね」
 信号が青になって流れ出す与作のメロディー。誰も信号なんか守っちゃいない。赤信号よろしくで道路を快走する、タンクローリー、ユンボ、ラーメン屋台、消防車。
 昨日彼女から電話があった。いつの間にか別れ話になっていて電話を切ったときにはフラれていた。彼女は「あなたといるとき、すごく寂しかった」と言った。「寂しくて寂しくて仕方なかった」と。
 ホンモノのパトカーのサイレン。すべてが手遅れ。宴は終わった。
 店内は笑い声で満ちている。僕はブラックコーヒーを飲みながら相撲力士の気の抜けたクリームソーダを羨望の眼差しで眺める。僕はそれに気づくとやりきれない気持ちでいっぱいになる。
 不思議なこともあるものだ。今日街を歩いていて唐突に気づいた。僕が生まれたときから持ち続けてきた、この街に対する違和感の答えを。この街の住人はみんな、救いようのないくらい、寂しがり屋だということを。

 僕は帰りがけ、マスターにさよならを言った。寡黙なマスターが「頑張れよ」と言ったことに、僕はほとんど驚愕した。カウンターのウエイトレスはリポビタンDを一本、僕に奢ってくれた。
 天気予報の通り、外は快晴だった。
 僕は家に帰ると、さっそく身支度を始めた。タンスから手当たり次第に服を引っ張り出す。水玉のセーターと穴だらけのジーンズ、ベージュ色のレインコートと縞模様のリュックサック。それと、バニラアイスをリュックに詰めて、明日、僕は旅に出ようと思う。





エントリ5  中二の終わり。   音



「純ちゃんっ」
「何だキモイ」
 満面の笑みを浮かべながら、僕は彼の名前を呼んだ。彼は眉根を寄せながら振り返った。
彼の手には、昨日買ったばかりの本が納められている。既に半分を過ぎたらしい。いつもながら、本を読むのが早い。
僕は滅多に本を読まないので、いつも本を読んでいる上に読むのがとても早い彼を尊敬してしまう。彼は僕がそういうと
「別に凄くなんかないって」と照れたように笑いながら云うのだが。
 彼が立ち上がり、机の横に掛かっていた鞄を背負った。僕も鞄を背負い彼と共に教室を出た。

 外に出ると日は暮れて真っ暗だった。申し訳程度に灯りの点いた外灯だけが僕等を照らしていた。
会話も無く、僕等は歩いた。いつもなら僕が殆ど一方的に喋りかけるのだが、今日に限って僕の口からは何も出てこなかった。
「なあ」
 代わりに、彼が口を開いた。
「何?」
 僕は笑顔で返した。
「オマエさあ、高校どこ行くの」
「…純はどこ行くの?西高?」
 僕が問うと彼は頷いた。そして、オマエはどこだ、と再び訊いてきた。
「…僕は、どこだろう。頭悪いからなぁ…どっか、私立かな」
「そっか」
「うん」
 そこで会話は途切れた。

 びゅうっ。
「うわっ」
 強い風が吹いたので、僕は思わず声を上げた。彼はそんな僕を観ながら、少しだけ笑っていた。
風が思ったほど冷たくなかったので、僕は拍子抜けした。同時に、もうすぐ春なんだ、と思った。
 春が来れば、僕達は受験生になる。もう、今までのように遊んでばかりはいられない。
そして、次の春が来る頃には僕達は一緒にいる事などなくなってしまうだろう。

(…やだなぁ)
 
 それでも、時間は容赦なく流れていく。彼が本のページを繰るように。僕など到底及ばない速度で。
 どう足掻いても、彼と僕とは同じ高校に行く事は出来ない。
「純さあ、俺と同じ高校行こうよ」
「は?んじゃオマエも西高目指せば良いじゃん」
「……厭味?」
「ちょっとだけね」
 彼の目指している西高は、県内一の進学校。成績上位の彼ならば未だしも、
試験の順位は後ろから数えた方が早い僕なんかが行ける筈は無い高校だ。彼はそれを充分過ぎるほど理解していながら、
否、しているからこそ僕へ向かって厭味を云う。彼は性格が悪い。
 暫く歩くと、彼の家の前に着いた。僕の家はここからもう少し歩いた所にある。また明日、と云うと彼は家の中へ入っていった。
僕は彼が家の中へ入っていったのを見送り、自分の家へ向かった。





エントリ6  夏の空   CrazyON



最近、何もかもがうまくいってない。
新しい学年になって、もう夏休みがやってきた。
クラスの雰囲気を理解できず、友達との会話でもひとまず愛想笑いをつくって、
適当に相づちを打っているうちに一日一日が瞬く間に過ぎ去っていった。
先生や親は高校受験の年とか言ってるけど、全然無理。やる気がでない。
だから今もこうやって、今日塾があるのにも関わらずベットの上で寝転がっていた。
あと一時間もすれば塾に行かなくてはならない。でも、気持ちは萎えてる。
「俺って本当にこの世界に存在しているのか。」
ふと、僕の頭にこんな疑問が浮かんだ。
今見ているこの場所、この音は本物なのか。
考えてみれば、自分のいる証明なんてできやしない。
他人の意識を実際に覗いてみることなんてできやしないのだから。
僕は今ここにいる。そんな、確証が欲しかった。
例えば、僕の目の前を一人の男が通り過ぎる。
今、その男は確かに存在している。いや、少なくとも僕にとっては存在している。
しかし、次の瞬間その男が死んだとしよう。
そうすると、少なくとも僕のいる空間に残るのは空っぽの男だけだ。
これは、はたしてその男が存在しているといえるのだろうか。
僕は少なくともそうは思わない。「その男はいない。」こう言えるだろう。
じゃあ、どこにいったのか。
理科の先生は「原子は、なくなったり、新しくできたり、他の種類の原子に変わったりしない。」
と言っていた。
ということは、その男も同じような理屈で今もどこかで、「彼」として存在し続けているのではないのだろうか。
そうじゃなかったら、「最初からその男は存在しなかった」、ということになる。
いや、もしかしたらその方が、彼が「発生」して「消滅」すると考えるより、まともかもしれない。
「僕のいるこの場所は[嘘]の空間なのか。」
「いやだ。そんなのいやだ。」背筋に冷たいものが走った。
何もかもが、「嘘」の世界。考えただけでもぞっとする。
でもまてよ。当たり前だけど、僕は友人の意識なんてものを知らない。
だったら、ここが「嘘」の世界だとしても何の問題もないじゃないか。
「そうか。嘘なんだよ何もかもが。もちろん僕も。」冷たく小さな声で僕はその言葉を発した。
何もかもがどうでもよくなった。
そのうちに、僕の目に窓がとびこんできた。確か、このマンションは14階建て。
僕の家はその11階。あいにくこの窓の外からは嫌みなくらい広々とした街の風景が飛び込んでくる。
窓を開けると、嘘みたいに気持ちいい風が僕の頬にあたる。
「死のうかな。」ボーっとしてしまった僕の頭をそんな考えがよぎる。
僕は、ハッとした。自分が今考えていること、こんなことを考えている自分が恐ろしく思えた。
不意を付くかのように、部屋に電話の音が鳴り響く。
「今日、塾早めに行こうぜ。今からそっち行くから」
彼のあきれるほど端的な内容の電話がどこか場違いで、なぜかうれしく思えた。

「バカバカしい。」今の僕は異常だった。そこからでた僕自身への自然な言葉がこれだった。
塾の支度を済ませる頃に彼はやってきた。
家を出ると、夏の日差しのまぶしさに一瞬目が眩んだ。
夏の空が、今までにないくらい晴れ晴れと、そして僕自身も、晴れ晴れとした気持ちになっていた。
この空が、どこまでも続くように。





エントリ7  携帯電話   天霧



 反応のない携帯電話。けど壊れていない。メニューから、ゲームを起動する。――ゲームで過ごす1時間ほど。名前を呼ばれた。なぜ? ああ、今お昼なんだ。階段を下りてリビング。焼きたてパンの、いいにおい。テレビをつける。はじまっている女子駅伝。私こんなに走れないよ。がんばってるなぁ、がんばれ。サツマイモあんぱんとカスタードクリームコロネ。牛乳一杯があれば、それでお昼は充分。お母さんうるさいなぁ、大丈夫だって。
 机に向かう。流石にテスト前だからね。明日は世界史。携帯電話を手にもって、じっと見つめる。無意味に新着メールの問い合わせ。これで来てたら運命感じちゃうわ、やっぱりないもの。
 世界史にあきた。ザクセン選帝侯がなんだっての、宗教改革なんてドウゾご自由に。部屋を通る風、温かいのだけれどなんかいや。ふとんにもぐっていれば――なんだか眠たくなってきちゃった。
 携帯電話でアラームをセット。眠気はあってもなかなか寝れない。ゲームでもしていれば、眠気もくるかな? うとうと。聞きなれたアラームの音。寝てたのかな、全然そんな気がしない。
 あと20分ぐらい。携帯電話のアラームを延ばして、ねむ――れないんだよな、これが。しかたがない。あきらめて、世界史世界史、と。ドイツなんて勝手に混乱してればいいのよ、農民なんて反乱ばっかりじゃないの。やだやだ。携帯電話で新着メールチェック。本日2度目ね、やっぱりないわ。時計の針。音がちこちこなって、とっても気になる。なに、もう5時? どうりで外が暗いと思ったわ。あ、うんわかってる、雨戸締めるよ。お兄ちゃんの部屋と、お姉ちゃんの部屋でしょ。本人に締めさせれば良いのに、無駄にいないんだから。
 部屋に戻る。ちこちこちこ。初めにメール打ったのっていつだっけ? お昼前。ねぇもしかしてもう、6時間経ったの? ――ヤダ最悪。あの子でありえないよ。無視? ねぇこれって無視? 私がいやだから?

 なんかとうとうって感じ。

 携帯電話を壁に投げつけたって、意味がないのは分かってる。新しいんだもん、そんなことしないわ。涙も一滴で終ればよかったね、ほら、どんどんあふれてくる。
 わー、たかだかメール一通の返信がないだけで泣く女なんだ私ー。やめてよやめてよ、そんな依存症みたいな話。ああけど、止まらないものは止まらないんだよ。どうしようどうしよう。涙よ止まれ止まれー。私が夕飯が食べれないんだ。




エントリ8  原子記録式瞬間移動装置   BOX



その始まりは2058年8月14日だった・・・
億万長者のジョン・スミス氏がとんでもない事を言い出した。『瞬間移動装置製作会社を創る』と。
そうして、一握りの科学者たちが瞬間移動装置の製作に携わった。
そして、2060年1月20日。実に簡単に瞬間移動装置は完成した。資金さえあれば何でも出来るのである。
その瞬間移動装置の仕掛けは『物体の全原子をくまなく記録する。そうして、そのデーターを電波で任意の場所に送信する。そうしたら、その場所で原子をすべて同じように復元する』こういう物だった。
しかし、この装置には欠点があった。任意の場所へ移動するためには原子の場所を記録するだけでいいのである。そうしたら、その人物は、向こうとこっち、二人いることになってしまう。二人とも同じ記憶を持っていて、全く同じ人間なのだ。
と、いう訳で。この原子記録式瞬間移動装置は民衆はあまり広がらなかった。その代わり軍が目をつけた、しかし、それにも欠点はあった。原子記録式瞬間移動は送信側と受信側がそれぞれ必要なのでだ。そうして、瞬間移動装置製作会社は軍から莫大な資金提供を受け。2061年7月3日、受信側の不要な原子記録式瞬間移動装置を造り上げた。
さて、これからが大変だった。アメリカ合衆国は早速、それを使って、核ミサイルを山のように中華人民共和国に送った。しかし、中華人民共和国も瞬間移動装置をその直後に完成させたのだ。当然、中華人民共和国はアメリカ合衆国へ核ミサイルを大量に送った。世界はたちまち大戦争に巻き込まれた。
軍事基地は瞬間移動で中に入られないように国中に張り巡らされた地下鉄道の中を迷走した。兵器は瞬間移動装置で大量にコピーされた。人手も足りなくなることはなかった、完璧に洗脳した兵士を大量にコピーしたのだ。
長い、長い、戦争は終わった。都市は完璧に破壊され、もう、だれも人は残ってなかった。たった一つの例外は地下基地だった。そこには大量にコピーされた軍人たちが山のように残っていた。だが、命令に従うことがとりえだった軍人たちに、どうやったら新政府が創れるだろうか?
かくして、2093年4月16日、人類は絶滅した。
まぁ、こんなこと宇宙では日常茶飯事だったが。





エントリ10  時間(トキ)の力   やまなか たつや



 「退院おめでとう。」
 握手を求めて来る看護士さん。頑張ってやる、という妙な気概が沸いて来る様で、自然と手に力が入った。
 突然の惨事、としか言い様が無かった。体が動かなかった。どうしても起き上がれない。声が出なかった。風邪を引いた訳でもないのに。「なぜ」という疑問が頭をだんだん染めて、水に溶け出す絵の具の様に広がった。その日から、私は学校に行けなくなった。
 「学校で何かあったの?。」
 母が聞く。私は寝そべってすっかり主食となってしまったトッポを前歯で噛みながら黙りこくった。質問に答える気力など無かったし、母に話したところで問題は解決しないと感じた。ちょっと休めばなんとか成る、その時はそう思っていた。
 やがて二週間が経ち、声の出ないまま再び学校へ行ける様に成った。ところが、私を待っていたのは質問の嵐、感情移入の無い同情、正に腫れ物の様な扱われ方だった。善意には良いものとそうでないものとがあると聞く。しかし私の性分として、せっかくの善意を否定する事など出来なかった。優しい人々の無思慮な言動にジレンマを抱え、一人で苦悩する事に成ってしまった。そしてついに無言の私を見かねた先生は言った。
 「お前、黙ってるから分かんねぇんだよ!」
罵倒は数分に及んだ。私がクリスチャンである事を知っていた先生は聖書を引用して屈辱的な嘲りを口にした。先生の立ち去った後私は気を失った。その日以後、再び私は学校へ行けなく成った。もちろんその訳は母には黙っていた。時間だけ過ぎ去った。当然その頃の私には日々生きている価値など見出せなかった。そしてクリニックへ通院する様に成り、入院が決まったのだった。
 五月の病室に私と母は本を開いて座っていた。母が本を読み聞かせてくれる。私は時々相槌を打ちながら、笑ったり涙を見せたりした。母も泣いていた。半年間の入院生活で私も少しずつ母に心を開いていける様に成ったんだと思う。以前は発作があっても一人で苦しんでいたけれど、今は少しは甘える事が出来てきた。
 久し振りに学校へ行くと、先生は優しく迎えてくれた。
 「調子はどう?」
 「今日はちょっと落ち込んでるかな。」
 そんな返事も滑らかに私の口からこぼれ出る。
 突然学校へ行けなくなった1年前の自分と今の自分。最も辛かった時と今の私。時間という薬、それは即効性こそ無いものの、確実に私を癒してくれるものだという確信が、今この胸にある。

huki:この文章は八割実話です。

    ※ この文章の著作権は以下の者が有します。
         やまなか たつや
             <uem42931@biglobe.ne.jp>
        06時33分22秒 2004年02月15日




エントリ11  CAFE   yuki



 そのカフェ・ラテは苦かった。
 コーヒーは本質的に苦い。まるで人生みたい。フォームミルクがカップの中で、わしゃわしゃと飛沫をあげた。スプーンですくい、口の中で潰す。儚い感触だけが舌に残る。

宛先:裕太
件名:おはよ。
本文:今日も、バイト。でも、
   早く来過ぎちゃった。今
   駅前のカフェ♪じゃぁ、
   4時にここで待ってるね
   〜。

 そう、朝からバイト。しかも、店長と。コーヒーなんて飲まなくても胃が痛くなるのがわかる。その後デートだって事だけが唯一の救い。その事だけ考えよう。それだけ。そう思った瞬間に、店長の豚顔が浮かぶ。同時進行で、溜息。

 一体全体あいつは、私の何が気に食わないのだろう?何かと文句言ってきやがって。テメェのやり方ばっか押し付けてんじゃねーよ。たいした仕事出来ないくせに。何が「佐々木さん。やり方が違うよー?忘れちゃったのかなぁー?」だ!きもいっつーの!男の癖に声が高いんだよ!第一、教えてもらってない事が出来るわけ無いだろ?単細胞が!!
 
 もう一度溜息をついて(今度は忘れる為の。そして、自分の口の悪さに)店内を見渡した。
 朝早いのに、何人かの客が居る。お店の中は広くて清潔なのに、みんなそれがルールのように別々のエリアに座って、知らん顔をしている。そして、犬のマーキングのようにカップを持ち上げて此処からは私の場所よと主張する。
 安心な風景。此処には、心配事が何一つ無い。
 最後のひと口を飲み干した。

「佐々木さーん。それが終わったら掃除お願いねぇ」
 ねっばこい声が耳にまとわりつく。心の中で「テメェがやれ」と呟く。さっきから、私ばっか仕事してるじゃない。
「はい。今、やります」
 にっこりと、笑う。自分が2重人格者じゃないかと疑う瞬間。
 
 時計の針がカチッと進んだ。待ちに待った終わりの合図。今日も一日良く耐えた。後は裕太とのデートが待つだけ。お先に失礼します。バイバイ、くそ豚。明日はお前の顔を見なくて済む。

「あー、ちょっと待って!佐々木さん。お願いがあるんだけれど明日も出れる?正直、君がいると仕事が早く進んで助かるからさぁ」

「裕太、ひと口頂戴」
 私は裕太の飲んでいたコーヒーを啜った。
「今日は泊まれるんしょ?」
 裕太が期待たっぷりに聞いてきた。
 カップを返しながら、出来るだけ申し訳ないように言ってみる。
「ごめん。明日もバイトなの」
 
 コーヒーは思った以上に甘かった。


website: QUEEN


エントリ12  起きたら・・・   今 紀仁



今日は冬なのに暖かい日差しがさしていた・・・・・・

 「たくやっ・・・たくや君ったらまた寝てる。」
 目覚めた僕は川原の草の上に横になっていた。そこには、片思い中の、かおりの姿があった。彼女は、僕の横に座った。かおりは僕の家の隣にすんでいる幼馴染。中学からめきめきと可愛くなっていく姿を見てほれてしまったのだった。
 「おはよう・・・」
 まだ眠い声で言った。
 「今日は何の日か知ってる?」
 かおりが聞く。
 「さぁ〜〜・・・」
 俺はマジでわからなかった。
 「今日はね〜2月14日、女の子が男の子に思いを伝える日だよ。」
 今頃俺は今日はバレンタインだということに気づく。そして・・・・
 「たくや 好きだよ・・・これ受け取って・・」
 そのプレゼントには手先が不器用なはずの手で一生懸命にラッピングした後が見られた。
 「ありがたくいただくよ。俺もお前が好きだった。」
 自分の顔が火照っていくのが感じられた。
 ・・・・・・しばらくの沈黙・・・・・・・・・
 「ねぇたべてみて・・」
 そう言われて、食べることにした。中には・・・・
 
 びちゃっ----  

 いつの間にか俺は、机の上にいた。横を見るとこぼれたジュースと参考書の山があった。そして、自分が、試験勉強中に寝てしまったことに気がついた。
 
 今日は、2月13日。タクヤの恋は、実るのでしょうか。それは、明日が知っているのかもしれません・・・・。完